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24 最後の秘跡

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 翌日。訪ねてきた司祭に、フランツは、聖体拝領の意思を伝えた。
 彼は、ゾフィーの顔を立ててくれたのだ。最後まで、彼女の立場に傷をつけまいとした。


 ……普通の聖餐だと告げた。でも、彼は、信じただろうか。
 フランツが聖餐を受けることを了承したと司祭から聞かされ、ゾフィーは懊悩した。
 ……まやかしだ。実際にあの後、彼に授けられたのは、死の儀式だ。そのことに、聡い彼が、気がつかなかったわけがない。


 ライヒシュタット公の最期の秘跡が行われた。司祭に向かい、彼が聖体拝領を受諾した翌々日のことだった。それほど、彼の病状は、切迫していたのだ。

 秘跡の儀は、シェーンブルン宮殿の教会で行われた。皇族、貴族がそれぞれ供を連れて列席し、非常に大掛かりな儀式だった。
 病室に閉じ込められてはいたが、これが、自分にとって、皇族最後の儀式であるということを、彼は、間違いなく、悟った筈だ。

 ……なんとむごい仕打ちを、自分たちは、彼にしてしまったことか。

 宗教とは、そこまで残酷なものだろうか。自らの死を直視せよと、神は、若い青年に命じたというのか。
 その晩、彼は、苦痛に満ちた、絶望的な一夜を過ごしたと、後に従者が語った。



 秘跡を受け、精神的にも肉体的にも、フランツが苦しみもだえていた、同じ夜。
 宰相メッテルニヒは、在フランス大使に、ナポレオンの息子の死を宣告する手紙を書いている。

 ……「ライヒシュタット公の、寿命は尽きたといっていい。彼は現在、結核の末期である。この病は、あらゆる年齢の者を襲い、あっという間に命を奪う。彼は、21歳だった」




 ……でも、彼には、お母様マリー・ルイーゼ様がついていらした。
 今となってはそれだけが、ゾフィーの慰めだった。


 義姉マリー・ルイーゼは、ウィーン会議の折、パルマに領土を与えられた。しかしそれは、彼女一代に限ってのことだった。ナポレオンとの間に生まれた息子を連れて行くことは、許されなかった。彼女は、豊かな領土を選んだ。息子の養育を父に預け、パルマへ旅立った。フランツが、5歳になる直前のことだった。

 彼女は、全部で7回しか、息子の元へ帰ってきていない。小国とはいえ、公主としての彼女の責任は重いのだ。
 皇族として、仕方のないこととはいえ……。


 フランツの死期が迫っていた。
 彼も、母に会いたがっていた。どうか来てくれるよう、家庭教師や従者らが、悲鳴のような手紙を、何通も書き送った。それなのに、マリー・ルイーゼは、なかなか腰を上げようとしなかった。

 フランツは、母に会わぬまま、最後の秘跡を受けてしまった。

 ……「病床のご子息の元を訪れなければ、貴女の評判は悪くなるばかりです」
 ついにメッテルニヒが、そう書き送ったという。宰相として彼は、皇族の評判が悪くなることを恐れていた。

 ようやくシェーンブルン宮殿に馬車をつけた彼女は、震え、啜り泣きながら、息子の部屋へ向かった。
 母の訪れで、フランツは、1ヶ月ほど、命を永らえた。






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