ダンジョン溢れる地球の世界線 ~青春に焦がれる青年は脳筋スキルで最強を目指す 「え、冒険者ってモテるの?ならなります」~

海堂金太郎

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第四章 『渋谷』ダンジョン 浅層編

第58話 因果応報

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「あ、桜子ちゃん。どうしたの?もうすぐ昼休憩終わっちゃうよ?」
「―――朝陽、海君から聞きましたよ?どうやらとても危険なことをやらせたらしいですね?」
「ん?危険なこと?なにそれ」
「…自覚無し…ですか……はぁ…あなたって人は…。……何の説明もなしに40mの高さから飛び降りを強要したらしいじゃないですか。海君に感謝しなさい。場合によっては殺されかけたと訴えられることもあり得るんですよ?」
「は?何の説明もなしに?40mの高さから飛び降りを強要?――――――あぁ…カイ君か」

 <召喚獣のスキルボード>のノルマ——『木登り』『飛び降り』『小鬼討伐』の三つ終わらせ、ダンジョンの外で昼食がてら小休憩を取った後の昼過ぎのダンジョンラボ。
 一階の大空間を見渡すことの出来る席に座り、ふ~ふひゅ~と吹けない口笛を吹いている俺に若干ドスの効いた底冷えする声がかかる。
 口笛を止め、チラリと声の主、朝陽さんの方を見ると現状を把握し、「お前、やったな?」と睨んで来る残念な美人さんがそこにはいた。

 こうなることは桜子さんに飯を食いながらLimeでチクった時から分かっていた。検証だから仕方ないと朝陽さんに言い逃れされないため、検証中に起きたことの要所要所を掻い摘んで文字に起こした―――

『(命の危険はないため)何の説明もなしに(20mの高さから飛ぶように指示し、また検証の一環として)40mの高さから(20m地点の枝へ向かって)飛び降りを強要されました。』

 ―――このように、大切なところをぼかして受け取り手の想像を膨らませるようにして。

 何だか桜子さんを騙しているみたいで若干の後ろめたさを感じるのだが、嘘は一つもついていないし、何より桜子さんでなければ朝陽さんの悪戯は止められない。
 何の考えもなしに20mの高さから飛んでしまったのは自業自得だが、40m地点から20m地点への飛び降りは忘れてはならないのだ。あれは絶対に検証なんて高尚なものじゃない。朝陽さんの遊びだ、暇つぶしだ。

 だが俺がそのことで朝陽さんに注意しても彼女は止まらないだろう。であれば朝陽さんキラーである桜子さんにチクるまで。
 いつものような軽い悪戯であれば、桜子さんにありのままのことをチクるだけで済ますが、今回のはな。モノには限度があるのだ。

 俺を睨んだことで桜子さんに「反省していますか?」と注意され、俺に一本取られたことを屈辱に思った朝陽さんは「カイ君……ごめん…」と言いつつも顔を顰めた。

 (桜子さんからの釘指し完了っと)

 遠くない未来に報復が待っているかもしれないが、今から少しの間だけは俺の心の安寧が約束された。
 朝陽さんは悪戯好きだし、無駄をこよなく愛す。だがしかし、桜子さんに嫌われたくないという想いには勝つことが出来ない。
 先ほどまで静かに、淡々と朝陽さんを叱る桜子さんは本気で怒っていた。付き合いが長くない俺でも分かったくらいだ。多分桜子さんは本当の本気で怒った時は逆に冷静になるタイプの人なのだろう。
 であれば当然、付き合いの長い朝陽さんなら俺以上に理解している。これは言い訳しても意味がない、無駄だ、謝るが吉である、と。
 勿論、俺自身での釘指しも忘れないが…。

「分かってくれればいいんです、朝陽さん。とはいえ断れなかった僕も悪いんですから」
「……っ…はぁ、そうだね。今回はやり過ぎたよ、ごめん……。」


 なかなかに屑な方法で謝罪を得ることが出来た俺、自分の行動を思い出したのか反省気味の朝陽さん、そんな二人を交互に見てうんうん、これでよしと満足気な桜子さん。
 反省させるにしてもやり過ぎたかなぁ…と思いつつ、先にやり過ぎたのは朝陽さんの方、仕方ない、因果応報だと後ろめたさを心の中から払拭してから仲介役になってくれた仕立て上げられた桜子さんに礼を言う。

