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第三章

第19話「サジャラ!」

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(UnsplashのCamilo Contrerasが撮影)

 『聖なる森』には人が通れるような道はない。しかし魔物は道が見えているかのように、すらすらと歩いた。
 イグネイを見て言う。

「三つめのあさ、かごがくる。とりにいく」

 三日ごとに供物がとどけられる、という意味だろう。イグネイはまだ暗い夜明け前の森を歩きながら、あたりに気を配った。

 暗くても、魔物を見失うことはない。彼女は今も薄い緑色に光っていた。
 魔物だ、とイグネイは思う。
 やはり魔だ。人とは違うものだ。どれほど愛おしく感じても、これはやはり魔なのだ。
 ふと、魔物が立ち止まった。

「あれが、かごのばしょ」

 見れば、あの夜に修道院長とともに来た巨木があった。

「こんなに近かったのか……」

 二日前の夜、魔物を追って森の中を走ったときは、もっと距離があるように感じた。あれは夜のせいだったのだろう。
 しだいに夜が明けて、空が白く明るくなり始めた今、あらためて見れば巨木はただの樹であったし、『聖なる森』は神々しいほどに命ゆたかな森だった。

 イグネイは夜明けのにおいを吸い込む。すでに明らかな太陽のにおいがした。
 夜が終わり、朝が始まる時間。
 もういちど魔物と手をつなごうと伸ばしたとき――気がついた。
 薄く緑色に光っている……イグネイ自身が!

「……まさか」

 おもわず、服の上から『秘密』の小瓶をおさえる。小さな瓶はしっかりと布にくるまれて服の奥にあった。

 ということは、『秘密』の光が漏れているわけではない。

 だが服をおさえたイグネイの指は、ほのかな緑を発している。
 瓶ではない。イグネイ自身が光っているのだ。魔物ほどはっきりした光ではないとしても。

「なんだ、これは……」

 イグネイが光を振り払うように手足をたたいていると、魔物は何をしているのか、と不思議そうにのぞき込み、それから、

「さきにいく」

 と一歩踏み出した。
 イグネイと魔物のあいだに、距離が開く。
 
 そのとき、わずかな距離をするどい音が駆けぬけた。
 矢風がつづく。
 魔物が倒れる。
 輝く巻き毛のあいだ、しなやかな背中にくっきりと一本の矢が刺さっていた。
 
 イグネイは駆け出した。

「魔物……いや、サジャラ!」
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