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2 天空への旅
3.花嫁の復活
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※残酷なシーンがあります
– * – * – * – * – * – * – * – *
「お前のお父さんは、緑色の肌をしていた。生命の守護者だったのよ。大勢の怪我人を癒し、荒れ地を田畑に変えた。昔砂漠の国だったエメドラードが緑あふれる森林地帯となったのは、代々の王の生命力のおかげ」
河原で、緑色の腕を抱きしめ、母は言った。足元には、彼女が斃した死人たちが、累々と転がっている。
「だから、たとえばらばらにされた体であっても、死者を蘇らせることができたのね。ただし、制御ができていないみたいだけど。生命力が漏れ出してしまっているのよ。死人たちが蘇ったのは、そういうわけ」
彼女は、低く呪文を唱え始めた。両方の腕はみるみる小さくなる。満足そうに微笑むと、小さくなった二つの腕を、懐から取り出した革袋の中に丁寧に納めた。
「これは目印になる。蘇った死人たちを探せばいいのよ。いかにあの男が前王を切り刻もうと……」
続きは、ぎりぎりという歯ぎしりの音にかき消された。
「あの男って?」
不思議に思って俺は尋ねた。
「父上の弟よ!」
母が吐き捨てる。
「……叔父様?」
父の弟なら、俺にとっては叔父ということになる。ひどく懐かしい気がした。俺はその人のことを知っていたのだろうか。けれど宮殿を出てからは苦難の連続で、その顔も服装も思い出せない。
「叔父様? ふん、汚らわしい。あの男はお前の父上を襲って、ほら、こんなふうに切り刻んで……」
母は声を詰まらせた。なんとか冷静を保ち、続ける。
「私が連れ出さなかったら、お前も、叔母も従弟も殺されていたに違いない。まあ、あの女については、それが相応だと思うけど」
自分の妹についてはさんざんな言い方だ。
叔母のことは、おぼろげに覚えている。小さな従の弟ことも。叔母は目を見張るほど美しい人で、従弟はただひたすら生意気だった。
「たとえ小さな欠片でも、そこにお前の父王の御身体の一部があれば、その影響を受けて、地下に眠る死人たちが蘇るはず。大量の死人たちが群がる地に、お前の父君の御身体は眠っているの」
「俺も、死人と戦うのですか?」
思わず震えあがった。腐り落ちた眼を半眼にし、壊れたような不気味な歩き方をする死人たちを倒すなんて、いったいどうすればいいのだろう。第一、みな既に死んでいるのだ。母はいったい、どのような妖術であの者達を打倒したのか。
「いずれお前も、術を修得することができる」
「けど……。あのようなぬるぬるした肌では、触れることさえ憚られます」
さすがに気持ち悪いとは言えなかった。にもかかわらず、母は目を吊り上げた。
「しっかりおし。貴方はダレイオ大王の子よ。死人ごときに怯えることは許さない」
「でも……」
「口応えは禁じる。ちょうどいい機会だ。死人との戦闘で術を鍛えるといい。貴方はいずれこの国の王となる身。あの憎き王弟サハルを倒して。貴方こそがエメドラードの未来の王なのだから」
「けれど、僕の肌は褐色です。正しい王は、ルーワンでは?」
緑色の肌は、いなくなった従弟の方だ。
「それが何だというの!」
母は激昂した。
「緑の肌は裏切りの印。裏切りの果実であるルーワンに王座に座る資格はない。いい、ホライヨン。貴方こそが間違いなくこの国の未来の王なの。それにふさわしい器であることを、臣下たちに知らしめなさい。なにより、このまま父君の体が切り離されたままでいることを、貴方は許すの?」
