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第五章 『渋谷』ダンジョン 中層編
第67話 想定外の二歩
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「ほいっ!…そいっ!…よいしょっ!」
バゴンッ!ドゴンッ!バギャッ!
「グギ――」「グギャ――」「グゴ――」
本当のダンジョンはここからだと言われている15層を探索し始めてから早1時間。
初めはどんな化け物がいるのかと警戒心Maxでのろのろと歩いていた俺だったが、14層と大して変わらないなと気づいてからはいつも通り、走りながらのサーチアンドデストロイを行っていた。
「まぁそう容易くポンポンと七等級が出てくるわけじゃないか…お、ラッキー」
今しがた倒した3体の小鬼頭《ホブ・ゴブリン》の跡に落ちているマナ石を拾い上げながら呟く。
14層と15層では世界が違う、七等級の怪物が出てくる……と言ってもいきなり複数の七等級の怪物と遭遇《エンカウント》する、なんてことはない。15層からは七等級の怪物が極稀に出現し始めるというだけだ。
14層と同じで階層の最強個体は今俺がいるような遮蔽物がなく冒険者の眼が届きやすい草原エリアとかにはいない。森林エリアの中で群れのボスとして君臨し、滅多なことがない限り行動範囲から出てこないんだ。
『ダンジョンマップ』にも七等級の怪物――『小鬼指揮官《ゴブリン・コマンダー》』、『疾風狼《ウィンドウルフ》』、『犬人頭《コボルト・リーダー》』のそれぞれが率いている群れの縄張りも森林エリアにあると書かれている。
ただ八等級との遭遇率の高さは14層と15層では別物だ。
今こうして走っている間にも遠目ではあるもののあっちこっちに小鬼頭や草原狼《グラスウルフ》、15層から登場する新種――犬人《コボルト》の存在を確認することが出来た。遮蔽物の少ない草原エリアであるのに、だ。対して14層で一番多く見かけていた小鬼などの九等級の怪物の数がここ15層は圧倒的に少ない。
うん、確かに14層と15層では世界が違う。よし、八等級を倒せるようになったぞ!いよいよ15層の攻略開始だ!という駆け出し脱却直後の多くの冒険者が命を落とすわけだ。複数の八等級を一人で捌ける俺にとっては大した変化でもないけどな。
(…おっと、これが油断か。危ない危ない)
頭の中でダメですよ、めっ!と叱ってくれる女神桜子さんを想像し、頬を緩ませ気持ちを引き締める。
それからノルマの進捗状況を確認すべく、立ち止まってチラリと石板を確認。
<【アイテムボックス】のスキルボード>
――――――――――――――――――――
右上:お荷物を頭に乗っけたまま移動
25.2/100㎞
右下:30㎏以上のものを背負いながら移動
25.2/100㎞
左下:七等級の怪物を討伐
0/10体
左上:30㎏以上のものを背負い怪物討伐
36/100体
――――――――――――――――――――
「走る系が四分の一…討伐系は三分の一…か。小鬼頭《ホブ・ゴブリン》とかの美味しくない奴はある程度無視して草原狼《グラスウルフ》とかの美味しい奴だけ狩る感じにしよっかなぁ…」
「キュウ?」
「ん?草原狼《グラスウルフ》を食べてみたい?」
なんとなくではあるけどサンゴの言いたいことが分かった俺はサンゴにそういう意味じゃないと説明する。
「あぁ、美味しいってのはそういう意味じゃないよ。金銭的に美味しいって言ったんだ」
「キュゥ……」
その説明を聞いたサンゴはあからさまに落ち込んだ。
「これあげるから元気出せ」
「キュ?…キュウ!」
「現金な奴だなぁ…」
サンゴにジャーキーをあげてから周りを見渡す。
「キュゥ…キュゥ…(もさもさ)」
「ん~…ここら辺には草原狼《グラスウルフ》いないな……小鬼頭《ホブ・ゴブリン》と小鬼《ゴブリン》多過ぎ…」
