柩の中の美形の公爵にうっかりキスしたら蘇っちゃったけど、キスは事故なので迫られても困ります

せりもも

文字の大きさ
上 下
31 / 64

射掛けられた矢

しおりを挟む
「悠斗くん、体調はどう?」

 悠斗くんが熱を出して一晩が経った。
 昨日よりかは顔色も良くなっている気がする。

「昨日よりかはだいぶ良くなったよ。小春のおかげだ」
「それなら良かった。一応体温計ってね」

 私は手に持っている体温計を悠斗くんに渡す。
 三十八度を下回っていれば嬉しいんだけど……
 待つ事数秒、体温を計り終えた悠斗くんは私に体温計を渡してきた。

「うん。結構下がったね」

 体温計には三十八度丁度と表示されている。
 
「でもまだ治っては無いから安静にしなきゃダメだからね!」
「うん。分かってる」

 私は悠斗くんに毛布をかけながら言う。

「食欲はある? あるなら今日はお粥じゃなくて違うの作るよ?」
「食欲は昨日よりもあるかな。小春に任せるよ。簡単なもので良いからね」
「じゃあ今日は饂飩《うどん》にしようか。今から作って来るね」

 私はキッチンへと向かい、冷凍の饂飩を取り出し料理した。
 毎日お粥だったら飽きちゃうもんね。早く治ってほしいけど、いつ治るか分からないし、もしかしたらまた上がってきちゃうかもしれないもん。
 冷凍の饂飩は直ぐに作れる、だから直ぐに持っていける。

「悠斗くん、できたよ。冷凍の饂飩だけど、ごめんね」
「ありがとう。そんな、謝らなくても良いよ簡単なもので良いって言ったのは俺だし。それに俺は作ってもらってる側なんだから」

 私は悠斗くんのベッドの横にミニテーブルを設置して、そこに饂飩を置いた。

「ちょっと待ってね。ふー、ふー。はい、あーん」
「じ、自分で食べれるよ」

 せっかくあーんしてあげようと思ったのに、悠斗くんに断られちゃった。
 結構勇気出したのに……

「え⁉」

 私が落ち込んでいることに気づいたのか、悠斗くんは私が差し出している饂飩を食べてくれた。
 やっぱり悠斗くんは優しい。

「うん。美味しい。ありがとね、小春」

 悠斗くんは笑顔でお礼を言ってくれた。
 
「れ、冷凍の饂飩なんだから誰でも美味しくできるよ」

 私は嬉しさを抑えて笑いながらそう言う。
 
「小春が作ってくれたから美味しいんだよ。好きな人が作ってくれたものはなんでも美味しいんだよ」

 急にそんなこと言われて照れないでいるなんて私には無理だった。
 私も熱が出たのではないかというほど顔が赤くなって熱くなる。

「ん? どうかしたの? 顔赤いけど」
「な、なんでもないよ」
「まさか小春も体調悪くなったの⁉ もしかして俺が移しちゃった⁉」

 顔が赤くなったのは悠斗くんのせいだけど……でも熱も多分ないと思う。体も重くないし頭痛も無いから。

「だ、大丈夫だよ。本当に熱ないから」

 私は両手を振りながら否定する。

「本当に? でも本当に移しちゃったらダメだから後は自分で食べるよ。ありがとう」
「う、うん。じゃあ私リビングに居るから、何かあったら読んでね。早く治してね」

 そう言って私はリビングに向かった。
 
「私も熱だして悠斗くんに看病してほしいな……」

 悠斗くんが熱を出して苦しんでいるのにそんな事言っちゃダメなのは分かってる。分かってるはずなのに言ってしまった。
 熱を出して弱ってる私のためにお粥作って私に食べさせてほしいもん……
 でも、悠斗くんの熱が治っていつも通りこのリビングで、このソファーで二人で並んで座って、笑い合って話したい。
 それが今の私の一番の理想。

「明日には治っててほしいな……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

処理中です...