ダンジョン溢れる地球の世界線 ~青春に焦がれる青年は脳筋スキルで最強を目指す 「え、冒険者ってモテるの?ならなります」~

海堂金太郎

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第五章 『渋谷』ダンジョン 中層編

第90話 ダンジョンへ

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「おはよう海。私だ、竜胆だ」
「………どちらさまですか?」
「む、かけ間違えたか?」

 凛とした声が鼓膜を揺らす。
 その声の主が竜胆さんであると気付くのに十秒ほどかかった。

「…ん?……あぁ、竜胆さんですか……おはようさんです」
「あ、あぁ…おはよう……海、だよな?」
「あい、かいです…んんん~~~」

 そして次に気が付いたのは身体の節々が痛いこと。周りを見ればそこは自分の部屋でなくリビングにあるソファの上。どうやら俺はあのまま寝落ちしてしまったらしい。
 まだまだ意識が半分以上眠っている状態でスマホ越しに話しながらその場で伸びをするとぽきぽきと身体中が鳴った。

「…話をしてもいいか?」
「?……もちろんです」

 どうやら竜胆さん、こんな朝っぱらから話があるらしい。時計を見るとまだ朝の六時にもなっていなかった…が、別にこの後何かあるわけでもないので頷く。

「今車で広尾駅前のファニマにいるのだがここからどうすればお前の家に行けるんだ」
「……はい?」

 まぁ、完全に目が覚めたよね。
 どうやら竜胆さん、家の近くで迷子になっているらしい。





「涼しい~」

 竜胆さん迷子の一報を本人から受けた約三十分後。俺は夏真っ盛りとは思えない冷涼な風が吹く中、冒険道具一式が詰め込まれたリュックを背負い自宅最寄りである広尾駅に来ていた。

『ダンジョン外は竜胆さんが俺の護衛をする』
 昨日は帰った後に色々あったから忘れていた。これからしばらくの間は竜胆さんが家に迎えに来て渋谷の冒険者センターまで送ってくれるそうだ。
 で、彼女には「私が行くからお前は家にいろ」と言われたんだけど、迎えに来てもらっている身である以上「はい、分かりました」では申し訳が立たないので今こうして自分の脚を使っているわけ。彼女の厚意に甘え過ぎてはいけない。

(…あれ、だよな)

 確か竜胆さんは駅前のファニマ辺りに車を止めていると言っていた。
 広尾駅前のファニマと言えば、無駄に格好いい外観をしているところだろうからあの車で間違いないはず…。

 恐る恐る近づいていく、真っ黒のポルシェに。

「ん?…おぉ、おはよう海」
「あ、おはようございます竜胆さん。わざわざ迎えに来てもらっちゃってすみません」

 人が近づいてくる気配を感じ取ったのだろう。あのぅ…と俺が話しかける前に振り向いた竜胆さんは車と同じ真っ黒なグラサンを外して微笑んだ。超カッコいい。

 ただ…――

「オープンカー…ですか」
「なんだ、オープンカーは嫌いか?」
「いや、好きな方だと思います。今日みたいな日は風が気持ちいですし」
「はは、そうだろう。よし乗れ、早く行こう」
「お邪魔しま~す」

 ――…滅茶苦茶目立つな、これ。



 ◇◇◇



「ねぇ…ちょっとだけ、先っちょだけだから…ね?」
「キュ…キュゥ……」
「そんな顔しないでおくれよー、これは私の為だけじゃなくて君とカイ君の為にもなるんだ。だから…ね?今回だけだから、お願いっ」

 ダンジョンラボに着いたら朝陽さんが屑男みたくサンゴに言い寄っていた件。

「……何やってんすか?朝陽さん」

 早朝の風を顔一杯に感じた竜胆さんとのドライブを終え、ダンジョンラボにある朝陽さんの研究室に入ったら朝陽さんとサンゴが鬼ごっこしているところに出くわした。

「え、あ、いや……出不精が気になって少し運動を…」
「朝陽さんでも気にすることあるんですね」
「はぁ…どうせ研究用にサンゴの身体の一部を採取しようと追っかけまわしていたとかだろう。そもそもの話、朝陽は自分が出不精であると思っていないだろうがな」
「え、嘘」

