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第18話
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ルシファーは倒れた眞央に駆け寄り、血にまみれた体を抱きかかえる。
涙まじりの呼びかけは届いていないようで、彼の瞼は重く閉じたままだ。
廃工場に慟哭が響く。
「魔王様、魔王様! ……いやじゃ、わしを置いて行かないでくれ!!」
レヴィアタンはルシファーの横でただ沈黙する。彼もまた罪悪感に打ちひしがれていた。足元の触手はいつの間にか消えている。
葬式のような状況下で、ベルゼブブは冷静に告げる。
「ルーちゃん。泣いてる場合じゃないよ。今ならまだ助けられるかも」
あらゆる傷を治癒するルシファーの特殊能力。眞央の命を救う唯一の方法。
この瀕死状態、都心から離れた現在地。どう考えても救急車を呼んで治療してたんじゃ、間に合わない。
ベルゼブブの意図を読み取ったルシファーは、さっそく自分の着物の裾をめくり、性器を握る。
「ふっ…う、くぅっ、うう……」
上下に扱いても、ブツは中々立ち上がらない。
ベルゼブブは気の毒そうに見つめる。
一分一秒と惜しい時、目の前で大事な人が死の淵をさまよっているのに勃起させようなんて、無茶もいいとこだ。
このままじゃ埒が明かない、いったんアスモデウスを起こそうとベルゼブブが考えていた時、レヴィアタンが縮こまったペニスに触れた。
「っひあ! …おぬし、何をっ――」
「いーから黙ってろ」
「うむっ……んんぅ……」
ルシファーの口を、レヴィアタンが自分の口で塞ぐ。
レヴィアタンの舌が、上顎のザラザラした部分、歯茎の裏、舌の付け根――いわゆる口の性感帯を的確になぞる。
「いあぁ……んむっ……んひぁっ…」
ルシファーは初めこそ抵抗するが、彼の超絶舌テクの前に為す術なく、ガクガクと震える足の股からは、いやらしい汁がつたった。
性欲なんて全然無さそうなルシファーが、ペニスからカウパーを溢れさせていることに、ベルゼブブは密に驚く。
「……ようやく勃たせたか」
レヴィアタンはホッとしたように呟くと、とろとろに蜜をこぼす性器を上下に扱いた。
「いぁっ――やめっ……」
自分の性器を包む大きな掌をどけようとするが、ビクともしない。
ルシファーは尿道からせり上がる快感にギュッと目を閉じた。
「あっ…ああっ――――!!!」
ルシファーの上ずった声と同時に、ビュクビュクと精液が放出される。
やや透明に近い精液を掬い取ると、ルシファーは虫の息の眞央の口元に流し込んだ。
どうか間に合ってくれ。
三人は祈る思いで、眞央を見つめる。
――5分以上経過しても閉じた瞳が開くことはなく。
たまらずベルゼブブから嗚咽が漏れる。
「そんな……いやだよ。ベル、まおー様に謝りたいこと、たくさんあるのにぃ……」
レヴィアタンは「クソッ!!!」と吐き捨てる。己の過ちに怒りと後悔を感じていた。
「我が王よ。貴方はここで死ぬような御方ではないはずじゃ。後生だ。どうか目を開けておくれ。貴方が死んだら、わしは――」
眞央の頬に手を触れたルシファーは、温もりを失った感触に、もう死んでいるのだと悟る。
「……ちょっと、ねぇ、ルーちゃん。何してるの?」
異変に気づいたベルゼブブが、訝しげに聞く。
ルシファーは無言のまま胡坐をかくと、着物の前をはだけさせ、刀を手に取る。
それが、『切腹』だと容易に理解できた。
レヴィアタンは怒声を発する。
「てめぇは前世でもそうだ! 勝手に一人で抱えて、勝手に死にやがる!! 何一つ変わっちゃいねぇ! 脳内魔王だらけのバカ野郎だ!!!」
「嫉妬の、何とでも言うがよい。わしにとって、王のいない世界は生きていても無意味だ」
「まだ七つの大罪全員集まってないのに、ルーちゃんまで死んじゃうなんて嫌だよぉ!」
「案ずるな。希望はある。また転生した先で巡り合えるかもしれん。わしは再び同じ世界で魔王様に
会えることに懸ける」
これから死のうとしているのに、清々しく笑うルシファー。
皮肉なことに、二人が彼の笑顔を見たのは、この時が初めてだった。
「さらば、我が同胞。まだ見ぬ世界線で邂逅を果たそうぞ」
手向けられた遺言に、二人はすぐに止めようとするが、反射神経の速さで彼に勝るはずがない。
ルシファーは自分の腹部に刃を突き立てる。
ドム!!!!
爆発音は眞央からだった。
彼の全身から黒い霧が噴出し、辺りを飲みこむ勢いで膨張していく。
「なに……これ…」
「前見えねぇ! クソ!!」
「……懐かしい感覚じゃ。まさか――――」
ルシファーは視界を霧に覆われながら、ハッと気づく。
魔力だ。この黒い霧一帯が巨大な魔力。
身も凍るような冷たい感触、淀みきった泥のような黒々さ。
鼻につくは腐った果実と美酒の匂い。
耳に聞こえるは嘲笑と断末魔入り交じる地獄の宴。
魔力に当てられたものを発狂死させる威力をもつ、冷酷無情・残忍非道の地獄の大君主。
忘れもしない。あの御方の――――――!
