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1巻
1-2
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ふわ、とシャツから漂った嗅ぎ慣れない香りに包まれ、アミリアはうつむきながら礼を言う。
「あの……本当にありがとうございます」
「もう礼は充分聞いた」
何だか恥ずかしくなって、男性から目をそらす。その視線の先には大きな本が落ちていて、中途半端に開いた状態になっていた。窓から勢いよく連れ出されたときに落としてしまったのだ。
男性はアミリアの視線を追って本を見つけたようで、大股で歩み寄って、その本を持ち上げた。
「あ、ごめんなさい」
「何が?」
「取りに行かせてしまって」
「いや、構わない」
男性は本についた土をぱたぱたと払いながら戻ってくると、アミリアに差し出した。
礼を言ってそれを受け取り、アミリアは丁寧に頁をめくる。
ざっと確認し、彼女は安堵の息をついた。表紙が汚れてしまったが、中身は無事のようだ。
「君のか」
「はい。木に引っ掛かったときに、持っていたのを落としてしまって。中が汚れなくてよかった」
アミリアが胸元に抱えた本の表紙を見て、男性は意外そうな顔をする。
「それは……歴史書だな――」
「はい」
「――外側は」
続いた男性の言葉に、アミリアは肩を縮めた。
「お気付きになりましたか」
ギュッと本を握りしめる。
「まぁな。歴史書の章タイトルに『大イカとの決戦』なんてないだろう。数奇な運命をたどってきたこの国でも、イカの足が首に絡まって死にそうになった英雄はいなかったはずだ」
「……表紙と中身が違うのです」
そうだろうな、というように、男性はうなずいた。
「その……読むようにと言いつけられた本よりも、こちらのほうが好きで」
「それで表紙を付け替えて、こっそり好きな本を読んでいた?」
「はい。あの、でも、言いつけられた本はもう何度も読んだことがあって。だから、その……」
男性は「く」と小さく笑った。口角をほんの少しだけ上げるかすかな表情の変化だったが、アミリアは意外な思いでそれを見つめる。
――軍服を着た人が笑うのを初めて見た。
「君が何を読もうと、俺は咎めたりしない。だからそう怖がらなくていい」
「言いつけませんか?」
「誰にも言わないよ」
「ありがとうございます」
この本の中身は、近隣の国々で何世代にもわたって読み継がれてきた有名な冒険物語だ。アミリアよりもずっと歳下の少年が旅に出て、一人で様々な困難に立ち向かう。その道中でよき仲間に出会い、ときにぶつかり合い、別れ、うんと成長して故郷に戻る。そんな内容だ。
アミリアはその本に、フリューゲルの創成期からの歴史を延々と綴った超長編の表紙をつけていた。
「懐かしい」
ジルが言った。アミリアは海老茶色をした本の表紙から視線を上げる。
「このお話をお読みになったことが?」
「ああ、もう随分前のことで、ところどころ話を忘れているかもしれないが。いや、『読んだ』と言うと嘘になるな。当時は字が読めなかったから、仲間に読んでもらった」
「仲間、ですか?」
「ああ。戦場で。続きを聞くまでは死ねないと思い、毎日必死に戦った」
「……そうでしたか。それは……ご無事で何よりでした」
アミリアは彼があっさりと口にした「死」という言葉におののいた。だから、つまらない言葉しか返せない。
「ありがとう。君が持っているのより随分とボロい本で、あちこち破けたり頁がなくなっていたりしたんで、抜けている部分もあるだろう。三巻めの山の辺りが特に気に入っていて、仲間にせがんで何度も同じところを読んでもらったのを覚えている」
「三巻め……!」
アミリアは高い声を上げた。
「今ちょうど、その辺りを読んでいました! 特にあの、竜との闘いが――」
「山の洞窟の?」
「そうです! 竜の吐き出した火が鼻先を掠めたところなんて、もうドキドキして……! もしわたしだったら、大きな竜に追いつめられた状況であんなふうに冷静になれないし、とてもじゃないけれど竜を負かすだなんて……」
ハッとして、アミリアは口をつぐんだ。
「……ごめんなさい、わたし」
「なぜ謝る」
「おしゃべりがすぎました」
「いや。俺も読んでもらったときにそれを考えた。自分がその立場になったらどうやって切り抜けるだろう、と」
そう言って、男性はアミリアをじっと見つめた。アミリアも見つめ返す。
すると彼は少しためらうような表情を見せてからゆっくりと口を開いた。
「君、名は何と?」
それはアミリアにとって、あまりにも新鮮な問いだった。これまでに一度も名を尋ねられたことはない。
