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Ⅲ 東と西の狭間の国

オーディンの回想(恋人たちの毒2)*

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 マワジでの情事は、オーディンの危惧を一層、煽った。

 オーディンは、組み敷かれることを嫌う。たとえ情事であっても、誰かに見下ろされるなど、あってはならないことだからだ。だから普段は後背位を好んだ。

 しかしこの日は、もっと積極的に、優位に立つ必要があった。


 いつものように後ろから抱こうとしたシャルワーヌの胸を、オーディンは押した。ベッドの上に押し付けるようにして横たわらせる。

 シャルワーヌは不安そうだった。
 オーディンはむっとした。これから、死ぬまで忘れられないほどの快楽を与えてやろうとしているというのに?
 文字通りそれは、死に至る道筋での、最後の快楽だ。

 腹立ちを紛らわせるかのように、シャルワーヌのズボンをむしり取った。上半身を着衣のまま、下半身を剝き出しにした男の姿は、滑稽だった。少しだけ、溜飲が下がる。

 抱き合ってキスをしただけだったのに、彼のそこは立ち上がっていた。眩いほどの生命力を感じる。オーディンには決してないものだ。吸い寄せられるように口を近づけていく。

「将軍!」
咎めるような声が降ってきた。

 心配しなくても、軍の最高司令官であるオーディンは、部下に奉仕なんかしない。
 熱い視線を向けられ、期待に蜜をこぼし始めた先端にキスをする。唇が軽く触れるだけの乾いたキスだ。だってこれは、じらすためのプレイなのだから。

 うめき声が聞こえた。
 その声と、ほんのり感じた青臭い匂いが脳髄を刺激した。

 私室では、オーディンは、ゆるやかな地元の服を身に着けている。白いその布は、紐を一本ほどくだけで、簡単に足元に落ちた。

 息をのむ気配がした。腹筋を使い、男が起き上がろうとする。

「お前は寝てろ」

 短く命じ、ついでにきれいな筋肉のついた胸を押す。たまらず、シャルワーヌはベッドに沈んだ。

 オーディンもベッドに上った。シャルワーヌを跨ぎ、その中央に自らのそれを重ねるようにして腰を下ろした。

「将軍、何を……」

 抗議するような声が聞こえたが、無視した。
 重なった二つの象徴を、両手で掴む。その手を、リズミカルに上下させる。

「また、そのような……」
「うるさい」

 一言で黙らせ、なおも扱き続ける。シャルワーヌの蜜で、己の先端も濡れそぼっていくのを感じる。緩やかな快感が募り、オーディンは次第に我慢ができなくなってきた。

 シャルワーヌにまたがったまま、両手を左右に突き、上半身を前傾させた。局部を合わせたまま、腰をゆすり始める。

 重なった二つが、じんわりとうるんでいく。それがシャルワーヌ自身の蜜なのか、自分の先走りなのかは、オーディンにはわからない。格段に滑りがよくなった感触に、夢中になって腰を動かす。

 「はぁ、あっ、あん……」

 声が漏れてると思ったら、自分の声だった。慌てて、オーディンは唇を嚙み締めた。

「我慢しないで」

 見下ろすと、シャルワーヌは笑みを含んだ表情を浮かべていた。まるで仔猫を腹に乗せ、いたずらを楽しんでいるかのようだ。

 その余裕が腹立たしい。

 ますますオーディンは腰を振り立てるが、次第に息が切れてきた。南国のこの暑さは、持久力を殺ぐ。

 手を後ろに回し、シャルワーヌのそこを探った。無礼な彼のシンボルは、十分な強度を保って立ち上がっている。

 両手でむんずと掴んだ。そろそろと腰を持ち上げ、彼の先端を当てがう。二人分の先走りでぬめったそれは、凶悪な意思を持っているかのように、オーディンの内部を窺っている。

