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1巻
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しおりを挟むプロローグ 男と翼の姫
アミリアの背中には翼がある。
自由であることの比喩ではない。本当に背中から翼が生えているのだ。
真っ白な羽毛で覆われたそれは、肩甲骨の辺りからまっすぐ上に伸び、中ほどで左右に折れている。広げると体の二倍ほどになろうかという大きさだ。
生まれたときには大人の手のひらくらいだったが、成長とともにぐんぐんと大きくなって今の大きさになった。アミリアは平均よりも小柄なので、バカみたいに大きなその翼はアンバランスに見える。「ワシの翼の生えたハチドリ」と称されるほどだ。
彼女は、金色の豊かな髪に薄い青色の瞳、薔薇色の頬、年齢よりも幾分幼く見えるやわらかな微笑みがとても美しい女性である。それなのに、いかんせん翼が大きすぎて、その美しさに気が付くものはほとんどいなかった。顔の造作にたどりつく前に翼に視線を奪われるためだ。
そうしてアミリア自身すらその美しさに気付くことなく、彼女は十七歳を迎えていた。
さて、このアミリア、何を隠そう一国の姫である。
とある大陸の南方にフリューゲルという小さな王国がある。彼女はそこの王家の四番めに生まれた。上に三人の姫と下に一人の姫、末に王子という六人兄弟の間に挟まれて、すくすくと育っている。
フリューゲルは、肥沃な大地と豊かな森を持ち、強国ひしめく中で周囲の争いに巻き込まれないよう常に気を配りながら平和を保ってきた――そんな国だ。
大した軍事力のない小国が大国の狭間で生き延びてこられたのは、この国に大昔から語り継がれてきた精霊の伝説があるおかげであった。
『かの国は精霊の加護を受けている』
そんな伝説を恐れた国々は、迂闊にフリューゲルに手を出すことはない。
だが、不届き者というのはいつの世のどの場所にも必ずいるものだ。「精霊なぞいやしない、万が一いたとしても恐るるに足らぬ存在である」と言い出す国が出てきた。そんな不遜な国のせいで、フリューゲルもつい先日まで争いに巻き込まれていたのである。
大陸の北側にあるその大国が資源を奪おうと攻め入り、フリューゲルは必死に応戦した。そして激しい戦いは何年も何年も続き、どちらの国も消耗していく。
だが、とある人物の活躍によって最近ようやく終わった。払った犠牲は決して小さくなかったが、小国フリューゲルにとっては大勝利だ――とまぁ、アミリアは小難しいことを思い出していた。
それは、間違いなく現実逃避のためだ。
耳元で響くクスクス笑いを聞きながら、アミリアは今、必死に自分に言い聞かせている。
――大丈夫。何かいい方法がきっとある。だから、落ち着くの。そう、落ち着いて。深く息を吸うの。
けれど、彼女の置かれている状況では、それはとても難しいことだった。なぜなら彼女は今、木の枝にぶら下がっているのだ。引っ掛かっている、と言い替えてもいい。
ここはフリューゲルの中心地。王都の真ん中にそびえる王城の、そのまた真ん中に位置する中庭の、さらに真ん中に生えた大木の上だ。
その枝の一つに部屋着の襟の後ろを引っ掛けた状態で、アミリアはぶらんぶらんと揺れていた。彼女の体重を支えているのは木の枝だけ。その頼みの綱でさえ、大きくたわんでミシミシと音を上げ、今にも折れそうだ。心許ないことこの上ない。
この状況で落ち着くなんて、父である王の眼前で居眠りをするくらいの難易度である。
「だから……無理だって……そう……言ったのに……」
アミリアは歯の隙間から漏らすように声を上げた。やけに声が小さいのは、大声を上げたら衝撃で枝が折れてしまうかもしれないからだ。それに、理由はもう一つあった。
