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第14話

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 ルシファーに襲われかけた眞央は、彼の問いかけや謝罪をいっさい無視し、完全に心を塞いでしまった。
 そんなレイプ未遂事件の後の翌日。

「あんちゃん、ここから出たくはないか?」

 眞央の給仕役であるルシファーの部下が提案してきた。
 強面の彼はルシファーがいない日中、眞央の身の回りの世話をしてくれている。そして若頭の数々の伝説を眞央に吹き込んだのも彼である。

「もちろん! 俺もうあいつの側から離れたいんだ」

 あんなことをされた後というのもあり、眞央からしても願ってもいない絶好のチャンスだった。
 二つ返事で了承し、すぐにそれは実行に移された。

「うわっ…本当に広いな。映画で見る忍者屋敷みたいだ」

 地上にあがった眞央は、江戸時代にタイムスリップしたような気持ちで言った。
 先の見えない渡り廊下に等間隔で置かれた高価な美術品。
 そして横に広がるは手入れが行き届いた日本庭園。
 この屋敷もルシファーのものであるので、彼の絶大な権力がうかがえる。

「たりめーだろぉ! 若は19歳という若さで、関東一帯を統べる獅子緒組組長から一番実力を買われているからな。この組の次期後継者はあの人で決まりさ!」

 自慢げに話す男の後ろを歩きながら、眞央はしみじみと思った。

(あいつ、部下にはちゃんと慕われているんだな。きっと俺がいたらルシファーの為にもならない。あんなに世話してもらったのに勝手に出ていくのは後ろめたいけど、これでよかったんだ、たぶん)

 そう踏ん切りつけた矢先、廊下をつきあたりで曲がった所で眞央は何者かに羽交い絞めにされ、部屋に引きずり込まれた。

「いらっしゃい、若のお姫さま♪」

 部屋の中には黒スーツを着たガタイのいい男が二人。
 二人がかりで押さえつけられた眞央は突然のことに頭が追いつかなかった。

「でかしたぞ、小次郎」
「まーね。こいつ騙すのはチョロイもんだったぜ。もしかして、若とセックスし過ぎて頭がユルユルなのかもしんねぇ」

 眞央をここまで案内してくれた小次郎と呼ばれた男は部屋の戸を閉め、ゲス笑いを浮かべた。

(騙された……!)

 よくよく考えれば、カタギでもない奴が条件もなくあんな提案してくるのがおかしいと気づくべきだったのだ。
 眞央の中に後悔の波が押し寄せるが、時すでに遅し。

「あらゆる美女にも興味なかった若が座敷牢に閉じこめておくほど執着している奴がいるって聞いたからよぉ、どんな奴かと思ったらよぉ、ただの地味な男じゃねぇか!!!」

 小次郎はそう吐き捨てると、足で眞央の腹を蹴り飛ばした。

「かはっ……!」

 眞央は今ので胃が逆流し、嘔吐してしまった。

「うわ、きったね」
「こんな平凡なののどこがいいんだか、若は変人だと思っていたがつくづくその通りだ」
「てめぇなんてただの肉便器に過ぎねーんだよ、カスが!」

 男たちは眞央を取り囲み、罵詈雑言を浴びせながら袋叩きにした。

(痛ぇ、痛ぇよ。何で俺がこんな目にあわなきゃなんねーんだよ!)

 せっかくルシファーが治してくれた眞央の体は再び傷だらけになっていく。

「てめぇに怨みはねぇが、俺たちの若をこれ以上おかしくさせる癌は排除する必要がある。悪く思うなよ」

 小次郎は懐から短刀を取りだす。
 殺される、そう察した眞央だが、二人の男に押さえつけられているので抵抗できなかった。

「あばよ、お姫さま。若に気に入られたのが運のツキ。てめぇと若じゃ住む世界が違いすぎたってことだ。到底あの人には釣り合わねーよ」
「そんなの知るかっ! それでも俺はルシファーにとっての王なんだ!!!」
「ハァ? 何言ってんだ、てめぇ。もう死ねや!!!」

 小次郎が短刀を振りかざす、眞央は覚悟してギュッと目を閉じた。

(もし俺の中に魔王の力があるのなら! 力を貸してくれっ……!!)

 カッと眞央の瞳が赤くなる。
 それと同時に、男三人は突風のようなもので部屋の襖ごと外へと弾き飛ばされた。

「うそっ! ほんとに何かできた!」

 庭まで吹き飛んでいった男たちを見ながら、能力を発揮した張本人が一番驚いていた。
 だが、その驚きも半分。七つの大罪らの能力を見ているために、多少ミラクルが起きても動じなくなった眞央は、気をとりなおして部屋を抜け出し、とにかく廊下を突き進む。

「くっそ……このまま逃げられると思うなよぉ!!!」

 やはりカタギをしているだけあって体力はあるのだろう、小次郎は根性で起き上がる。
 そして短刀を持ち直し、逃げる眞央に斬りかかる。

「死ねぇっ!!!」
(今度こそダメかも……っ!)

 眞央は背中から迫り来る殺意に弱音を吐いた時だった。

「ちょいちょい、ストップストップ~」

 この緊迫な空間に似つかわしくない間の抜けた声。
 小次郎と眞央は走るのを止め、その声の主に注目した。
 廊下の先から堂々と現れたのは、銀髪で長身の眼鏡の男。

「誰だてめぇは!!!」
「おお怖っ! これから死ぬ人間に自己紹介の意味なんてないねんけどな、冥土の土産に受けとっときい。魔王はんの忠実なるしもべ、強欲のマモン申しますわ、おおきに」

 マモンは小次郎の怒気に一ミリも怯まず丁寧に名乗った。
 そして--

『お前ら、殺っちまいな』

 マモンの一言で、彼の後ろに控えていたスーツの男たち数人がいっせいに小次郎に襲いかかった。

「危機一髪やったねぇ、魔王はん♪」
「どうしてお前が……」

 立場が逆転し、袋叩きにされている小次郎を見ながら、眞央は問いかけた。

「いや~、そんな警戒心ビンビンにせんでもウチは何もしないから」
「どうだかな、あんたの能力は人を洗脳して操る能力だって知ってるんだぞ。この魔王狩りを裏で糸引いてんのはあんたなんじゃないか?」
「へえ……そこまでたどり着いたんや。さすがやな、魔王はん。けど、ほんまに自分に手出す気はサラサラないねんから、安心しい」
「じゃあなおさら俺を助ける理由なんてあんたにないだろう!」
「そりゃあ、魔王はんに死なれたら全てがパアや。それに見せたいもんがあってなぁ」

 マモンはスーツの胸ポケットからスマホを取りだし、何やら操作する。

「よく撮れてるやろぉ、コレ♪ ウチYoutuber目指せると思わへん?」

 マモンが眞央に自慢げにスマホの動画を見せる。
 映し出されたのは、男二人に陵辱されている黒髪の男。まるでゲイ専門のアダルト動画だ。
 眞央はその黒髪の男をよく知っていた。だからこそ絶句していた。

「残念やったなぁ、魔王はん。自分の右腕、今ウチらに犯されてるでぇ」
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