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第17話
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ふわふわとした金髪のツインテの美少女――もとい美少年。
彼の登場にレヴィアタンは動揺を隠しきれない。
「ベルゼブブ! てめぇも裏切ったのか!?」
「レヴィちゃんひさしぶり♪ まぁ、そんな感じかな」
悪びれもせず、ひらひらと手を振るベルの隣で、ルシファーが刀を構え、強い殺気を放つ。
「嫉妬の。さっき可愛がってもらったお礼、ちゃんと返してやるぞ」
「クソッ! クソっ! どいつもこいつもふざけやがって――――」
怒りに顔を歪めるレヴィアタン。その足元の黒い影が濃く、大きくなり、そこから出てきたのは黒い触手だった。
「――ようやく本性を表したか。『海の大蛇』」
どんどん影から這い出ては蠢く無数の束に、ルシファーは息を呑んだ。
「ぃやぁっ!!!」
とつぜん触手の一つが意志を持ち、ベルゼブブの細い首に絡みついた。
「うう……ぐ、ぅ」
ベルゼブブは声を発せないほど、きつく喉を締め上げられる。
だんだん青ざめていく表情に耐えきれず、眞央は声を荒げた。
「レヴィアタンやめろっ!!! このままじゃ本当に死んじまう!」
「うるせぇっ! 裏切り者にはふさわしい末路だ!!」
「お前、刑務所行きだぞ!? 前世では人の命なんて蟻を踏み潰す程度の価値しかなかったけど、この世界では重罪だからな!!!」
「俺様を誰だと思ってやがる。ニューヨークの5大マフィアの一つだぞ? 一人や二人殺したって金積めやぁ、簡単にもみ消せんだよ、ばぁかっ!!!」
うわ~性格悪っ!魔王(俺)よりよっぽど達悪い!
こいつが魔王じゃなくて本当に良かったと、眞央は安堵する。
すると横で風を切る速さで、ベルゼブブを苦しめる触手が一刀両断された。
ルシファーの居合に、眞央は感嘆をあげる。
「ナイス! ルシファー!」
「魔王様があやつの注意を引きつけてくれたおかげです」
そんな意図はいっさいなかった眞央だが、ルシファーの照れ顔を前に本当のことは言えなかった。
「暴食の! さっさと魔王様を連れて避難せい!」
「……ルーちゃん、人使い荒すぎ……」
ベルゼブブはゲホゲホと噎せながら文句をたれるが、眞央の腕を取り走り出す。
「逃がすか!」
レヴィアタンは後ろを向けた二人に幾多の触手を伸ばすが、ルシファーの刀で細切れにされる。
「邪魔すんじゃねぇっ!!! ペットふぜいが!」
「おぬしはペットですらない、魔王様の目にも止まらぬ矮小な存在。実に憐れなものよ」
「てっめぇ…………!!! その五体ズタズタに引きちぎってやる」
「やってみるがよい。柔なタコ足でできるものならな」
両者の煽り合いは白熱し、戦いはさらに激化する。
工場の外にいったん出た二人は、その様子を固唾を飲んで見守っていた。
「ひぇ~ルーちゃんもレヴィちゃんもガチギレじゃん。これはどっちかが死ぬまで終わらないね」
「どうして俺なんかのためにそこまでして命を懸けるんだ。どうして今ある人生を簡単に棒に振るような真似ができるんだ……」
眞央には分からない。自分と違って、才能に恵まれた七つの大罪達。
せっかく裏切り、騙し合い、殺戮、争い、そういった前世のしがらみから解放されたというのに。自分を手にしたところで、彼らが満たされるとはとうてい思えない。
「おバカちゃんだねぇ! まおー様は!」
「いひゃぁ!」
沈んだ表情の眞央に喝を入れるべく、ベルゼブブは両手で彼の頬をひねる。
「そんなの一つしかないでしょっ! ボク達がまおー様が大好きで愛してるからに決まってるじゃん!!!」
ベルゼブブの言葉は説得力があった。彼もまた、魔王に恋焦がれた一人。血肉を食らう、という禁忌を犯してまで。
七つの大罪の愛情表現は屈折しているが、魔王を愛する気持ちは皆、本物だ。
「……じゃあ、止める手段はなおさら俺しかないってことか」
眞央は深呼吸すると、ベルゼブブの制止を振り払い、戦場と化す工場内に踏み込んだ。
「待って! だめ! まおー様!!!」
背後から必死に叫ぶ声が聞こえても、迷わず走る。部下同士の争いを止めるため。
それは上司である自分の責任だと、強く感じたから。
「お前らいい加減にやめろっ!!!」
闇雲に走り、触手と刀が交わる戦線へ特攻する。
ただ運が悪かった。
ちょうどルシファーが刀の切っ先を突き出し、レヴィアタンもまた触手の先端を鋭利な刃に仕立て、相手に向けたタイミングだった。
「「魔王様っ!?」」
思わぬ乱入に、ルシファーとレヴィアタンの声が重なる。
二人の殺意をともなった攻撃は、真ん中に現れた眞央に命中した。
「がっ……!!!」
もはや悲鳴など出ない。
突き刺さった刀と触手は眞央の腹を貫通していた。
