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諦め
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いつ死んだっていいと思ってた。
俺には家族はいないし、ジョアンは悲しんでくれるかもしれないが、彼以外、友人もいない。
まともな仕事もしてないし?
この上は苦しまないで死にたいけれど、ナイフで切り裂かれるのは痛いのかな。一突きで死ねたら、楽だろうか。
ジャックとニコラがじりじりと迫って来た。背後に柩を載せた台があるので、逃げ場がない。
俺は武器を持っていない。持っていたとしても、人に対して使うなんて、到底できないだろう。格闘技の経験もないし、人を殺した経験もない。人を殺してまで自分が助かりたいとは思わない。
俺がまともに相手にできるのは、霊魂だけだ。
つぶしが利かないこと、夥しい。
つか、霊魂しか操れないなんて、人生、詰んでますね……。
ニコラが大きく右手を振り上げた。
幅広ナイフの方か。出血多量死ってこと? お願いだから、あまり時間を掛けずに、楽に死なせてくれ。
目を閉じた。
「うわっ!」
「ひっ」
奇妙な悲鳴が聞こえた。
ジャックとニコラのいる方角から聞こえたきたのだが、さっきまで聞かされていた二人の声とも思えない。
それほど奇怪な叫び声だった。
思わず瞼を上げた。
恐怖に歪んだ二つの顔があった。
「いったいどうしたんだ?」
答えはなかった。
金縛りにでもあったかのように、ニコラはナイフを持った右手を上げたまま、ジャックは細身のナイフを腰の高さに構えたまま、固まっている。
二人は俺をじっと見ていた。
違う。俺じゃない。
俺の後ろだ。
ふうっと、何かが揺らぐ音が聞こえた。
その瞬間、まるで空気の抜けたように、二人の強盗はへなへなとその場に座り込んでしまった。
「おい」
声を掛けた途端、二人揃って目を剥いた。口から泡が噴き出ている。
二人の強盗は、気絶していた。
とりあえず俺は、死なずに済んだようだ。切り裂かれる痛みも突き刺される苦しみも味わわなくて済む。
安堵した瞬間、膝の力ががくりと抜けた。
「シグ!」
後ろから声が聞こえた。
紺色の布に包まれた腕が伸びてきて、倒れそうになった俺の身体を抱き留めた。
シグ? シグだって?
そんな風に呼ぶのは、ジョアンだけだ。
けれどジョアンはここにいない。
それにこれ……軍服だ。紺色の、ペシスゥスの軍服。
俺には家族はいないし、ジョアンは悲しんでくれるかもしれないが、彼以外、友人もいない。
まともな仕事もしてないし?
この上は苦しまないで死にたいけれど、ナイフで切り裂かれるのは痛いのかな。一突きで死ねたら、楽だろうか。
ジャックとニコラがじりじりと迫って来た。背後に柩を載せた台があるので、逃げ場がない。
俺は武器を持っていない。持っていたとしても、人に対して使うなんて、到底できないだろう。格闘技の経験もないし、人を殺した経験もない。人を殺してまで自分が助かりたいとは思わない。
俺がまともに相手にできるのは、霊魂だけだ。
つぶしが利かないこと、夥しい。
つか、霊魂しか操れないなんて、人生、詰んでますね……。
ニコラが大きく右手を振り上げた。
幅広ナイフの方か。出血多量死ってこと? お願いだから、あまり時間を掛けずに、楽に死なせてくれ。
目を閉じた。
「うわっ!」
「ひっ」
奇妙な悲鳴が聞こえた。
ジャックとニコラのいる方角から聞こえたきたのだが、さっきまで聞かされていた二人の声とも思えない。
それほど奇怪な叫び声だった。
思わず瞼を上げた。
恐怖に歪んだ二つの顔があった。
「いったいどうしたんだ?」
答えはなかった。
金縛りにでもあったかのように、ニコラはナイフを持った右手を上げたまま、ジャックは細身のナイフを腰の高さに構えたまま、固まっている。
二人は俺をじっと見ていた。
違う。俺じゃない。
俺の後ろだ。
ふうっと、何かが揺らぐ音が聞こえた。
その瞬間、まるで空気の抜けたように、二人の強盗はへなへなとその場に座り込んでしまった。
「おい」
声を掛けた途端、二人揃って目を剥いた。口から泡が噴き出ている。
二人の強盗は、気絶していた。
とりあえず俺は、死なずに済んだようだ。切り裂かれる痛みも突き刺される苦しみも味わわなくて済む。
安堵した瞬間、膝の力ががくりと抜けた。
「シグ!」
後ろから声が聞こえた。
紺色の布に包まれた腕が伸びてきて、倒れそうになった俺の身体を抱き留めた。
シグ? シグだって?
そんな風に呼ぶのは、ジョアンだけだ。
けれどジョアンはここにいない。
それにこれ……軍服だ。紺色の、ペシスゥスの軍服。
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