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第参柱
第三十三伝 『元素』
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朔と葛葉は先程の場所へと戻り、木陰に身を隠しながら師走達の様子を覗き見る。その場には師走 VS 土竜の構図があった。他の二人は見当たらない。それを見た葛葉は苦笑を浮かべた。
「あーらら。なかなかマズイ展開になってんな。」
「なんで?一対一なら五分五分じゃないの?土竜って強いの?」
見たところ、師走がダメージを受けている様子もない。両者はただ睨み合っているだけ。朔の目には師走が劣勢だとは映らなかったのに対し、葛葉は迷う事なく師走が劣勢だと判断している。その訳を尋ねた。
「あの師走っつー男、操る元素は“風”だろ?相手の土竜は“地”もしくは“土”だ。いくら土が地より劣るとは言え、相性が悪い。」
「?」
丁寧に説明したつもりだったが、朔の顔を見れば理解していない事はすぐに分かった。頭の周りにヒヨコが飛んでいる。葛葉はガシガシと頭を掻きながら無関係な人間の立場に立ってみて考える。
「あー…えっと。四大元素は知ってるか?」
「知らない。」
「・・・・・。」
そこからか。
これは説明には骨が折れそうだ、そう思いながらも葛葉は投げだす事無く、丁寧に解説を始める。
「世界を構成する四つの要素、それが火、水、風、土。この四つを相称して四大元素って言うんだ。」
「あ~。」
何となく分かる、聞いた事ある気もする。そんな表情を浮かべる朔を見て、説明に対する理解の手応えを感じる。お互い考えているモノが一致したとみて葛葉は説明を続けた。
「それらより少し劣る性質を持ってんのが、土とか熱とかだ。土は地の下に位置する元素だから、地と土がやり合えば土は地には勝てん。熱は火の下だ。他にも元素は無数に存在してる。何が何の下についてるか、俺も全部は把握してねぇけどな。」
「ほほう。で?なんで土が風に負けんの?その理屈だと風の方が強いんじゃないの?」
「四大元素にはそれぞれ相性があるんだ。火は水に弱く、水は風に弱い。風は地、地は火ってな具合にな。ちなみに俺ら妖狐は火の元素を司る。」
火 ⇒ 地 ⇒ 風 ⇒ 水 ⇒ 火 …
このループした優劣が世界の基盤となっている。
そして火、地、風、水を一軍とするなら、熱や土は二軍といったものらしい。元素を扱う者の力量にもよるが、土と風が同列、もしくは土の方がやや優勢といった配列なのである。
この説明を聞き、朔は何か思い出したように声を上げた。
「あっ。それでお前、如月さんと対峙した時、逃げたの?」
「逃げたんじゃねぇ。態勢を立て直しに行ったんだよ。」
「・・・・・。」
朔としては悪気があったわけではないのだが、葛葉は自分が 見くびられていると感じたらしい。頬を膨らませて不満そうな顔を浮かべる。これには朔が言葉を失ってしまった。
葛葉は実は負けず嫌いなのではないだろうか。そう思える程に、ちょくちょく朔の言葉を訂正される気がする。
朔の発言に他意が無かった事を察したのか、葛葉は話を続けた。
「でもまぁそういう事だな。普通にやりあやぁ、火の元素を司る俺は水には劣勢を強いられる。そして風は地に弱い。いくら土が地より劣るとは言え、相性的には最悪なんだ。」
「えっ、じゃあヤバいじゃん。水無って人の方は?」
「あの女は火だろ?蟷螂は確か、扱う元素はなかったとは思うが…。奴らがもし計画的に襲撃してきたんなら、何らかの秘策があっての事だろうし、微妙だな。」
「・・・・っ。」
二人の事が心配で戻って来た朔だが、明らかなる劣勢と聞いてその足はすくんでしまう。少しでも二人に加勢出来ればとは思うが、果たして自分が力になれるだろうか。下手に加勢すれば単なる足手まといになるだろう。朔は眉根を寄せて俯く。
