上 下
93 / 153
第9章「水平線」

第93話「今カノ・元カノ 鉢合わせ……?」

しおりを挟む

 その夜、清春と村上はコルヌイエホテルで顔を見合わせて香奈子の帰りを待っていた。
 二十時をすぎるころ、村上がとうとうしびれを切らした。

「もう心配です。心当たりを探しましょう」
「銭屋様の携帯は?」
「お持ちですけどね、あの方はすぐに電源を落としてしまわれるんです。さっきから、どれだけコールしてもつながりません」

 そのときプレジデンシャルスイートの内線電話が鳴った。清春が電話を取ると、レセプションカウンターからだった。

「井上さんに、お客様がお見えです」
「わたしに? どなたです?」
「八越《やつこし》デパートからの方で、銭屋様のお名刺とお荷物をお持ちです」

 電話内容を聞いていた村上は、思わず清春と顔を見合わせた。

「八越デパート?」
「名刺を預けられたということは、銭屋さまはデパートでお買い物をされたんでしょう」

 清春と村上はロビーに向かった。小太りの村上は息を切らしながら、

「お荷物だけが届いた? かんじんの香奈子さまはどちらにいらっしゃるんだか」

 ロビーに降りてみると、小柄だがセンスのいい服装をした若い女性が大きなショッピングバッグをもって立っていた。清春たちが近づくとぺこりと頭を下げ、

「あの、コルヌイエホテルの井上様ですか?わたし、安西《あんざい》と申します」
「お手数をおかけいたしました、銭屋様つきのコンシェルジュ、井上と申します。お荷物を届けていただいたとか?」

 彼女は八越《やつこし》のロゴが入った大きなバッグを差し出した。

「さきほど、銭屋様が当店でお買い物をなさいまして、お買い上げいただいたものをこちらへ届けてほしいとおっしゃいましたので」
「まあまあ、ご足労《そくろう》をおかけしました。それで香奈子さまは?」

 若い女性はにっこりと微笑み、

「まだ八越におみえです。こちらには宝飾品なども入っておりますので、念のためにわたくしがお運びいたしました」

 村上はにこにこしながら、大きなショッピングバッグを受け取った。そして清春に向かい、

「わたし、お荷物をお部屋に片付けてまいります。井上さま、こちらさまにコーヒーなど差し上げていただけますか?」

 とんでもない! と安西と名乗った若い女性は、飛び跳ねるようにして断った。

「わたくしも仕事を抜けてきておりますから、これで失礼いたします」

 またぺこりと一礼すると黒いスカートをひるがえして去っていった。村上はその小さな後姿を見て、

「ずいぶんとしつけのゆきとどいた娘さんですこと。あの立ちふるまい、気の使いよう、言葉の正確さ。あれはハイブランドのショップ店員でしょうね。気持ちのいいお嬢さんでした」

 たしかに、あの歯切れのいい敬語の使い方にはなじみがある。佐江がスタッフと電話口で話している時によく聞く語調だ。

 ふと、清春の背筋にひやりとするものが走った。
 八越《やつこし》だって?
 佐江の店が入っているデパートじゃないか。

 まさか。
 佐江と香奈子さんが出会った、なんてことは、あるまいな?


 まさか……あるまい、な?
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...