ダンジョン溢れる地球の世界線 ~青春に焦がれる青年は脳筋スキルで最強を目指す 「え、冒険者ってモテるの?ならなります」~

海堂金太郎

文字の大きさ
上 下
82 / 95
第五章 『渋谷』ダンジョン 中層編

第81話 斜め上を行く選択肢

しおりを挟む
「その後、企業のスカウトマンなどに揉まれに揉まれて自分の居場所は何処にもないと再確認させられた私は、気づいたらビルの上にいて…竜胆さんに抱きしめられていました…。…以上が四年前、私の身に起きたことの全てです」

 桜子さんは四年前に自分の身に起きた負の出来事を語り終えた。その顔にあるのは苦の感情ではなく、恥じらい。
 俺はこういった顔を見たことがある。そう、あれだ。自分の黒歴史を語った、若しくは暴露された後の人の表情だ。だから桜子さんの中では四年前のことは所詮過去のこと、と一区切りつけて乗り越えることが出来ているのだろう。

 そのことが分かって少し安心した。

 ……関係者は罪悪感でいっぱいのようだけど。

「ごめんね…桜子ちゃん……」
「何一つしてやれることが出来なかった。本当にすまない…」

 俺の正面と隣に座る残念美女二人。

 冒険者センターの重役が裏で大企業と繋がっていたり、そもそもの話桜子さんを手に入れようとする企業が多過ぎたりと幹部になりたてほやほやだった当時の竜胆さんが出来ることなどなかった。それなのに飛び降り間際の桜子さんを見つけて踏み止まらせたのだから大したものだ。ナイスプレイ。しかし、竜胆さんはそうなる前に助けてやりたかったと頭を下げる。

 問題はもう一人の残念美女の方。
 研究のことになったら周りのことが一斉見えなくなるという研究者らしい悪癖を最悪のタイミングで発動させてしまったマッド、朝陽さん。顔が真っ白だ。
 無理もない。親友に自死の選択を取らせてしまった人間の中に自分がいるのだから、それはもう責任感じていることだろう。

 ただ、完全な部外者である俺は思う。朝陽さんは悪くない。朝陽さんの行動が桜子さんに悪影響を及ぼしたことは間違いないがそれは結果論でしかない。

 悪いのは桜子さんの身に起きた負の出来事の連鎖の発端となった人物、氷室東郷だ。

 もともとあった家庭内の問題を表面化させ爆発させたのも、ダンジョンに居場所を求めてしまったのも、普段なら『あぁいつもの朝陽ですか、まったく…しょうがない子ですね』となるところ『朝陽、あなたもですか』と桜子さんが変にとらえてしまったのも、全ては身勝手な振る舞いをした奴のせいだ。
 頭を下げるべきは竜胆さんでも朝陽さんでもない、氷室東郷だ。

 それなのに、奴は四年前を忘れている。

 陣営に引き込みたい冒険者を囲うために冒険者が大勢いるところで日常会話に見せかけて他企業への牽制、もとい唾つけをするその行動自体は分からないわけでもない。
 しかし、その行動が四年前と同じような事件を引き起こす可能性があることに何故気づかない。世界的大企業のトップなのであれば分からないはずがない。
 つまりは忘れているのだろう。そのことに当事者でもなければ氷室東郷と接したことすらない俺でさえ腹立たしく思う。当事者である竜胆さんが怒りに怒ってやらかしちゃうのも無理はない。

「ごめん、取り乱した。本題に入ろう」

 そうこうしているうちに桜子さんにハグしてもらっていつも通りとまではいかないけど、顔色が良くなった朝陽さんが口を開く。

 そうだった、そうだった。忘れてた。この場は桜子さんの四年前を聞こうの会じゃなかった。悪辣非道な狸への対抗策を考えようの会だった。衝撃的すぎる告白のせいで自分の身に近寄る危険など頭の隅くらいにしかいなかったよ。

 朝陽さんの言葉を受けて「そうですね…」「そうだな」と呟く桜子さんと竜胆さんに倣って俺も存在を忘れ去られていたサンゴを頭に乗せて、一応「ん~」と考え込むふりをする。

(でもさぁ、結果は話し合う前に出てるでしょ)

 ただふりはあくまでもふりだ。頭なんか回しちゃいない。何故なら俺の中で既に答えは出ているのだから。

「あの、冒険者センター専属の冒険者になることって出来ます?」

 俺は提案する。争奪戦に巻き込まれる前に何処かしらの組織に入ってしまえばいいのではないか、と。そしてこの提案こそが氷室東郷の魔の手から逃れる唯一の手段であると俺は思う。