巨大な翼を背負っているおかげで遠目にも「あそこに四の姫がいるぞ」とわかる。だから、面と向かって「あんた誰?」と尋ねる人などいやしなかった。それに、フリューゲルでは身分の低い人から高い人に話し掛けるのは無礼に当たる。はじめましての際には第三者の紹介が必要で、名を尋ねるなどもってのほか……というのが、一応の建前だ。
実際のところ、王族――つまりアミリアの家族は皆のほほんとした性格で、礼儀に反したからといって文句を垂れたりはしない。それでも人々は公式な場では建前どおりに振る舞う。「こちらが四の姫のアミリア様です。アミリア姫、こちらがどこそこの誰それです」という紹介から「アミリア姫、お目にかかれまして光栄にございます。どうか以後お見知りおきを」という締めの文句まで、違ったことがない。
そんなわけで、アミリアは生まれて初めてその一文を口にした。
「……アミリアと申します」
視線を落とし、軽く膝を折って礼をとる。少し誇らしい気分だ。
男性は名を聞いても王女だとは気付かないらしかった。従前と変わらない気楽な様子でうなずいている。
城仕えの女中か何かだと思っているのかもしれない。昼寝の後、着替えもそこそこに本に熱中していたので、薄い部屋着一枚しか身に着けていないのだ。勘違いはそのせいだろう。
礼をとった拍子に肩からずり落ちそうになったシャツを、大きな手が元に戻してくれる。
「あの、わたしもお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ジルだ」
シャツが落ちないように前ボタンをいくつか留めながら、彼が答えた。
「ジル様、ですね」
「ああ。ジル=ブノワだ」
ジル様、と、アミリアは口の中で彼の名前をもう一度小さくつぶやいてみた。
いつになく近い距離と、嗅ぎ慣れない香りと、初めての問いと――何もかもが新鮮で、戸惑いとともに心のどこかでワクワクしている。
見つめた先の彼は、やはりきれいな瞳をしていた。
「お名前は、かつての英雄から?」
「……かもしれんが、名の由来は知らない」
「そうでしたか」
ジルの言葉にはわずかながら訛りがあるので、王都の出身ではなさそうだ。それに王都に住む人間なら王族の姿を目にする機会がいくらかあるから、アミリアの翼のことも知っている。外から来たため、王族の容姿を知らないのだろう。
王都外で暮らす人間にとって、姫についてなど知る機会も必要もないのだ。せいぜいどこかで一、二度肖像画を見たことがあるくらいのものだが、その肖像画は、アミリアに関してはまったく役に立たない。彼女の肖像画に翼が描かれたことは一度もないからだ。おまけに「生まれた子に姫と同じ名を」と考える人はわんさといて、同じくらいの歳ごろで「アミリア」と名のつく人はとても多い。
そんなわけだから、彼が気付かないのは無理もなかった。
「制服を着ていらっしゃるということは、軍の方なのですよね?」
「ああ。軽く負傷したので今は訓練を休んでいる身だが」
訓練を休むほどの怪我とは、決して軽くはないはずだ。そう思いながら、アミリアは改めてジルを見上げた。
髪の毛は夜の闇よりも黒く、目は透き通るような紫をしている。眉は美しい稜線を描き、鼻は高く、下唇が少し厚い。かなり際立った男前だ。
ただ髪の生え際から左右の目の間を通り、鼻梁を横切って反対側の頬へ流れる傷のせいで、凄みがある。
だがその傷は古いものらしく、赤みがない。だから彼の言う負傷とは腕の包帯のことだろう。
「訓練に出ない間、護衛の任に当たるようにと命じられた。それで城に」
「護衛?」
もしかして、とアミリアは思った。
「四の姫の護衛だ」
四の姫――つまり、アミリアの、だ。
長年アミリアの警護についてくれていた兵が、高齢と腰痛のために最近引退した。その後任が決まったと聞いたのは、つい一昨日のことだ。
そういえば、新しい護衛が今日から来ると言っていたか、とアミリアは父の言葉を反芻する。
「門の前で巡回兵と待ち合わせて姫のところまで案内してもらうはずだったが、誰かが行方不明になったとかで巡回兵が不在だった。それで、その塀の向こう側で待たされていたんだ」
アミリアはふぅ、と小さく息を吐いた。どうやら彼女の不在はすでに知れわたっているらしい。
まさか、行方不明になった「誰か」が目の前にいるだなんて思いもしないジルは、淡々と話を続ける。
「そうしたら、君の声が聞こえたから」
「それで助けに来てくださったのですね」
アミリアはうなずきながら、さてどうしたものかと考えた。
自分が四の姫だということも、行方不明になっている張本人だということも、彼は知らない。この場で明かしてもよいが、もう少し「ただのアミリア」でいたかった。
