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Ⅳ 祖国へ

バーンでの休養 2

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10分後と言っていながら、翌日更新で申し訳ありません。途中で、やっぱり木~土曜日はいつも通りがいいかなと、予約時間を変え、後書きを消し忘れてしまいました。
もしかして、夜更しされてしまったでしょうか? 本当に申し出ありません……。

今週は5回更新になります。

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 「げっ。リール代将!」
 部屋に入ってきた人物を見て、思わずサリが声を漏らした。

 無理もない。シャルワーヌはさんざんに罵っているが、狭く不潔な捕虜収容所ではなく、穏やかな保養地で傷を癒すことができるのは、ラルフ・リールの尽力によるものだ。おまけに、高度な技術を持つ医者まで、彼は手配してくれた。

 「それから、は、私のところにはいません。気に病んでいるようだから、特別に教えてあげます」
 朗らかに、ラルフは続けた。

「いない? 嘘だ。信じられるか!」
 興奮のあまり、普段は色の悪いシャルワーヌの顔が、赤らんで見える。

 立ち止まり、ラルフはじっくりとシャルワーヌの顔を眺めた
「血色はいい。やっぱり本国の医者は優秀だな。あのまま、オハラ医師せんせいに任せておかなくてよかったです」

「やっぱりあの医者、ヤブだったんですね……」
小さな声でサリがつぶやいた。

「すみませんねえ。医者は、彼で精いっぱいだったんです」
「わかってます」

 謝罪するラルフに、サリが頷きを返した。
 何やら通じ合った二人に、シャルワーヌの怒りは募るばかりだ。

「俺の副官と、なにをごちゃごちゃしゃべってる! こんなところに閉じ込めやがって。エドガルドが18歳になったんだぞ!」
「ああ、気がついていましたか」

僅かに笑みを含んで、ラルフが応じる。

「当たり前だ! 俺だって楽しみにしてた!」
「それはそれは」
「何が紳士同盟だ。このペテン師が!」
「独創性のない罵りですね。ああそうだ」

 胸の隠しから、ラルフはきらきら光る小さな物を取り出した。
 赤いペンダントだ。

「なっ! なぜそれを君が!」
ぎょっとしたようにシャルワーヌが叫ぶ。

「エドガルドから預かりました。大切な文化遺産だから、私から将軍にお返ししてほしいと」
「君が持っていたのか?」
「ええ、まあ、途中からは」

「どうりで!」
シャルワーヌがわめいた。
「どうりで、何も映し出さなかったわけだ!」

「? どういうことです?」
「◇×△*×××……」

 興奮のあまり、ユートパクスの将軍は、言葉にならない。
 見かねて副官のサリが口を出した。

「それは、わが軍の学者の発明なんです」

 ユートパクス軍は、大勢の学者や民間人を同行していた。ザイードでの自活の道を探り、また、その文化研究の為に連れてきたという。

「イスケンデルに置いてきてしまいましたが、シャルワーヌ将軍は、大きな板のような石を持っていたんです。そこに、赤い石が情景が映し出されるとか」

「赤い石が見た……って!?」
怪訝な顔をしたラルフだが、一瞬で理解したようだ。
「それはつまり……」

「君の想像通りだ、リール代将」
しゃらりとシャルワーヌが言ってのける。

「このっ! なんて破廉恥な男なんだ!」

ほの白いラルフの顔がみるみる赤くなる。それを見ながら、シャルワーヌはうそぶいた。

「同類だろ、君だって!」
「違う、愛だ。痴情ではない!」

即座にラルフが言い返す。シャルワーヌだって負けてはいない。

「底にあるのはスケベ心じゃないか」
「スケベでない男なんかいるものか!」
「そこは同意する」
「君に同意なんかされたくない!」
「ふん!」
「全く、君が同じ男だと思うとぞっとするね」
「なんだと!?」

 「お二人とも!」
掴みあいそうになった二人の間に、サリが割って入った。
「特にシャルワーヌ将軍はまだ全快したわけじゃないんですから。自重してください!」

「赤い石が見るって、どういうことだ? 詳しく話せ」 

怖い声でラルフが詰め寄る。副官は肩を竦めた。

「古代の上ザイードの王墓で見つけた石板を、学者たちが解読したのです。その解読に基づいて、学者たちは、あの赤い石を作りました」

「ほらみろ。あの石は、新しく作られた物じゃないか。古代の遺物なんかじゃない」
「現物は盗掘されていたんだよ!」

 ラルフの抗議に、シャルワーヌが反論した。
 サリが続ける。

「学者が言うには、空気中には細かな粒が飛んでいるそうです。その粒は、遠くの形を運ぶことができるそうで……」
「細かい粒が、か?」
「私に聞かないでください。学者がそう言ったんです。だから、赤い石が集めた形が、粒に乗せられて、それをシャルワーヌ将軍が持っていた透明な板に伝える……と」

 どんどん自信なさげになっていく。

「形? 遠くが見えるってことか? エドガルドはそれを、肌に密着させてつけていた。服の下に! つまり……なんてこった! モロ見えじゃないか! 純情にも彼はそれを、人類の大切な文化遺産だと信じていたんだぞ!」
「俺のとこには、何も伝わってこなかったし、何も見えなかった! くそっ、実験は失敗だ!」

「この人でなし! 破廉恥野郎!」
「人のことが言えるか。君は卑怯だ」
「卑怯?」
「エドゥをザイードに留まらせたのは、君だろう?」
「それはちが……」

ラルフが答え終わる前に、シャルワーヌが決壊した。
「18歳になった彼を、君は弄んだのだ。あの華奢な体を! 白く美しい肌を!」

 ラルフは、憐れむような目でシャルワーヌを見下ろした。

「療養生活が続いて欲求不満なんだな。かわいそうに」
「うるさい! 返せ! エドゥを俺に返せ!」

 ラルフはため息をついた。







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シャルワーヌがエドガルドに赤い石を託す場面は、Ⅱ章「赤い石」にあります。シャルワーヌの下心がほの見えていたら嬉しいです。









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