上 下
61 / 64

ラスボス

しおりを挟む
 「なぜ? なぜ、いつも俺?」
誰かが文句を言っている。

「いいからさっさと治療しろ!」
別の誰かの命じる声。強い焦燥を感じる。

「こんなのかすり傷だ。とっくに治ってるよ!」
 最初の誰かが蹴飛ばした。

「何をする!」
激しい怒声。
「俺に何をするのも自由だ。今までだって、好きにやらせてきた。俺のゾンビ兵を操ることさえ黙認してきた。だか、シグに手を出すことだけは許さない」
「許すも何も、シグモントは完全に元通りだ。わかってるだろ」

 ヴァーツァのゾンビ兵を操った者がいる?
 そしてヴァーツァはそのことを知っていた?
 知っていて、唯々諾々と背中を切らせたというのか? 

 呻き、俺は目を開いた。

「シグ!」

 豪華な金色の髪が覆いかぶさってきた。ヴァーツァだ。ヴァーツァが俺を抱きしめていた。

「馬鹿だな、シグ。俺を庇って……君が死んだら、俺は生きていけないんだ。そこのところを、君はちっともわかってない」

「ちが、……。あなた……の、方が……だいじ」

 うまく口がきけない。
 途切れ途切れになんとか伝えると、ヴァーツァは号泣した。


「いい加減、見せつけるの、やめてくれる?」
 ずけずけと言ってくるやつがいる。
「もう君は治ってるよ。傷は完璧に治癒させておいてやった。恩に着るがいいよ」

「何を言うか! シグに万が一のことがあったら、お前といえど、決して許さない!」

 ヴァーツァの怒りの波動が伝わる。ダメだよ、ヴァーツァ。そんなに怒ったら。

「あれは、事故だっていったろ! 誰がこんな魅力のないのをわざわざ……。僕が狙ったのは、兄さんだ!」

 やっぱり……。
 妙に納得した。

 召喚されたゾンビ兵は、最初、何の気配も漂わせていなかった。気配……エクソシストが感じる、負の怨念だ。彼は全くの死骸、ただのゾンビだった。

 それなのに、最後の一瞬、凄まじい瘴気が立ち昇った。それは、よく知る人の気配だった。俺はこの「気」を良く知っている……。

「バタイユ……やっぱり君だったのか」

「ああ、シグ。良かった。気がついたか」
 俺を抱きしめたヴァーツァの腕の力が強くなる。

「そだよ。僕だよ」
バタイユが笑った。何も知らなければ、天使のような少年の笑顔だ。
「僕の白魔法は完璧だからね。もうすっかり元通りのはずだ。それどころか、前より調子がいいんじゃないか? いつまでも僕の兄さんに、甘えてるんじゃない」

 強引にヴァーツァから引き離そうとする。
 けれどヴァーツァがそれを許さなかった。俺に触れたバタイユの手を叩き落とす。

 俺は自分でヴァーツァの腕をほどき、起き直った。
 本当だ。肩の激痛が消えている。

「シグ……」
 言いかけたヴァーツァを留め、バタイユに向き直った。

「傷を治してくれてありがとう」
「うん。あれは結構な致命傷だったね」

 その傷を負わせた黒幕は誰だと言いたい。けれど、バタイユに常識は通用しない。だったらこちらも、聞きたいことを聞くまでだ。

「なぜ君は、ヴァーツァを殺そうとしたんだ? しかも、二度も」
 戦闘の時と。
 そして、ついさっき。

 バタイユの瞳が赤く輝いた。

「決まってるだろ。どちらも同じさ。移り気な兄さんを、これ以上、人目にさらさない為だ。まったく、君は番犬として失格だな、シグモント。兄さんがアンリ陛下と接触することを、妨害できなかったなんて」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

そんな裏設定知らないよ!? ~脇役だったはずの僕と悪役令嬢と~

なつのさんち
ファンタジー
※本作は11月中旬に書籍化される事となりました。それに伴いまして書籍収録該当分がレンタルへと差し替えとなります。よろしくお願い致します。  長く続いた闘病生活の末、僕は自分自身気付かないままその生を終えていた。そして前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した。よちよちと歩き、美少女メイドとの触れ合いを楽しんでいる折に僕は気付く。  あれ、ここゲームの世界じゃない……? え、僕ってすぐに死ぬ脇役じゃない? でもそんなの関係ねぇ! あの憧れの悪役令嬢がこの学園都市にいるんだ、頑張ってお近付きになって、アンヌを悪役令嬢にならないように育て直してあげなければ!! そして正統派ヒロインとして勇者と幸せになるよう導いてあげよう!!!  え? 王家の血筋!? 両親がロミジュリ!!? 大精霊との契約が何だって!!!?  そんな裏設定知らないよ!?  本作品は小説家になろうにて連載・完結したものに若干の加筆修正をした内容となっております。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

処理中です...