身分を明かしてしまったら、今のように気軽に話してはくれなくなるだろう。
「あの……もしよろしければ、わたしがご案内いたしましょうか」
「ん?」
「四の姫のお部屋まで」
「いいのか」
「もちろん。助けていただいたお礼には、とても足りませんが」
「いや、充分だ。頼めるか」
そう言って、ジルは何かに気付いたようにアミリアのほうへ手を伸ばした。驚いたアミリアが固まっているうちに彼の手が髪に触れ、そっと何かをつまみ上げる。
「葉が髪に」
差し出されたのは小さな葉だった。青々と茂っていた、あの大木のものだ。
葉はジルの手からひらひらと地面に落ちる。それを見届けてから顔を上げたアミリアは、クスと笑った。
「どうした?」
「ジル様も」
「俺の頭にもついている?」
「ええ」
アミリアも手を伸ばし、ジルの髪についていた葉をとった。
「悪いな」
そう言いながら、彼はアミリアに向けて少し頭を傾けてくれている。
彼のほうが随分と身長が高いので、手を伸ばしやすいようにと気を利かせてくれたらしい。
「あら、お待ちになって。たくさんあります」
細かな葉を一つ一つつまみ取っていると、ジルが頭を下げたまま言った。
「アミリアは一体なぜ、あんな場所に?」
ひゅ、と喉が音を立てた。同時にドキドキと胸が暴れる。家族以外に「アミリア」と呼ばれたのは初めてだ。それも、こんなに近くで。
アミリアは自分には精霊が見えることを告げるかどうか少し迷って、けれど本当のことを言うことにした。
「……実は、精霊のせいなのです」
顔を上げた先には大きな像がある。アミリアのひいひいひいおじいさんの時代に建てられた、精霊を模したものだ。大きな――といってもアミリアのよりは小さな翼を持つ女性の像で、薄い布を体に巻き付けただけのような色っぽい姿をしている。その薄布からこぼれんばかりの胸が見えた。
比べてアミリアの胸は、翼に栄養を吸い取られるのか、いつまで経っても育たない。
「……精霊……?」
アミリアの視線を追って像を見上げ、ジルが言った。
その声を聞いてアミリアは焦る。おかしなことを言っていると思われているに違いない。それでも話し始めてしまった手前、途中でやめることもできず、彼女は続けた。
「はい。わたしは精霊が見えるのですが、その……このような姿ですから――」
このような姿、の意味はすぐに通じたらしい。ジルは像から視線を戻してアミリアの背後を見た。一際強い存在感を放っている、大きな翼を――
「彼らは『翼があるなら飛べるのでは』と思ったようで。目隠しをされて、『いいところに連れて行ってあげるから』と言われ、ついて行ってみたら……」
「危うく死後の世界に連れて行かれるところだったと」
「はい」
「それは災難だったな」
軽い返事に驚き、アミリアは問う。
「もしかして……ジル様にも見えるのですか?」
「何が?」
「精霊が」
「いや、見たことはないが」
「……それなのに信じてくださるのですか?」
驚くアミリアを前に、ジルは肩をすくめた。
「変なことを聞く」
「そうでしょうか。自分に見えないものを見えると言われても、信じがたくはありませんか」
すると彼はゆっくりと首を横に振った。
「長く戦場にいると、見えないものの力を信じたくなる。それに、君が俺に嘘をつく理由はない」
アミリアは、初めて精霊を見たとき、自分の頭がおかしくなったのだと思った。小さいころから「自分と同じような翼のある友だちがほしい」と願い続けたせいで、ついに幻を見るようになったのだと。
彼女のことをよく知る女中ですら最初は疑わしげだったし、家族に至っては「熱でもあるんじゃないか」と医者を呼ぶ始末だった。彼らはアミリアと城が様々な災難に巻き込まれるようになってようやく、「いやぁ伝説は本当だったんだなぁ」と信じてくれるようになったのだ。
唯一当初からアミリアの話を信じてくれたのは、「寝ても覚めても精霊ばかり。三度の飯より精霊が好き」という精霊フリークの研究者シモンだけだった。
そんな状況だったから、彼の返答にアミリアはすっかり嬉しくなった。礼を言って歩き出す。
「ありがとうございます」
「何に対する礼かな」
「信じてくださったことに」
ジルはアミリアをじっと見つめた。が、見つめただけで何も言わなかった。草を踏むしゃりしゃりという音が響く。
「精霊はどんな姿を?」
「人の形です」
「じゃあ、本当にあの像のような姿をしているのか」
「ええ。よく似ています。あ、翅の形が少し違いますが。それに、大きさも」
「あの像よりも大きい?」
「いいえ。ずっと小さいです」
「君くらい?」
「わたしより、もっとずっと」
「どれくらい?」
「わたしの手のひらに乗るくらいです」
「そんなに小さいのか」
「ええ」