彼女のいるすぐ傍の幹には洞があって、中で子リスが眠っている。生まれたときからずっと成長を楽しみに見守ってきたその子リスたちを驚かせてしまわないように、と気遣ったのだ。
またクスクスと、耳元で声がした。
「わわわ、笑いごとじゃないの……! え、枝が……ミシィッて……!」
絞り出すようなアミリアの声に、クスクス笑いの主はやはりクスクスと笑いながら答える。
『お姫様、ほらッ! 頑張って翼をバタバタしてみて! 飛べるかもしれないよッ!』
「あのね、これを言うのは百万回めくらいだけど、わたしの翼は動かせなくてね……っ!」
『気合が足りないのかもッ! ほらッ気合入れて!』
気合で空が飛べるなら苦労はない。何度力を入れても、アミリアの翼はピクリともしなかった。
『んー、何だか無理みたいねェ』
「記憶違いでなければ……わたしは……何回も、そう言って……」
『でも、ものは試しで!』
「次からは……もうちょっと……危なくない方法で……試してほしいかも……しれない……」
かもしれないどころか、全力でお願いしたかった。これでは、命がいくつあっても足りない。
『そうねェ。残念。お姫様ったら、歩くのがすごくゆっくりだから、飛べたら便利だと思ったのにィ。あたしたちみたいにサ』
右から声が聞こえたかと思えば、次の瞬間には左からする。
パタパタと羽ばたきながらアミリアの傍を飛び回るのは、精霊だった。名をクッシーという。
人間と同じような形をしているが、大きさはアミリアの手の上に乗れてしまうほど小さい。それに耳の先がピンと尖っている。そして、アミリアと同じく背中に翅が生えていた。翅には、繊細な模様があり、昆虫の薄翅のように陽に透ける。
その翅も銀色の髪の毛も真っ赤な瞳も、息を呑むほど美しい。アミリアも初めて見たときには見惚れてぼーっと立ち尽くしたほどだった。
そう、フリューゲルには伝説のとおり精霊がいるのだ。
実のところ、アミリアを含め王家の面々も国民も誰一人としてその存在を信じていなかった。ところが、戦が終わってほどないある日、アミリアの前にひょっこりとクッシーが姿を現した。
だが、それはアミリアの前にだけだった。ほかの人には見えず、声も聞こえない。だから、当初、アミリアが「精霊を見た」「精霊がしゃべった」と言っても誰も信じてくれなかった。
さらに悪いことには、このちっぽけな生き物、伝説どおりの「加護」というほど大したことはできないようなのだ。
どういうわけかアミリアに懐いて一日中くっついて回っているが、もたらされるのは加護というよりむしろ災いである。例を挙げればきりがないが、たとえば、今のように『お姫様も飛べるんじゃない? ほらァ』と窓から姫君を引きずり出してみる、だとか。
斯くしてアミリアは平和な午後の読書から一転、大木の上でブーラブラという運命を背負わされることになったのである。
「もう……少しで、届く……かも……」
窓枠に何とか指先を引っ掛けることができるかもしれない。そう思ったアミリアは限界まで腕を伸ばしてみた。だが、クッシーにバッサリと切って捨てられる。
『お姫様のところからだと届きそうに見えるかもしれないけど、横から見るとぜぇんぜん届きっこないわよォ。手の長さが三倍くらいあったら届くかもしれないけどねッ』
その言葉を聞くなり、アミリアはぷるぷるしていた腕をひっこめた。自力でこの状況を抜け出すのは無理だと、ようやく悟ったからだ。
「……助けを呼ばなくちゃ」
アミリアの声が一段と小さくなったのは、しょんぼりと落ち込んだせいだった。
また面倒を掛けてしまう、と心の中でため息をつく。ただでさえ皆忙しそうに働いているのに、仕事を増やしてしまうのが申し訳ない。
とはいえ、アミリアの姿が見えないとなれば遠からず騒ぎになるだろうから、それよりは今のうちに助けを呼んでおいたほうがいい。
