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1 悪役令息

14.火薬庫でのアバンチュール

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俺は、ヴィットーリアの船に乗り移った。

「きゃっ!」
女の子みたいな悲鳴をヴィットーリアがあげた。いや、彼女は女の子なんだけど。

「火薬庫はどこだ?」

敵艦の甲板に着地し、手近にいた水兵を捕まえた。首筋にナイフを宛てる。ちなみに女子だった。無骨なエメドラードの水兵と違って、セーラーカラーが良く似合う。

「君、名前は?」
「エ、エリザベス……」
「エリザベスか。覚えておこう」

「きぃぃぃぃぃーーーーーーっ。何やってんのーーーーーーーっ!」
ヴィットーリアが喚いた。足を踏み鳴らしている。

「黙れ! 可愛い部下の喉が裂けるぞ」
「そうじゃなくて! なに、人の水兵を口説いてんのよ!」
「まだ口説いてなんかいない」

そうして俺は、大事なことを思い出した。
「君、連絡先は?」

だって、予想がつかないのが戦闘だろう? 大事なことは先に聞いておかなくちゃ。この先いつ、離れ離れになるかわからないからな。
水兵女子は、小さく折りたたんだ紙片を俺の将校服のポケットに忍ばせた。

「火薬のいっぱい詰まった樽と樽の間、ってのはどうだ? いつ爆発するかわからないって、スリルがあるぞ」
俺が囁くと、水兵女子はくすぐったそうに笑った。

「じゃ、俺たちは船倉へと降りる。二人きりでな」

未だ何事か喚いているヴィットーリアを甲板に残し、俺とセーラーカラー女子は、火薬庫へ向かった。ついてくるかと思ったのに、ヴィットーリアはついて来なかった。3Pでも、俺は全然構わなかったのに。
ところが、だ。

「あれえ。水浸し……」

さっきのウンディーネのせいだ。水の精霊の降らせたスコールのおかげで、どうやら水漏れしたらしい。火薬庫は水浸しだった。
水浸しの火薬庫でことに及ぶのはぞっとしない。俺のビーストは土でできてるわけだし。

唖然としていると、水兵女子が俺の袖を引いた。魅力的な眼差しで俺を見ている。
「ごめんな」
耳元でささやき、後ろ髪を惹かれる思いで、俺は火薬庫を飛び出した。

だって、ヴィットーリアを甲板に残してきちまった。執念深く残酷なあの女を。アルシノエ俺の船が心配だ。



「ほーーーーほっほっほっほ」
甲板に出ると、高笑いが聞こえた。ヴィットーリアだった。
「早かったわね! 早すぎるわ!」
「いや、何もしてないから」

慌てて俺は弁解した。これは名誉の問題だ。俺の性能に関する、誤った情報を広げられたら困るからな。

「あら、彼女は気に喰わなかった?」
「気に喰わなかったって……まさか!」
「そおよ。私の命令であなたを誘ったの」

ということは、もらった連絡先には連絡しない方がいいのだろうか……。

「さすがは、色仕掛け部隊。大手柄よ。おかげで、ジョルジュは取り返せたわ!」
「色仕掛け部隊だって?」

ヴィットーリアの下に、そんなのがあったとは驚きだ。

「ほら、見て」
足元には、確かに、彼女の弟ジョルジュが蹲っていた。

「ああ? そんなのが欲しかったのか? それで、こんな大艦隊を連れて来たのか? 色仕掛け部隊? そんなのまで乗せて」
あまりのことに、脱力した。
「そーよ。その通り!」

我知らず、口があんぐり開いた。

「この大騒ぎは、ジョルジュを取り返す為? お前ら、そんなに仲のいい姉弟だったっけ?」
「仲は悪いわ。最悪よ」
「だったら、なぜ……」
もう、何が何やらさっぱりだ。

「ジョルジュが、貴方と結婚するなんて言い出すからよ!」
「はあ?」
「プロポーズしたでしょ、この子」

あり得ないことを、堂々とヴィットーリアが言い放つ。
呆れてものが言えない。
俺がジョルジュと? ありえねえ。






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