「これくらい?」「いいえ、もう少し小さく。このくらいです」と手で精霊の大きさを示しながら、アミリアはジルと一緒に城の脇の小さな庭を抜け、渡り廊下を横切り、また庭を抜ける。
普段あまり歩かない彼女の足はすっかり疲れ切っていたが、それも気にならないほど心が弾んでいた。
「近道なので、こちらから参りましょう」
「詳しいんだな。ここで働いて長いのか」
「ええ。幼いころから」
正確には働いているのではなく住んでいるのだが、もちろんアミリアは訂正せず、彼の勘違いに乗っかった。
「そういえば……どうやって中庭にお入りになったのですか? 高い塀に囲まれていますのに」
ふと疑問に思って投げ掛けると、ジルは事もなげに答えた。
「塀を乗り越えた」
「へい?」
「そう。塀だ」
アミリアは立ち止まった。
城の塀は高い。中でもアミリアたち王族の住んでいる辺りは、高く分厚い城壁で何層にも守られている。むろん、不届きな侵入者を防ぐためだ。
「あんなに高いのに、一体どうやって……?」
「よじ登った」
「そんなことができるのですか」
「できる」
ジルは答えるなりタッと二、三歩助走をつけ、近くの木の幹を蹴り、高い枝に飛び移った。枝が重みでしなるより先に、彼は枝から塀に飛び移っている。
まるで鳥が空に舞い上がるみたいな軽々としたその姿を、アミリアはただ茫然と見つめていた。
アミリアにとって、あの塀は世界の果てだ。これまで生きてきて、そしてこれからも生きていくであろう、小さな世界を区切る高い高い壁。
それをまるで低い柵みたいに軽々と越えてしまうジルが、とても眩しく見える。それは決して、彼の向こうに陽が昇っていたせいなんかではない。
アミリアの隣に軟着陸したジルは、パンパン、と手を数度打ち合わせて汚れを払った。そんな彼を見つめ、アミリアは問う。
「どうやったら……どうやったら、そんなことができるのですか?」
「さぁな。物心ついたときには、できていたから」
パラパラと彼の手から落ちた砂の粒が、陽を浴びてキラキラと光る。
「わたしを助けてくださったときも、そうやって木にお登りになったのですか?」
「そうだ」
クク、とジルは低く笑う。
「君はわかりやすいな。目がまん丸くなっている」
アミリアを見つめて言った。
「だって、とても驚いたんですもの。本当に身軽なのですね!」
「特技と呼べる唯一のものだな」
アミリアは彼を羨望の眼差しで見つめた。
「そんなに身軽なら、どこへでも行けますね」
「どこへでも? たとえば?」
「たとえば……森の向こうや、山の反対側……高い木に登って、いろんなものを見ることだって。あの冒険譚のように」
城から出たことのないアミリアには、それ以上の何かは想像することすらできない。自分の部屋の窓から外を見て、その向こう側に思いを馳せているばかりだからだ。
「あ、そうだ。海は……? 海をご覧になったことはありますか?」
「ある」
「きれいなのでしょうね」
「きれい……? そんな目でみたことはないが」
「晴れた日に、水面に反射する光がとても美しいと本で読みました」
「眩しくはあるな」
「それに、小川を水が流れるせせらぎの音や、風が山の間を通り抜けるときの唸るような音に、やまびこに……」
「獣が獲物の居場所を知らせるために遠吠えをする声も」
「……聞いたことがあるのですか?」
「ああ。『獲物』が自分でなければ、もう少し楽しめたかもしれないが」
アミリアはハッと息を呑む。
「獲物がジル様だったのですか」
「そうだ。毛が逆立った」
新しい護衛はどうやら、アミリアの知らない世界のことをたくさん知っているらしい。
――きっと、だからお父様は彼をわたしの護衛にしてくれたのね。
アミリアの冒険物語好きを誰よりよく知る父だから。
「……うらやましいです」
「何が?」
「ジル様みたいに身軽だったら、どこへでも行けてしまいそう。まるで翼の生えた鳥みたい」
アミリアの言葉に、ジルは肩をすくめた。
「翼が生えているのは君のほうだ」
「わたしの翼では塀は越えられません」
二人の横にそびえる高い塀を見上げ、ジルが言った。
「俺が塀を飛び越えたのは、能力があるからじゃなくて、飛び越えたいと思ったからだ」
「……どういうことですか?」
「能力があっても、その気がなければ塀を越える日は来ない」
――その気がなければ。
アミリアは塀を見上げた。
この塀を越えたいと思ったことはあっただろうか。外に出てみようと思ったことはあっただろうか。
ジルは静かに続けた。
「君がどんな条件でこの城に雇われているのかわからないが、心から望むなら、自分の足で好きな場所へ行くといい。大して力にはなれないだろうが、ときどき休みをもらえるように条件を変える手助けくらいならできると思う」
