上 下
14 / 33
第3章「一発、ぶちかましにいくか!」

第14話「最強の『総務の賢者』」

しおりを挟む
(UnsplashのCarlos Vazが撮影)
 
「……そだね、事故だね……しょうがないよ、嘘つきなんだもの」

 あたしが言うと、スミレはほんのり涙ぐんだ。

「これで終わったわ。さあ、名古屋観光に行きましょう!」
「まじか? やっぱシャチホコか?」
「シャチホコでもエビフライでも、味噌煮込みでもご案内しますよ」

 駅に向かって歩き出したスミレに、あたしは聞いた。

「あのさ、さっき最後に外国語言ったよね? あれ、なに?」
「あー、ヒンディー語よ。罵倒語で、『ウラーナー=くたばれ』っていう意味。
 あんまりきれいな言葉じゃないから、むつみは使わないでね」
「……ヒンディー語は、一生、使うことないと思うよ……」

 そのまま、3人で名古屋市内を遊びまわった。
 夕食はスミレがおごった。新幹線の改札前でスミレはぺこりと頭を下げ、

「いろいろ、ありがとうございました」
「いいって事よ。こっちも遊べたしな。それに礼を言うなら、あのボブのちっちゃい姉ちゃんに言いな」
「ボブ……高瀬さんですか?」

 あたしとスミレは顔を見合わせる。山中さんは大きな身体をゆすり、

「ほんとはよ、口止めされてたんだけど、まあいいだろ。
 あんたがあの男にだまされているってわかった時、ボブねえちゃんが俺に言ったんだよ。

『彼女はうちの大事な社員です、将来があります。
 浮気相手の自宅に乗り込んで、警察沙汰になるわけにはいきません。
 穏便に済むよう、助けていただけませんか』ってな。

 実は、名古屋へ来る交通費も宿泊代も、彼女が出した。
 俺の仕事もあるから金は要らないって何度も言ったんだが、どうしても出すって。
 彼女、こういったぜ。

『賢い女は、借りを作らないものです。助けて下さってありがとう』ってな」
「高瀬さんがそこまで……」

 スミレは声も出ないっていう感じだった。あたしも同感だ。
 山中さんは手をふって、改札を通っていった。どうしても今日じゅうに東京へ戻りたいんだって。大事なカレシが待っているんだそうだ。

 階段をあがっていく足取りは、まるでステップを踏んでいるようだった。

 いいな。
 幸せそうだな。
 
 あたしはスミレに向かって、

「スミレ、大変だったね」

 スミレは一瞬だけきれいな顔をクシャ、っとさせて、それから笑った。

「大丈夫、何とかする! モヤモヤした気持ちが晴れただけでもよかったわ。むつみ、ありがとう。次の月曜日はランチおごるからね」

 なんとなくほんわかした気分で、スミレと別れた。

 そうだ、あたしたちは一人じゃない。
 いつだって心強いネットワークに守られているんだ。

 最強の『総務の賢者』に。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

狐塚町にはあやかしが住んでいる

佐倉海斗
キャラ文芸
狐塚町には妖狐が住んでいる。妖狐の名前は旭。狐塚稲荷神社にて祀られてしまったことにより神格を与えられた「あやかし」だ。 「願いを叶えてやろう」 旭は気まぐれで人を助け、気まぐれで生きていく。あやかしであることを隠すこともせず、旭は毎日が楽しくて仕方がなかった。 それに振り回されるのは、いつだって、旭の従者である鬼の「春博」と人間の巫女「狐塚香織」だった。 個性的な三人による日常の物語。 3人のそれぞれの悩みや秘密を乗り越え、ゆっくりと成長をしていく。 ※ 物語に登場する方言の一部にはルビを振ってあります。 方言は東海のある地域を参考にしています。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...