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せめてパンツくらい穿いて欲しい

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 次の問題は、衣服だった。
 翼と尾羽のせいで、人間の服が、着られないのだ。

 時折、真夏のような日がぶり返すとはいえ、基本、朝夕は寒い。前の日より、10度以上も下がる日もある。
 幼い生き物を、裸で放置しておくのは、心配だった。
 羽があるのだから、凍死はしなかろうが、風邪くらいは引くかもしれない。
 だが、その羽があるせいで、人間の服は、無理そうだった。わきの部分が入らないのだ。

 それで、溂は、自分の服の脇を切り裂いて、被せてやった。少なくともこれで、腹と背中は覆えた。
 ところが、七緒はいやがって、すぐに脱ぎ捨ててしまう。
 あいかわらず、素裸で、家じゅう、飛び回っている。
 羽と足はともかく、ぱっと見、人間の姿をしている。
 せめて、パンツくらいは、履いてほしかった。

 抑えつけて、無理やりパンツを履かせようとして、溂は、途方に暮れた。
 今度は、尾羽が邪魔になるのだ。
 尾羽は、ヒトでいう尾てい骨の辺りから、長く生えていた。
 ちょうど、パンツのゴムが来る辺りだ。

 尾羽を、パンツの外に出してみた。すると、パンツそのものがずり落ちてしまう。そうかといって、尾羽全体を、パンツの中に収め……られるわけがない。

 考えた末、ふんどしならどうかと、思い至った。
 これなら、尾羽を避けて紐を回すことができる。

 さっそく、インターネットで、越中ふんどしというものを取り寄せた。

 包みを解いていると、七緒がもの珍しそうに寄ってきた。
 すかさず捕まえて、ふんどしを、巻き付けてみた。
 状況が理解できないのか、七緒は、きょとんとした顔をして、されるがままだ。

 「いいぞ。よく似合うぞ」
 七緒を、ぽん、と押しやり、溂は言った。

 本当は、かなり滑稽な仕上がりだったが、溂はほめそやした。
 なにしろ、七緒がひっきりなしに動くものだから、紐はずれ、前に垂らした布は、右上がりになってしまっている。
 おまけに、後ろからは、長い尾羽をひきずっている。
 粋、というにはほど遠い。

 だが、とりあえずふんどしは、七緒の腰に、巻き付いていた。社会通念上、出してはいけないものも隠してくれる。
 それだけでも、大成功だった。

 ほめられて、七緒は、ちょっと得意そうな顔をした。


 もっとも彼は、肌に何かをつけることそのものが嫌いなようだった。
 柱や家具にすりつけて、すぐに解いてしまう。


 褌にヒントを得て、上に着る服も、溂が自作してみた。
 自作といっても、簡単なものだ。
 大きな四角い布を、ひし形に置いて、上と真ん中辺に、紐を縫い付けるのだ。

 七緒の胸から腹にかけて布を当てる。紐は、首の後ろと、背中の二か所で結ぶ。
 大き目のよだれかけのようなものだ。昔話で、金太郎が着ているような、腹掛けである。
 少なくともこれで、腹が冷えることはなかろう。

 せっかく作ってやったのに、もちろんこれも、七緒の気に入らなかった。
 何度着せても、光の速さで脱ぎ捨てる。
 せいせいとした顔で、素っ裸で、飛び回っている。
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