紫色の瞳は真剣だ。
アミリアはその瞳をただじっと、見つめ返していた。
「あの……本当にありがとうございます」
「もう礼は充分聞いた」
何だか恥ずかしくなって、男性から目をそらす。その視線の先には大きな本が落ちていて、中途半端に開いた状態になっていた。窓から勢いよく連れ出されたときに落としてしまったのだ。
男性はアミリアの視線を追って本を見つけたようで、大股で歩み寄って、その本を持ち上げた。
「あ、ごめんなさい」
「何が?」
「取りに行かせてしまって」
「いや、構わない」
男性は本についた土をぱたぱたと払いながら戻ってくると、アミリアに差し出した。
礼を言ってそれを受け取り、アミリアは丁寧に頁をめくる。
ざっと確認し、彼女は安堵の息をついた。表紙が汚れてしまったが、中身は無事のようだ。
「君のか」
「はい。木に引っ掛かったときに、持っていたのを落としてしまって。中が汚れなくてよかった」
アミリアが胸元に抱えた本の表紙を見て、男性は意外そうな顔をする。
「それは……歴史書だな――」
「はい」
「――外側は」
続いた男性の言葉に、アミリアは肩を縮めた。
「お気付きになりましたか」
ギュッと本を握りしめる。
「まぁな。歴史書の章タイトルに『大イカとの決戦』なんてないだろう。数奇な運命をたどってきたこの国でも、イカの足が首に絡まって死にそうになった英雄はいなかったはずだ」
「……表紙と中身が違うのです」
そうだろうな、というように、男性はうなずいた。
「その……読むようにと言いつけられた本よりも、こちらのほうが好きで」
「それで表紙を付け替えて、こっそり好きな本を読んでいた?」
「はい。あの、でも、言いつけられた本はもう何度も読んだことがあって。だから、その……」
男性は「く」と小さく笑った。口角をほんの少しだけ上げるかすかな表情の変化だったが、アミリアは意外な思いでそれを見つめる。
――軍服を着た人が笑うのを初めて見た。
「君が何を読もうと、俺は咎めたりしない。だからそう怖がらなくていい」
「言いつけませんか?」
「誰にも言わないよ」
「ありがとうございます」
この本の中身は、近隣の国々で何世代にもわたって読み継がれてきた有名な冒険物語だ。アミリアよりもずっと歳下の少年が旅に出て、一人で様々な困難に立ち向かう。その道中でよき仲間に出会い、ときにぶつかり合い、別れ、うんと成長して故郷に戻る。そんな内容だ。
アミリアはその本に、フリューゲルの創成期からの歴史を延々と綴った超長編の表紙をつけていた。
「懐かしい」
ジルが言った。アミリアは海老茶色をした本の表紙から視線を上げる。
「このお話をお読みになったことが?」
「ああ、もう随分前のことで、ところどころ話を忘れているかもしれないが。いや、『読んだ』と言うと嘘になるな。当時は字が読めなかったから、仲間に読んでもらった」
「仲間、ですか?」
「ああ。戦場で。続きを聞くまでは死ねないと思い、毎日必死に戦った」
「……そうでしたか。それは……ご無事で何よりでした」
アミリアは彼があっさりと口にした「死」という言葉におののいた。だから、つまらない言葉しか返せない。
「ありがとう。君が持っているのより随分とボロい本で、あちこち破けたり頁がなくなっていたりしたんで、抜けている部分もあるだろう。三巻めの山の辺りが特に気に入っていて、仲間にせがんで何度も同じところを読んでもらったのを覚えている」
「三巻め……!」
アミリアは高い声を上げた。
「今ちょうど、その辺りを読んでいました! 特にあの、竜との闘いが――」
「山の洞窟の?」
「そうです! 竜の吐き出した火が鼻先を掠めたところなんて、もうドキドキして……! もしわたしだったら、大きな竜に追いつめられた状況であんなふうに冷静になれないし、とてもじゃないけれど竜を負かすだなんて……」
ハッとして、アミリアは口をつぐんだ。
「……ごめんなさい、わたし」
「なぜ謝る」
「おしゃべりがすぎました」
「いや。俺も読んでもらったときにそれを考えた。自分がその立場になったらどうやって切り抜けるだろう、と」
そう言って、男性はアミリアをじっと見つめた。アミリアも見つめ返す。
すると彼は少しためらうような表情を見せてからゆっくりと口を開いた。
「君、名は何と?」
それはアミリアにとって、あまりにも新鮮な問いだった。これまでに一度も名を尋ねられたことはない。
巨大な翼を背負っているおかげで遠目にも「あそこに四の姫がいるぞ」とわかる。だから、面と向かって「あんた誰?」と尋ねる人などいやしなかった。それに、フリューゲルでは身分の低い人から高い人に話し掛けるのは無礼に当たる。はじめましての際には第三者の紹介が必要で、名を尋ねるなどもってのほか……というのが、一応の建前だ。