『七等級の怪物を討伐』以外のノルマを同時に終わらせたい俺としてはマナ石のレアドロップ以外は一銭にもならない小鬼種を無視することで走行距離効率を上げつつ、マナ石以外のドロップでも金になる草原狼《グラスウルフ》を狩ろうかと思っていたのだが、肝心の草原狼《グラスウルフ》がいない。
いるのは今まで嫌になるほど見てきた小鬼種だけ。
「走りながら探しますか……魔法鞄《マジック・バック》借りたわけだし、フル活用しないとな…」
魔法鞄《マジック・バック》の貸出料金は一時間3000円とかなり割高だ。移動で3時間、狩りで1時間経っているので既に12000円の金額が発生している。
是が非でも元を取りたい俺はうだうだ言わず、行動するしかないのでとっとと出発しよう―――と脚に力を込めたその時。
前方約20mのところに突如一体の怪物が出現した。
ふとした瞬間、気づいたらそこに怪物がいる現象―――発生《ポップ》である。
「お?あれは…」
遠くにいるため正確な体長は分からないが傍から一見して分かる筋肉質な身体に紺色の体毛、皮の胸当ても付けている。
そんな戦士然とした胴体の上に乗っている横顔は狼に酷く似ていた。
手には柄から剣先にかけて緩やかなS字を描く片手剣――湾曲剣《シミター》が握られている。
「―――犬人《コボルト》かな?」
俺はいつかの冒険者知識検定勉強で見た犬人のイラストと20m先に出現した怪物の姿形を照らし合わせて、ソレが犬人《コボルト》であると断定した。
実を言うと犬人《コボルト》をここまで近くから見るのは今回が初めてだ。
ひたすらに討伐効率を求めて狩り続けた先ほどまでの一時間では今よりも更に遠目から犬人《コボルト》らしき怪物を視界の端に捉えることはあったけど、近づきはしなかった。一息で殺せる小鬼種が近くにいるのに敢えて見たことも戦ったこともない犬人《コボルト》と戦う必要を感じてなかったからな。
しかし、状況は変わった。
戦ったことのない怪物がわざわざ目の前に現れてくれたのだ。しかも誕生したばかりだからポツンと1体の状態、丁度こちらに背も向けた。戦う以外の選択肢は何処にも見当たらない。
「殺《や》るか……サンゴ、ちょっとだけ静かにしといてくれよ?」
「キュ…」
「よし、いい子だ」
犬人《コボルト》はとても耳が良いので、サンゴには静かに、と言っておく。
発生直後とまさに今、言葉を発しちゃったわけだけどあちら側が気づいたようには見えないのでまぁ良いとしよう。結果論です。
「…っと………ふぅ……」
土塊がパンパンに詰まったリュックを地面に降ろしてから、静かに息を吐き集中力を高めていく。相手は八等級とはいえ15層で発生する個体、しかも戦ったことのない種類。油断があってはいけない。
(深く…深く…)
でも、ある程度は周りを見ないといけないのである程度の深さまで落ちたところで集中力を高めるのを止め、維持するようにする。
スー――――――
深呼吸と同じように出来るだけ静かに両手剣《バスターソード》を抜刀。肩に担ぐようにして構える。
「キュ…キュゥ…」
俺を中心とする緊張感の磁場に驚くサンゴ。でも静かにしなきゃ…!と頑張って声を抑えているのが微笑ましい。
前方にいる犬人《コボルト》だけに意識は向いていない。周りもしっかり見えている。そして程よい脱力感。うん、最高だ。
(よし…)
「っ…!」
ダンッ!
脚に思い切り力を流し込んで地面を蹴りつけ、5mの距離を僅か一歩で詰める。
足元は草だらけ。隠密系のスキルを持っていない俺がそろりそろりと息を潜めても無意味だろうという判断からの全力の一歩。奴《コボルト》が気づき、振り向いた時にはサヨウナラを目指す。
ダンッ!
「キュゥ…」
急加速で振り落とされないように…でも声はなるべく上げないようにと俺の頭に爪を立て踏ん張るサンゴの静かな悲鳴を聞きながら二歩目を踏み出し、着地。三歩目を踏みだすため再び脚に力を込める―――。
(ん……?)
残り約10m。そこに至ってようやく、俺は違和感というものを覚えた。
いや、正確には残り15mと言ったところか。
(おかしい…俺は20mくらいと踏んでいたはずだ。なのに何でまだ15mもあるんだ?)
