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第12章「あした世界が終わるとしても」
第147話「幸せの花」
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「なにが?」
清春は煙草をくわえて聞いた。佐江は、何を今さら言っている?
「あなたのスーツと女もののスーツが一緒にランドリーに出たら、一緒に泊まっているって、わかっちゃう。あっ、まだ間に合うかも」
佐江があわててスイートのドアに向かっていくのを、清春は簡単に抱きとめた。
「まあ、落ち着け」
清春は佐江を軽々と抱きかかえ、ソファに座らせた。風呂あがりの女の清潔なにおいがする。それがまた、清春をたかぶらせる。
「落ち着け、佐江。問題はない。おれは三十一の独りもので、きみだって既婚者じゃない。なにがいけない?」
ここまできて、佐江はまだ清春のことを隠し通すつもりなのだろうか。
ふと、耳の後ろに火がつくのを感じる。
佐江は、今さらこの関係を誰に隠したいのか。
真乃か、ほかの男か。
目の前の佐江は、清春にともった暗い火に気が付かず、ただ、うろたえている。
「あなた、仕事とプライベートを混同するひとじゃないでしょう。ごめんなさい、迷惑がかかるのではありませんか?」
「かからないよ」
短くいって、清春は煙草に火をつけた。佐江に腹を立てていると、煙草がにがく感じる。
「きみが信じるかどうかはともかく、おれは、これまでコルヌイエに女を連れ込んだことはないよ。職場じゃあ色恋の女は抱けない」
香奈子のことだって、コルヌイエでは抱けなかった。結局、オリエンタルホテルでも抱けなかったのだが――そこまで佐江に言う必要はない。
清春は、ほっそりとした佐江の身体を抱きしめた。鼻先にある佐江のうなじから“李氏の庭”の匂いがする。
清春を狂わせる甘い匂い。
身体の奥で、独占欲と欲情と愛情が入り混じるのを感じる。
佐江を、だれにも奪られたくない。
「さえ」
清春は大事な女の名前を呼ぶ。
「余計な心配をするな。何があっても、おれがきみを守るよ。
さて。もう一回するか」
佐江の耳たぶが赤くなる。清春は、これを見ているのが大好きだ。耳元にキスをしながら、ささやく。
「おまえの男の身体だ。好きにしろ」
ためらいがちに、佐江の最初のキスが清春の唇に降ってくる。しだいに熱がこもってくる。
このキスは天上の花のようなものだ、と清春は考えた。
甘くやさしく心地よく、どんな清春も包み込んでしまう無限の花だ。
そして――清春だけの、花。倖せの形を持つ花だ。
※※本日 大晦日。みなさま よいお年をお迎えください。
【キスを待つ頬骨】は、明日もいつもと同じ時間に公開します!
2023年も どうぞよろしくお願いいたします。
水ぎわ 拝
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