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第10章「いつか離れる日が来ても」
第114話「きみはおれのもの。おれだけのもの」
しおりを挟む女に何を買えばいいのか。考え始めても、清春にはまったくわからない。
これまで付き合った女性には、相手が欲しいと言うものを言われたまま買った。それで相手が喜べばいいと思ってきた。
女にやるものは、相手からねだられて買うもの。ずっとそう思ってきたからだ。
しかし佐江には何か、清春自身が選んだものを贈りたいと思う。
佐江は物欲が淡白な女で、何ひとつ要求してこない。それも彼女に物を贈りたい理由の一つだ。
電車を降り、夕暮れのなか次第に人が増えてきたデパートの中に入る。
ぶらぶらと一階を見て歩くうちに、見おぼえのある赤いロゴの宝飾店の前に出た。
テルティエだ。
むかし香奈子さんにパリの本店に連れていかれたな、と清春は立ち止まって考えた。
あのときは、たしか小さなリングを香奈子に買わされた。
清春はまだ二十四歳で、女に指輪を買うことが、やけに恥ずかしかった。
今、テルティエのウィンドウには、きらびやかなネックレスやリングに交じってダイヤのピアスが置かれていた。
ティアドロップ型のプラチナ台に、ダイヤが四つ。クロスのように埋め込まれている。
ほどよい大きさのダイヤが照明を浴びて、きらきらと輝いていた。
佐江があれを着けたら、と清春は思う。
プラチナとダイヤは、頬骨の高い佐江の顔に映えるだろう。
ひんやりしたプラチナが佐江の耳たぶにくっきりと刺さり、輝くダイヤが清春の代わりに耳へ甘い言葉をささやき続ける。
きみはおれのもの。
おれだけのもの。
「あれだ」
清春は瞬時に決心した。店に入り、スタッフに声をかける。
「すみません、あのウィンドウにあるピアスを買いたいんです――」
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