柩の中の美形の公爵にうっかりキスしたら蘇っちゃったけど、キスは事故なので迫られても困ります

せりもも

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浄霊師;エクソシスト

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 「シグ! シグモント!」

 朝、乱暴にドアを叩く音で目が覚めた。朝といっても、太陽は空高く昇っているので、多少うるさくても文句を言うやつはいないだろう。隣人はみんな、働きに出ているはずだ。

「いつまで寝てやがる! こらっ! 起きろったら!」

 どうでもいいけど、そんなにバンバン叩いたら、ドアが壊れるぞ。困ったなあ。また大家さんに怒られるよ。

「起きろ!」

 壊れかけていた鍵を引っ剥がし、男が中に入って来た。友人のジョアンだ。

「まるでミノムシのように丸まってやがる」
頭の上から声が聞こえたかと思ったら、あっという間に布団を引っぺがされた。

「ううう、寒い……」
「文句言ってないで起きろ! 世間様はとっくにひと働き終わってるぞ!」
「俺は夜のお仕事なの」
「ラブレターの代筆がか?」
「そう。依頼人のお姉さんたちの勤務が終わるのは、夜中だから!」

 幸い俺は読み書きができる。別に恋文に限ったわけではないが、一応「職業・代筆業」ということになっている。

 布団を奪われ、しぶしぶと起き上がった。頭をばりばりと掻いて抗議を示した後、井戸端へ出て顔を洗った。
 戻って来るとジョアンがお茶を淹れていた。
 カップや茶葉の置き場所とか、こいつ、俺より俺の家に詳しいんだよな……。

 「で、何の用?」
香り高いお茶を啜りながら問う。こんな高級そうなお茶、うちにあったかな?
「用がなきゃ、来ちゃいけないのか?」
ジョアンがむくれた。
「そんなことは全然ないよ、ジョアン君。このお茶、美味しいね」
「お前んちの茶葉だ。俺は、淹れ方がうまいのだ。お茶は、種類によってお湯の温度や注ぎ方、蒸す時間などに違いがある。それらをうまく把握して……」
「けど、いつもは俺をたたき起こしたりしないじゃないか」

 こいつは、俺んちに来て勝手にお茶を淹れ、茶菓子をあさり、寝ている俺の傍らでお茶を飲むと、そそくさと去っていくのだ。俺の家は、ちょうどこいつの家と職場の中間点にある。

 ジョアンが紅茶茶碗を下に置いた。

「シグ、お前、知ってるか? 王都の怪異のこと」
「ああ、鼠が出たとかカメムシが大量発生したとかいうんでしょ? 今年はきっと、雪が多いね」

 カメムシがたくさん出た年の冬は雪が多いと、大家の婆さんが言ってた。

「そうなのか? 困ったな。雪道を歩くのは苦手で、」
言いかけて、ジョアンが両手でテーブルをバンと叩いた。
「違う! そんな気楽な話じゃない。大臣や前国王陛下までもがお亡くなりになったんだぞ」
「老人ばかりだもん、仕方がないよ。アンリ殿下が即位されて、これからはこの国も少しは若返るといいな」
「しっ!」

ジョアンは慌てて周囲を見回した。当然ながら、俺たちの他に人の気配はない。

「王族や官僚の悪口を言ったらいけないと何度言ったらわかるんだ?」
「悪口じゃないよ?」

そんなつもりは全然なかったのに。

「そーゆーのを悪口というの!  ペシスゥスは独裁国家ではないが、密告が横行しているんだぞ」

 悪口を密告されて罰を食らうのは、表現の自由の侵害だ。それこそ独裁国家ではないか。と思ったが、黙っていた。気のいい友人を困らせたくない。
 俺の沈黙を何ととったか、おもむろにジョアンが告げた。

「シグモント。お前に仕事だ」
「ラブレターの代筆か?」
「違う。本業の方だ」
「本業?」
「お前の本業は浄化だ。シグ、お前は王国一の浄霊師エクソシストだからな」






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