ダンジョン溢れる地球の世界線 ~青春に焦がれる青年は脳筋スキルで最強を目指す 「え、冒険者ってモテるの?ならなります」~

海堂金太郎

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第五章 『渋谷』ダンジョン 中層編

第79話 四年前――発見者

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『一芸よりも安定性を、才能よりも実績を』で有名なシーカーズフレンドのトップ、氷室東郷が何の実績もない若手の冒険者に対して契約交渉の席を設けた。しかも結局は契約せずにその席は終わったという。
 意外性と違和感の掛け合わせ。その情報は瞬く間に日本中のダンジョン関連企業に広がっていった。
 あの氷室東郷を惹きつけたナニカを持つ若手冒険者とは何者なのか。そのナニカとはもしかしたら唯一無二のスキルなのではないか。契約を見送ったのは氷室東郷がそのスキルを御することは出来ないと思ったからではないのか。
 企業から企業へ、人から人へと伝わっていく噂は誇張と妄想が付け足されていき遂には海を渡る。そして海の向こうの企業たちもその噂の渦に巻き込まれていった。
 極東の地にはそれはそれは素晴らしいダンジョンバスターがいるらしい。何でも九十階層越えのダンジョンを一人で攻略出来るだとか。いやいや、私はゴッドランクモンスターを一人で相手取れると聞いたぞ。
 どの情報が本当でどの情報が嘘なのか。様々な情報が錯綜する世界のダンジョン関連企業はそこで思ったのだ。なら直接見に行けばいいのでは?と。非常に簡単な話で、桜子にとっては迷惑な話であった。
 そしてこの騒ぎと重なるようにして噂の超人冒険者が地上世界から失踪した。その事実が更なる誇張に繋がる。桜子がダンジョンに魅せられてから一か月経った頃には桜子はゲームで言うところのURのキャラみたいになっていた。

 そんなUR【超人冒険者】我妻桜子を探しに国内外問わず多くのダンジョン関連企業の冒険者パーティが渋谷ダンジョンを訪れた。
 それから約一か月、中小企業の一部がURキャラ探しから脱落し始めたところで、フランスの大企業『wawaヴァヴァ』が第一発見者となる。



 ◇◇◇



 赤く燃え盛る無数の彼岸花が地面を破り、雪から顔を覗かせ、辺り一面を一瞬のうちに焦土と化す。
 その炎は消えることを知らず、ある者に対しては殺意を持って絡みつき焼き尽くした。そしてある者に対しては守るかのように包み込み深紅のドレスを作り上げた。

『……綺麗』

 渋谷ダンジョン第82層。氷に覆われた世界でその光景を見ていたwawa特別選抜パーティメンバーの一人――クロエ・リシャールは思わず心の声を漏らす。
 同じくクロエと共に物陰に隠れていたパーティメンバーたちは「は?綺麗?ヤバいの間違いだろ」という目で彼女のことを見ていたがそんなの知ったこっちゃない。戦いの中で作り出された芸術を一秒たり見逃したくなかった。

 それは美しくも冷酷で残虐で、圧倒的だった。
 辺り一面に広がる炎の花畑の中で二等級怪物――極光竜《オーロラドラゴン》は炎に抱かれ苦しみ、空へと逃れようとするが炎がまるで意思を持っているかのように絡みつき掴んで離さない。クロエにはその炎が自分に話しかけて来ているように思えた。

 もっと私を見て欲しい…一人にしないで欲しい………あぁ、愉しい。

 魔法は術者の心を表す鏡であるとは彼女の持論だ。
 寂しいのに愉しい。矛盾から反発し合う感情の間に葛藤を見た。
 たった一つの強い感情が人を輝かせていることは見たことがある。しかし、本来ならば輝きを暈してしまうはずの葛藤や迷いという感情がより一層その人を輝かせているところは見たことがなかった。クロエはそこに芸術を見る。

『話してみたいなぁ』

 少し先の方で深紅のドレスに身を包まれた桃色の髪の冒険者にクロエは興味を持ち、出来ることなら肩を並べて一緒に冒険したいと思った。

 一方でクロエ以外のwawa特別選抜パーティメンバーはその光景に畏怖の感情を覚えた。
 彼らの活動拠点はフランス第三の都市でもあり、日本でいう一等級相当のダンジョンがあるリヨンだ。そしてその『リヨン』ダンジョンの第70層にはフロアボスとして極光竜《オーロラドラゴン》が出現する。
 故に彼らは分かっていた。極光竜《オーロラドラゴン》は決して一人で挑んでいいような相手ではないということを。
 竜種の中でも最上位に位置する極光竜《オーロラドラゴン》は防御面で物理攻撃に対しても魔法攻撃に対しても強い耐性を持ち、個体によっては【極光領域】と呼ばれる一定以下の魔法攻撃の使用を不可にするとんでもスキルを持ち合わせている。攻撃面ではドラゴンの代名詞ともいえる【竜の息吹《ドラゴンブレス》】が辺り一面を凍り付かせ、高さ15m・長さ30mもある巨体に魔法を纏い物理攻撃だか魔法攻撃だか分からない突進を仕掛けてくる。
 そのため極光竜《オーロラドラゴン》を攻略する際には複数のパーティ集団を集めたレイド大集団で戦うことが推奨されており、そうでなければ八星《ユイット》――日本でいうところの二等級――以上の冒険者だけで構成されたパーティで挑むことが最低必須条件とされている。
 だからアレはおかしいのだ。畏怖の対象となり得たのだ。ついでに言うとそんな人間とわざわざ喋ってみたいと思う命知らずなクロエもクロエだ。馬鹿と天才は紙一重という言葉の体現者である。

『話しかけてきていい?』
『ダメに決まっているだろ……戦闘が終わり次第本部と連絡を取り、判断を仰ぐ。それまでは待機だ』
『『『『了解』』』』
『ぶぅ…ケチ』
『ダメだ』

 その後、蹂躙劇の幕が下りるまで一行は炎姫の舞を静かに見ているのだった。


 なお、桜子の戦いを見て彼女に接触しなかったパーティはここだけである―――。
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