沈む気持ちを何とか奮い立たせ息を大きく吸ったところで、クッシーに口を塞がれた。小さな両手でギュッと上下の唇をつままれ、口が開かない。
『ねェ、あたしが助けてあげる! いいことを思いついたの!』
「ひひほほ?」
「いいこと?」と問い返そうとした声は、唇を押さえられているせいで口の中でこもって消えた。
クスクス、クスクス。
アミリアがモゴモゴしている間に、クスクス笑いの数が増える。どうやらクッシーのもとに仲間たちが集まってきたらしい。
精霊が増えるにつれ、アミリアの不安も増していった。クッシーの「いいこと」がアミリアにとって「いいこと」だったためしはほとんどない。精霊の数に比例して、もたらされる災いの悲惨度も上がっていくのが常だ。
『退屈すぎるデザインだったんだもン』という理由で城中のカーテンの裾に切れ目を入れてフリンジ状にしてみたり、『おヒゲがあったほうが素敵だもン』と三代前の王の肖像にちょび髭を描き入れてみたり、はたまた『並んで突っ立ってるなんて変じゃない。皆仲よくね』と廊下に並んでいた甲冑に円陣を組ませてみたり。
クッシーが現れてわずか数週間で、城の管理を総括している侍従のフェルディナンドが三度も白目を剥いて卒倒した。
けれど困ったことに、人間からすると悪戯としか思えないそれらは、どれもクッシーの純粋な厚意なのだ。
そんなわけでアミリアがおろおろしているうちに、彼女を取り巻くクスクス笑いはどんどんと増えていった。笑い声の数からして二十人はいるだろうか。ひゅんひゅんと視界を忙しなく行き交うので、正確な数はわからない。そもそも精霊が全部で一体何人いるのかも、アミリアは知らない。
人間の言葉を話すのはクッシーだけで、ほかの精霊たちはクスクスと笑うだけだ。このクスクスが精霊の言葉らしいが、本当のところはわからない。
『さァて』
クッシーが言った。
『お姫様! 安心して! もう大丈夫ヨ!』
「ええと、何が大丈夫なの……?」
『皆で力を合わせれば、お姫様を持ち上げられると思うの!』
――と、思う。
大丈夫じゃない予感しかしない。『やっぱり無理だったみたァい』と、この高さから落とされでもしたら、怪我では済まない。
アミリアは慌てふためきながら声を上げた。
「あの、それはいいから、ちょっと助けを呼ぶ方法を……」
『遠慮しなくていいからッ! あたしたちに任せて!』
「いいえ、これは決して遠慮なんかではなくて」
『あたしたちの仲じゃないのォ。水くさいから、お礼はいいわよッ!』
「気持ちはありがたいけれど、お願いだからほかの手段を……」
『ほら、せーのっ』
「アァ、どうかやめ……!」
必死に精霊たちを思いとどまらせようと幾分大きな声を出した。もう子リスの安眠どころではない。自分がペチャンコになるよりは、子リスを起こしてしまうほうがいくらかマシだ。
力の限り太い声を出そうと腹の底に力を入れ、胸いっぱいに息を吸い込む。足の下から声が聞こえたのは、そんなときだった。
「そこで何を?」
低くてよく通る声だ。おそらく男性のものだろう。アミリアに聞き覚えはない。
王城の中庭にいるということは、新入りの衛兵だと思われる。
声の主を見ようとアミリアは体を動かしたが、大きく広がった部屋着の裾に遮られて何も見えなかった。どうやら真下辺りにいるようだ。
「そこで何をしている?」
もう一度問われた。
王女たるもの、名も知らぬ人と言葉を交わすのは作法に反する。相手が男性であればなおさらだ。
けれど、服の中が丸見えの状態で今さら作法うんぬんと言っている場合かと問われれば、答えは否。アミリアは小さな声で答えた。
「ご覧のとおり、木に引っ掛かってしまいまして」
「はっ?」
声が小さすぎて聞こえなかったらしく、太い声で聞き返された。
彼が何者か知らないが、アミリアに向かって「は?」とのたまった人は初めてだ。