なんだかよくわからない。けれど、ばらばらになった父の体が、あちこちに捨てられているのはあんまりだと思った。父に可愛がられた記憶はほとんどないが、肉親の情として、許し難いことだ。
「強くなりなさい、ホライヨン。力ずくで、貴方の実力を見せつけるの。憎いサハルから、王座を取り返しなさい」
こうして母と俺は、父の体を求める行脚の旅に出た。死人が復活したという噂を聞くと、すぐに飛んでいった。夜遅く墓地を巡り、古戦場を歩き回るのは、幼い俺には、なかなかに辛い仕事だった。けれど母は決して容赦しなかった。
残念ながら、大抵は、噂は噂だった。死者たちは静かに墓に眠り、動き回っているのは墓荒らしばかりというありさまだ。
俺と母は、ボロ着で身を包み、身分を隠したままで、あちこちの村を訪ね回った。飢え、物乞いと紙一重の服装、次第に憑かれたようになっていく母の目つきを憐れんでか、時折、村人たちがパンや果物を恵んでくれる。それが、俺たちの生命線だった。
「私は間違っていたかもしれない」
ある日、石臼ですり潰した小麦粉を焼いただけの貧しい食事がすむと、母は言った。
「陣を張ってしまえば、いかに強靭な生命の力であろうと、外へ漏れることは難しい。死人が蘇るのを待っているだけでは、あの人に会うことはできないかもしれない」
「ではどうすれば?」
「わからない。けれど、あの人が死ぬことはないわ。だって、腕はここにあるもの。五体が揃っていなければ、いかに緑の肌を持つルーワンとて、あの人を殺すことはできない」
そう言って母は、腕を納めた麻袋を抱きしめた。
「緑の肌の王を殺すことができるのは、一人、緑の肌の王子だけ。つまり……ルーワン。ルーワンはどこにいるの?」
母の話はよくわからなかった。五体とか肌の色とか。それに、父を殺す? 誰が何の為に? 俺の中で父は、毛むくじゃらの腕二本だけの存在になってしまったというのに!
ただ久しぶりに聞く従弟の名前だけが耳に止まった。生意気だけど、たった一人の遊び相手でもあった。突然消えた従弟は、今、どこでどうしているだろう。
「ルーワンに会いたいね」
「知らない。あの女の産んだ息子のことなぞ」
途端に、僅かに戻っていた母の正気がかき消すように消えていくのがわかった。
◇
もうすぐフィラン神殿の女神とテンドール神殿にまつられた男神が再会する祭礼が執り行われる。急峻な山肌に囲まれ、タバシン河の河幅が狭くなる辺りにあるフィラン神殿と、それより下流の河が大きく湾曲したところにあるテンドール神殿から、それぞれ神輿を載せた船が出る。二つの船団は中間の中洲で落ち合い、神儀が行われる。
年に一度のことだ。失敗は許されない。
フィラン神殿では、神官たちが神輿の準備に余念がなかった。入念に磨き上げ、色とりどりの布で美しく飾りつける。
「おや」
神官の一人が手を止めた。ご神体を安置するはずの神輿には、既に何かが積まれていた。大きな細長い……神輿の中は暗く、それが何であるかわからない。
ご神体を載せるべき神輿に異物が積まれているなど、とんでもないことだ。彼は身を乗り出し、それに触れようとした。
「うわっ!」
神官は弾き飛ばされ床に倒れた。体の右側面から夥しい血が噴き出す。彼の右腕は肩からむしり取られていた。
「!」
言葉の通じぬ奴隷たちが棒立ちになる。
噴き出す血は、竜巻に巻き上げられた河の水のように、部屋一面に降り注いだ。
頭を抱え、奴隷たちは逃げ出した。
彼らは気づかなかった。腕を失い、暴れ回る神官が、床に描かれていた何かの一部を消し去ってしまったのを。丸い円の一部が途切れてしまったように。