20mと25m、僅か5mの差だけれどその差はあまりにも大きい。
ダンジョンに潜るようになってから今の今まで、怪物を見つけるごとに俺は敵との距離を目算で測り続けてきた。だから自分で言うのもなんだが俺の目算は結構正確だ。自信もある。
だからこそあり得ないのだ。20mと25mを測り間違えるなんてことはあってはならないのだ。
そして違和感はもう一つある。
ダンッ!
(どうして反応しない…!)
俺は未だにこちらに背を向けたままの犬人《コボルト》に心の中で疑問を全力で投げつける。
そう、残り15m~10mの近距離。かなりの音を立てて近寄ったにもかかわらず奴は振り向く素振りを見せようとしない。聴覚、そして嗅覚ともに優れている犬人《コボルト》らしからぬ鈍さだ。
まるで自らに近づいてくる獲物を待っているかのような。罠にかかりに行っているような錯覚を覚える。
(そういうことか……気づけてよかった)
ダンッ!
四歩目―――。
いよいよ奴が目と鼻の先、10mから5mの所まで近づく途中に至って俺はようやく全てに気が付いた。
ダンッ!
五歩目―――。
全てに気づいた。気づいたが故に俺は止まらない。止まれない。
止まった瞬間に俺は恐らく死ぬだろうから。
残り3m。
(―――ここ)
あと、コンマ数秒で奴の間合いに入るであろうところで俺は走ることを止め、勢いをそのままにスライディングの姿勢に入る。
「ガルゥッ!?」
――直後。俺でもサンゴでもない驚愕の声が聞こえたと同時に、サンゴのかなり上を凄まじい突風が通過した。
追撃がないことを視界の端で確認してから、未だ勢いのあるスライディングを左手と両の足で踏ん張ることで強制的にスライディング状態から左片足立ちの姿勢に移行する。
ダン!
六歩目―――。
左足を軸に、宙で所在なく彷徨っていた右足を思い切り地面に叩きつけ、踏み込む。
そして一閃―――。
「ガ?」
何が起きたか分からない。なぜ自分は空を見ているのだろう―――。
ボトリと地面に落ちた犬人頭の頭部、その表情は誰の眼から見てもそう言っていた。
バゴンッ!ドゴンッ!バギャッ!
「グギ――」「グギャ――」「グゴ――」
本当のダンジョンはここからだと言われている15層を探索し始めてから早1時間。
初めはどんな化け物がいるのかと警戒心Maxでのろのろと歩いていた俺だったが、14層と大して変わらないなと気づいてからはいつも通り、走りながらのサーチアンドデストロイを行っていた。
「まぁそう容易くポンポンと七等級が出てくるわけじゃないか…お、ラッキー」
今しがた倒した3体の小鬼頭《ホブ・ゴブリン》の跡に落ちているマナ石を拾い上げながら呟く。
14層と15層では世界が違う、七等級の怪物が出てくる……と言ってもいきなり複数の七等級の怪物と遭遇《エンカウント》する、なんてことはない。15層からは七等級の怪物が極稀に出現し始めるというだけだ。
14層と同じで階層の最強個体は今俺がいるような遮蔽物がなく冒険者の眼が届きやすい草原エリアとかにはいない。森林エリアの中で群れのボスとして君臨し、滅多なことがない限り行動範囲から出てこないんだ。
『ダンジョンマップ』にも七等級の怪物――『小鬼指揮官《ゴブリン・コマンダー》』、『疾風狼《ウィンドウルフ》』、『犬人頭《コボルト・リーダー》』のそれぞれが率いている群れの縄張りも森林エリアにあると書かれている。
ただ八等級との遭遇率の高さは14層と15層では別物だ。
今こうして走っている間にも遠目ではあるもののあっちこっちに小鬼頭や草原狼《グラスウルフ》、15層から登場する新種――犬人《コボルト》の存在を確認することが出来た。遮蔽物の少ない草原エリアであるのに、だ。対して14層で一番多く見かけていた小鬼などの九等級の怪物の数がここ15層は圧倒的に少ない。
うん、確かに14層と15層では世界が違う。よし、八等級を倒せるようになったぞ!いよいよ15層の攻略開始だ!という駆け出し脱却直後の多くの冒険者が命を落とすわけだ。複数の八等級を一人で捌ける俺にとっては大した変化でもないけどな。
(…おっと、これが油断か。危ない危ない)
頭の中でダメですよ、めっ!と叱ってくれる女神桜子さんを想像し、頬を緩ませ気持ちを引き締める。
それからノルマの進捗状況を確認すべく、立ち止まってチラリと石板を確認。
<【アイテムボックス】のスキルボード>
――――――――――――――――――――
右上:お荷物を頭に乗っけたまま移動
25.2/100㎞