実際のところ、王族――つまりアミリアの家族は皆のほほんとした性格で、礼儀に反したからといって文句を垂れたりはしない。それでも人々は公式な場では建前どおりに振る舞う。「こちらが四の姫のアミリア様です。アミリア姫、こちらがどこそこの誰それです」という紹介から「アミリア姫、お目にかかれまして光栄にございます。どうか以後お見知りおきを」という締めの文句まで、違ったことがない。
そんなわけで、アミリアは生まれて初めてその一文を口にした。
「……アミリアと申します」
視線を落とし、軽く膝を折って礼をとる。少し誇らしい気分だ。
男性は名を聞いても王女だとは気付かないらしかった。従前と変わらない気楽な様子でうなずいている。
城仕えの女中か何かだと思っているのかもしれない。昼寝の後、着替えもそこそこに本に熱中していたので、薄い部屋着一枚しか身に着けていないのだ。勘違いはそのせいだろう。
礼をとった拍子に肩からずり落ちそうになったシャツを、大きな手が元に戻してくれる。
「あの、わたしもお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ジルだ」
シャツが落ちないように前ボタンをいくつか留めながら、彼が答えた。
「ジル様、ですね」
「ああ。ジル=ブノワだ」
ジル様、と、アミリアは口の中で彼の名前をもう一度小さくつぶやいてみた。
いつになく近い距離と、嗅ぎ慣れない香りと、初めての問いと――何もかもが新鮮で、戸惑いとともに心のどこかでワクワクしている。
見つめた先の彼は、やはりきれいな瞳をしていた。
「お名前は、かつての英雄から?」
「……かもしれんが、名の由来は知らない」
「そうでしたか」
ジルの言葉にはわずかながら訛りがあるので、王都の出身ではなさそうだ。それに王都に住む人間なら王族の姿を目にする機会がいくらかあるから、アミリアの翼のことも知っている。外から来たため、王族の容姿を知らないのだろう。
王都外で暮らす人間にとって、姫についてなど知る機会も必要もないのだ。せいぜいどこかで一、二度肖像画を見たことがあるくらいのものだが、その肖像画は、アミリアに関してはまったく役に立たない。彼女の肖像画に翼が描かれたことは一度もないからだ。おまけに「生まれた子に姫と同じ名を」と考える人はわんさといて、同じくらいの歳ごろで「アミリア」と名のつく人はとても多い。
そんなわけだから、彼が気付かないのは無理もなかった。
「制服を着ていらっしゃるということは、軍の方なのですよね?」
「ああ。軽く負傷したので今は訓練を休んでいる身だが」
訓練を休むほどの怪我とは、決して軽くはないはずだ。そう思いながら、アミリアは改めてジルを見上げた。
髪の毛は夜の闇よりも黒く、目は透き通るような紫をしている。眉は美しい稜線を描き、鼻は高く、下唇が少し厚い。かなり際立った男前だ。
ただ髪の生え際から左右の目の間を通り、鼻梁を横切って反対側の頬へ流れる傷のせいで、凄みがある。
だがその傷は古いものらしく、赤みがない。だから彼の言う負傷とは腕の包帯のことだろう。
「訓練に出ない間、護衛の任に当たるようにと命じられた。それで城に」
「護衛?」
もしかして、とアミリアは思った。
「四の姫の護衛だ」
四の姫――つまり、アミリアの、だ。
長年アミリアの警護についてくれていた兵が、高齢と腰痛のために最近引退した。その後任が決まったと聞いたのは、つい一昨日のことだ。
そういえば、新しい護衛が今日から来ると言っていたか、とアミリアは父の言葉を反芻する。
「門の前で巡回兵と待ち合わせて姫のところまで案内してもらうはずだったが、誰かが行方不明になったとかで巡回兵が不在だった。それで、その塀の向こう側で待たされていたんだ」
アミリアはふぅ、と小さく息を吐いた。どうやら彼女の不在はすでに知れわたっているらしい。
まさか、行方不明になった「誰か」が目の前にいるだなんて思いもしないジルは、淡々と話を続ける。
「そうしたら、君の声が聞こえたから」
「それで助けに来てくださったのですね」
アミリアはうなずきながら、さてどうしたものかと考えた。
自分が四の姫だということも、行方不明になっている張本人だということも、彼は知らない。この場で明かしてもよいが、もう少し「ただのアミリア」でいたかった。
身分を明かしてしまったら、今のように気軽に話してはくれなくなるだろう。
「あの……もしよろしければ、わたしがご案内いたしましょうか」
「ん?」
「四の姫のお部屋まで」
「いいのか」
「もちろん。助けていただいたお礼には、とても足りませんが」