それには葛葉も同意見だった。朔が自分と同じ見解を抱いたと見た葛葉は、深く目を瞑って師走に背を向ける。
「…お手上げだな。帰るぞ。」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「これは分が悪すぎんだろ。いくらお前に護符があるからって素人じゃスキルがしれてる。師走に加勢したって返り討ちに合うのが関の山だ。」
「けど…!」
このまま帰れば師走達がやられてしまうのは目に見えている。見てみぬフリをして帰るのは心苦しい。朔は葛葉に反論の意志を示すが、それに対して葛葉は正論を返す。
「じゃあ女の方を探してそっちに加勢するか?そっちの方がまだ見込みはあるかもしんねーけど、その間に師走は殺られるかもな。」
「・・・・っ。」
葛葉の言うとおりだという事は理解出来る。朔自身も戦いたいわけではないし、運動神経だって良いという程でもない。出来れば今すぐにでもこの場から逃げ出したい。
だが、だからと言ってこの状況を見た後に逃げ出すのは躊躇われた。
何か良い策はないだろうか。考える朔は、ふと何かを閃いたように顔を上げた。
「そういえば、火は土より強いんだよな?」
「ああ。…言っとくが、今の俺は誰かさんのせいでまともに術が出ねーからな。」
まさか自分の力がアテにされているのでは。そう思った葛葉は眉根を寄せる。
そんな葛葉の発言を聞いてか聞かないでか、朔は葛葉へと視線を合わせて続けた。
「・・・・葛葉、あいつを倒せなくて良い。少しの時間だけ助けてくれない?」
「?」
◇◇◇◇◇
やはり元素の相性が悪い事が影響しているのか、両者の間に変化が生じ始めていた。佐久田は余裕を見せているのに対し、師走は肩で息をし始めている。
(チィッ。やはり分が悪いな。このままでは あずきとの合流も難しいか。)
師走はどうにか相手の隙を見てこの場をすり抜け、水無との合流を図れないかと思案していた。だがそれも上手く行かず。佐久田は上手く足止めをしている。
両者の闘いを見下ろしている隠神の配下の化け狸も、状況は自分達にとって優勢と見ているのか、涼し気な表情だ。
「・・・・神の従者、この程度か。」
少し呆れたようにも見える表情でため息を吐く。男がその場から立ち去ろうとしたその時、男の視界に何かが写った。
「あれは…。」
男が目を凝らした その瞬間、水の攻撃が佐久田を襲う。鋭い攻撃、『水矢』だ。それを見た男は目を見開いた。
水矢は師走の横を通り抜け、佐久田へと目掛けて放たれた。だが、佐久田はギリギリのところで攻撃を避けてしまう。
「あ~くそっ!」
師走は攻撃の元を辿るかのように慌てて振り返る。そこにいたのは、先程この場から立ち去ったはずの朔と葛葉だった。攻撃したのは勿論、朔である。二人の姿を見て、師走は目を丸くした。
悔しそうな声を上げながらも格好よく護符を構える朔に対し、葛葉はげんなりしている。
「どんくせーな。折角の不意打ち、最初で最後のチャンスだったってのに。」
「しょーがないだろ!初めて使うんだから!」
葛葉からの苦言に朔はムッとした表情を浮かべる。睨み合う二人に向かって師走は声を上げた。
「須煌!?何故戻って来た!」
師走の発言を聞いて、朔は師走の方へと目を向ける。そしてポリポリと頬を掻きながら思ったままの事を言った。
「やっぱり気になって…。後味悪そうな感じになったらヤだし。属性の相性、悪いんだろ?葛葉は火だし、俺は今 水の護符を持ってる。多少の手助けにはなるかなって。」
「フン。バカを言うな。いくら如月の護符を持っているとは言え、お前は素人だろう。妖狐も今はほとんど力がない。それならまだ猫の手を借りた方がマシだ。」
「・・・・のやろ…。」
雑魚の助けはいらんとばかりにプイッと顔を背ける師走。折角助けに来てやったのにその態度はなんだと、葛葉は苦笑いを浮かべる。だが、そんな二人には構わず、朔は至って冷静な声のトーンで続けた。
