30 / 47
第六章 毛人襲来 -けじんしゅうらい-
27 依代?
しおりを挟む
八咫鏡に映し出された、化け物としか形容しようのない何か。あれは一体何だったのだろう?
「見てしまったか」
「え~っと……」
「ですから御覧にならない方が良いと申しましたのに」
「何だったの? 毛人ではないよね?」
「違うよ。鏡には、まだ術を施していない。映っていたのは、耕作様自身の真実の姿だ」
えっ? ちょっと待って。僕自身の姿? いやいや、そんな筈はない。腐りはてた肉、顔。まるでゾンビのようだったじゃないか!
「もう一度、確認するかい?」
「……いや……」
あれが僕自身の姿って……そんな事を言われて、まじまじと見る気にならない。嘘でしょ?
「毛人の前に説明しようか。もう隠し通すことは出来ないし、その必要もなさそうだからね」
「?」
「今の耕作様は、およそ1500年前の江蘇省江陰市から呼び寄せた、魂だけの存在だ。だから魂が入るための器、依代が必要だったんだよ」
「依代?」
「そう。依代。人間の魂であれば人間の体を使う。動物の魂であれば同じ動物の体だ。稀に別の器、例えば人形や形代を利用する場合もあるが、失敗する可能性が高くなる。それに、その場合は魂が定着出来ず、長時間維持することも出来ない。一時しのぎだね」
「つまり、僕の魂を入れるために用意した、この体は……」
「そうだよ。人間の肉体だ。それも、死んだばかりの、魂が抜けて間もない肉体でなければならない」
ちょっと待って。今、僕が僕だと思っているこの体は、誰か別人の体で。僕がこの世界に来た時には、既に死んでいたって? さっきのが真実の姿だって!?
「以前の肉体の持ち主は朱雀。先代の朱雀で御座います」
す……ざく……? 朱雀さんの、すざく?
「先代朱雀は、耕作様の魂を招くための器として最適だった。条件は色々あるから、手前には分からないし、説明することは不可能だけどね。八咫鏡が選んだ最適な器、それが先代朱雀だったんだ」
待って。情報量が多すぎて処理しきれない……僕の脳みそが混乱しているのも気にせず、青龍さんは続けた。
「ひとつ言えるのは、耕作様と背丈が似ていた、という点かな。血液型や遺伝的なもの、それに性格なども影響しているかも知れない。八咫鏡に選ばれた先代朱雀は、迷うことなく使命を受け入れたよ。耕作様の器たるため、死ぬという役目をね」
「なんで……なぜ、死ななきゃならないの!?」
「一つの器に一つの魂」
「え?」
「それが絶対の真理なんだ。この理を曲げることは出来ない。もしこの自然の摂理に逆らった場合……」
「場合?」
「一つの器に一つの魂が入った状態で、生物は安定を保っている。具体的には、例えば人間の場合、基本的な体温が36度から37度の間だ。これが絶対安定の、自然な人間の状態になる」
「へ~」
「ここに二つ目の魂が入った場合、その魂との親和性、結合度、定着度など、また様々な条件によって変わるが……体温が少なくとも数度から、最悪の場合は2倍以上にもなってしまうんだ」
「体温が2倍に? って体温が70度になるって事!?」
「そうだ。稀に起きる、人体発火という現象を知っているかい?」
「聞いた事あるけど……まさか」
「人体発火は、肉体に合わない魂が無理やりその肉体に入り込んでしまった結果、器が超高温になって燃えたもの、と考えられている」
「でも70度じゃ……」
「さっきの例は、あくまで、人間の魂が人間の器に二つ入ってしまった場合だ。それで2倍。ごく稀に3つ以上入ることもあるし、より親和性の低い、例えば他の動物の魂や、何か良からぬものが入り込んでしまえば、2倍どころか5倍、10倍の体温になることもあり得る」
「そうか……それで人体発火が……」
まさか、こんなところで超自然現象について学ぶとは思わなかった。そういう事だったのか!
「話を戻そうか。確実に分かっているのは、その人物の肉体そのもの、身長や体重といった基礎的な情報が、近ければ近いほど良い、ということだよ。耕作様と先代は、身長は似通っていたけど、体格が全然違った。先代はどちらかと言えば痩せている方で、そうだね、手前に似た体格だったかな。だから依代になると決まってからは、耕作様に体型を近付けようと、過食の毎日を送っていたよ」
「泣きながら食べてたって言ってた?」
「そう。先代は太るためだけに、耕作様の依代たるに相応しくなるためだけに、毎日嘔吐を繰り返しながら食事をしていたんだ。嘔吐してしまっては太れないと言って、吐瀉物をそのまま口に運んで。お盆に溢れる吐瀉物を、涙ながらに啜っていたよ」
なんという壮絶な話だろう。満腹で苦しくても泣きながら無理して食べ、それを吐いては、吐いた物まで啜っていたというのだ!
「しかも我々には時間がなかった。もし時間があれば、50キロの体重を100キロまで増やすのも、そこまで難しくはないだろう。しかし時間に追われた手前ども……否、先代は、可能な限り早くと言って。僅かひと月で体重を二倍にしてみせたんだよ」
「見てしまったか」
「え~っと……」
「ですから御覧にならない方が良いと申しましたのに」
「何だったの? 毛人ではないよね?」
「違うよ。鏡には、まだ術を施していない。映っていたのは、耕作様自身の真実の姿だ」
えっ? ちょっと待って。僕自身の姿? いやいや、そんな筈はない。腐りはてた肉、顔。まるでゾンビのようだったじゃないか!
