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第六章 毛人襲来 -けじんしゅうらい-
30 快復の術?
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もし毛人と遭遇したら、4人に増えた護衛のうち2人が毛人を防ぐ。この2人は捨て駒なのだと言う。狩りをする時、動物は弱い者、弱っている獲物から狙う。僕や青龍さんは標的にされやすい。だから僕と青龍さんは2人の護衛に挟まれ、ひと塊になって撤退する。後に残る2人は、場合によっては自ら体を傷付け、生贄となって僕たちが撤退する時間を稼ぐと。そんな話をしていた。
何て言ったらいいんだろう? 過酷? 残酷? 僕を守るために命を捧げろと命令を下す白虎さんもそうだし、その命令に反論一つせず唯々諾々と従う白虎隊のみんなも。自分が生きていた21世紀とは全く違う世界なのだと思い知らされる。命の価値が軽い。覚悟が違う。生も死も、僕の生きていた時代の常識では測れない、この世界の価値観があるのだと思う。時代の違いだけじゃない。元々ヤタガラスという組織がそういうものなのかも知れない。天皇直属の秘密部隊と言ったか。今は僕のため命懸けで任務にあたっているけど、本来であれば天皇の身を守るために命を懸けるのだろう。護衛対象、命を捧げる対象が違うだけで、やる事は同じなのだ。
そういう覚悟の男たちに囲まれ、僕は今まで以上に修行に励んだ。壮絶な覚悟の人たちを前に、自然と気が引き締まる思いだ。その甲斐もあって、僕は3つ目の術法、時間伸長を会得し「これなら何とか……」と青龍さんから及第点を貰った。「精度はもっと上げる必要があるけどね。次の術法も同時に進めよう」そう言って、青龍さんが次に出した課題は、解毒の上位の術法だった。
「快復の術?」
「解毒の術は、文字通り体内から毒素や異物を取り除く術法。対して快復の術は、体の異常を治癒する」
「違いが分からないんだけど?」
「分かり易く言うとね、快復は催眠・昏睡状態や酩酊状態、手足がかじかんだり痺れている時にも使える。但し、それが体内に入った物質、毒や薬などの影響である場合は、やはり解毒の術が必要になるんだよ」
「なるほど」
「耕作様をこちらの世界へ招いた際、我々は解毒と快復の術法を行使したんだ」
「ちょ、ちょっと待って? え?」
「何かおかしなことを言ったかな?」
「いや……えっと……?」
「耕作様の肉体が、あの時、吊り橋から落とさ……落下する一瞬にね」
「幾つか確認したいんだけど」
「ん? どうぞ?」
「術法って、この今の時代から、過去の時代に対しても使えるの?」
「もちろんだ。条件はあるけどね」
「条件って?」
「まずは道具。皇室に伝わる八尺瓊勾玉。これが無ければ、時を超えた術法の行使は難しい。八尺瓊勾玉は三種の神器の一つだからね、限定的な条件下でしか使用を許されない」
「限定的とは?」
「日本の危機だよ」
青龍さんも朱雀さんも、何度も言っていた。世界が、日本が、人類が、滅亡するんだって。
「術法が失敗すれば、日本に代々伝わる秘宝が壊れてしまう可能性もある。だからむやみに使えないんだ。最悪の事態を回避するためだけに用いる。それと、勾玉の複製品も存在する……否、存在していた」
「その複製品でも同等の効果が?」
「同等とまではいかないが……簡単な術法なら。耕作様が落下する瞬間に使用したのは複製品の方さ。勾玉の複製品は幾つか残っていたけど、耕作様を招く際、全て壊れてしまったんだ。今、ここに残されているのは、本物の三種の神器、八尺瓊勾玉ひとつのみ」
「つまり……」
「何度も使うわけにはいかない。特に大きな術法であれば、あと一度か、二度か……それで全てが失われ、時間を超えて術法を行使する機会も永遠に失われる」
「落下している僕に使ったって? あの一瞬で?」
「そう。耕作様の死が確定した瞬間、つまり橋から落下している、その一瞬に全てを行う必要があったんだ。そこで時間伸長を行い、解毒と快復も行った」
そう言えば……吊り橋から落ちる直前の僕は、栞奈のチョコによって目が霞み、意識朦朧としていた。それが落ちた直後、急にはっきり見えるようになったんだ! 落ちる僅かな間だったけど、時間が妙に遅く感じて……鬼のような栞奈の形相。投げ捨てられた宝石の輝き。岩の形。樹々の葉っぱ一枚一枚の形まで……
「落下前に何とか出来なかったの?」
「手前の使える術法にも限りがある。今回は離魂と招魂の術という術法を使った。魂のみを肉体から切り離し、時を超えて招く。物質を移動させることは出来ないからね」
先代朱雀さんにも使ったと言っていた、あれか。
「それに、もし耕作様の死が確定する前、例えば1時間前に術法を使えば……肉体は生きているのに、魂だけが抜けて突然動かない人形のようになってしまう。魂が抜ければ体温が失われ、いずれ肉体も死亡してしまう」
