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16歳ではない

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「……いや、だから、ね」

 お返しとばかり、七緒は、再び溂のバックルを舐め回し始めた。
 時折、あせったように、金具の部分に噛み付いている。
 バックルから垂れた唾液が、ズボンを濡らし始めた。

「いくらなんでも、これ以上はまずい」

 脇に手を差し入れ、立たせた。
 溂は16歳ではない。
 我慢ということを知っている。
 それに……。

 鳥と人間ということは、もう、どうでもよかった。
 七緒には、理性も感情も、つまり、心がある。
 そして、ちゃんと、気持ちが通じ合っている。

 ただ。
 溂が気になっているのは……。
 ……。

 七緒は、不服そうに、羽をばさばささせた。
 羽で覆われているから、万が一、誰か来ても、外からは見えない。だからいいじゃないか、というわけだ。

「いや、廃寺だけど、ここは一応、境内だからさ、」
 ばさ、ばさ。

「こらっ、やめっ! これ以上、ここでしたら、仏の罰が当たるぞ」
 ばさばさばさ。

 「七緒」
改まった声で、溂は言った。
「お前、しゃべれるんだろ? 言いたいことがあったら、自分の口で言ったらどうだ?」

「……」
七緒はじっと溂の顔を見つめた。

「自分で。自分の言葉で」
「……」

 まっすぐに見つめてくる七緒の目を、溂は、負けずに見返した。

「前に、きなりちゃんと一緒に、朝飯、食った時、お前、顔を赤くしたろ? 俺が、同じ箸で食べようか、って言ったら」

 フロレツァールには言葉がない。人間の言葉も理解しないといわれている。
 でも溂は、随分前から、七緒には、言葉が通じていると気がついていた。
 ただそれが、本当に「言葉」として理解されているのか、人間の感情を読んでいるだけなのか、いまひとつ、わからなかった。


 あの朝。
 溂は、単に、同じ箸で食べたら便利かな、くらいの意味で言ったのだ。
 決して、性的な意味を含ませたわけではない。
 それなのに、七緒は、ひどく照れたように、顔を赤らめた。
 だから、確信した。
 七緒は、感情を読んでいるのではない。
 ちゃんと言葉を理解しているのだ、と。


「言葉がわかるだけじゃない。お前、しゃべれるんだろう?」

 ……ら……つ……。
 ……す、き。
 ついさっき、七緒は、夢中で口走っていた……。



 「溂。好き」
溂を澄んだ瞳で見つめ、はっきりと、七緒は言った。
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