ルシファーは口の端を吊り上げる。これが笑わずにいられようか。
黒い霧がだんだん薄くなり、視界がクリアになる。
眞央はそこにはいなかった。
そこにいたのは、彼らが平伏し、畏敬する主君。
七つの大罪の魔王が、千年の時を経て、ここに光臨した。
涙まじりの呼びかけは届いていないようで、彼の瞼は重く閉じたままだ。
廃工場に慟哭が響く。
「魔王様、魔王様! ……いやじゃ、わしを置いて行かないでくれ!!」
レヴィアタンはルシファーの横でただ沈黙する。彼もまた罪悪感に打ちひしがれていた。足元の触手はいつの間にか消えている。
葬式のような状況下で、ベルゼブブは冷静に告げる。
「ルーちゃん。泣いてる場合じゃないよ。今ならまだ助けられるかも」
あらゆる傷を治癒するルシファーの特殊能力。眞央の命を救う唯一の方法。
この瀕死状態、都心から離れた現在地。どう考えても救急車を呼んで治療してたんじゃ、間に合わない。
ベルゼブブの意図を読み取ったルシファーは、さっそく自分の着物の裾をめくり、性器を握る。
「ふっ…う、くぅっ、うう……」
上下に扱いても、ブツは中々立ち上がらない。
ベルゼブブは気の毒そうに見つめる。
一分一秒と惜しい時、目の前で大事な人が死の淵をさまよっているのに勃起させようなんて、無茶もいいとこだ。
このままじゃ埒が明かない、いったんアスモデウスを起こそうとベルゼブブが考えていた時、レヴィアタンが縮こまったペニスに触れた。
「っひあ! …おぬし、何をっ――」
「いーから黙ってろ」
「うむっ……んんぅ……」
ルシファーの口を、レヴィアタンが自分の口で塞ぐ。
レヴィアタンの舌が、上顎のザラザラした部分、歯茎の裏、舌の付け根――いわゆる口の性感帯を的確になぞる。
「いあぁ……んむっ……んひぁっ…」
ルシファーは初めこそ抵抗するが、彼の超絶舌テクの前に為す術なく、ガクガクと震える足の股からは、いやらしい汁がつたった。
性欲なんて全然無さそうなルシファーが、ペニスからカウパーを溢れさせていることに、ベルゼブブは密に驚く。
「……ようやく勃たせたか」
レヴィアタンはホッとしたように呟くと、とろとろに蜜をこぼす性器を上下に扱いた。
「いぁっ――やめっ……」
自分の性器を包む大きな掌をどけようとするが、ビクともしない。
ルシファーは尿道からせり上がる快感にギュッと目を閉じた。
「あっ…ああっ――――!!!」
ルシファーの上ずった声と同時に、ビュクビュクと精液が放出される。
やや透明に近い精液を掬い取ると、ルシファーは虫の息の眞央の口元に流し込んだ。
どうか間に合ってくれ。
三人は祈る思いで、眞央を見つめる。
――5分以上経過しても閉じた瞳が開くことはなく。
たまらずベルゼブブから嗚咽が漏れる。
「そんな……いやだよ。ベル、まおー様に謝りたいこと、たくさんあるのにぃ……」
レヴィアタンは「クソッ!!!」と吐き捨てる。己の過ちに怒りと後悔を感じていた。
「我が王よ。貴方はここで死ぬような御方ではないはずじゃ。後生だ。どうか目を開けておくれ。貴方が死んだら、わしは――」
眞央の頬に手を触れたルシファーは、温もりを失った感触に、もう死んでいるのだと悟る。
「……ちょっと、ねぇ、ルーちゃん。何してるの?」
異変に気づいたベルゼブブが、訝しげに聞く。
ルシファーは無言のまま胡坐をかくと、着物の前をはだけさせ、刀を手に取る。
それが、『切腹』だと容易に理解できた。
レヴィアタンは怒声を発する。
「てめぇは前世でもそうだ! 勝手に一人で抱えて、勝手に死にやがる!! 何一つ変わっちゃいねぇ! 脳内魔王だらけのバカ野郎だ!!!」
「嫉妬の、何とでも言うがよい。わしにとって、王のいない世界は生きていても無意味だ」
「まだ七つの大罪全員集まってないのに、ルーちゃんまで死んじゃうなんて嫌だよぉ!」
「案ずるな。希望はある。また転生した先で巡り合えるかもしれん。わしは再び同じ世界で魔王様に
会えることに懸ける」
これから死のうとしているのに、清々しく笑うルシファー。
皮肉なことに、二人が彼の笑顔を見たのは、この時が初めてだった。
「さらば、我が同胞。まだ見ぬ世界線で邂逅を果たそうぞ」
手向けられた遺言に、二人はすぐに止めようとするが、反射神経の速さで彼に勝るはずがない。
ルシファーは自分の腹部に刃を突き立てる。
ドム!!!!
爆発音は眞央からだった。
彼の全身から黒い霧が噴出し、辺りを飲みこむ勢いで膨張していく。
「なに……これ…」
「前見えねぇ! クソ!!」
「……懐かしい感覚じゃ。まさか――――」
ルシファーは視界を霧に覆われながら、ハッと気づく。
魔力だ。この黒い霧一帯が巨大な魔力。
身も凍るような冷たい感触、淀みきった泥のような黒々さ。
鼻につくは腐った果実と美酒の匂い。
耳に聞こえるは嘲笑と断末魔入り交じる地獄の宴。
魔力に当てられたものを発狂死させる威力をもつ、冷酷無情・残忍非道の地獄の大君主。
忘れもしない。あの御方の――――――!
ルシファーは口の端を吊り上げる。これが笑わずにいられようか。
黒い霧がだんだん薄くなり、視界がクリアになる。
眞央はそこにはいなかった。
そこにいたのは、彼らが平伏し、畏敬する主君。
七つの大罪の魔王が、千年の時を経て、ここに光臨した。
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