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Ⅱ
プラチナ・ブロンドの髪
しおりを挟む「うおっ! なんだ、その鳥は! なんでそいつまで連れてきたんだ!」
インターフォンに応えて出てきた敬介は、悲鳴に近い声を上げて、飛び退いた。
ここは、郊外の、敬介の家。
溂と同じ年齢でいながら、敬介は、一戸建てに住んでいる。
30年ローンを組んで買ったんだそうな。
愚かなことだと、その話を聞かされた時、溂は嘲ったものだ。
でも、それがまさか、自分の役に立つなんて。
「しょうがないだろ。橋が落ちちまったんだから」
溂は言って、わナンバーの車から、七緒を降ろした。
ようやく狭い車から外に出ることができた七緒は、ぐうーーーっと、羽を広げた。白い羽が、太陽の光をいっぱいに受けて、輝いている。
「橋が? 落ちた?」
「うん。吊橋が落ちてね……、」
敬介には先に、家に寄ると連絡してあった。車の運転をしなければならないのと、時間がおしているのとで、必要なことだけしか伝えていなかった。七緒を連れていく、詳しい経緯は、説明はしていない。
溂が説明を始めた時、再び玄関のドアが開いた。
「きゃあっ!」
叫び声が聞こえる。
敬介の妻の由実さんが、もうすぐ1歳になる娘のきなりちゃんを抱いて立っていた。
「まあ! 素敵な鳥さんねえ。真っ白で……とてもイケメン」
由実さんがうっとりとつぶやいた。
「きゃあっ! きゃあっ!」
由実さんの腕の中から、きなりちゃんが、身を乗り出すようにして手を伸ばしている。
本当に、腕から落ちてしまいそうだ。
つん、と、七緒はそっぽを向いている。
憤然と、敬介が言い返した。
「あのな、由実。白くてきれいに見えても、こいつはな。本当はとても腹黒い鳥で……」
「きゃあっ!」
「パパは、間違ってまちゅよねえ。きれいきれいの鳥さんでちゅよねえ」
「きゃあ!」
「き、きなりまで……」
敬介は絶句した。
すぐに妻子に向かい、説教を始める。
「いいか。鳥は見かけで判断しちゃ、いけないんだ。よく見ろ。あの、邪悪な灰色の目を!」
「銀色のきれいな瞳だわ。少し青みがかかってるのが、すてき」
「髪の毛だって、総白髪じゃないか!」
「こんな純粋なプラチナ・ブロンドって、私、初めて見たわ!」
「そうだ! 髪の毛だ! こいつ、俺の大切な髪の毛を、がっつり一掴み、引き抜きやがったんだぞ?」
「あら、そう? あなたのは、毎日大量に抜けてるんだから、少しくらい余計に抜けても、大勢に影響はないわよ」
「おおありだ! 俺は、きなりがものごころつくまで、自分の髪を、温存したいんだ!」
「ああ、若くて髪のあるパパとして、きなりの記憶に残りたいわけね。頑張ってね」
心の全くこもっっていない声で、由実さんは言った。
溂と七緒を見て、にっこりと笑った。
「ねえ、立ち話もなんだから、おうちにお入りなさいな」
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