「俺には助ける程の力がない事ぐらい自分でも分かってるよ。だから少し、提案があるんだけど。」
「提案、だと?」
朔の言葉に師走は片眉を上げた。
「あーらら。なかなかマズイ展開になってんな。」
「なんで?一対一なら五分五分じゃないの?土竜って強いの?」
見たところ、師走がダメージを受けている様子もない。両者はただ睨み合っているだけ。朔の目には師走が劣勢だとは映らなかったのに対し、葛葉は迷う事なく師走が劣勢だと判断している。その訳を尋ねた。
「あの師走っつー男、操る元素は“風”だろ?相手の土竜は“地”もしくは“土”だ。いくら土が地より劣るとは言え、相性が悪い。」
「?」
丁寧に説明したつもりだったが、朔の顔を見れば理解していない事はすぐに分かった。頭の周りにヒヨコが飛んでいる。葛葉はガシガシと頭を掻きながら無関係な人間の立場に立ってみて考える。
「あー…えっと。四大元素は知ってるか?」
「知らない。」
「・・・・・。」
そこからか。
これは説明には骨が折れそうだ、そう思いながらも葛葉は投げだす事無く、丁寧に解説を始める。
「世界を構成する四つの要素、それが火、水、風、土。この四つを相称して四大元素って言うんだ。」
「あ~。」
何となく分かる、聞いた事ある気もする。そんな表情を浮かべる朔を見て、説明に対する理解の手応えを感じる。お互い考えているモノが一致したとみて葛葉は説明を続けた。
「それらより少し劣る性質を持ってんのが、土とか熱とかだ。土は地の下に位置する元素だから、地と土がやり合えば土は地には勝てん。熱は火の下だ。他にも元素は無数に存在してる。何が何の下についてるか、俺も全部は把握してねぇけどな。」
「ほほう。で?なんで土が風に負けんの?その理屈だと風の方が強いんじゃないの?」
「四大元素にはそれぞれ相性があるんだ。火は水に弱く、水は風に弱い。風は地、地は火ってな具合にな。ちなみに俺ら妖狐は火の元素を司る。」
火 ⇒ 地 ⇒ 風 ⇒ 水 ⇒ 火 …
このループした優劣が世界の基盤となっている。
そして火、地、風、水を一軍とするなら、熱や土は二軍といったものらしい。元素を扱う者の力量にもよるが、土と風が同列、もしくは土の方がやや優勢といった配列なのである。
この説明を聞き、朔は何か思い出したように声を上げた。
「あっ。それでお前、如月さんと対峙した時、逃げたの?」
「逃げたんじゃねぇ。態勢を立て直しに行ったんだよ。」
「・・・・・。」
朔としては悪気があったわけではないのだが、葛葉は自分が 見くびられていると感じたらしい。頬を膨らませて不満そうな顔を浮かべる。これには朔が言葉を失ってしまった。
葛葉は実は負けず嫌いなのではないだろうか。そう思える程に、ちょくちょく朔の言葉を訂正される気がする。
朔の発言に他意が無かった事を察したのか、葛葉は話を続けた。
「でもまぁそういう事だな。普通にやりあやぁ、火の元素を司る俺は水には劣勢を強いられる。そして風は地に弱い。いくら土が地より劣るとは言え、相性的には最悪なんだ。」
「えっ、じゃあヤバいじゃん。水無って人の方は?」
「あの女は火だろ?蟷螂は確か、扱う元素はなかったとは思うが…。奴らがもし計画的に襲撃してきたんなら、何らかの秘策があっての事だろうし、微妙だな。」
「・・・・っ。」
二人の事が心配で戻って来た朔だが、明らかなる劣勢と聞いてその足はすくんでしまう。少しでも二人に加勢出来ればとは思うが、果たして自分が力になれるだろうか。下手に加勢すれば単なる足手まといになるだろう。朔は眉根を寄せて俯く。
それには葛葉も同意見だった。朔が自分と同じ見解を抱いたと見た葛葉は、深く目を瞑って師走に背を向ける。
「…お手上げだな。帰るぞ。」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「これは分が悪すぎんだろ。いくらお前に護符があるからって素人じゃスキルがしれてる。師走に加勢したって返り討ちに合うのが関の山だ。」