 いつものように、そこは充分に広げてある。そろそろとオーディンは、腰を落とした。

「んぅ、んっ! ……くぅ」

 下へ沈んでいった腰が、途中でぴたりと止まった。
 だめだ。これ以上は入らない。

「お願いです」
 切羽詰まった声だった。
「そこで止めないで。もっともっと……、全部入れさせて」

 眉間に皺を寄せ、シャルワーヌは苦しそうだった。最後まで入れることを許されず、自ら動くこともできず、蛇の生殺しの状態なのだろう。

 上から見下ろし、オーディンは満足だった。余裕のない彼の表情をつぶさに観察し、勝利に酔いしれた。

 再び、オーディンは腰を下ろし始めた。シャルワーヌの上に跨り、密着したかった。この男を、完全にわがものとし征服したかった。

 すぐに動きが止まる。
 いつもと違う角度で迎え入れたものを、今までにない体の深みまで誘うことに恐れが生じたのだ。

 額に脂汗が浮かんだ。今まで触れられることのなかった場所に当たるたび、電流のような感覚が全身を駆け巡った。

 少しでも動けば、自分の中の、未知の場所が暴かれてしまう。
 抜くこともできず、中腰の姿勢で、オーディンの体は止まったままだ。

 「動いて。大丈夫。すぐに慣れるから」

 それを指図だと激怒するゆとりが、オーディンにはなかった。言われるままに、そろそろと、腰を前後に動かしてみる。続いて、左右に。ほんの少しだけ。

 初めはぎしぎしと体がきしむようだったが、次第に恐怖は薄れていった。ついには、貫かれたそこを中心に、腰で円を描くように動き始めた。

「くうぅん……くぅ……」

 鼻から息が漏れる。
 違和感しかなかったそこに、次第に快感の波が生まれてる。腰の動きが滑らかになっていった。

 けれど、下まで腰をおろし切る勇気は、未だに出なかった。あのような巨大なものを、この角度で押し込まれることに恐怖を覚える。垂直に跨ったこの姿勢では、彼のそれは、今まで達したことのないオーディンの奥まで、一直線に貫いてくるだろう。

「もっと動いて。貴方がいいように」

 うわごとのような声が、甘くささやく。励まされるように、オーディンは動き続けた。

 ぎこちなかった腰の揺れが、次第に滑らかになっていく。ねちゃねちゃという卑猥な水音が、聞こえる。

「あっ、あっ、あん……」

 オーディンのぎっちりと閉じられた口から、嬌声が漏れ始めた。夢中になって腰を振った。

 けれど、これ以上はいやだ。
 これ以上深く受け入れるのは……怖い。

「私の将軍……」

 かすれた声が聞こえ、腰の両側に手が回されたのを感じた。

「やめっ!」

 叫んでも無駄だった。
 大きな手で抑えられた体は、オーディン自身の自重を加え、深く沈んだ。
 中心に、屹立したモノを咥えこんだまま。

「あ……、あっ、……ぁあっ!」

 太ももの裏側に、シャルワーヌの皮膚が触れたのを感じる。
 凶悪な全てを飲み込み、オーディンは悲鳴を上げた。体の奥までいっぱいだ。びりびりと脳天まで刺激が駆け抜けた。

 だがそれで終わりではなかった。
 動けずにいる体を、下から力いっぱい押し上げられた。腰を両手で固定したまま、めちゃくちゃに突き上げてくる。

「あっ、あっ、あっ」

 動きが止まった。
 腰に当てられた両手に力が込められた。あっと思う間もなく、前後に揺すぶられる。

「ぐぅっ! っは!」

そして左右に。

「ぁあっ! はっ! あっ!」

 間歇的に叫ぶ口元から、涎が垂れてくる。オーディンの目が虚ろになった。下から突き上げてくるシャルワーヌの動きに任せ、体が揺り動かされる。

 まるで使い古されたボロ布になった気分だった。破れ、乱暴に扱われても、ただひたすら快楽を吸い取っていく。

 組み敷いたはずの男に、完全に征服されたことを、オーディンは理解した。








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※Ⅱ章「抱け」の数日前の情事です
https://www.alphapolis.co.jp/novel/268109487/569562430/episode/5881920

なお、次回では、上記「抱け」の後半部分を、オーディン視点で回想します。






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