右下:30㎏以上のものを背負いながら移動
25.2/100㎞
左下:七等級の怪物を討伐
0/10体
左上:30㎏以上のものを背負い怪物討伐
36/100体
――――――――――――――――――――
「走る系が四分の一…討伐系は三分の一…か。小鬼頭《ホブ・ゴブリン》とかの美味しくない奴はある程度無視して草原狼《グラスウルフ》とかの美味しい奴だけ狩る感じにしよっかなぁ…」
「キュウ?」
「ん?草原狼《グラスウルフ》を食べてみたい?」
なんとなくではあるけどサンゴの言いたいことが分かった俺はサンゴにそういう意味じゃないと説明する。
「あぁ、美味しいってのはそういう意味じゃないよ。金銭的に美味しいって言ったんだ」
「キュゥ……」
その説明を聞いたサンゴはあからさまに落ち込んだ。
「これあげるから元気出せ」
「キュ?…キュウ!」
「現金な奴だなぁ…」
サンゴにジャーキーをあげてから周りを見渡す。
「キュゥ…キュゥ…(もさもさ)」
「ん~…ここら辺には草原狼《グラスウルフ》いないな……小鬼頭《ホブ・ゴブリン》と小鬼《ゴブリン》多過ぎ…」
『七等級の怪物を討伐』以外のノルマを同時に終わらせたい俺としてはマナ石のレアドロップ以外は一銭にもならない小鬼種を無視することで走行距離効率を上げつつ、マナ石以外のドロップでも金になる草原狼《グラスウルフ》を狩ろうかと思っていたのだが、肝心の草原狼《グラスウルフ》がいない。
いるのは今まで嫌になるほど見てきた小鬼種だけ。
「走りながら探しますか……魔法鞄《マジック・バック》借りたわけだし、フル活用しないとな…」
魔法鞄《マジック・バック》の貸出料金は一時間3000円とかなり割高だ。移動で3時間、狩りで1時間経っているので既に12000円の金額が発生している。
是が非でも元を取りたい俺はうだうだ言わず、行動するしかないのでとっとと出発しよう―――と脚に力を込めたその時。
前方約20mのところに突如一体の怪物が出現した。
ふとした瞬間、気づいたらそこに怪物がいる現象―――発生《ポップ》である。
「お?あれは…」
遠くにいるため正確な体長は分からないが傍から一見して分かる筋肉質な身体に紺色の体毛、皮の胸当ても付けている。
そんな戦士然とした胴体の上に乗っている横顔は狼に酷く似ていた。
手には柄から剣先にかけて緩やかなS字を描く片手剣――湾曲剣《シミター》が握られている。
「―――犬人《コボルト》かな?」
俺はいつかの冒険者知識検定勉強で見た犬人のイラストと20m先に出現した怪物の姿形を照らし合わせて、ソレが犬人《コボルト》であると断定した。
実を言うと犬人《コボルト》をここまで近くから見るのは今回が初めてだ。
ひたすらに討伐効率を求めて狩り続けた先ほどまでの一時間では今よりも更に遠目から犬人《コボルト》らしき怪物を視界の端に捉えることはあったけど、近づきはしなかった。一息で殺せる小鬼種が近くにいるのに敢えて見たことも戦ったこともない犬人《コボルト》と戦う必要を感じてなかったからな。
しかし、状況は変わった。
戦ったことのない怪物がわざわざ目の前に現れてくれたのだ。しかも誕生したばかりだからポツンと1体の状態、丁度こちらに背も向けた。戦う以外の選択肢は何処にも見当たらない。
「殺《や》るか……サンゴ、ちょっとだけ静かにしといてくれよ?」
「キュ…」
「よし、いい子だ」
犬人《コボルト》はとても耳が良いので、サンゴには静かに、と言っておく。
発生直後とまさに今、言葉を発しちゃったわけだけどあちら側が気づいたようには見えないのでまぁ良いとしよう。結果論です。
「…っと………ふぅ……」
土塊がパンパンに詰まったリュックを地面に降ろしてから、静かに息を吐き集中力を高めていく。相手は八等級とはいえ15層で発生する個体、しかも戦ったことのない種類。油断があってはいけない。
(深く…深く…)
でも、ある程度は周りを見ないといけないのである程度の深さまで落ちたところで集中力を高めるのを止め、維持するようにする。
スー――――――
深呼吸と同じように出来るだけ静かに両手剣《バスターソード》を抜刀。肩に担ぐようにして構える。
「キュ…キュゥ…」
俺を中心とする緊張感の磁場に驚くサンゴ。でも静かにしなきゃ…!と頑張って声を抑えているのが微笑ましい。
前方にいる犬人《コボルト》だけに意識は向いていない。周りもしっかり見えている。そして程よい脱力感。うん、最高だ。
(よし…)
「っ…!」
ダンッ!