「もう一度、確認するかい?」
「……いや……」
あれが僕自身の姿って……そんな事を言われて、まじまじと見る気にならない。嘘でしょ?
「毛人の前に説明しようか。もう隠し通すことは出来ないし、その必要もなさそうだからね」
「?」
「今の耕作様は、およそ1500年前の江蘇省江陰市から呼び寄せた、魂だけの存在だ。だから魂が入るための器、依代が必要だったんだよ」
「依代?」
「そう。依代。人間の魂であれば人間の体を使う。動物の魂であれば同じ動物の体だ。稀に別の器、例えば人形や形代を利用する場合もあるが、失敗する可能性が高くなる。それに、その場合は魂が定着出来ず、長時間維持することも出来ない。一時しのぎだね」
「つまり、僕の魂を入れるために用意した、この体は……」
「そうだよ。人間の肉体だ。それも、死んだばかりの、魂が抜けて間もない肉体でなければならない」
ちょっと待って。今、僕が僕だと思っているこの体は、誰か別人の体で。僕がこの世界に来た時には、既に死んでいたって? さっきのが真実の姿だって!?
「以前の肉体の持ち主は朱雀。先代の朱雀で御座います」
す……ざく……? 朱雀さんの、すざく?
「先代朱雀は、耕作様の魂を招くための器として最適だった。条件は色々あるから、手前には分からないし、説明することは不可能だけどね。八咫鏡が選んだ最適な器、それが先代朱雀だったんだ」
待って。情報量が多すぎて処理しきれない……僕の脳みそが混乱しているのも気にせず、青龍さんは続けた。
「ひとつ言えるのは、耕作様と背丈が似ていた、という点かな。血液型や遺伝的なもの、それに性格なども影響しているかも知れない。八咫鏡に選ばれた先代朱雀は、迷うことなく使命を受け入れたよ。耕作様の器たるため、死ぬという役目をね」
「なんで……なぜ、死ななきゃならないの!?」
「一つの器に一つの魂」
「え?」
「それが絶対の真理なんだ。この理を曲げることは出来ない。もしこの自然の摂理に逆らった場合……」
「場合?」
「一つの器に一つの魂が入った状態で、生物は安定を保っている。具体的には、例えば人間の場合、基本的な体温が36度から37度の間だ。これが絶対安定の、自然な人間の状態になる」
「へ~」
「ここに二つ目の魂が入った場合、その魂との親和性、結合度、定着度など、また様々な条件によって変わるが……体温が少なくとも数度から、最悪の場合は2倍以上にもなってしまうんだ」
「体温が2倍に? って体温が70度になるって事!?」
「そうだ。稀に起きる、人体発火という現象を知っているかい?」
「聞いた事あるけど……まさか」
「人体発火は、肉体に合わない魂が無理やりその肉体に入り込んでしまった結果、器が超高温になって燃えたもの、と考えられている」
「でも70度じゃ……」
「さっきの例は、あくまで、人間の魂が人間の器に二つ入ってしまった場合だ。それで2倍。ごく稀に3つ以上入ることもあるし、より親和性の低い、例えば他の動物の魂や、何か良からぬものが入り込んでしまえば、2倍どころか5倍、10倍の体温になることもあり得る」
「そうか……それで人体発火が……」
まさか、こんなところで超自然現象について学ぶとは思わなかった。そういう事だったのか!
「話を戻そうか。確実に分かっているのは、その人物の肉体そのもの、身長や体重といった基礎的な情報が、近ければ近いほど良い、ということだよ。耕作様と先代は、身長は似通っていたけど、体格が全然違った。先代はどちらかと言えば痩せている方で、そうだね、手前に似た体格だったかな。だから依代になると決まってからは、耕作様に体型を近付けようと、過食の毎日を送っていたよ」
「泣きながら食べてたって言ってた?」
「そう。先代は太るためだけに、耕作様の依代たるに相応しくなるためだけに、毎日嘔吐を繰り返しながら食事をしていたんだ。嘔吐してしまっては太れないと言って、吐瀉物をそのまま口に運んで。お盆に溢れる吐瀉物を、涙ながらに啜っていたよ」
なんという壮絶な話だろう。満腹で苦しくても泣きながら無理して食べ、それを吐いては、吐いた物まで啜っていたというのだ!
「しかも我々には時間がなかった。もし時間があれば、50キロの体重を100キロまで増やすのも、そこまで難しくはないだろう。しかし時間に追われた手前ども……否、先代は、可能な限り早くと言って。僅かひと月で体重を二倍にしてみせたんだよ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
少年少女たちの日々
原口源太郎
恋愛
とある大国が隣国へ武力侵攻した。
世界の人々はその行為を大いに非難したが、争いはその二国間だけで終わると思っていた。
しかし、その数週間後に別の大国が自国の領土を主張する国へと攻め入った。それに対し、列国は武力でその行いを押さえ込もうとした。
世界の二カ所で起こった戦争の火は、やがてあちこちで燻っていた紛争を燃え上がらせ、やがて第三次世界戦争へと突入していった。
戦争は三年目を迎えたが、国連加盟国の半数以上の国で戦闘状態が続いていた。
大海を望み、二つの大国のすぐ近くに位置するとある小国は、激しい戦闘に巻き込まれていた。
その国の六人の少年少女も戦いの中に巻き込まれていく。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる