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Ⅳ
ずっと……
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寝室までは、とにかく遠かった。
まるで、白い霧の中を歩いているようだった。その上この霧は、飽きることなくキスを繰り返す。
あったかくて、ふわふわしていて、いい匂いがする。
七緒の匂い……。
夢中になって応えているうちに、だんだん、意識が間遠になっていく。
気がついたら、スゥエットのズボンは下着とともにズレ落ち、上は剥ぎ取られていた。
額で、とん、と、胸を押された。溂は、ベッドに尻もちをついた。
すかさず、七緒がのしかかってくる。
「溂。溂」
うわ言のように言いながら、唇を割った。
舌が、口の中を這い回る。
ぬるぬると。
歩きながらではうまく触れられなかった場所も、満遍なく舐められた。
負けずに舌で出迎えようとすると、絡まり、吸われた。
口の端から涎が溢れた。溂の目が、とろんとしてくる。
ちゅっ、と音がして、口が離れた。
湿った口が、次第に下がる。
胸をまさぐっている。
溂は、はっと我に返った。
腹筋に力を込め、ぐいと起き上がる。
甘えるように胸に顔を埋めていた七緒が、びっくりしたように顔を上げた。
「溂。じっとしてて」
「違うだろ」
今日は。
今日だけは。
イニシアチブをとらねば。
「初めが肝心」
「なにそれ」
不満げに七緒が口を尖らせる。
下腹の辺りに乗っかっていた七緒を、溂は両手で抱えあげた。
ぽん、と、布団の上に据え直す。
七緒の羽は、腕の位置についている。体の下敷きになったら、折れてしまう。背中に回らないように気をつけながら、ゆっくりと仰向けに寝かせた。
白い胴が、むき出しになる。
息を呑む美しさだった。
「やだ、溂、この格好、」
ぱたぱたと、七緒が羽を動かした。小さな風が巻き起こる。
構わず胸に顔を埋めた。
小さな粒を口に含むと、息を呑む音がした。
羽の風が止んだ。
ころころ舌で転がす。どんどん硬く、尖ってくるのがわかる。
七緒の口から、甘い呻きが漏れ始めた。
少しずつ、下へずらしていく。
七緒の肉は薄く、骨格は華奢だ。その上、切なげなうめき声が聞こえる。
なんだかひどいことをしているような気がしてきた。
「やめないで」
下から哀願してくる。
「もっと。もっと!」
そこは、ちゃんと上向いていた。
少しだけ、先端を口に含む。
挨拶。
そんな感じに、ちょっとだけ。
口を離すと、七緒がむくれた。
「今日の溂は、意地悪だ」
「意地悪? なんで」
「すぐに止めちゃう」
「だって……」
いつものとおりにやってたら、お前、出ちゃうだろ。
七緒なら、ズバリと言うだろう。だがさすがに、溂にはそこまで言えなかった。
「わかった」
そう言って、上体を起こした。
「いいよ」
下から、思い切ったような声がした。
「え?」
「いいから」
「いい、って?」
真剣な目が見返していた。
暗がりの中、銀色にきらめいている。
まっすぐに溂を見つめ、七緒は言った。
「愛が深いほうが、受け容れるんだ」
「……はあ?」
「僕はオス。溂もオス。僕の方が、溂を愛している。だから……」
「……いや、いやいやいや。お前、何を言ってる?」
「挿れていいから」
生真面目な表情で、七緒は言った。厳粛な顔だった。
「本当は、溂、怖いんだろ? お風呂も長かったし。僕は、溂の嫌がることは、したくない」
「……っ!」
「大丈夫。平気だから。溂のなら、痛くない」
溂は真っ赤になった。
こいつ、どこまで天然なんだ……。
「僕のより小さいし」
「お前っ!」
「さあ、早く!」
両羽を横に広げて布団に張り付け、七緒は足を開いた。
屹立したそれが、目を瞠るほど白い。
「違うだろ、馬鹿!」
もう、我慢がならなかった。
「俺だって、負けないくらい、お前を愛している!」
問答無用で跨った。
自重で、めりめりと押し込まれていく。
悲鳴を上げたのは、七緒の方だった。
「溂。あ、あ、あ、溂っ!」
「……っ」
拡がる痛みと、熾火のように疼く快感と。
溂は下唇を噛み締めた。
「なな、お、」
「溂、好き……」
羽が、腰の後ろを、さわりとなでた。
ぞくりとした。
一番下まで沈んで、止まった。
……全部入った。
自分の体が、ほっと緩むのがわかった。
「好きだよ、ずっと」
無意識のうちに口走っていた。
ずっと、いままで。
ずっと、これからも。
溂は、上体を前に倒した。
七緒に縋るようにして、鳩尾の辺りに顔を埋めた。
「溂。……溂」
しばらくして、名を呼ぶ声が、胸郭を響かせて聞こえてきた。困ったような声だ。
「溂。痛い?」
「痛くない」
「気持ちいい?」
「うん? うん」
そんなこと、聞かないでほしかった。答えるのが恥ずかしい。
「僕……、動いていい?」
「え?」
否定したわけではない。でも、もう少し、このままでいたかった。
だが、七緒は、肯定の言葉と取ったようだった。いきなり、腰を突き上げてきた。
「ちょっ、」
振り落とされそうになり、慌ててしがみつく。
「溂。溂。溂」
叫ぶように名を呼びながら、突き上げてくる。
「や、ちょっと、な、」
ガクガクと揺さぶられ、言葉にならない。
両腕を七緒の腹に置き、かろうじて体を支えた。
溂の体重がかかるので、七緒は自由に動けなかったようだ。
一回、大きく腰を突き上げると、その勢いで、自分も起き上がった。
束の間、二人は、向き合った。
互いの目を覗き込み、どちらからともなく、唇を合わせた。
呼吸が激しく、深いキスはできない。
七緒の顔が切なげに歪んだ。
「抜かない。抜かないから」
言いながら、肩で、溂を後ろに押し倒す。
「ぐっ」
上からのしかかってきた。
溂の、ずっと深いところまで。
「ずっと……」
かすれた声でそう言って、七緒は、激しく動き始めた。
なにか、答えたい。
そう思ったけど、頭に浮かんだ言葉は、浮かんだ途端に、飛び散っていく。
……ぐちゃぐちゃだ。
七緒にかき回され、かろうじて、溂は思った。
両手を伸ばし、七緒の羽を捉えた。
内側の、柔らかい羽毛をぎゅっと握った。
うめき声が聞こえた。
一段と、七緒の匂いが強くなる。
柔らかく、温かい匂い……。
この香りに守られている気がした。
激しい波が突き上げてくる。
「溂、一緒に、」
絞り出すような声で、七緒が言った。
頷くのがせいいっぱいだった。
内と外とで、全てが弾けた。
溂は意識を手放した。
まるで、白い霧の中を歩いているようだった。その上この霧は、飽きることなくキスを繰り返す。
あったかくて、ふわふわしていて、いい匂いがする。
七緒の匂い……。
夢中になって応えているうちに、だんだん、意識が間遠になっていく。
気がついたら、スゥエットのズボンは下着とともにズレ落ち、上は剥ぎ取られていた。
額で、とん、と、胸を押された。溂は、ベッドに尻もちをついた。
すかさず、七緒がのしかかってくる。
「溂。溂」
うわ言のように言いながら、唇を割った。
舌が、口の中を這い回る。
ぬるぬると。
歩きながらではうまく触れられなかった場所も、満遍なく舐められた。
負けずに舌で出迎えようとすると、絡まり、吸われた。
口の端から涎が溢れた。溂の目が、とろんとしてくる。
ちゅっ、と音がして、口が離れた。
湿った口が、次第に下がる。
胸をまさぐっている。
溂は、はっと我に返った。
腹筋に力を込め、ぐいと起き上がる。
甘えるように胸に顔を埋めていた七緒が、びっくりしたように顔を上げた。
「溂。じっとしてて」
「違うだろ」
今日は。
今日だけは。
イニシアチブをとらねば。
「初めが肝心」
「なにそれ」
不満げに七緒が口を尖らせる。
下腹の辺りに乗っかっていた七緒を、溂は両手で抱えあげた。
ぽん、と、布団の上に据え直す。
七緒の羽は、腕の位置についている。体の下敷きになったら、折れてしまう。背中に回らないように気をつけながら、ゆっくりと仰向けに寝かせた。
白い胴が、むき出しになる。
息を呑む美しさだった。
「やだ、溂、この格好、」
ぱたぱたと、七緒が羽を動かした。小さな風が巻き起こる。
構わず胸に顔を埋めた。
小さな粒を口に含むと、息を呑む音がした。
羽の風が止んだ。
ころころ舌で転がす。どんどん硬く、尖ってくるのがわかる。
七緒の口から、甘い呻きが漏れ始めた。
少しずつ、下へずらしていく。
七緒の肉は薄く、骨格は華奢だ。その上、切なげなうめき声が聞こえる。
なんだかひどいことをしているような気がしてきた。
「やめないで」
下から哀願してくる。
「もっと。もっと!」
そこは、ちゃんと上向いていた。
少しだけ、先端を口に含む。
挨拶。
そんな感じに、ちょっとだけ。
口を離すと、七緒がむくれた。
「今日の溂は、意地悪だ」
「意地悪? なんで」
「すぐに止めちゃう」
「だって……」
いつものとおりにやってたら、お前、出ちゃうだろ。
七緒なら、ズバリと言うだろう。だがさすがに、溂にはそこまで言えなかった。
「わかった」
そう言って、上体を起こした。
「いいよ」
下から、思い切ったような声がした。
「え?」
「いいから」
「いい、って?」
真剣な目が見返していた。
暗がりの中、銀色にきらめいている。
まっすぐに溂を見つめ、七緒は言った。
「愛が深いほうが、受け容れるんだ」
「……はあ?」
「僕はオス。溂もオス。僕の方が、溂を愛している。だから……」
「……いや、いやいやいや。お前、何を言ってる?」
「挿れていいから」
生真面目な表情で、七緒は言った。厳粛な顔だった。
「本当は、溂、怖いんだろ? お風呂も長かったし。僕は、溂の嫌がることは、したくない」
「……っ!」
「大丈夫。平気だから。溂のなら、痛くない」
溂は真っ赤になった。
こいつ、どこまで天然なんだ……。
「僕のより小さいし」
「お前っ!」
「さあ、早く!」
両羽を横に広げて布団に張り付け、七緒は足を開いた。
屹立したそれが、目を瞠るほど白い。
「違うだろ、馬鹿!」
もう、我慢がならなかった。
「俺だって、負けないくらい、お前を愛している!」
問答無用で跨った。
自重で、めりめりと押し込まれていく。
悲鳴を上げたのは、七緒の方だった。
「溂。あ、あ、あ、溂っ!」
「……っ」
拡がる痛みと、熾火のように疼く快感と。
溂は下唇を噛み締めた。
「なな、お、」
「溂、好き……」
羽が、腰の後ろを、さわりとなでた。
ぞくりとした。
一番下まで沈んで、止まった。
……全部入った。
自分の体が、ほっと緩むのがわかった。
「好きだよ、ずっと」
無意識のうちに口走っていた。
ずっと、いままで。
ずっと、これからも。
溂は、上体を前に倒した。
七緒に縋るようにして、鳩尾の辺りに顔を埋めた。
「溂。……溂」
しばらくして、名を呼ぶ声が、胸郭を響かせて聞こえてきた。困ったような声だ。
「溂。痛い?」
「痛くない」
「気持ちいい?」
「うん? うん」
そんなこと、聞かないでほしかった。答えるのが恥ずかしい。
「僕……、動いていい?」
「え?」
否定したわけではない。でも、もう少し、このままでいたかった。
だが、七緒は、肯定の言葉と取ったようだった。いきなり、腰を突き上げてきた。
「ちょっ、」
振り落とされそうになり、慌ててしがみつく。
「溂。溂。溂」
叫ぶように名を呼びながら、突き上げてくる。
「や、ちょっと、な、」
ガクガクと揺さぶられ、言葉にならない。
両腕を七緒の腹に置き、かろうじて体を支えた。
溂の体重がかかるので、七緒は自由に動けなかったようだ。
一回、大きく腰を突き上げると、その勢いで、自分も起き上がった。
束の間、二人は、向き合った。
互いの目を覗き込み、どちらからともなく、唇を合わせた。
呼吸が激しく、深いキスはできない。
七緒の顔が切なげに歪んだ。
「抜かない。抜かないから」
言いながら、肩で、溂を後ろに押し倒す。
「ぐっ」
上からのしかかってきた。
溂の、ずっと深いところまで。
「ずっと……」
かすれた声でそう言って、七緒は、激しく動き始めた。
なにか、答えたい。
そう思ったけど、頭に浮かんだ言葉は、浮かんだ途端に、飛び散っていく。
……ぐちゃぐちゃだ。
七緒にかき回され、かろうじて、溂は思った。
両手を伸ばし、七緒の羽を捉えた。
内側の、柔らかい羽毛をぎゅっと握った。
うめき声が聞こえた。
一段と、七緒の匂いが強くなる。
柔らかく、温かい匂い……。
この香りに守られている気がした。
激しい波が突き上げてくる。
「溂、一緒に、」
絞り出すような声で、七緒が言った。
頷くのがせいいっぱいだった。
内と外とで、全てが弾けた。
溂は意識を手放した。
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