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第10章「いつか離れる日が来ても」
第119話「おれのこと、知ってくれよ」
しおりを挟む「——入りたい?」
佐江はベッドの上でのんびりと答えた。ついさっきの悩乱は、天気雨の一滴だったかのように微笑んで見上げる。
その角度が可愛らしくて、清春は息を止めて目を閉じる。
ふふ、と佐江が笑った。
「そんなこと、聞かなくてもいいのに」
笑い声が、清春の身体のこわばりをゆっくりとほどいていった。
「”入ってもいいか”って、聞いたほうがいいだろう? 女性には、女性の都合がある」
「ここで、あたしの都合なんて必要かしら」
佐江はまだほんのりと笑ったまま、清春の首すじに手をからめた。
「―――して。これが最後みたいに、して」
「最後みたいに?」
清春はぎくりとして身体を離した。まじまじと佐江を見おろす。
佐江はまだのんびりと笑いを浮かべ、
「今年は梅雨が遅いんですって。知っていました?」
突然、まったく違うことを言われて、清春はどう答えたらいいのかわからない。だまって佐江の耳にキスをした。
「雨はきらいだ」
「そうなんですか? 知らなかった。あたし、キヨさんについて知らなかったことが多すぎるわね」
「知ってくれるか?」
佐江の耳たぶには、清春が買ってやったシンプルなプラチナのピアスがはまっている。
清春はふと、リビングに放り出してきたブリーフケースの中にさっき買ったばかりのテルティエのピアスが入っているのを思い出した。
このセックスが終わったら――と清春は考えた。
佐江にあのピアスをやろう。いま着けているものと取り替えさせて、ダイヤが光るピアスだけの佐江を、もう一度抱こう。
そう思うだけで、清春の身体は限界にまた一歩近づいた。
ゆっくりと、佐江の耳を噛む。
「おれのこと、知ってくれよ」
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