25 / 33
第5章「豹変」
第25話「あいつ、ヤバいよ」
しおりを挟む
(UnsplashのHà Nguyễnが撮影)
その日から、あたしは出社しなかった。スマホの電源を切ってスミレの部屋に引きこもった。
何も聞きたくなかった。
考えたくない。
親には心配をかけたくなかったけど、居所が分からないと余計に心配するので、パパにだけ電話しておいた。
『いろいろ、ちょっと考えたいから友人の部屋に泊めてもらっている』って。
パパは、なぜか事情が分かるみたいな感じで
『ゆっくり考えなさい』とだけ言った。
そのまま三日がたって、スミレは前から決まっていた海外出張へでかけた。
出発前に、しつこいほど念押しして……。
「いい? ぜったいに、誰が来てもエントランスをあけちゃダメよ。
あいつ意外と小知恵がまわるみたいで、
社内でも根拠がない事をべらべらをしゃべりまくっているの。
自分が被害者みたいな言いぐさよ。
それを丸ごと信じちゃっている人もいるから、始末に悪いわ。
同情されていい気になっているから、ここへもやってくるかも。
実は、あんたがうちにいるって勘づかれたみたいで、探りを入れてくるのよ
ぜったいに会っちゃダメよ、むつみ。
あいつ、ヤバいわ。本気でヤバい男だと思う」
「ごめん、スミレ。迷惑かけちゃって」
「迷惑とか、今は考えないの!
それより自分の安全を優先してよね。
出張から帰ってきたら、あんたが首絞められて転がっていた、なんてイヤだからね!」
「……すごい具体的ね」
「あたし、アメリカにも長くいたの。DV被害はたくさん見て来たわ。
ダメ男が本気になったら、シャレにならないのよ。
殴る、けるの次は首を絞められるんだから。
DVで死ぬって、ホントにあるの。甘く見ないでね、むつみ」
だからあたしは、スミレが出発してから玄関にはガチリとトリプルロックをかけて、部屋から一歩も出なかった。
だって、あの夜の恐怖は忘れられないもの。
いきなり理由もなく暴力を受けた。その衝撃はかんたんに身体から抜けるものではない。
だから、日暮れ時にインターホンが鳴る音を聞いて、ひとりきりの部屋でびくりとしたのだ。
こわかった。
部屋に電子音が鳴りつづける。
地獄の扉を開くみたいな音。
あたしは耳をふさいだ……。
こわい。
いったい、だれがきたの??
そのとき、鳴りつづけるインターホン音にまじって、どこかから、ピラララアン♪という軽やかな音楽が聞こえた。
ピラララアン♪
ピラララアン♪
そして、スミレの声。
『むつみ! そこにいるんでしょ? こっちへ来てよ!』
……スミレ? ……こっちって、どこ?
顔を上げる。空っぽの部屋にはなにもない。
けど、静かに夜が始まりかけている暗い部屋の中で、ぴかぴかと光っている場所があった。
部屋のすみ、からっぽのケージの横にちいさな白い機械が見えた。台形の上に球体が乗っていて、そこがピカピカ光っている。
スミレの声が機械から聞こえた。
『むつみ? 返事して』
その日から、あたしは出社しなかった。スマホの電源を切ってスミレの部屋に引きこもった。
何も聞きたくなかった。
考えたくない。
親には心配をかけたくなかったけど、居所が分からないと余計に心配するので、パパにだけ電話しておいた。
『いろいろ、ちょっと考えたいから友人の部屋に泊めてもらっている』って。
パパは、なぜか事情が分かるみたいな感じで
『ゆっくり考えなさい』とだけ言った。
そのまま三日がたって、スミレは前から決まっていた海外出張へでかけた。
出発前に、しつこいほど念押しして……。
「いい? ぜったいに、誰が来てもエントランスをあけちゃダメよ。
あいつ意外と小知恵がまわるみたいで、
社内でも根拠がない事をべらべらをしゃべりまくっているの。
自分が被害者みたいな言いぐさよ。
それを丸ごと信じちゃっている人もいるから、始末に悪いわ。
同情されていい気になっているから、ここへもやってくるかも。
実は、あんたがうちにいるって勘づかれたみたいで、探りを入れてくるのよ
ぜったいに会っちゃダメよ、むつみ。
あいつ、ヤバいわ。本気でヤバい男だと思う」
「ごめん、スミレ。迷惑かけちゃって」
「迷惑とか、今は考えないの!
