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ゾンビ軍
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※ヴァーツァが語る、戦闘の様子です
当時はまだ、第一王子のアンリは即位しておらず、「殿下」と呼ばれています
________________
蛮族が、ペシスゥスの国境を脅かしていた。
しかし、軍が到着した国境の村、エシェクに、敵の姿はなかった。
「前衛軍は本体から離れ、西へ向かえ」
第一王子で、鎮圧軍総司令官でもあるアンリは命じた。
前衛軍は、ヴァーツァ・カルダンヌ公爵率いる精鋭部隊だ。
ヴァーツァは、自分の軍がアンリのそばを離れることに反対した。
「分遣は、軍の力を弱めます」
「確かにお前は正しい、ヴァーツァ。だがそれは、軍人の考え方だ」
恐れもせずに上官を諫めるヴァーツァに、第一王子アンリは首を横に振った。
「俺は、王族だ。国家経済について考えなければならない。軍を維持するには金がかかる。早急に敵を見つけ出し、たたく必要がある」
「しかし! 軍を弱体化すべきではありません」
「お前の言いたいことはよくわかる、ヴァーツァ。だが、俺は弱虫ではない。西へ行くのだ。敵を見つけ出せ」
「私には殿下のおそばでお守りする義務があります!」
「忘れたか。上官の命令は絶対だ!」
辺りは霧に覆われていた。
ヴァーツァの軍が西へ向けて出発してすぐ、霧が晴れた。ペシスゥス軍は、蛮族の大軍に対面していた。
「あれは、砲撃の音だ」
駐屯地を出ていくらもしないうちに、ヴァーツァは馬を止めた。飛び降りて大地に耳を押し付ける。
「間違いない。大砲の発射音だ。アンリ殿下の軍が襲われている。エシェク村へ戻るぞ」
「ですが、アンリ殿下は西へ向かえと……」
おずおずと副官が意見した。軍では上官の命令は絶対だ。総司令官であるアンリ殿下の命令に逆らって戻れば、軍法会議に問われてしまう。
「その殿下の軍が襲われている。俺は戻る。ついて来れる者はついてこい!」
言い終わった時には、彼を乗せた馬は、素晴らしいスピードで走り始めた。
副官たちは慌てて後を追ったが、その差は開くばかりだ。歩兵たちに至っては置いてけぼり状態だった。
「俺は一足先に戻る。エスリングス、前衛軍をまとめて連れて来い」
振り返り、副官に向かってヴァーツァは叫んだ。
敵を迂回する為、ヴァーツァは大きく南下してエシェク村へ戻った。途中、険しい山道があり、騎馬兵たちはそこで、上官を見失った。岩場を馬が嫌がり、ついていくことができなかったからだ。
死霊使いのヴァーツァには、テイマーとしての素質もあった。彼が命じれば、馬は決して逆らわない。
部下たちをすべて置き去りにして、ヴァーツァはただ一人、エシェク村の司令部に到着した。アンリ殿下の前へ伺候する。
「帰って来てくれたか、ヴァーツァ」
アンリの顔色は悪かった。それでも、部下であり親友でもある男の姿を見て、ほっとした表情を隠せなかった。
「私は貴方の盾です」
ヴァーツァは答えた。二人の間は、それで十分だった。
辺りは暮れかけていた。
「午前中の戦いで、親衛隊は切り崩されてしまった。再編には時間が掛かる」
せかせかと辺りを歩き回りながらアンリが言う。
「私が前へ出て、敵を引き付けましょう」
ヴァーツァは申し出た。
「その間に、わが軍の後方で軍を再編なさいませ」
「引き付ける? どうやって? 兵士が足りない」
ヴァーツァの前衛軍はまだ帰り着いていない。今頃は徒歩で山越えをしているだろう。
「お忘れでございますか、殿下。私には絶対服従の兵士たちがおります。彼らは死をも恐れません。なぜなら……」
最後まで言う必要はなかった。今回の戦いで、敵味方ともに、大勢の死者が出ていた。彼らをそのまま再利しようというのだ。ネクロマンサーの魔力で。
アンリの目が輝いた。
「やってくれるか、ヴァーツァ」
