上 下
23 / 35

律と一楓 11

しおりを挟む
 祖父が倒れたから今日は休むと、湊から連絡が来たんだ。そう律が教えてくれたから、複雑な気持ちの中の、喜びを噛み締めていた。
 湊に申し訳ないと思いつつ、一楓は二人だけの貴重な昼休みを屋上で過ごせていることに、嬉しくてたまらなかった。
 校内放送で担任に呼び出されるまでは。

 午前中に移動教室へ向かう途中、一楓はまた貧血を起こしていた。立て続けに倒れたことを心配され、病院へ行くよう職員室でいい含められていたのだ。
 早退して保険医と一緒に病院へ行けとキツく言われ、渋々とたかやし総合病院へ足を運んだ。
 受診を終えた一楓は、家まで送ると言った保険医の申し出を断り、憂苦な気持ちでバスを待っていた。

 焦点の合わない目に流れる景色を映しながら、保護者に連絡すると言う保険医をなんとか説得した。説得しなければまならない相手がもうひとり。自分も早退して一緒に行くと言う律を宥めたことは正解だったと、自分を褒めてやりたい。
 診察の際、医師に保護者はと聞かれ、仕事で不在だと言いきった。
 受付で待っていた保険医には、軽い貧血と風邪が重なっただけだと言って退けた。
 これらをよく思いついたと、自分を称賛してやりたくなる。

 ポケットの中で握り締める紙には、採血結果の一部に印を付けられ、幾つかの病名も書かれてある。おまけに要再検査と達筆な文字で、書き添えられていた。
 一楓はベンチにもたれ、医師の話しを頭の中で反芻させた。
 貧血の数値が低すぎるから、検査入院をした方がいいと言われた時、美琴とお金のことが頭をよぎった。
 検査や入院なんかすればお金もかかるし、家を空ければきっと美琴は不安になる。

 病名を調べようとスマホに一文字入力して、すぐに画面を閉じてしまった。
 正直、調べるのがこわかった。
 医師が書いた中のどれかが、自分に当てはまっていたらと思うと、毎分毎秒そのことばかり考えて落ち込む自分が想像できる。

 採血結果を眺めていると、用紙の隅っこに病院の名前が印字されていた。
 顔を上げてバス停の名前見ると、停留所の名前まで『たかやしき総合病院前』だった。
 どうしたって湊の顔が浮かび、心臓に穴が空いたみたいに胸が苦しくなる。
 病院は立派で、医者である両親は偉大な存在だ。いずれは湊も医者になって跡を継ぐのだろう。

 それに比べて、自分はなんてちっぽけな存在なんだ……。
 律に沢山のものを与えられるのは湊のような人で、自分は何も与えられない。このままの自分だと律に相応しくない。
 悲観的な思考に囚われてしまうのは、見えない病魔に怯える心と、高校まで律を追いかけてきた湊の気持ちを知っているからだ。

 律の顔が見たい。こんな不安な時は尚更、長くて綺麗な手で髪をいてもらいたい。
 一旦そう思ってしまうと寂しさが溢れ、鼻の奥がツンと痛くなる。
 バスが近付く音を聞きながら、検査結果にもう一度目を向けた。
 羅列した数値が滲んで見え、一楓は目頭を拭うと、用紙をポケットの中へと乱雑に葬ってバスへと乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

処理中です...