「ご覧のとおり! 木に! 引っ掛かって! しまいまして!」
切れ切れにもう一度言うと、声の主はなお問うてくる。
「下りたいか?」
「ええと、はい、そうですね」
このまま木にぶら下がっていたいはずがない。
アミリアが答えるなり、すぐに下から「了解」と声がした。続いて、「ほっ」と軽い掛け声のようなものが聞こえる。
何が起きているのかわからないが、耳元で精霊たちの息を呑む声が聞こえたから、何か変わったことが起きているのだろう。
一瞬、精霊たちの笑いが消えて、辺りが静寂に包まれる。耳に届くのは、軽く木の葉の揺れる音だけだ。
ガサリ、ワサワサ。
ふいに、目の前に人が姿を現した。
何が起こっているのかと耳を澄ませていたアミリアは、突然の男性の登場にただ驚いて目を丸くする。
「あ」
それ以外の音が出せない。
「大丈夫か」
アミリアがよほど大丈夫ではなさそうに見えたに違いない。その男性は眉間にしわを寄せ、彼女の顔を覗き込んだ。
声の出し方を忘れたアミリアは、口を開けたままうなずく。男性の細かな容姿に注目する余裕はなかったが、瞳がきれいとだけ思った。
その美しい瞳の持ち主は片手で器用に木に掴まり、アミリアのほうへ手を伸ばしてくる。
「手をこっちへ」
アミリアは言われるまま、手を出した。
「そう。こっちへ。そうだ。それでいい」
「あ……」
「どうした」
「リスが」
「リス?」
「洞」
――洞の中にリスの子がいるので、驚かせないようにしたいのです。
そう言おうと思うのに、出てくるのは単語ばかりだ。
「うろ? ああ、そこの洞か」
男性はアミリアの断片的な言葉から意味をくみ取ってくれたらしい。木の幹にある洞のほうをちらりと見て、「なるほど」とうなずいた。
「リスの子がいるのか」
アミリアもうなずく。
さっき彼女がちょっと大きな声を出したせいで何匹か目を覚ましているが、残りは相変わらず気持ちよさそうに眠っている。アミリアたちから少し離れた木の枝には親リスがいて、心配そうにこちらの様子を窺っていた。もちろん親リスが心配しているのはアミリアのことではなく、怪しげな人間どもが子リスに害を及ぼしやしないかということだ。
男性は声を落とし、ささやくようにアミリアに言った。
「そっちの手はここへ」
その指示に従ってアミリアが手を伸ばすと、手首をギュッと握られる。
手袋なしで男性に触れたのは初めてだ。彼の肌の硬さと熱さに驚き、思わず手をひっこめそうになったけれど、強く握られていてそれは叶わなかった。
「俺の首に腕を回せるか」
「えっ?」
「首に掴まれ」
「あの……どうなさるっのでっすかぃ?」
混乱していたせいで変な声が出る。
「抱きかかえて下りる」
「な、何を?」
「君を、だな」
アミリアは自分でもバカなことを聞いたな、と思った。きっと男性もバカな質問だと感じたに違いない。
「あの、でも、わたし、重……」
「こう見えても力はあるほうだ」
そう言って彼は「ほら、掴まれ」とアミリアの手を引き、自分の首へいざなった。
――ええい、ままよ。
アミリアは覚悟を決めて彼の言葉に従う。すると、ぐいと腰を抱き寄せられた。
――近い。
姫という地位のせいで、これほど男性と密着したことなど一度もない。「しっかりと掴まれ」という彼の言葉にろくに返事もできず、アミリアは体をこわばらせる。
そんな内心の焦りをよそに、男性は器用に彼女を抱きかかえたまま動きだした。
「翼が枝に引っ掛かっているのを外すぞ。掴まってろ」
「はい」
答えながら、ギュウ、とアミリアは腕に力を込めた。
翼の先をそっとつままれたのがわかる。ピリリとかすかな痛みのようなものが走ったが、落ちるのではないかという恐怖でそれどころではない。
「下りるぞ」
「あっ、えっ、ヘイ!」