吐血した血が床に生々しく飛び散る。
命を懸け、欲した者を自ら手にかけてしまったという事実に二人は言葉を失い、とっくに戦意消失していた。
彼の登場にレヴィアタンは動揺を隠しきれない。
「ベルゼブブ! てめぇも裏切ったのか!?」
「レヴィちゃんひさしぶり♪ まぁ、そんな感じかな」
悪びれもせず、ひらひらと手を振るベルの隣で、ルシファーが刀を構え、強い殺気を放つ。
「嫉妬の。さっき可愛がってもらったお礼、ちゃんと返してやるぞ」
「クソッ! クソっ! どいつもこいつもふざけやがって――――」
怒りに顔を歪めるレヴィアタン。その足元の黒い影が濃く、大きくなり、そこから出てきたのは黒い触手だった。
「――ようやく本性を表したか。『海の大蛇』」
どんどん影から這い出ては蠢く無数の束に、ルシファーは息を呑んだ。
「ぃやぁっ!!!」
とつぜん触手の一つが意志を持ち、ベルゼブブの細い首に絡みついた。
「うう……ぐ、ぅ」
ベルゼブブは声を発せないほど、きつく喉を締め上げられる。
だんだん青ざめていく表情に耐えきれず、眞央は声を荒げた。
「レヴィアタンやめろっ!!! このままじゃ本当に死んじまう!」
「うるせぇっ! 裏切り者にはふさわしい末路だ!!」
「お前、刑務所行きだぞ!? 前世では人の命なんて蟻を踏み潰す程度の価値しかなかったけど、この世界では重罪だからな!!!」
「俺様を誰だと思ってやがる。ニューヨークの5大マフィアの一つだぞ? 一人や二人殺したって金積めやぁ、簡単にもみ消せんだよ、ばぁかっ!!!」
うわ~性格悪っ!魔王(俺)よりよっぽど達悪い!
こいつが魔王じゃなくて本当に良かったと、眞央は安堵する。
すると横で風を切る速さで、ベルゼブブを苦しめる触手が一刀両断された。
ルシファーの居合に、眞央は感嘆をあげる。
「ナイス! ルシファー!」
「魔王様があやつの注意を引きつけてくれたおかげです」
そんな意図はいっさいなかった眞央だが、ルシファーの照れ顔を前に本当のことは言えなかった。
「暴食の! さっさと魔王様を連れて避難せい!」
「……ルーちゃん、人使い荒すぎ……」
ベルゼブブはゲホゲホと噎せながら文句をたれるが、眞央の腕を取り走り出す。
「逃がすか!」
レヴィアタンは後ろを向けた二人に幾多の触手を伸ばすが、ルシファーの刀で細切れにされる。
「邪魔すんじゃねぇっ!!! ペットふぜいが!」
「おぬしはペットですらない、魔王様の目にも止まらぬ矮小な存在。実に憐れなものよ」
「てっめぇ…………!!! その五体ズタズタに引きちぎってやる」
「やってみるがよい。柔なタコ足でできるものならな」
両者の煽り合いは白熱し、戦いはさらに激化する。
工場の外にいったん出た二人は、その様子を固唾を飲んで見守っていた。
「ひぇ~ルーちゃんもレヴィちゃんもガチギレじゃん。これはどっちかが死ぬまで終わらないね」
「どうして俺なんかのためにそこまでして命を懸けるんだ。どうして今ある人生を簡単に棒に振るような真似ができるんだ……」
眞央には分からない。自分と違って、才能に恵まれた七つの大罪達。
せっかく裏切り、騙し合い、殺戮、争い、そういった前世のしがらみから解放されたというのに。自分を手にしたところで、彼らが満たされるとはとうてい思えない。
「おバカちゃんだねぇ! まおー様は!」
「いひゃぁ!」
沈んだ表情の眞央に喝を入れるべく、ベルゼブブは両手で彼の頬をひねる。
「そんなの一つしかないでしょっ! ボク達がまおー様が大好きで愛してるからに決まってるじゃん!!!」
ベルゼブブの言葉は説得力があった。彼もまた、魔王に恋焦がれた一人。血肉を食らう、という禁忌を犯してまで。
七つの大罪の愛情表現は屈折しているが、魔王を愛する気持ちは皆、本物だ。
「……じゃあ、止める手段はなおさら俺しかないってことか」
眞央は深呼吸すると、ベルゼブブの制止を振り払い、戦場と化す工場内に踏み込んだ。
「待って! だめ! まおー様!!!」
背後から必死に叫ぶ声が聞こえても、迷わず走る。部下同士の争いを止めるため。
それは上司である自分の責任だと、強く感じたから。
「お前らいい加減にやめろっ!!!」
闇雲に走り、触手と刀が交わる戦線へ特攻する。
ただ運が悪かった。
ちょうどルシファーが刀の切っ先を突き出し、レヴィアタンもまた触手の先端を鋭利な刃に仕立て、相手に向けたタイミングだった。
「「魔王様っ!?」」
思わぬ乱入に、ルシファーとレヴィアタンの声が重なる。
二人の殺意をともなった攻撃は、真ん中に現れた眞央に命中した。
「がっ……!!!」
もはや悲鳴など出ない。
突き刺さった刀と触手は眞央の腹を貫通していた。
吐血した血が床に生々しく飛び散る。
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