 助けを求めて俺の方…ではなく竜胆さんの方に走っていくサンゴにそっちじゃないだろと思いながら適当に朝陽さんを弄る。

「…散々言ってくれるじゃん」
「事実だろう」
「……」

 自分が出不精である自覚がないことと言い、研究のためサンゴを追い掛け回していたことと言いどちらも事実らしい。ぐうの音も出ないとはこのことだ。
 ただまぁ出不精云々は置いといて、俺としては確認さえとってもらえれば研究のためにサンゴを利用してもらって構わないので一応聞いておく。

「え~っと…で、サンゴの身体の一部っていうのは?」
「え、くれるの?」
「取る際にサンゴが嫌な思いや痛みを感じない所なら別にいいですよ」
「皮膚は「ダメに決まってるでしょ」……だよねー。じゃあ爪で」

(爪…か。頭に乗るとき引っ掛かって痛かったから丁度いいかもな)

 釘を刺されておきながらもすぐさま皮膚と言い出した朝陽さんはやはりマッドだと思うが爪なら大丈夫だろう。
 朝陽さんには普段から世話になっているし、俺的にもサンゴの研究が進んで欲しい…将来の頭皮のためにも。

「サンゴ、爪なら大丈夫そうか?」
「キュ…キュフぅ」

 サンゴにお願いしてみると渋々ではあるがモフモフの右手をちょこんと朝陽さんの方へと突き出してくれた。



「おはようございます皆さん…お待たせしてしまいましたか?」

 それから大体十分くらいだろうか。サンゴの爪だけでは飽き足らず涎や血液まで欲しいと朝陽さんが駄々を捏ねているところに三人の待ち人である桜子さんが研究室に入って来た。

「おはよう桜子」
「おはようございます桜子さん」

 一番メジャーな研究部位であろう体毛を欲しがらないということは既に勝手に採取しているな?と思いつつ、挨拶を返した後に「大丈夫です、今着いたところですよ」と決め顔すると桜子さんは「それなら良かったです」と顔を綻ばせた。

「あ、おは桜子ちゃん……んじゃ話を聞かせてもらおうか、カイ君」

 一瞬目を離した隙にほらこの通り。
 駄々捏ねマッドからこの場における裏のリーダーへとお得意の早変わりを果たした朝陽さんが俺に聞いてきた。どう?美作社長の協力は得られそうかな…と。

「「「……」」」

 それまでの緩んでいた空気が嘘のように一転、引き締まり部屋の中に緊張感が漂う。

「前向きに検討するって言葉を貰いました」
「…行けたら行くみたいな感じ?」
「いや、文字通り前向きに検討して貰えそうです。会議で通り次第、朝陽さんのもとに連絡が行くと思うんでよろしくお願いします」
「「「ふぅ~~~……あ~良かったぁ…」」」

 そして俺が自信をもって報告すると糸の切れた操り人形のように、三人の美女たちはそれぞれの椅子へと力なく座り込んだ。それから思い思いの方法で喜びを静かに噛み締める。しかしいつまでもこうして喜んでいるわけにはいかなかった。
 美白華の協力は確かに素晴らしいことだ、俺たちに残されていた唯一の希望だ。けれども氷室東郷に歯向かうために必要な最低限の事柄でしかない。美白華の協力を得て初めてスタートラインに立つことが出来る。ここはゴールじゃないし、通過点でもない。俺たちはまだ…一歩も進めていない。

 俺自身が強くならなければここから先は一歩たりとも進めないのだ。

「桜子ちゃん、有給どれくらい使った?」
「取り敢えず海君の夏休みが終わるまでの日数分は使いました」
「おけ、ありがと。マコちゃんはこの後時間ある?」
「10時に会議があるが、それまでは」
「りょ、んじゃ初日だから最大限の安全マージン取るためにもカイ君たちとダンジョン潜ってくれない?」
「お安い御用だ」
「最後カイ君…―――覚悟は出来ているかな?」
「もちのろんです」
「よぉ~し…」

 だから強くなる必要がある。
 束の間の喜びを噛み締め終えた朝陽さんが桜子さんに、竜胆さんに、そして俺にそれぞれ確認を取って満足気に頷いた。

「ここからはノンストップで走り抜けるよ、狸の首に刃物が付きつけられる距離まで、一気にっ」
「「「おう(はい)!」」」
「キュウッ!」

 さぁ、ここからはダンジョン攻略の時間だ―――。





















「GuruuuuuuaH!!!」



「それではやってみようか」
「頑張って下さい海くんっ」
「……」

さ、さぁ…だ、ダンジョン攻略の時間だぁ…
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