妖かし行脚

柚木 小枝

文字の大きさ
12 / 34
第弐柱

第十一伝 『神の従者』

しおりを挟む
驚きを隠せない双葉。だがこれで全てが繋がった気がする。
何故朔が葛葉に狙われたのか。葛葉は朔を“従者”と勘違いしてしまったのだろう。
勿論、疑問は残る。何故朔が見えるのか。双葉は考え込んでしまう。

双葉が俯いて言葉を失っていると、それを見た朔が ぎょっとし、双葉へと目を向けた。


「俺、もしかしてヤバかった…?学校で空気に向かって話し掛けてる感じになってた、とか…。」


双葉は我に返る。朔そっちのけで思考の世界に入り込んでしまっていた。双葉は慌てて首を横に振る。


「えっ、ああ、ごめんなさい。学校での彼は実態を取るようにしてるみたいだから大丈夫よ。」


その言葉を聞いてホッと胸を撫でおろす朔。
朔の事は気にかかるが、今ここで考えても仕方がない。双葉はひとまず先程の話の続きを。妖かしについての説明を再開する。


「戦国時代には、人と妖かしとの争いも激化。けどそれも、戦乱の時代の幕引きと同時に終わりを告げたの。“神の従者かみのじゅうしゃ”、そう呼ばれる人間達の手によって、五大妖怪を封印。その事で全ての妖かし達が裏の世界へと送られたのよ。」
「封印して裏の世界へ送る…。」
「そう。この間のあの稲荷神社、あれは妖狐を封印した神社。」
「!」


まさしくファンタジー。おおよそ自分とは関わりのない世界ではあるが、何となく話を掴めてきた。先日葛葉に連れて行かれた稲荷神社。葛葉は執拗に封印の解除を求めていた。あれはただ妖かしを解放させたいのではなく、自分の身内の解放を願っての事だったのだろう。
葛葉はこうも話していた。『偉大なお狐様を、こんなちっぽけな神社に封じたままはおかしい。』と。
彼は彼の信念に基づいて。護るべき者の為に行動をしていたのではないだろうか。彼が未だ帰らず学校に通っている意味も何となく察した。

そして双葉は続ける。


「五大妖怪は…聞いた事ぐらいあるかもね。天狗、鬼、妖狐、化け狸、河童の五種族。」
「あ、知ってる!」
「妖かしの中でも特に力が強いと言われている上位の妖かし達、五大妖怪。天狗を中心に、その他四種族を東西南北に封印したの。」


朔は双葉の話を聞き、唸りながらも頷く。正直、現実離れしすぎていて信じ難い話ではあるが、葛葉との交戦を思い出せば納得は出来た。
そして先日の葛葉の言葉も思い出して質問で返した。


「で?その封印が弱まってるの?」
「ええ。」
「まぁ戦国時代っていうと…もう何百年も昔になるもんなぁ。そりゃ封印の一つや二つ、弱まるもん…なのか?」


言ってて疑問符が浮かんだ。封印ってそんな簡単なものなのか。ゆるっとしてるものなのか。それで良いのか。
どうせ封印するなら、二度と出ないようにきちんと封じるべきでは。

だがその質問に双葉は少し冷ややかな顔で例え話を用いて答える。


「経年劣化で水道の蛇口が緩くなって水漏れしてくるのと同じよ。」
「…その例えよ。」


分かりやすいと言えば分かりやすいが。
なんか身近過ぎて危機感が薄れた。

そして朔が何か思い出したように声を上げる。


「あ、そういえば今日って何処に向かってんの?」
「五番目の封印。河童が封印されてる沼に。」
「えぇっ!?なんでそんなところに俺を!?関わるなって言ったの誰だよ!?」


しれっと答える双葉に物申す。関わるなと言われたはずなのに、ガッツリ引きずり込まれている。しかも危険そうな場所に。
次のバス停で降りて引き返そうか。

そんな事を考える朔だが、それに対して双葉は真面目に理由を述べる。


「この間の一件があったから。あの妖狐が何か出来るとは思えないけど、他の妖かし達がどう動くかは分からない。私が沼に向かっている間に貴方が狙われないとも限らない。一緒にいる方が安全だと思って。」
「ああ、そういう事!…え、なんかごめん。」


まさかの自分の為だった。疑って申し訳なかった気持ちと、気遣わせて申し訳ない気持ちから謝る。
だが双葉は特にその謝罪は求めていなかったのか、聞いていないのか。少し考え込むように俯き加減になる。


「それに・・・・。」
「それに?」


少しの沈黙が降りる。
だがすぐに双葉が口を開いて頭を振った。


「・・・・いえ、何でもないわ。」
「?」


双葉の態度に気になるものはあったが、あまり深入りするのも気が引けたし、何より本人が言い淀んだ事を問い詰めるのも如何なものかと思い、朔は別の質問へと切り替えた。


「あとさ、訊いても良いのかな、神の従者って?如月さんもそうなの?」
「ええ。」


大分踏み込んだ質問をしてしまったが、双葉は答えてくれる。その事で朔も質問をしやすくなり、質問を重ねた。


「その、神の従者なら如月さんみたいに水を出せるって事?」
「まぁ…そうね、うちの家系はね。」
「家系?」


出てきた更なる質問に対し、答えるかどうか双葉は少し躊躇いを見せる。従者でない者に話して良いものか悩んだ為だ。だが、ここまで巻き込んでおいて黙秘とするのも悪いと思い、双葉は丁寧に答える。


「…この護符に自然の恩恵を受けて放つ術を“神術しんじゅつ”って言うの。そしてそれを扱える神の従者はいくつかの家系がある。その家系によって操れる自然、元素が異なる。うちの家系は水を司る家系。水の他に、火、風、地を司る家系があるわ。」
「あ、神様の力、自然の力を借りてるから神の従者って事?」
「そう。」


なるほど。確かに何かを祀る場合、大自然全てを祀るのではなく、火の神、水の神とそれぞれを祀っているところが多数。そして双葉の家系は水の神を崇める家系という事か。朔にとっては未知なる世界であるが、なんとなく理解を示す。

弱まりつつある封印、かつて妖かしを封印したとされる一族の末裔、そして今向かっている地は河童を封印したとされる沼。これらの指し示す解は…再び強固な封印を施すという事だろう。
一刻も早く対応しなければ、また葛葉のような輩が襲ってくるとも限らない。双葉の目的等も理解した朔だが、本気で住む世界が違い過ぎると思った。


◇◇◇◇◇


そして目的地、最寄りのバス停に着き、二人は下車する。都心から約一時間程バスに乗るだけで大分のどかな風景へと変わる。都会の喧騒から離れ、空気が気持ち良い。朔は大きく深呼吸した。
その時、近くでカサカサッと何かが動く気配を感じる。


「ん?」


人影だ。誰かいる。この停留所で降りたのは朔と双葉の二人だけ。周囲を歩く人の姿もない。妖しい。
朔は気付かないフリで影へと背を向けつつも、視線だけそちらにやって影を確認してみた。影は木の茂みからひょっこり顔を出す。

葛葉だった。


「・・・・・。」


下手くそすぎる尾行に、逆に言葉が出て来ない。念の為、葛葉には見えないよう注意を払いながら、そちらを指差し、呆れ顔で双葉の方へと向き直った。


「あの、如月さん、あれ…。」
「学校からずっとついて来てるわよ。」


やはり双葉も気付いていた。学校から、という事はバスの上にでも乗っていたのだろうか。それか妖かしとして姿を隠していたのか…。いずれにせよ二人の目的地的にも不安が過る。


「大丈夫?それ。」
「この間の一件以降、妖かしの力を失ってしまってるみたいだし、問題ないと思うわ。」


双葉がこう言うのなら。普通の人間と変わらないのならまぁいっか。朔はひとまず双葉の意見を素直に受け取り、葛葉の事は知らん顔して歩き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

翡翠の歌姫-皇帝が封じた声-サスペンス×中華×切ない恋

雪城 冴 (ゆきしろ さえ)
キャラ文芸
宮廷歌姫の“声”は、かつて皇帝が封じた禁断の力? 翠蓮は孤児と蔑まれるが、才能で皇子や皇后の目を引き、後宮の争いや命の危機に引きずり込まれていく。 『強情な歌姫』翠蓮(スイレン)は、その出自ゆえか素直に甘えられず、守られるとついつい罪悪感を抱いてしまう。 そんな彼女は、田舎から歌姫を目指して宮廷の門を叩く。しかし、さっそく罠にかかり、いわれのない濡れ衣を着せられる。 翠蓮に近づくのは、真逆のタイプの二人の皇子。 優しく寄り添う“学”の皇子・蒼瑛(ソウエイ)と、危険な香りをまとう“武”の皇子・炎辰(エンシン)。 嘘をついているのは誰なのか―― 声に導かれ、三人は王家が隠し続けてきた運命へと引き寄せられていく。 【中華サスペンス×切ない恋】 ミステリー要素あり/ドロドロな重い話あり/身分違いの恋あり

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...