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五右衛門3世、参上

6 直系じゃないけどね

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 「まあた、如信尼様につきまとって」
本堂を出ると、おえんが腕を組んで、塀に寄りかかっていた。

「つきまとってなんかいねえよ」
俺はむっとした。
「如信尼様は、清らかな尼僧だ。彼女とどうこうなんて、仏が許しても、俺の良心が許さねえ……、」

「そもそも仏さまが許してないんだよ、このあほんだら!」

 5歳の女児が言い返す。
「あたしに内緒で、ことを運ぼうだなんて」

 おえんは機嫌が悪かった。

 そうなのだ。
 最初の計画では、俺と独歩だけで、金倉屋から米俵を頂戴するつもりだった。

 疫病を理由に、金倉屋を家移りさせて……。


「司寿だなんて、いいかげんな医者を名乗ってさ。あんた、天寿庵先生の弟子でもなんでもないじゃないか」
「だから、天寿庵から来ましたって言ったろ?」

 泥棒だが、俺は、嘘が嫌いである。
 おえんは、鼻の穴を大きく膨らませた。

「ふん、馬鹿みたい。そもそもあんたに、長治親分の目を欺けるわけがないじゃない」
「いやいや、俺だって捨てたもんじゃなかったろ?」


 そもそも、あの死体を、金倉屋の裏庭に放り込んだのは、俺だし。
 その後、医者の司寿になりすまして、疫病だと騒ぎ立てたのも、この俺だし。
 長治親分を説き伏せて、金倉屋の全員に家移りさせたのも、もちろん、俺だ。
 そして、深夜、誰もいなくなった金倉屋に、独歩と一緒に、大八車を引いて行って、米俵を頂戴してきた……。


「すごかったろ? まさに八面六臂の活躍じゃないか」

「ばっかじゃないの?」
 だが、幼女は辛辣だった。
「菰で包まれた死体に、刃物傷があることがバレたら、この計画は、台無しだったじゃないか!」


「……」

 金倉屋に投げ込まれた男は、疫病で死んだのではない。
 匕首で刺されて死んだのだ。

「あたしが、出ていかなかったら、あんた、今頃、しょっぴかれてるよ。長治親分をたばかった罪で」

「まあ、確かに? おえんが、熱がある、って言ってへらへら出てきたおかげで? 疫病ってのも、信憑性が出てきたわけだが……?」
「なにその、? だらけのセリフは!」
「いやいやいや。ご協力、感謝してますよ?」

「ふん」
おえんは肩をそびやかせた。
「あたしに内緒で、うまくいくわけがないじゃないか」

 うるさいチビなので、おえんには内緒にしていた。が、いつの間にか、嗅ぎつけられてしまった。
 つまり、すごい剣幕で問い詰められた独歩が、思わず白状してしまったのだが。

 だがまあ、正直なところ、金倉屋で、こいつが、みんなの注意をそらしてくれたのは助かった。
 おかげで、死体の主は疫病で死んだと、押し通すことができた。

「で、死体はちゃんと処理したんだろうね」
「ばっちし安全な所に隠したさ」
「どこに?」
「この寺の墓地」

「あんたねえ」
おえんの声が、一際ヒステリックになった。
「そんなことして、如信尼様に、もしもの疑いが掛かりでもしたら、どうするのさ!」

「大丈夫だ。ぬかりはねえ。無縁仏の墓に埋めたから。だいたい下手人はわかってるんだからさ。案ずることはねえ」

「あんた、まさか、お妙さんを番所へ突き出すつもりじゃないだろうね?」

 5歳女児に詰め寄られ、俺はむっとした。

「俺を何だと思ってんだい! 天下の五右衛門3世だぞ!」
「直系じゃないけどね」
「うっ」

 これを言われると、痛い。
 俺は、1世の弟の子孫だ。

 ちなみに、この事実を知っているのは、ここにいるおえんと、寺の庭で粥の窯の番をしている、独歩だけだ。この二人が俺の秘密を知ってしまった件については、またいつか、語る日も来るであろう。

 俺が、かの有名な義賊・石川五右衛門3世であるという事実は、麗しの庵主、如信尼様も、ご存じない。


「お妙さんは、充分に苦しんできたんだ。今更、牢獄生活なんてさせたら、承知しないよ」
気の強いガキがのたまう。
「今だって、あの人、寝込んじまってさ……」

「え? お妙さん、病気なのか?」
「馬鹿だねこの人は。話の流れからわかりなさいよ! 心が辛くて、起き上がれないんだよ!」
「はあ」

 そのような病があったのか。
 俺は呆れ、驚き、感心しさえした。
 やはり女人という者は、繊細にできているのだ。

「ここは俺も、もっともっと、女人とつきあって、理解を深めないといかんな」
「寺で何言ってんだよ!」

 思いっきり、おえんに、蹴りを入れられた。






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