「お任せください、殿下」
当時はまだ、第一王子のアンリは即位しておらず、「殿下」と呼ばれています
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蛮族が、ペシスゥスの国境を脅かしていた。
しかし、軍が到着した国境の村、エシェクに、敵の姿はなかった。
「前衛軍は本体から離れ、西へ向かえ」
第一王子で、鎮圧軍総司令官でもあるアンリは命じた。
前衛軍は、ヴァーツァ・カルダンヌ公爵率いる精鋭部隊だ。
ヴァーツァは、自分の軍がアンリのそばを離れることに反対した。
「分遣は、軍の力を弱めます」
「確かにお前は正しい、ヴァーツァ。だがそれは、軍人の考え方だ」
恐れもせずに上官を諫めるヴァーツァに、第一王子アンリは首を横に振った。
「俺は、王族だ。国家経済について考えなければならない。軍を維持するには金がかかる。早急に敵を見つけ出し、たたく必要がある」
「しかし! 軍を弱体化すべきではありません」
「お前の言いたいことはよくわかる、ヴァーツァ。だが、俺は弱虫ではない。西へ行くのだ。敵を見つけ出せ」
「私には殿下のおそばでお守りする義務があります!」
「忘れたか。上官の命令は絶対だ!」
辺りは霧に覆われていた。
ヴァーツァの軍が西へ向けて出発してすぐ、霧が晴れた。ペシスゥス軍は、蛮族の大軍に対面していた。
「あれは、砲撃の音だ」
駐屯地を出ていくらもしないうちに、ヴァーツァは馬を止めた。飛び降りて大地に耳を押し付ける。
「間違いない。大砲の発射音だ。アンリ殿下の軍が襲われている。エシェク村へ戻るぞ」
「ですが、アンリ殿下は西へ向かえと……」
おずおずと副官が意見した。軍では上官の命令は絶対だ。総司令官であるアンリ殿下の命令に逆らって戻れば、軍法会議に問われてしまう。
「その殿下の軍が襲われている。俺は戻る。ついて来れる者はついてこい!」
言い終わった時には、彼を乗せた馬は、素晴らしいスピードで走り始めた。
副官たちは慌てて後を追ったが、その差は開くばかりだ。歩兵たちに至っては置いてけぼり状態だった。
「俺は一足先に戻る。エスリングス、前衛軍をまとめて連れて来い」
振り返り、副官に向かってヴァーツァは叫んだ。
敵を迂回する為、ヴァーツァは大きく南下してエシェク村へ戻った。途中、険しい山道があり、騎馬兵たちはそこで、上官を見失った。岩場を馬が嫌がり、ついていくことができなかったからだ。
死霊使いのヴァーツァには、テイマーとしての素質もあった。彼が命じれば、馬は決して逆らわない。
部下たちをすべて置き去りにして、ヴァーツァはただ一人、エシェク村の司令部に到着した。アンリ殿下の前へ伺候する。
「帰って来てくれたか、ヴァーツァ」
アンリの顔色は悪かった。それでも、部下であり親友でもある男の姿を見て、ほっとした表情を隠せなかった。
「私は貴方の盾です」
ヴァーツァは答えた。二人の間は、それで十分だった。
辺りは暮れかけていた。
「午前中の戦いで、親衛隊は切り崩されてしまった。再編には時間が掛かる」
せかせかと辺りを歩き回りながらアンリが言う。
「私が前へ出て、敵を引き付けましょう」
ヴァーツァは申し出た。
「その間に、わが軍の後方で軍を再編なさいませ」
「引き付ける? どうやって? 兵士が足りない」
ヴァーツァの前衛軍はまだ帰り着いていない。今頃は徒歩で山越えをしているだろう。
「お忘れでございますか、殿下。私には絶対服従の兵士たちがおります。彼らは死をも恐れません。なぜなら……」
最後まで言う必要はなかった。今回の戦いで、敵味方ともに、大勢の死者が出ていた。彼らをそのまま再利しようというのだ。ネクロマンサーの魔力で。
アンリの目が輝いた。
「やってくれるか、ヴァーツァ」
「お任せください、殿下」
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