脚に思い切り力を流し込んで地面を蹴りつけ、5mの距離を僅か一歩で詰める。
足元は草だらけ。隠密系のスキルを持っていない俺がそろりそろりと息を潜めても無意味だろうという判断からの全力の一歩。奴《コボルト》が気づき、振り向いた時にはサヨウナラを目指す。
ダンッ!
「キュゥ…」
急加速で振り落とされないように…でも声はなるべく上げないようにと俺の頭に爪を立て踏ん張るサンゴの静かな悲鳴を聞きながら二歩目を踏み出し、着地。三歩目を踏みだすため再び脚に力を込める―――。
(ん……?)
残り約10m。そこに至ってようやく、俺は違和感というものを覚えた。
いや、正確には残り15mと言ったところか。
(おかしい…俺は20mくらいと踏んでいたはずだ。なのに何でまだ15mもあるんだ?)
20mと25m、僅か5mの差だけれどその差はあまりにも大きい。
ダンジョンに潜るようになってから今の今まで、怪物を見つけるごとに俺は敵との距離を目算で測り続けてきた。だから自分で言うのもなんだが俺の目算は結構正確だ。自信もある。
だからこそあり得ないのだ。20mと25mを測り間違えるなんてことはあってはならないのだ。
そして違和感はもう一つある。
ダンッ!
(どうして反応しない…!)
俺は未だにこちらに背を向けたままの犬人《コボルト》に心の中で疑問を全力で投げつける。
そう、残り15m~10mの近距離。かなりの音を立てて近寄ったにもかかわらず奴は振り向く素振りを見せようとしない。聴覚、そして嗅覚ともに優れている犬人《コボルト》らしからぬ鈍さだ。
まるで自らに近づいてくる獲物を待っているかのような。罠にかかりに行っているような錯覚を覚える。
(そういうことか……気づけてよかった)
ダンッ!
四歩目―――。
いよいよ奴が目と鼻の先、10mから5mの所まで近づく途中に至って俺はようやく全てに気が付いた。
ダンッ!
五歩目―――。
全てに気づいた。気づいたが故に俺は止まらない。止まれない。
止まった瞬間に俺は恐らく死ぬだろうから。
残り3m。
(―――ここ)
あと、コンマ数秒で奴の間合いに入るであろうところで俺は走ることを止め、勢いをそのままにスライディングの姿勢に入る。
「ガルゥッ!?」
――直後。俺でもサンゴでもない驚愕の声が聞こえたと同時に、サンゴのかなり上を凄まじい突風が通過した。
追撃がないことを視界の端で確認してから、未だ勢いのあるスライディングを左手と両の足で踏ん張ることで強制的にスライディング状態から左片足立ちの姿勢に移行する。
ダン!
六歩目―――。
左足を軸に、宙で所在なく彷徨っていた右足を思い切り地面に叩きつけ、踏み込む。
そして一閃―――。
「ガ?」
何が起きたか分からない。なぜ自分は空を見ているのだろう―――。
ボトリと地面に落ちた犬人頭の頭部、その表情は誰の眼から見てもそう言っていた。
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