柩の中の美形の公爵にうっかりキスしたら蘇っちゃったけど、キスは事故なので迫られても困ります

せりもも

文字の大きさ
上 下
5 / 64

行方不明

しおりを挟む
 ヴァーツァ・カルダンヌは極悪人だったと、ジョアンは言う。

「あの男は、大の女好きでな。今までに何人も女を引っさらっては、飽きるとすぐに殺すんだ」
 まあ、そういう男もいるだろう。特に貴族は、我々庶民を人間だと思っていない。

「シグ、お前はそう言うが、殺すことそれ自体を目的とするような狂ったやつは、甘やかされた貴族といえど、そうはいない」
「殺しを目的にするんだって?」

 驚いた。というより、呆れた。まるで物語のようではないか。大きな声では言えないが、俺はその手の物語が大好きだ。
 だがジョアンは大まじめだった。

「それも、ひどく残虐な方法で殺すんだ」
「たとえば?」

 ちょっと胸がときめいた。俺好みのお話のようだ。

「そんなこと聞いてどうするんだ? 悪趣味だなあ」
「正確なことが知りたい」

 そういう理由もある。噂や讒言のたぐいに騙されたくないから。

「お前らしいな。いいよ。気分の悪くなるような話だが、教えてやろう。俺が聞いただけでも、水責め、串刺し、とがった鉄の棒を埋め込んだ人型の人形に抱きしめさせる、なんてのもあった」

 歴戦の戦士のくせに、ジョアンは薄気味悪そうな顔をしている。

「死体への損傷も度を越していてな、死骸を犬に食わせるなんてのは序の口で、首を斬り、槍の先に突き立てたこともあったらしい」
「うわ、グロ……。いったいなんでそんなのが陛下の友人だったの?」
「知るかよ。もしかしたら、友人だったというのは嘘なんじゃないか」
「はあ?」

 ジョアンがとんでもないことを言い出したので、俺は呆れた。
 ジョアンは平然としている。

「だって、仮にもこの国の国王になられた方のお命を救ったんだよ? しかも自分の命を賭けて。たとえ狂人であっても、その忠誠心は長く語り継がれるだろう。それなのに、実は生前、極悪人でしたじゃまずいじゃないか。臭いものにはフタをしなくちゃならない。陛下のお友達ってことにしたら、あれこれ詮索するやつもいないからな」

 俺は、どうしてもそうだとは思えなかった。だって、命がけで殿下を守ったんだよ? 単なる忠誠心だけじゃ、とてもじゃないけどできない。俺だったらまず、やらないな。
 少なくとも、ヴァーツァ・カルダンヌの方は、殿下に友情を感じていたことは間違いない。
 殿下だって、我が国で一番高い山の上に、立派な墓を造るって公言したじゃないか。

「それはそうと、浄霊には、遺体が必要だろ?」
俺の気が変わらないうちにとばかりに、さっさとジョアンが話を進める。

「どうしても必要ってわけじゃないけど、あった方が話は早い」

 抜け出して悪さしている霊魂を、遺体に呼び戻し、封じこめればいいのだ。そして遺体ごと処理する。霊魂だけを相手にするより楽だし、仕事が進めやすい。

「ヴァーツァ・カルダンヌの死骸は今、この辺りにある」
 ごそごそと胸の隠しから地図を取り出し、ジョアンは指さした。
「エシェック村……」
 俺は地図を読み上げた。

 王国の北西の国境近く、去年、蛮族が押し寄せて来た地方だ。王子だったアンリ殿下を助け、カルダンヌ公が殺された村でもある。

「だが、公爵の墓は、霊峰ベルナの頂に造るんだよね?」
だったら当然、遺体もそこにあるのかと思ってた。

「霊廟を現在鋭意建設中だ。立派な墓だから、造営に時間がかかるのだそうだ」
「なるほど。まだ村に安置されているんだね」
「安置というか……」

どうも歯切れが悪い。俺は首を傾げた。

「さっき、この辺りって言ったな? 辺りってどういうこと?」
「この辺りはこの辺りさ」
「それじゃわからない。所番地とか、もっと詳しく」
「つまり、公の死骸は行方不明というか……」
「盗まれたの?」

 死体泥棒? ぞっとした。

「違う」
即座にジョアンが否定する。
「まさか、自分で移動したとか!?」

 きな臭い。王都を呪うほどの霊能力者なら、アンデッドとして動き回ることだって、充分あり得る。
 そうなったらやっかいだ。死なないやつなんて、エクソシストの俺といえど、ぞっとしない。どう対処したらいいかわからないし。

 再びジョアンは、力強く首を横に振った。
「違う。言ったろ。彼の屍は、行方不明になってるんだよ」

 ジョアンの話をまとめると、こうだ。
 蛮族との戦闘で、現場は大混乱だった。もちろんペシスゥス軍は勝利したが、慌ただしく軍が引き上げた後もまだ、混乱は続いていた。

 一年経ち、祈祷師がカルダンヌ公の霊障を指摘した。慌てて彼の遺体を探したのだが、どこにあるのか、皆目わからない……。

「そういうわけで、カルダンヌ公の遺体は現在行方不明というわけだ」
 俺は呆れた。
「行方不明?」
「ただ、エシェック村のどこかにあることだけは間違いない。と思うぞ。多分」

 ジョアンの最後の方は、心もとなげだった。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

処理中です...