「なんだ、あの音は?」
神殿の外で控えていた護衛兵たちが首を傾げる。ごうごうという風の音が水面を渡り、次の瞬間、堰の土が盛り上がった。土は風に飛び、地面の下から枯れ木のような何かが、ぽっかりと開いた穴の縁を掴んだ。まとわりついた赤い布が、風にはためいている。
神殿の中から、奴隷たちが走り出してきた。
「あ、おい、お前ら!」
脱走は大罪だ。逃亡する奴隷たちを、兵士らは捕獲しようとした。
「うへえ。どうしたんだ。血だらけじゃないか!」
「神官どのはどうした?」
訪ねても、奴隷たちは両眼を見開き、大声で何かわからない現地の言葉を叫ぶのみだ。
「奴隷などほっとけ。あれを見ろ! 死人だ。大量の死人がこっちへ向かってくるぞ!」
物見台に上った兵士が叫んだ。
「馬鹿な。神殿に死人がいるものか!」
いたるところに古戦場跡があり、侵略と略奪が繰り返されてきたエメドラードで、唯一、死者が埋められていない場所は、神を祀る神殿のみといえた。
「あそこは神殿ではない。あそこは……」
見張りの兵士の声が震えた。
「あそこは、タバシン河の洪水を抑える為に人柱となった娘たちが葬られているところだ! 彼女たちは、河の精霊の花嫁として、赤い婚礼衣装を着せられ、土に埋められるんだ!」
土の中から、頭蓋骨が覗いた。禿に流した黒い前髪が額で揺れている。ぽっかりと開いた眼窩が向けられた。
生贄は一人だけではない。何百年にも亘って、繰り返し繰り返し、「花嫁」たちは生きたまま、地下に埋められてきた。
犠牲となった娘たちが一人、また一人と土の中から姿を現す。
細い枯れ枝のような手が伸びて己の墓となった穴から身を持ち上げると、ゆっくりと歩きはじめる。
体は傾ぎ、泥で固まった髪の間から時折、昔は美しかったはずの顔が覗く。それは死蝋で固まった死人の顔だった。
見張りの兵士の見たモノたちは、すぐに他の護衛兵らの視界に飛び込んできた。
悲鳴を上げ、我先にと兵士たちは逃げ始めた。
– * – * – * – * – * – * – * – *
「お前のお父さんは、緑色の肌をしていた。生命の守護者だったのよ。大勢の怪我人を癒し、荒れ地を田畑に変えた。昔砂漠の国だったエメドラードが緑あふれる森林地帯となったのは、代々の王の生命力のおかげ」
河原で、緑色の腕を抱きしめ、母は言った。足元には、彼女が斃した死人たちが、累々と転がっている。
「だから、たとえばらばらにされた体であっても、死者を蘇らせることができたのね。ただし、制御ができていないみたいだけど。生命力が漏れ出してしまっているのよ。死人たちが蘇ったのは、そういうわけ」
彼女は、低く呪文を唱え始めた。両方の腕はみるみる小さくなる。満足そうに微笑むと、小さくなった二つの腕を、懐から取り出した革袋の中に丁寧に納めた。
「これは目印になる。蘇った死人たちを探せばいいのよ。いかにあの男が前王を切り刻もうと……」
続きは、ぎりぎりという歯ぎしりの音にかき消された。
「あの男って?」
不思議に思って俺は尋ねた。
「父上の弟よ!」
母が吐き捨てる。
「……叔父様?」
父の弟なら、俺にとっては叔父ということになる。ひどく懐かしい気がした。俺はその人のことを知っていたのだろうか。けれど宮殿を出てからは苦難の連続で、その顔も服装も思い出せない。
「叔父様? ふん、汚らわしい。あの男はお前の父上を襲って、ほら、こんなふうに切り刻んで……」
母は声を詰まらせた。なんとか冷静を保ち、続ける。
「私が連れ出さなかったら、お前も、叔母も従弟も殺されていたに違いない。まあ、あの女については、それが相応だと思うけど」