「あ~…ね。それが一番楽な対策案なんだけどねぇ」

 しかしそんなことは分かっているという様子で朝陽さんは苦笑いしながら遠回しにそれではダメだと言った。

「何か問題点が?…まぁ、確かに冒険者センターの専属冒険者になるためにはそれなりの実績が必要になって来るってのは分かってるんですけど…ただ企業と手を組んだ場合、狸に企業ごと飲み込まれてしまうと思うんですよ」

「まぁね~。マコちゃんの言ったことが本当なら、大勢の前で美作海はうちが取るって宣言したようなもんだ。取れませんでしたじゃぁ笑い者になること必至。中小企業だけじゃなくて『ヒノモト鍛冶屋』みたいな大企業にだって手を出してくるかもしれない。
 いや、してくる。何せ監視を付けてくるくらいの力の入れようだ。うん、間違いないね~」

「え、監視いたんですか。なら…」

 なら、なおのこと俺の行先は冒険者センターにしかないじゃないか――。

 そう言おうとしたところで「まぁまぁ」と朝陽さんに止められた。俺の口が閉じたのを見て朝陽さん…ではなく、今度は竜胆さんが口を開く。

「その冒険者センターの中でさえ狸の魔の手は届くのだよ」
「……は?」

 竜胆さんの言葉に俺は開いた口が塞がらなかった。
 それはそうだ。冒険者センターとは謂わば日本における冒険者の守護者。国内外問わず民間企業の介入を許さない絶対不可侵領域なのではないか。

「あぁ…」

 そう一瞬考えた俺だが、すぐに否定する。冒険者センターというものはそんな崇高な存在ではないと。四年前のあの事件を聞いた今では間違えてもそのように考えてはいけないと思いなおす。

「裏切り者…ですか」
「そうだ」

 静かに、しかしはっきりと竜胆さんは肯定する。
 裏切り者――思い出すのは駿河一徹《するがいってつ》という名前。桜子さんの話の中に出てきた重要人物であり、敵役でもある冒険者センターの人間だ。
 確か肩書は冒険者センター企業交渉担当だったか。間違いなく冒険者センター内での地位が高く、何より『Seeker’s Friend』側。

「駿河一徹……でしたっけ。そいつは今冒険者センターにいるんですか?」
「あぁ。いるも何も、私と同じく幹部の席に着く重役の一人だ。腹立たしいことにな…」

 拳を強く握る竜胆さんを見て嫌な予感がした俺は立て続けに「他の幹部は?」と聞くと「ほとんどがそうだ」と捻りだすように答えを口にした。

(あぁ、なんてこった。腐ってやがる)

 今からひと月ほど前の日曜日。スキル検証が始まったあの朝にリビングで父さんに言われたことがフラッシュバックする。

『海…。社会は人々の欲望が渦巻いている場所だ。お前が想像している以上に醜く汚い。それだけは忘れるな』

 あぁ、忘れないよ父さん。これは忘れたくても忘れられそうにない。

 ダンジョンが人類に多大な利益をもたらす金の生る木だってことは理解しているけど、そうだとしても腐り過ぎてはいやしないだろうか。
 企業の利益を第一にと平気で若者の将来を奪い忘れる狸然り、そんな権力者に媚びを売ったり協力したりで自分の席を守る幹部然り。

「どう、カイ君。そんな奴らのもとで、隣で、一緒に戦いたいと思える?」
「思えませんね」

 完全にいつもの調子――悪戯な笑みを浮かべた朝陽さんに対して俺は否と告げる。
 当然だ。所属するからにはもちろん上司とかは狸なんかの化け物ではなく美人なお姉さん……じゃなくて………清廉潔白とまではいかないけど、自分が尊敬できるような人がいいし、何よりも誇れる所属先であってほしい。
 甘いな、若いなといわれるかもしれない。でもさ、夢見たっていいじゃないか、理想を謳っていいじゃないか。それが若者の特権なのだから。


 この時の俺は冷静じゃなかったと思う。桜子さんの話を聞いて怒りを覚え、熱くなっていた。だから乗せられてしまう——。


「カイ君。もしもそういった腐った連中に尻尾振ることなく、思い思いに、自由にスキルボードと君自身を成長させることのできる選択肢があるのだとすれば君はどうする?」
「もちろん選びます」
「その選択肢の先の道がちょっとだけハードだとしても?」
「もちろんです。筋トレに比べれば屁でもない」
「そうか~そうか~。ん~感心感心。………ならさ―――」









 ―――会社《自分の居場所》、作ってみない?―――




 茨道確定の選択肢にワクワクしてしまったんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

処理中です...