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第三章 心魂定着 -しんこんていちゃく-
15 嫌だ、イヤだ、いやだ、嫌だあぁ~
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「オン、ボキャバトゥ、オン、ボキャバトゥ……」
青龍さんの声が部屋中に響き渡るンゴ。
「ノウボウ、バギャバトウ、シュシャ、オン、ロロソボロ、オン、チシュタロ、オン、シャネサラバ……」
護符を投げる度、八咫鏡が青白い光を放つ。僕は青龍さんの醸し出す雰囲気というか、荘厳さに圧倒されたンゴ。
「アラタサダ、ニエイ、ソワカ!」
大きな掛け声に呼応するように、八咫鏡は二度、三度と、ひときわ大きな光を放つ。そして青龍さんが護符を握ったままの手で鏡を取り上げ、僕の方に表面を見せたンゴ。
「今から映し出されますのは、耕作様の最後の記憶、末期の瞬間で御座います」
朱雀さんがそっと教えてくれた。ゴクリ。何だろう、嫌な予感しかしないンゴ。
「耕作様の体と心は、既に8割方戻っております。しかし最期のその時……心が記憶を封じたのでしょう。今尚戻りません」
「別に戻らなくても良いンゴ」
「御辛い記憶ですが、どうか目を逸らさず。見届けて下さいませ」
心配そうな表情の朱雀さん……というか、なんで朱雀さんが僕の記憶を知っているンゴ?
「……オン、ボキャバトゥ、オン、ボキャバトゥ……」
曇っていた鏡面が、段々と晴れていく。そこに映し出されたものは……
「ね! さっき告白してくれたでしょ? 実は私も。告白があるの」
栞奈! 鏡面に栞奈が映っている! 懐かしい。愛しい。最愛の人。そして栞奈に肩を借りて、半ば引き摺られるように歩いているブタは……僕ンゴ。
「私の告白はね。あのチョコレートとサンドイッチ」
そうだ。栞奈に告白しようと思って、バレンタインデーに彼女を誘った。初旅行のあの日。場所はガラスの吊り橋ンゴ。
「実はあれ、私が徹夜で作ったの! おかげで寝不足!」
彼女は僕のために、手作りチョコを用意してくれたンゴ。
「この日のために大学で研究してきたんだ。ずっと待ってた、このチャンスを」
ダメだ、この先は見ちゃいけない。そんな気がする。僕の心が見る事を拒否している。だけど目が離せないンゴ……
「人の体が動かなくなるおクスリ。睡眠薬とか、しびれ薬みたいなものね。少し動けなくなる程度なら、100均やドラッグストアで売っているものだけで作れるの」
嫌ンゴ! 見たくないンゴ! 知りたくないンゴ!
「パンとチョコ。タオルにも沁み込ませてあったよ」
嫌だ、イヤだ、いやだ、嫌だあぁ~! その先は言わないンゴで! お願いンゴ、栞奈あ!
「お前さあ。キモいんだよ。ンゴンゴって老人かよ」
もう語尾なんてンゴなんて言わないよ絶対。
「ど~でもいい話をペラペラ喋り出すしさあ。ヲタク丸出しでキモすぎ。高校も大学も無理して同じ所に来やがってストーカーかっつうの。いつもいつもエロい目で見てさあ。スリーサイズ聞かれた時マジ殺意芽生えた」
どーでもいい話……だよね。歴史の話なんて興味ないよね……朱雀さんだって……また聞きたいって口では言ったけど……僕の話なんて聞きたくないよね……
「前も寝たフリした私の髪の毛触って匂いかいでキスしやがったろ。耳元でンゴンゴ言いやがってマジ鳥肌。キモいからすぐ髪切ったし。告白? 婚約指輪? マジキモいマジ無理マジ死ねよ」
ごめん、ごめんよ栞奈……僕は栞奈の事が大好きだった……ただ……それだけなんだ……
「お前は! 事故で! 落下した! って! ご両親にも! 伝えて! おいて! や! る! よっ!」
……僕は……栞奈に橋の上から突き落とされて……
「お、ち、ろォ!」
……死んだ。
「耕作様。耕作様っ!」
朱雀さんの声がする。
「ン……ゴ……いや、ンゴって言っちゃいけなかったんだ……」
「耕作様! 御気を確かに!」
「ンゴ……じゃなくって……もう何でもいいや」
「これは、まだ早過ぎたのかも知れないね」
「青龍!」
「いつかは、知って貰わなければいけなかった」
「それでも! こんなの酷いです! ほら、こんなに泣いて……これでは耕作様の魂まで死んでしまいます」
僕の目は開いているらしい。何かが動いているのは分かる。でも瞳には何も映っていない。ただ何かが視界の中で動いたり、視界いっぱいに広がったりする。それから、僕は温かくて柔らかい感触に包まれた。僕はこの感触を知っている……何だったっけ……
「最後のチャンスだ。知っているだろう? もう複製品の一つさえ残っていない」
「だからこそ!」
「複製品さえあれば、先代の魂だって保護出来たのに……それに時間も……残されていない」
「それでも! もっと他にやりようはないのですか」
「時期が迫っている。今のままでは間に合わなくなる。荒療治でも、やらねばならなかった」
「でも! この御様子では……」
「朱雀。何のために君がいるんだい? 手前の仕事は、ひとまず終わった。暫くは朱雀に預ける。言うまでもないけどね、先代のこと……頼んだよ」
何か言い争う声がする。僕はただ茫然と二人の会話を聞いていた。耳に入っても、理解は出来ていない。何も考えられない。考えたくもない。僕はもう、このまま……消えてしまいたい……
青龍さんの声が部屋中に響き渡るンゴ。
「ノウボウ、バギャバトウ、シュシャ、オン、ロロソボロ、オン、チシュタロ、オン、シャネサラバ……」
護符を投げる度、八咫鏡が青白い光を放つ。僕は青龍さんの醸し出す雰囲気というか、荘厳さに圧倒されたンゴ。
「アラタサダ、ニエイ、ソワカ!」
大きな掛け声に呼応するように、八咫鏡は二度、三度と、ひときわ大きな光を放つ。そして青龍さんが護符を握ったままの手で鏡を取り上げ、僕の方に表面を見せたンゴ。
「今から映し出されますのは、耕作様の最後の記憶、末期の瞬間で御座います」
朱雀さんがそっと教えてくれた。ゴクリ。何だろう、嫌な予感しかしないンゴ。
「耕作様の体と心は、既に8割方戻っております。しかし最期のその時……心が記憶を封じたのでしょう。今尚戻りません」
「別に戻らなくても良いンゴ」
「御辛い記憶ですが、どうか目を逸らさず。見届けて下さいませ」
心配そうな表情の朱雀さん……というか、なんで朱雀さんが僕の記憶を知っているンゴ?