「いや、充分だ。頼めるか」
そう言って、ジルは何かに気付いたようにアミリアのほうへ手を伸ばした。驚いたアミリアが固まっているうちに彼の手が髪に触れ、そっと何かをつまみ上げる。
「葉が髪に」
差し出されたのは小さな葉だった。青々と茂っていた、あの大木のものだ。
葉はジルの手からひらひらと地面に落ちる。それを見届けてから顔を上げたアミリアは、クスと笑った。
「どうした?」
「ジル様も」
「俺の頭にもついている?」
「ええ」
アミリアも手を伸ばし、ジルの髪についていた葉をとった。
「悪いな」
そう言いながら、彼はアミリアに向けて少し頭を傾けてくれている。
彼のほうが随分と身長が高いので、手を伸ばしやすいようにと気を利かせてくれたらしい。
「あら、お待ちになって。たくさんあります」
細かな葉を一つ一つつまみ取っていると、ジルが頭を下げたまま言った。
「アミリアは一体なぜ、あんな場所に?」
ひゅ、と喉が音を立てた。同時にドキドキと胸が暴れる。家族以外に「アミリア」と呼ばれたのは初めてだ。それも、こんなに近くで。
アミリアは自分には精霊が見えることを告げるかどうか少し迷って、けれど本当のことを言うことにした。
「……実は、精霊のせいなのです」
顔を上げた先には大きな像がある。アミリアのひいひいひいおじいさんの時代に建てられた、精霊を模したものだ。大きな――といってもアミリアのよりは小さな翼を持つ女性の像で、薄い布を体に巻き付けただけのような色っぽい姿をしている。その薄布からこぼれんばかりの胸が見えた。
比べてアミリアの胸は、翼に栄養を吸い取られるのか、いつまで経っても育たない。
「……精霊……?」
アミリアの視線を追って像を見上げ、ジルが言った。
その声を聞いてアミリアは焦る。おかしなことを言っていると思われているに違いない。それでも話し始めてしまった手前、途中でやめることもできず、彼女は続けた。
「はい。わたしは精霊が見えるのですが、その……このような姿ですから――」
このような姿、の意味はすぐに通じたらしい。ジルは像から視線を戻してアミリアの背後を見た。一際強い存在感を放っている、大きな翼を――
「彼らは『翼があるなら飛べるのでは』と思ったようで。目隠しをされて、『いいところに連れて行ってあげるから』と言われ、ついて行ってみたら……」
「危うく死後の世界に連れて行かれるところだったと」
「はい」
「それは災難だったな」
軽い返事に驚き、アミリアは問う。
「もしかして……ジル様にも見えるのですか?」
「何が?」
「精霊が」
「いや、見たことはないが」
「……それなのに信じてくださるのですか?」
驚くアミリアを前に、ジルは肩をすくめた。
「変なことを聞く」
「そうでしょうか。自分に見えないものを見えると言われても、信じがたくはありませんか」
すると彼はゆっくりと首を横に振った。
「長く戦場にいると、見えないものの力を信じたくなる。それに、君が俺に嘘をつく理由はない」
アミリアは、初めて精霊を見たとき、自分の頭がおかしくなったのだと思った。小さいころから「自分と同じような翼のある友だちがほしい」と願い続けたせいで、ついに幻を見るようになったのだと。
彼女のことをよく知る女中ですら最初は疑わしげだったし、家族に至っては「熱でもあるんじゃないか」と医者を呼ぶ始末だった。彼らはアミリアと城が様々な災難に巻き込まれるようになってようやく、「いやぁ伝説は本当だったんだなぁ」と信じてくれるようになったのだ。
唯一当初からアミリアの話を信じてくれたのは、「寝ても覚めても精霊ばかり。三度の飯より精霊が好き」という精霊フリークの研究者シモンだけだった。
そんな状況だったから、彼の返答にアミリアはすっかり嬉しくなった。礼を言って歩き出す。
「ありがとうございます」
「何に対する礼かな」
「信じてくださったことに」
ジルはアミリアをじっと見つめた。が、見つめただけで何も言わなかった。草を踏むしゃりしゃりという音が響く。
「精霊はどんな姿を?」
「人の形です」
「じゃあ、本当にあの像のような姿をしているのか」
「ええ。よく似ています。あ、翅の形が少し違いますが。それに、大きさも」
「あの像よりも大きい?」
「いいえ。ずっと小さいです」
「君くらい?」
「わたしより、もっとずっと」
「どれくらい?」
「わたしの手のひらに乗るくらいです」
「そんなに小さいのか」
「ええ」
「これくらい?」「いいえ、もう少し小さく。このくらいです」と手で精霊の大きさを示しながら、アミリアはジルと一緒に城の脇の小さな庭を抜け、渡り廊下を横切り、また庭を抜ける。