自分の妹についてはさんざんな言い方だ。
叔母のことは、おぼろげに覚えている。小さな従の弟ことも。叔母は目を見張るほど美しい人で、従弟はただひたすら生意気だった。
「たとえ小さな欠片でも、そこにお前の父王の御身体の一部があれば、その影響を受けて、地下に眠る死人たちが蘇るはず。大量の死人たちが群がる地に、お前の父君の御身体は眠っているの」
「俺も、死人と戦うのですか?」
思わず震えあがった。腐り落ちた眼を半眼にし、壊れたような不気味な歩き方をする死人たちを倒すなんて、いったいどうすればいいのだろう。第一、みな既に死んでいるのだ。母はいったい、どのような妖術であの者達を打倒したのか。
「いずれお前も、術を修得することができる」
「けど……。あのようなぬるぬるした肌では、触れることさえ憚られます」
さすがに気持ち悪いとは言えなかった。にもかかわらず、母は目を吊り上げた。
「しっかりおし。貴方はダレイオ大王の子よ。死人ごときに怯えることは許さない」
「でも……」
「口応えは禁じる。ちょうどいい機会だ。死人との戦闘で術を鍛えるといい。貴方はいずれこの国の王となる身。あの憎き王弟サハルを倒して。貴方こそがエメドラードの未来の王なのだから」
「けれど、僕の肌は褐色です。正しい王は、ルーワンでは?」
緑色の肌は、いなくなった従弟の方だ。
「それが何だというの!」
母は激昂した。
「緑の肌は裏切りの印。裏切りの果実であるルーワンに王座に座る資格はない。いい、ホライヨン。貴方こそが間違いなくこの国の未来の王なの。それにふさわしい器であることを、臣下たちに知らしめなさい。なにより、このまま父君の体が切り離されたままでいることを、貴方は許すの?」
なんだかよくわからない。けれど、ばらばらになった父の体が、あちこちに捨てられているのはあんまりだと思った。父に可愛がられた記憶はほとんどないが、肉親の情として、許し難いことだ。
「強くなりなさい、ホライヨン。力ずくで、貴方の実力を見せつけるの。憎いサハルから、王座を取り返しなさい」
こうして母と俺は、父の体を求める行脚の旅に出た。死人が復活したという噂を聞くと、すぐに飛んでいった。夜遅く墓地を巡り、古戦場を歩き回るのは、幼い俺には、なかなかに辛い仕事だった。けれど母は決して容赦しなかった。
残念ながら、大抵は、噂は噂だった。死者たちは静かに墓に眠り、動き回っているのは墓荒らしばかりというありさまだ。
俺と母は、ボロ着で身を包み、身分を隠したままで、あちこちの村を訪ね回った。飢え、物乞いと紙一重の服装、次第に憑かれたようになっていく母の目つきを憐れんでか、時折、村人たちがパンや果物を恵んでくれる。それが、俺たちの生命線だった。
「私は間違っていたかもしれない」
ある日、石臼ですり潰した小麦粉を焼いただけの貧しい食事がすむと、母は言った。
「陣を張ってしまえば、いかに強靭な生命の力であろうと、外へ漏れることは難しい。死人が蘇るのを待っているだけでは、あの人に会うことはできないかもしれない」
「ではどうすれば?」
「わからない。けれど、あの人が死ぬことはないわ。だって、腕はここにあるもの。五体が揃っていなければ、いかに緑の肌を持つルーワンとて、あの人を殺すことはできない」
そう言って母は、腕を納めた麻袋を抱きしめた。
「緑の肌の王を殺すことができるのは、一人、緑の肌の王子だけ。つまり……ルーワン。ルーワンはどこにいるの?」
母の話はよくわからなかった。五体とか肌の色とか。それに、父を殺す? 誰が何の為に? 俺の中で父は、毛むくじゃらの腕二本だけの存在になってしまったというのに!
ただ久しぶりに聞く従弟の名前だけが耳に止まった。生意気だけど、たった一人の遊び相手でもあった。突然消えた従弟は、今、どこでどうしているだろう。
「ルーワンに会いたいね」
「知らない。あの女の産んだ息子のことなぞ」
途端に、僅かに戻っていた母の正気がかき消すように消えていくのがわかった。
◇
もうすぐフィラン神殿の女神とテンドール神殿にまつられた男神が再会する祭礼が執り行われる。急峻な山肌に囲まれ、タバシン河の河幅が狭くなる辺りにあるフィラン神殿と、それより下流の河が大きく湾曲したところにあるテンドール神殿から、それぞれ神輿を載せた船が出る。二つの船団は中間の中洲で落ち合い、神儀が行われる。
年に一度のことだ。失敗は許されない。
フィラン神殿では、神官たちが神輿の準備に余念がなかった。入念に磨き上げ、色とりどりの布で美しく飾りつける。
「おや」
神官の一人が手を止めた。ご神体を安置するはずの神輿には、既に何かが積まれていた。大きな細長い……神輿の中は暗く、それが何であるかわからない。
ご神体を載せるべき神輿に異物が積まれているなど、とんでもないことだ。彼は身を乗り出し、それに触れようとした。
「うわっ!」
神官は弾き飛ばされ床に倒れた。体の右側面から夥しい血が噴き出す。彼の右腕は肩からむしり取られていた。
「!」
言葉の通じぬ奴隷たちが棒立ちになる。
噴き出す血は、竜巻に巻き上げられた河の水のように、部屋一面に降り注いだ。
頭を抱え、奴隷たちは逃げ出した。
彼らは気づかなかった。腕を失い、暴れ回る神官が、床に描かれていた何かの一部を消し去ってしまったのを。丸い円の一部が途切れてしまったように。
「なんだ、あの音は?」
神殿の外で控えていた護衛兵たちが首を傾げる。ごうごうという風の音が水面を渡り、次の瞬間、堰の土が盛り上がった。土は風に飛び、地面の下から枯れ木のような何かが、ぽっかりと開いた穴の縁を掴んだ。まとわりついた赤い布が、風にはためいている。
神殿の中から、奴隷たちが走り出してきた。
「あ、おい、お前ら!」
脱走は大罪だ。逃亡する奴隷たちを、兵士らは捕獲しようとした。
「うへえ。どうしたんだ。血だらけじゃないか!」
「神官どのはどうした?」
訪ねても、奴隷たちは両眼を見開き、大声で何かわからない現地の言葉を叫ぶのみだ。
「奴隷などほっとけ。あれを見ろ! 死人だ。大量の死人がこっちへ向かってくるぞ!」
物見台に上った兵士が叫んだ。
「馬鹿な。神殿に死人がいるものか!」
いたるところに古戦場跡があり、侵略と略奪が繰り返されてきたエメドラードで、唯一、死者が埋められていない場所は、神を祀る神殿のみといえた。
「あそこは神殿ではない。あそこは……」
見張りの兵士の声が震えた。
「あそこは、タバシン河の洪水を抑える為に人柱となった娘たちが葬られているところだ! 彼女たちは、河の精霊の花嫁として、赤い婚礼衣装を着せられ、土に埋められるんだ!」
土の中から、頭蓋骨が覗いた。禿に流した黒い前髪が額で揺れている。ぽっかりと開いた眼窩が向けられた。
生贄は一人だけではない。何百年にも亘って、繰り返し繰り返し、「花嫁」たちは生きたまま、地下に埋められてきた。
犠牲となった娘たちが一人、また一人と土の中から姿を現す。
細い枯れ枝のような手が伸びて己の墓となった穴から身を持ち上げると、ゆっくりと歩きはじめる。
体は傾ぎ、泥で固まった髪の間から時折、昔は美しかったはずの顔が覗く。それは死蝋で固まった死人の顔だった。
見張りの兵士の見たモノたちは、すぐに他の護衛兵らの視界に飛び込んできた。
悲鳴を上げ、我先にと兵士たちは逃げ始めた。
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