それより自分の安全を優先してよね。
出張から帰ってきたら、あんたが首絞められて転がっていた、なんてイヤだからね!」
「……すごい具体的ね」
「あたし、アメリカにも長くいたの。DV被害はたくさん見て来たわ。
ダメ男が本気になったら、シャレにならないのよ。
殴る、けるの次は首を絞められるんだから。
DVで死ぬって、ホントにあるの。甘く見ないでね、むつみ」
だからあたしは、スミレが出発してから玄関にはガチリとトリプルロックをかけて、部屋から一歩も出なかった。
だって、あの夜の恐怖は忘れられないもの。
いきなり理由もなく暴力を受けた。その衝撃はかんたんに身体から抜けるものではない。
だから、日暮れ時にインターホンが鳴る音を聞いて、ひとりきりの部屋でびくりとしたのだ。
こわかった。
部屋に電子音が鳴りつづける。
地獄の扉を開くみたいな音。
あたしは耳をふさいだ……。
こわい。
いったい、だれがきたの??
そのとき、鳴りつづけるインターホン音にまじって、どこかから、ピラララアン♪という軽やかな音楽が聞こえた。
ピラララアン♪
ピラララアン♪
そして、スミレの声。
『むつみ! そこにいるんでしょ? こっちへ来てよ!』
……スミレ? ……こっちって、どこ?
顔を上げる。空っぽの部屋にはなにもない。
けど、静かに夜が始まりかけている暗い部屋の中で、ぴかぴかと光っている場所があった。
部屋のすみ、からっぽのケージの横にちいさな白い機械が見えた。台形の上に球体が乗っていて、そこがピカピカ光っている。
スミレの声が機械から聞こえた。
『むつみ? 返事して』
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
やる気ない天使ちゃんニュース
白雛
キャラ文芸
私は間違っているが、世間はもっと間違っている——!
Vに沼ったビッチ天使ミカ
腐り系推し活女子マギ
夢の国から帰国子女リツ
鬼女化寸前ギリギリの年齢で生きるレイ
弱さ=可愛さだ! 不幸の量が私らを(特定の人種向けにのみ)可愛くするんだ!
『生きづらさでもごもごしてる奴なんか可愛くね……? オレ、そーゆーの、ほっとけないんだよね!』って禁断の扉を開いてしまう人続出!
この不憫可愛さを理解させられろ! 受け止めてみせろ、世の男子!
ブーメラン上等!
厄介の厄介による厄介のための歯に絹着せぬ、そして自分も傷付く、おちゃらけトークバラエティー!
始まってます。
パロ、時事、政治、下ネタ豊富です。
(あやかし御用達)民泊始めます~巫女になれ?!無理です!かわりに一泊いかが?
岬野葉々
キャラ文芸
星野美月十五歳。
高校受験を乗り越えた、桜咲く四月。
希望を胸に超難関とされる五月雨学園の門をくぐるも、早くも受難の相――?!
は?巫女になれ?ナニソレ、わたしの将来目標は、安心堅実の公務員ですが。
どこぞの家出身か?ドコゾも何も、家名は星野!
自立を目指す、巻き込まれ型女子高生美月の運命は――?
(ふわっと設定&不定期更新です。それでもよろしければ、お願いします)
女装と復讐は街の華
木乃伊(元 ISAM-t)
キャラ文芸
・ただ今《女装と復讐は街の華》の続編作品《G.F. -ゴールドフィッシュ-》を執筆中です。
- 作者:木乃伊 -
この作品は、2011年11月から2013年2月まで執筆し、とある別の執筆サイトにて公開&完結していた《女装と復讐》の令和版リメイク作品《女装と復讐は街の華》です。
- あらすじ -
お洒落な女の子たちに笑われ、馬鹿にされる以外は普通の男子大学生だった《岩塚信吾》。
そして彼が出会った《篠崎杏菜》や《岡本詩織》や他の仲間とともに自身を笑った女の子たちに、
その抜群な女装ルックスを武器に復讐を誓い、心身ともに成長を遂げていくストーリー。
※本作品中に誤字脱字などありましたら、作者(木乃伊)にそっと教えて頂けると、作者が心から救われ喜びます。
ストーリーは始まりから完結まで、ほぼ前作の筋書きをそのまま再現していますが、今作中では一部、出来事の語りを詳細化し書き加えたり、見直し修正や推敲したり、現代の発展技術に沿った場面再構成などを加えたりしています。
※※近年(現実)の日本や世界の経済状況や流行病、自然災害、事件事故などについては、ストーリーとの関連性を絶って表現を省いています。
舞台 (美波県)藤浦市新井区早瀬ヶ池=通称瀬ヶ池。高層ビルが乱立する巨大繁華街で、ファッションや流行の発信地と言われている街。お洒落で可愛い女の子たちが集まることで有名(その中でも女の子たちに人気なのは"ハイカラ通り") 。
※藤浦市は関東圏周辺またはその付近にある(?)48番目の、現実には存在しない空想上の県(美波県)のなかの大都市。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる