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1章 ハーレム・ハーレム
3 ロンウィ将軍の要望
しおりを挟む俺の姉は、立ち直りが早い人だ。
「グルノイユについて、私も一緒に行くわ」
決して挫けない姉に、父が地団駄踏んだ。
「ロンウィ将軍が望んでいるのは、若くてイキのいい男の子なんだよ、きれいな娘ではなく」
「だからよ、お父様! 私が一緒に行って、二人の様子を観察……じゃなくて、監視してあげる!」
今にも涎を垂らしそうな姉を、父が、ぎろりとにらんだ。
「ダメだ。敗戦国は、勝利国に従わなくてはならぬ、余計なことをしたら、領主の娘といえど、命の保証はない」
「大丈夫よ。だって、将軍は、敗戦国に対して、思いやりがあるっていうじゃない」
「将軍が優しくても、リュティスの皇帝は、そうではない。民のことを考えよ、ルクレツィア。高貴なるお前の祖先のことも。講和条約で、不利な取り決めされるわけにはいかんのだ。我々は、父祖の代から受け継いだ国土を守らねばならぬ」
うちの祖先は、そこまで高貴ではなかったはずだが、そして、ここに辺境伯領をもらったのは、祖父の代からのはずなんだが。
そんなことより。
若くてイキのいい男の子を望んでいる?
リュスティス帝国の将軍が?
思わず俺は尋ねた。
「ロンウィってやつは、変態なの?」
「将軍の悪口を言わないで!」
半泣きで姉が叫んだ。
父が頷く。
「ルクレツィアの言う通りだ。仮にもお前をご所望になられたのだ。ルクレツィアでなくて、本当に良かった……」
うっかり本音が出てしまい、父は、こほん、と咳払いした。
そんなに慌てなくていいよ、父さん。
俺だって、姉さんが大事だもの。
「父さんと姉さんを護る為なら、俺は、どこへだって行くし、何だってする」
「よく言った! それでこそ、バーバリアンの公子!」
父は、ぽん、と膝を叩いた。
「ルクレツィアの言う通り、将軍は、人徳ある立派な方だと聞く。そこは、儂も安心している。というか、頼りない噂だが、今はそれを信じるしかない。バーバリアンの人質として、お前はきっと、丁重に扱われるだろう」
「はい、父上」
姉さんではなく俺を所望したということは、俺が、バーバリアン公国の跡継ぎだからだろう。さもなければ、姉と違って地味で魅力のない俺を欲しがるわけがない。
バーバリアン公国は、ゴドウィー河の東に渡河したリュティス軍の足掛かりとして、格好の位置にある。絶対に手に入れておかねばならない、軍事上の要衝だ。
単なる捕虜として、俺は、リュティス軍の牢獄に監禁されるのだろう。
暗いジメジメした牢獄に。
「姉さんと父さんの為なら。領民に危害が及ばないようにする為なら!」
決して、屈するまいと思った。
バーバリアンの公子として、最期まで、毅然として振舞うのだ。もし運悪く処刑されるようなことでもあったら、目隠しを拒み、自分から射撃の合図を出してやる。
さすがに父が、唇を噛んだ。
「全ては、リュティス帝国が悪い。皇帝ナタナエレ・フォンツェルの強欲こそが、諸悪の根源なのだ」
「そうよ。ロンウィ将軍に罪はないわ。悪いのは、ナタナエレ・フォンツェルよ!」
いや、そのナタナエレ皇帝の司令官として、我が国に攻めてきたのが、ロンウィ・ヴォルムス将軍、姉の言うところの「オシ」なのだが。
父は、俺を案じて泣き出した姉を、しっかりと抱きしめた。きっと、俺を見据える。
「いいか、グルノイユ。これだけは言っておく。いついかなる時も、決して、バーバリアン公子としての誇りを忘れてはならぬ。今のその姿を誇りに思え」
「はい、父上」
そうだ。バーバリアン、この清浄な領土を、悪鬼ナタナエレの手から、守らなくてはならない。領民達の土地を、守ってやらなくちゃ。
征服者ロンウィ将軍に逆らうわけにはいかない。
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