普段あまり歩かない彼女の足はすっかり疲れ切っていたが、それも気にならないほど心が弾んでいた。
「近道なので、こちらから参りましょう」
「詳しいんだな。ここで働いて長いのか」
「ええ。幼いころから」
正確には働いているのではなく住んでいるのだが、もちろんアミリアは訂正せず、彼の勘違いに乗っかった。
「そういえば……どうやって中庭にお入りになったのですか? 高い塀に囲まれていますのに」
ふと疑問に思って投げ掛けると、ジルは事もなげに答えた。
「塀を乗り越えた」
「へい?」
「そう。塀だ」
アミリアは立ち止まった。
城の塀は高い。中でもアミリアたち王族の住んでいる辺りは、高く分厚い城壁で何層にも守られている。むろん、不届きな侵入者を防ぐためだ。
「あんなに高いのに、一体どうやって……?」
「よじ登った」
「そんなことができるのですか」
「できる」
ジルは答えるなりタッと二、三歩助走をつけ、近くの木の幹を蹴り、高い枝に飛び移った。枝が重みでしなるより先に、彼は枝から塀に飛び移っている。
まるで鳥が空に舞い上がるみたいな軽々としたその姿を、アミリアはただ茫然と見つめていた。
アミリアにとって、あの塀は世界の果てだ。これまで生きてきて、そしてこれからも生きていくであろう、小さな世界を区切る高い高い壁。
それをまるで低い柵みたいに軽々と越えてしまうジルが、とても眩しく見える。それは決して、彼の向こうに陽が昇っていたせいなんかではない。
アミリアの隣に軟着陸したジルは、パンパン、と手を数度打ち合わせて汚れを払った。そんな彼を見つめ、アミリアは問う。
「どうやったら……どうやったら、そんなことができるのですか?」
「さぁな。物心ついたときには、できていたから」
パラパラと彼の手から落ちた砂の粒が、陽を浴びてキラキラと光る。
「わたしを助けてくださったときも、そうやって木にお登りになったのですか?」
「そうだ」
クク、とジルは低く笑う。
「君はわかりやすいな。目がまん丸くなっている」
アミリアを見つめて言った。
「だって、とても驚いたんですもの。本当に身軽なのですね!」
「特技と呼べる唯一のものだな」
アミリアは彼を羨望の眼差しで見つめた。
「そんなに身軽なら、どこへでも行けますね」
「どこへでも? たとえば?」
「たとえば……森の向こうや、山の反対側……高い木に登って、いろんなものを見ることだって。あの冒険譚のように」
城から出たことのないアミリアには、それ以上の何かは想像することすらできない。自分の部屋の窓から外を見て、その向こう側に思いを馳せているばかりだからだ。
「あ、そうだ。海は……? 海をご覧になったことはありますか?」
「ある」
「きれいなのでしょうね」
「きれい……? そんな目でみたことはないが」
「晴れた日に、水面に反射する光がとても美しいと本で読みました」
「眩しくはあるな」
「それに、小川を水が流れるせせらぎの音や、風が山の間を通り抜けるときの唸るような音に、やまびこに……」
「獣が獲物の居場所を知らせるために遠吠えをする声も」
「……聞いたことがあるのですか?」
「ああ。『獲物』が自分でなければ、もう少し楽しめたかもしれないが」
アミリアはハッと息を呑む。
「獲物がジル様だったのですか」
「そうだ。毛が逆立った」
新しい護衛はどうやら、アミリアの知らない世界のことをたくさん知っているらしい。
――きっと、だからお父様は彼をわたしの護衛にしてくれたのね。
アミリアの冒険物語好きを誰よりよく知る父だから。
「……うらやましいです」
「何が?」
「ジル様みたいに身軽だったら、どこへでも行けてしまいそう。まるで翼の生えた鳥みたい」
アミリアの言葉に、ジルは肩をすくめた。
「翼が生えているのは君のほうだ」
「わたしの翼では塀は越えられません」
二人の横にそびえる高い塀を見上げ、ジルが言った。
「俺が塀を飛び越えたのは、能力があるからじゃなくて、飛び越えたいと思ったからだ」
「……どういうことですか?」
「能力があっても、その気がなければ塀を越える日は来ない」
――その気がなければ。
アミリアは塀を見上げた。
この塀を越えたいと思ったことはあっただろうか。外に出てみようと思ったことはあっただろうか。
ジルは静かに続けた。
「君がどんな条件でこの城に雇われているのかわからないが、心から望むなら、自分の足で好きな場所へ行くといい。大して力にはなれないだろうが、ときどき休みをもらえるように条件を変える手助けくらいならできると思う」
紫色の瞳は真剣だ。
アミリアはその瞳をただじっと、見つめ返していた。
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