「そうか……だから死が確定した瞬間なのか」
「落下中の耕作様の肉体であれば、動かなくてもおかしくないし、地面に激突すれば肉体も破壊される。その時魂が入っていようがいまいが、関係はないということさ」
そういう事だったのか……
何て言ったらいいんだろう? 過酷? 残酷? 僕を守るために命を捧げろと命令を下す白虎さんもそうだし、その命令に反論一つせず唯々諾々と従う白虎隊のみんなも。自分が生きていた21世紀とは全く違う世界なのだと思い知らされる。命の価値が軽い。覚悟が違う。生も死も、僕の生きていた時代の常識では測れない、この世界の価値観があるのだと思う。時代の違いだけじゃない。元々ヤタガラスという組織がそういうものなのかも知れない。天皇直属の秘密部隊と言ったか。今は僕のため命懸けで任務にあたっているけど、本来であれば天皇の身を守るために命を懸けるのだろう。護衛対象、命を捧げる対象が違うだけで、やる事は同じなのだ。
そういう覚悟の男たちに囲まれ、僕は今まで以上に修行に励んだ。壮絶な覚悟の人たちを前に、自然と気が引き締まる思いだ。その甲斐もあって、僕は3つ目の術法、時間伸長を会得し「これなら何とか……」と青龍さんから及第点を貰った。「精度はもっと上げる必要があるけどね。次の術法も同時に進めよう」そう言って、青龍さんが次に出した課題は、解毒の上位の術法だった。
「快復の術?」
「解毒の術は、文字通り体内から毒素や異物を取り除く術法。対して快復の術は、体の異常を治癒する」
「違いが分からないんだけど?」
「分かり易く言うとね、快復は催眠・昏睡状態や酩酊状態、手足がかじかんだり痺れている時にも使える。但し、それが体内に入った物質、毒や薬などの影響である場合は、やはり解毒の術が必要になるんだよ」
「なるほど」
「耕作様をこちらの世界へ招いた際、我々は解毒と快復の術法を行使したんだ」
「ちょ、ちょっと待って? え?」
「何かおかしなことを言ったかな?」
「いや……えっと……?」
「耕作様の肉体が、あの時、吊り橋から落とさ……落下する一瞬にね」
「幾つか確認したいんだけど」
「ん? どうぞ?」
「術法って、この今の時代から、過去の時代に対しても使えるの?」
「もちろんだ。条件はあるけどね」
「条件って?」
「まずは道具。皇室に伝わる八尺瓊勾玉。これが無ければ、時を超えた術法の行使は難しい。八尺瓊勾玉は三種の神器の一つだからね、限定的な条件下でしか使用を許されない」
「限定的とは?」
「日本の危機だよ」
青龍さんも朱雀さんも、何度も言っていた。世界が、日本が、人類が、滅亡するんだって。
「術法が失敗すれば、日本に代々伝わる秘宝が壊れてしまう可能性もある。だからむやみに使えないんだ。最悪の事態を回避するためだけに用いる。それと、勾玉の複製品も存在する……否、存在していた」
「その複製品でも同等の効果が?」
「同等とまではいかないが……簡単な術法なら。耕作様が落下する瞬間に使用したのは複製品の方さ。勾玉の複製品は幾つか残っていたけど、耕作様を招く際、全て壊れてしまったんだ。今、ここに残されているのは、本物の三種の神器、八尺瓊勾玉ひとつのみ」
「つまり……」
「何度も使うわけにはいかない。特に大きな術法であれば、あと一度か、二度か……それで全てが失われ、時間を超えて術法を行使する機会も永遠に失われる」
「落下している僕に使ったって? あの一瞬で?」
「そう。耕作様の死が確定した瞬間、つまり橋から落下している、その一瞬に全てを行う必要があったんだ。そこで時間伸長を行い、解毒と快復も行った」
そう言えば……吊り橋から落ちる直前の僕は、栞奈のチョコによって目が霞み、意識朦朧としていた。それが落ちた直後、急にはっきり見えるようになったんだ! 落ちる僅かな間だったけど、時間が妙に遅く感じて……鬼のような栞奈の形相。投げ捨てられた宝石の輝き。岩の形。樹々の葉っぱ一枚一枚の形まで……
「落下前に何とか出来なかったの?」
「手前の使える術法にも限りがある。今回は離魂と招魂の術という術法を使った。魂のみを肉体から切り離し、時を超えて招く。物質を移動させることは出来ないからね」
先代朱雀さんにも使ったと言っていた、あれか。
「それに、もし耕作様の死が確定する前、例えば1時間前に術法を使えば……肉体は生きているのに、魂だけが抜けて突然動かない人形のようになってしまう。魂が抜ければ体温が失われ、いずれ肉体も死亡してしまう」
「そうか……だから死が確定した瞬間なのか」
「落下中の耕作様の肉体であれば、動かなくてもおかしくないし、地面に激突すれば肉体も破壊される。その時魂が入っていようがいまいが、関係はないということさ」
そういう事だったのか……
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