柩の中の美形の公爵にうっかりキスしたら蘇っちゃったけど、キスは事故なので迫られても困ります

せりもも

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使用人の復活

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 約束通り、ヴァーツァは使用人たちを蘇らせた。嬉しいことに、それだけの体力が回復していたのだ。

 次の日。
 俺はうやうやしくドアをノックする音で目が覚めた。
 メイドが顔を洗うお湯を持ってきてくれたのだ。普通のメイドさんで、腐ってもいなければ白骨化もしていない。顔色だって普通だ。
 ひとまずほっとした。

「おはようございます、シグモント・ボルティネ様」
 若干表情に乏しいが、朝の挨拶もきちんとしてくれた。
「朝食の準備が整いましてございます。それともここにお運びしますか?」
 そんな手間をかけさせるわけにはいかない。
「すぐに行きます」
俺は答えた。
「では、お着替えを」
「大丈夫です」

 貴族は、使用人がいないと着替えることができない。彼らの衣装は複雑だから。だが俺は庶民だ。衣服だって簡素なものだ。
 それに、女性のメイドさんに着替えさせてもらったら、悪いだろ? 死んでてもさ。

 食堂に下りていくと、すでにヴァーツァがテーブルについていた。
「なにをきょろきょろしてるんだい?」
 俺が向かいの席に座ると、パンを千切りながら尋ねてきた。
「いや……白骨のメイドさんがいるんじゃないかと思って」
 地下室で俺が見たのは、白骨化した死体だった。あの子がどこかにいるのだろうか?
「いやいやいや。俺の魔法を見くびってもらったら困るね。な姿で出て来る使用人なんて一人もいないよ。みんなちゃんと生前の姿で伺候するさ」
「……よかった」
 
 安堵のため息が出た。骸骨や腐乱死体が出てきたらどうしようかと思った。
 だって、仮にも使用人だろ? 怯えたりしたら失礼に当たる。

「だが、もし君がお望みなら、どろどろした姿に変えてやってもいい。ちょうどいい退屈凌ぎになるだろう」
「結構です」
 ヴァーツァの話では、死亡直後の姿から白骨死体まで、死のあらゆる段階の姿に変えられるという。損傷しても、修復が可能だ。
 ただし彼らに自我はなく、使役者……即ちネクロマンサーの命令通りに動く。
「一々命令しなくちゃならないのが面倒なんだ。けれど、これまでの動きが記憶されているから、ある程度は自主的に動く」
 ヴァーツァは椅子の背にそっくり返った。

 彼の言った通り、カルダンヌ家の使用人たちは完璧だった。朝食は彼らのサーヴで、熱すぎもせず、かといって冷めてもおらず、ちょうどいい状態で運ばれてきた。量は若干多めだったが、食べきれないほどではない。
 コーンスープが絶品だった。畑のどこで採取したのか、新鮮なレタスのサラダもある。パンはもちろん焼きたてだ。

 ヴァーツァは、黒ずんだソーセージを、上品にナイフで切り分けて食べていた。ブラッドソーセージだ。もしかして、トラドの持ちこんだ血を混ぜて作ったのだろうか。
 俺は遠慮して、オムレツを貰った。

「君はソーセージを食べないのか?」
「ちょっと遠慮しておきます」
「試してみろよ。うちのソーセージは絶品だぞ? なにしろ新鮮な材料を使っているからな。……あ」
 不意にヴァーツァがナイフを止めた。
 ナプキンを手に取り、口に当て、何かを吐き出した。
「誰か!」
不意に大声で呼ばわった。
「はい」
打てば響くように、給仕人が駆け寄って来た。
「ソーセージに骨が入っていた。コックを呼べ」
「はい」

 すぐに、白い上着を着たコックが現れた
「俺のソーセージに骨が入っていたぞ」
不機嫌そうにヴァーツァが言う。
「申し訳ありません」
素直にコックが頭を下げる。
「罰として、お前の骨を一本抜こう」
「え!」

 聞いていて仰天した。その俺に、ヴァーツアは気づかわしそうな目を向けた。
「君のは大丈夫だったか、シグ。オムレツに卵の殻は入っていなかったか?」
「いいえ、殻なんて入ってません」
「それならいいんだ」
 言いながら、使用人に向かって手を伸ばす。まさか、今ここで、彼の骨を抜く気じゃ……。

「ヴァーツァ!」
 悲鳴のような声が出た。
「僕のオムレツは絶品です。こんなにおいしい卵料理は初めて食べました!」
「そうかそうか」
 コックの肋骨からこぶし一つ分手前で手を止め、ヴァーツァはにっこり笑った。こんな時だが、光り輝くような笑顔だ。
 一方のコックは、無表情で直立したままだ。

 さらに俺は続けた・
「卵料理は、料理の基本です。カルダンヌ家のコックさんは優秀です。素晴らしいオムレツを食べさせてくれたコックさんにご褒美をあげなくちゃ」
 ヴァーツァはむくれた。
「ご褒美? だって俺のソーセージには骨が入ってたんだぞ? 気づかずに飲み込んだりしたら内臓が傷つく。歯が折れる可能性だってあった」
「幸い、貴方は気がついた。実害はなかったわけです」
「まあ確かにそうだ。しかし、料理に骨が混じっていることに気がつかなかったコックに褒美はやれない」
「ご褒美がダメなら、恩赦とか?」
「恩赦だと?」
「優秀なコックさんのろっ骨を抜いたりしたらいけません。素晴らしい料理を作れなくなってしまうかもしれません」
「それもそうだな」

 伸ばした手をヴァーツァは引っ込めた。
「シグに免じて許してやる。さがれ」
 無表情のまま、コックは立ち去っていった。

 デザートはガトー・ショコラだった。ヴァーツァの皿に比べ、俺のケーキには、大量のクリームが載せられていた。






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