「桜子さん、ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ、困ったときはお互い様です。私も日頃から朝陽の悪戯には困っていましたから。その…朝陽って本当に絶妙なラインの悪戯を仕掛けてくるじゃないですか。冗談で済むか済まないの境界線を突いてくると言いますか…。
 でも今回のは明らかにやり過ぎです。検証に託けてもつけきれません!…そうだ、何か朝陽に対して意地悪しちゃいましょう。やられたらやり返す…倍返しですっ!」
「ちょ、桜子ちゃん?」
「いやいや、桜子さん。今までやられたらやり返すを繰り返してきたから悪戯の連鎖が続いたんじゃないですか…」

(倍返しですっ!……可愛い)

 俺からの感謝を受け取るまでは良かった桜子さんだったが、朝陽さんの悪癖を思い出し、口に出すことで色々と止まらなくなってしまった様子。
 ただ、自分の横でバツが悪そうに頭を搔いている朝陽さんを見て、彼女が割と真面目に反省していると思ったのだろう。声色は先ほどまでの冷たく平坦なものではなく、いつも通りの桜子さんに戻っていた。プリプリしている。

「そ、そうですね。朝陽と同じことをするところでした。お恥ずかしい限りです」
「分かってくれればいいんです。世の中には何度忠告を受けてもなお、自分の行動を改めることができない人がいますから」
「……何がやり返しは無しなんだ。思いっきりやり返ししてるじゃないか…」

 口ではやり返すことはよくないと言いながらも俺は少しばかりの仕返しをした。やられっぱなしは嫌だからな。これくらいは許して欲しい。

「さっ、この話はここまでです。残りのノルマに取り掛かりましょう。えっと~『全力で遠吠え』…でしたっけ?」

 やや張り詰めていた空気がいつも通りの会話、やり取りによって、いつも通りの空気感になったのを感じた俺は話題を強制的に変える。
 散々引っ掻き回した君が言う?という視線を感じたが無視だ、無視。

「あ、忘れてました。そうですね、そのノルマで最後です」

 俺と朝陽さんの間に起こる冷戦に気づいない桜子さんは朝陽さんほどではないがダンジョンラボにいるし、先程俺がLimeでチクった際に現状を報告していたのでノルマの進行具合を知っている。なので話題は簡単に切り替わった。

「はい。今さっき丁度4分の3が一気に片付いたところです。なのでこの調子で残り一つも~と思っているんですけど……」
「はぁ……肝心の残り一つのノルマが鬼門なんだよね~」

 俺からすればいい仕返しを思いつく前に話題が切り替わってしまったため、桜子さんからすればノルマの難しさを嘆くためのため息を吐き、朝陽さんも話に乗っかってくる。




 ———ここまでは俺の思惑通り完璧だったんだ。


「なるほど…確か『全力』の定義があやふやなのでしたっけ」
「はい、そうです。『木登り』と『飛び降り』からヒントが貰えたらいいなぁと思ってたんですけど、結局何もヒントは得られませんでした。だから今から朝陽さんと一緒に……」

 考えるところだったんです———。

 そう言おうとする俺の口を桜子さんの言葉が遮るまでは……。

「———私も参加していいですか?」
「………え?」

〈召喚獣のスキルボード〉の検証には参加していなかったとはいえ、これまでの検証には参加していたので何も驚くことはない自然の流れ。

 しかし唐突が過ぎた。
 とある理由で桜子さんを意図的に今回の検証から外していた俺の思考を少しの間停止させるには十分すぎる発言だった。
 そして、突如として生まれた会話の途切れは無駄に優秀なマッドダンジョニストに反撃の機会を与えてしまった。

「いや、今回は———」
「えー!桜子ちゃん協力してくれるの!やったー!カイ君と私だけじゃ解決できないと思ってたんだよね~。
 それに実は近いうちに書き上げなきゃいけない論文があってさ~。スキルボードの検証ばかりやってられなくなっちゃったんだよね~。だからさ~……ね?」
「あ、そうなんですか。それならそうともっと早く言ってくださいよ朝陽。わかっていれば初めから手伝うことが出来ていたのに……」
「ち、ちょっと待ってください!」

 発言する間も無く目の前でトントン拍子に話が進んでいくのを止めようとするが、時すでに遅し。

「え?桜子ちゃんが嫌なの?」とニヤニヤしながら言ってくる朝陽さんと「私とは嫌ですか?」と不安げな表情で聞いてくる桜子さん。

 気づいた時には朝陽さんの仕返しが完了して、どう頑張っても巻き返せないところまで来ていた。詰んだ。

「は、はは……やだなぁ、嫌なわけないじゃないですかぁ。むしろ大歓迎ですよ……はは…」
「だよね~」
「よかったです、安心しました」

(チクらなきゃよかった……)

 今この時、桜子さんの前で最低でも100回は全力で吠えまくらなければならないことが決定した——。
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