「……オン、ボキャバトゥ、オン、ボキャバトゥ……」
曇っていた鏡面が、段々と晴れていく。そこに映し出されたものは……
「ね! さっき告白してくれたでしょ? 実は私も。告白があるの」
栞奈! 鏡面に栞奈が映っている! 懐かしい。愛しい。最愛の人。そして栞奈に肩を借りて、半ば引き摺られるように歩いているブタは……僕ンゴ。
「私の告白はね。あのチョコレートとサンドイッチ」
そうだ。栞奈に告白しようと思って、バレンタインデーに彼女を誘った。初旅行のあの日。場所はガラスの吊り橋ンゴ。
「実はあれ、私が徹夜で作ったの! おかげで寝不足!」
彼女は僕のために、手作りチョコを用意してくれたンゴ。
「この日のために大学で研究してきたんだ。ずっと待ってた、このチャンスを」
ダメだ、この先は見ちゃいけない。そんな気がする。僕の心が見る事を拒否している。だけど目が離せないンゴ……
「人の体が動かなくなるおクスリ。睡眠薬とか、しびれ薬みたいなものね。少し動けなくなる程度なら、100均やドラッグストアで売っているものだけで作れるの」
嫌ンゴ! 見たくないンゴ! 知りたくないンゴ!
「パンとチョコ。タオルにも沁み込ませてあったよ」
嫌だ、イヤだ、いやだ、嫌だあぁ~! その先は言わないンゴで! お願いンゴ、栞奈あ!
「お前さあ。キモいんだよ。ンゴンゴって老人かよ」
もう語尾なんてンゴなんて言わないよ絶対。
「ど~でもいい話をペラペラ喋り出すしさあ。ヲタク丸出しでキモすぎ。高校も大学も無理して同じ所に来やがってストーカーかっつうの。いつもいつもエロい目で見てさあ。スリーサイズ聞かれた時マジ殺意芽生えた」
どーでもいい話……だよね。歴史の話なんて興味ないよね……朱雀さんだって……また聞きたいって口では言ったけど……僕の話なんて聞きたくないよね……
「前も寝たフリした私の髪の毛触って匂いかいでキスしやがったろ。耳元でンゴンゴ言いやがってマジ鳥肌。キモいからすぐ髪切ったし。告白? 婚約指輪? マジキモいマジ無理マジ死ねよ」
ごめん、ごめんよ栞奈……僕は栞奈の事が大好きだった……ただ……それだけなんだ……
「お前は! 事故で! 落下した! って! ご両親にも! 伝えて! おいて! や! る! よっ!」
……僕は……栞奈に橋の上から突き落とされて……
「お、ち、ろォ!」
……死んだ。
「耕作様。耕作様っ!」
朱雀さんの声がする。
「ン……ゴ……いや、ンゴって言っちゃいけなかったんだ……」
「耕作様! 御気を確かに!」
「ンゴ……じゃなくって……もう何でもいいや」
「これは、まだ早過ぎたのかも知れないね」
「青龍!」
「いつかは、知って貰わなければいけなかった」
「それでも! こんなの酷いです! ほら、こんなに泣いて……これでは耕作様の魂まで死んでしまいます」
僕の目は開いているらしい。何かが動いているのは分かる。でも瞳には何も映っていない。ただ何かが視界の中で動いたり、視界いっぱいに広がったりする。それから、僕は温かくて柔らかい感触に包まれた。僕はこの感触を知っている……何だったっけ……
「最後のチャンスだ。知っているだろう? もう複製品の一つさえ残っていない」
「だからこそ!」
「複製品さえあれば、先代の魂だって保護出来たのに……それに時間も……残されていない」
「それでも! もっと他にやりようはないのですか」
「時期が迫っている。今のままでは間に合わなくなる。荒療治でも、やらねばならなかった」
「でも! この御様子では……」
「朱雀。何のために君がいるんだい? 手前の仕事は、ひとまず終わった。暫くは朱雀に預ける。言うまでもないけどね、先代のこと……頼んだよ」
何か言い争う声がする。僕はただ茫然と二人の会話を聞いていた。耳に入っても、理解は出来ていない。何も考えられない。考えたくもない。僕はもう、このまま……消えてしまいたい……
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