「けど…!」
このまま帰れば師走達がやられてしまうのは目に見えている。見てみぬフリをして帰るのは心苦しい。朔は葛葉に反論の意志を示すが、それに対して葛葉は正論を返す。
「じゃあ女の方を探してそっちに加勢するか?そっちの方がまだ見込みはあるかもしんねーけど、その間に師走は殺られるかもな。」
「・・・・っ。」
葛葉の言うとおりだという事は理解出来る。朔自身も戦いたいわけではないし、運動神経だって良いという程でもない。出来れば今すぐにでもこの場から逃げ出したい。
だが、だからと言ってこの状況を見た後に逃げ出すのは躊躇われた。
何か良い策はないだろうか。考える朔は、ふと何かを閃いたように顔を上げた。
「そういえば、火は土より強いんだよな?」
「ああ。…言っとくが、今の俺は誰かさんのせいでまともに術が出ねーからな。」
まさか自分の力がアテにされているのでは。そう思った葛葉は眉根を寄せる。
そんな葛葉の発言を聞いてか聞かないでか、朔は葛葉へと視線を合わせて続けた。
「・・・・葛葉、あいつを倒せなくて良い。少しの時間だけ助けてくれない?」
「?」
◇◇◇◇◇
やはり元素の相性が悪い事が影響しているのか、両者の間に変化が生じ始めていた。佐久田は余裕を見せているのに対し、師走は肩で息をし始めている。
(チィッ。やはり分が悪いな。このままでは あずきとの合流も難しいか。)
師走はどうにか相手の隙を見てこの場をすり抜け、水無との合流を図れないかと思案していた。だがそれも上手く行かず。佐久田は上手く足止めをしている。
両者の闘いを見下ろしている隠神の配下の化け狸も、状況は自分達にとって優勢と見ているのか、涼し気な表情だ。
「・・・・神の従者、この程度か。」
少し呆れたようにも見える表情でため息を吐く。男がその場から立ち去ろうとしたその時、男の視界に何かが写った。
「あれは…。」
男が目を凝らした その瞬間、水の攻撃が佐久田を襲う。鋭い攻撃、『水矢』だ。それを見た男は目を見開いた。
水矢は師走の横を通り抜け、佐久田へと目掛けて放たれた。だが、佐久田はギリギリのところで攻撃を避けてしまう。
「あ~くそっ!」
師走は攻撃の元を辿るかのように慌てて振り返る。そこにいたのは、先程この場から立ち去ったはずの朔と葛葉だった。攻撃したのは勿論、朔である。二人の姿を見て、師走は目を丸くした。
悔しそうな声を上げながらも格好よく護符を構える朔に対し、葛葉はげんなりしている。
「どんくせーな。折角の不意打ち、最初で最後のチャンスだったってのに。」
「しょーがないだろ!初めて使うんだから!」
葛葉からの苦言に朔はムッとした表情を浮かべる。睨み合う二人に向かって師走は声を上げた。
「須煌!?何故戻って来た!」
師走の発言を聞いて、朔は師走の方へと目を向ける。そしてポリポリと頬を掻きながら思ったままの事を言った。
「やっぱり気になって…。後味悪そうな感じになったらヤだし。属性の相性、悪いんだろ?葛葉は火だし、俺は今 水の護符を持ってる。多少の手助けにはなるかなって。」
「フン。バカを言うな。いくら如月の護符を持っているとは言え、お前は素人だろう。妖狐も今はほとんど力がない。それならまだ猫の手を借りた方がマシだ。」
「・・・・のやろ…。」
雑魚の助けはいらんとばかりにプイッと顔を背ける師走。折角助けに来てやったのにその態度はなんだと、葛葉は苦笑いを浮かべる。だが、そんな二人には構わず、朔は至って冷静な声のトーンで続けた。
「俺には助ける程の力がない事ぐらい自分でも分かってるよ。だから少し、提案があるんだけど。」
「提案、だと?」
朔の言葉に師走は片眉を上げた。
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