「ハイ」と言うべきところを間違えて「ヘイ」と返事してしまったものの、言いたいことは伝わったのだろう。ふ、という浮遊感とともに体が上下に揺れた。
落ちているようでもあり、登っているようでもある。周囲のあちこちからがさがさと音がしていた。怖くてずっと目をつぶっていたアミリアには、自分が今どんな状況に置かれているのか全くわからない。
ただ、男性の首にギュッとしがみつく。
「もう大丈夫だ」と言われてようやく目を開けると、男性はアミリアをそっと立たせてくれた。足の裏に地面の感触を捉えて安堵した彼女は、深く息をつく。
「無事でよかったな」
心の声を代弁するみたいな男性の言葉にうなずいた後、深く頭を下げた。
なぜか、胸が痛いくらいドキドキしている。
「た、助けてくださって、本当にありがとうございました」
アミリアがお礼を言うと、男性は首を横に振り、「いや」と声を上げる。
「役に立てたならよかった」
「あの……お怪我はございませんか?」
アミリアの問いに、彼は口の端だけで笑う。
「あれくらいのことで怪我はしない。君のほうこそ平気だったか」
「大丈夫です。枝に引っ掛けて、服の裾が少し破けてしまいましたが」
「それだけで済んでよかった」
「はい、本当に」
破れてしまった裾を確かめようとアミリアが体をひねっていると、男性が「あー……」と気まずそうな声を出した。
「ちょっと待て」
「はい?」
「これを」
短く言ってから、彼は手早くボタンを外してシャツを脱ぐ。シャツの下には何も着ておらず、逞しい上半身が露わになった。
アミリアは改めて男性を観察する。歳は三十の半ばくらいだろうか。本の挿絵で見る戦士のような筋骨隆々というわけではないが、筋張っていて力強い。
肌色の多さに目がチカチカして、アミリアは急いで横を向いた。顔が熱い。
男性は脱いだシャツを差し出しながら言った。
「これを着ておけ。背中が破れている」
「背中?」
「君の服の」
「……あ……」
恥ずかしさがこみ上げるものの、シャツに手を伸ばしてよいものか、アミリアは悩む。
「あの、でも……よろしいのですか?」
「いいから渡している。上着を貸してやりたいが、今日は生憎上着の着用が必須なんだ。すまないが、シャツで許してくれ」
「許すだなんてとんでもないです」
男性は地面に畳んでおいていた上着を拾いあげ、ポンポンとはたく。肌色に気を取られていたアミリアは、その段になってようやく、彼の腕に包帯が巻かれていることに気付いた。
手首から上腕にかけてぐるぐる巻きになっているから、よほど大きな傷を負っているのだろう。
視線に気付いた男性が「どうした」と聞くので、アミリアは慌てて言った。
「あ……あの、肌の上に直接上着を? 着心地が悪くはありませんか」
包帯のことを口にしなかったのは、触れられたくないかもしれないと思ったためだ。
男性はアミリアの質問に眉を持ち上げ、肩をすくめた。
「生まれてこの方、着心地を気にするような生活をしたことはない。だから問題ない。遠慮せずシャツを着てくれ。そのほうがこちらの心が休まる」
けれど、すぐに男性は「ああ」と納得したような声を出した。
「そうか、このままでは着られないな」
そう言うなり懐から小さなナイフを取り出し、シャツの背中に二か所穴をあける。
アミリアが制止の声を上げる間もないほどの素早さだ。
「ここに翼を通せば着られるだろう」
「ごめんなさい。シャツを台なしに」
「構わない。ほら、受け取れ」
言葉遣いは少々荒いが、彼は優しい人のようだ。
「あの、実は……」
「何だ」
「自分では……」
「そうか、自分では羽織れないか」
翼のせいで、アミリアは一人で着替えができないのだ。男性はそれに気付いたらしく、アミリアの後ろにまわり、穴に翼を通してシャツを着せ掛けてくれた。
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