柩の中の美形の公爵にうっかりキスしたら蘇っちゃったけど、キスは事故なので迫られても困ります

せりもも

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よくできました

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 「ありがとう」
紅茶を注いでくれたメイドさんにヴァーツァが言った。
「今日はもういいから、君も向こうで休むといい」

 深々と一礼し、メイドは去っていった。

「どうだい、シグ。こんな感じでいいのかな?」
 ドアが閉められるとヴァーツァが尋ねた。
「上出来ですよ、カルダンヌ公」
「ヴァーツァ」
「よくできました、ヴァーツァ」
 彼の顔がぱっと明るくなった。まるで少年のような笑みを浮かべている。

 あれから彼は、使用人たちに対し、礼儀正しく接するようになった。もう、理不尽に「消」そうとしたり、不意に頭を切り落とすこともない。指示の出し方も、高飛車な命令口調ではなく、マイルドになった。

「なら、今夜は一緒に寝てくれる?」
上目遣いに俺を見て来る。
「馬鹿お言いなさい」
ぴしゃりと言い放った。
「僕は貴方のお客なんですよ? ちなみに客だと言ったのは貴方ですからね」

 前に一度、うっかり昼寝してしまってベッドに引きずり込まれたことがあった。彼は横向きに寝て、俺をしっかり抱きしめていた。が、あれは事故だったんだ。美しい彼の隣で寝るなんて、心臓に悪すぎる。

 それなのにヴァーツァは、まるで既得権を得たように、俺をベッドに誘おうとする。そりゃ、今ここにはゾンビと吸血鬼の他は、俺しかいないわけだけど。

 ちなみに彼は、バタイユに濡れ場を見られても平気だと豪語している。俺は全然、平気じゃない。あのブラコンにを抑えられたら、生きてここから出られる気がしない。

 それに、そんな風になし崩しに関係をもってしまったら、傷つくのは俺自身だ。だって、この島を出たら、ヴァーツァにはそれこそ、より取り見取り、手あたりしだいに相手が現れるだろう。もしかしたら、もう誰かいるのかもしれない。だって彼は、何度も、バタイユにのだから。
 ヴァーツァの一時的な退屈凌ぎにはなるべきではない。

「それで、ヴァーツァ。俺はそろそろ……」
帰りたい、と言おうとした時だ。
「うぐっ! 傷が痛い!」
突然、ヴァーツァが蹲った。
「えっ!」
 自分の顔色が変わるのがわかった。慌てて駆け寄る。

「痛い痛い痛いぞ」
「だ、大丈夫ですか?」
「療養箱から出るのが早すぎたのだ。だからまだ、時折、傷が痛む」

 紫の瞳が下から見上げている。ぞくっとするほど妖しく美しい。
 ……これは、獲物を狙う目。
 はっきりとわかった。自分がになりかけていることも。

 ヴァーツァは胸を抑えていた。
 ははん、と思った。
 なかなか治らない傷は、胸にあるわけではない。とうの昔に、俺は気がついていた。

「ヴァーツァ。貴方、嘘をついてるでしょ?」
「嘘? ひどいことをいう。こうなったのは全て、君のせいなんだぞ。君が俺にキスをし……」
「わかりました!」

 悲鳴のような声で遮った。
 これを言われると弱い。しかし、何度も言うようだが、俺がキスをしたのはガラスの蓋であって、ヴァーツァにではない。




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