ダンジョン溢れる地球の世界線 ~青春に焦がれる青年は脳筋スキルで最強を目指す 「え、冒険者ってモテるの?ならなります」~

海堂金太郎

文字の大きさ
上 下
57 / 95
第四章 『渋谷』ダンジョン 浅層編

第57話 一周回る

しおりを挟む
 ヒュオオオオオォォォ
「ギャ——」「ギャ——」
「風が気持ちいなぁ……」

 木登りによって火照った体を冷やすやや強めな風。20mくらい下から定期的に聞こえてくる小さな断末魔。大樹の天辺付近の枝の上に命綱無しで大きく手を広げ、風を感じながら仁王立ちする俺。

 何の躊躇もなくアイキャンフライをしてしまったあの日から三日が経った———。

 あの日、地上から20mほど離れた木の枝から飛び降り、空中で冷静になった俺はその後ズドンという大きな音を立てて地面に着地した……無傷で。そう、死ぬ死なないどうこうではなく怪我一つさえしなかったのだ。
 結果オーライ———しかし、俺は「あぁ良かった、死ななくて。よしもう一回!」と気持ちを切り替えることができるほど脳内お花畑男じゃあない。
 何も考えることなく言われるがままに飛び降りた俺が4割方悪いのだが、Goサインを出した朝陽さんも朝陽さんだ。1割くらいは悪いと思う。
 だから「あんた何考えてんだ?」と若干キレ気味に彼女の方へと詰め寄った。
 だがしかし、俺の非難に対して朝陽さんは特に悪びれる様子もなく「怪我しないって分かってたから飛ばせたんだよ。カイ君もそれが分かってたから飛んだんじゃないの?」とか言ってきやがった。

 ……いや、至極真っ当な発言だったから何も言い返せなかったんだけどね。まさか朝陽さんも俺が考え無しに飛んだなんて思ってもいなかったようで、口を一文字にし若干俯いた俺に対して「え、嘘でしょ?」と可哀想な子を見る目を向けてきたよ。

 マナ吸収による身体強化、僅かながらも常時かかっている【身体能力向上】、かなりの衝撃吸収をしてくれる46万のダンジョンスーツと靴、そして俺の素の身体能力。
 朝陽さん曰く20数m上空からの落下くらいなら楽勝らしい。
 どうして木登りの前に教えてくれなかったのか、どうして貴女がまともなことを言っているのかと問いかけたかったが呑み込んだ。そして石板に起きた変化を確認しながら朝陽さんの視線から逃れるために木にしがみついたっけ……。

 その日は、俺の心の傷がある程度癒えるまで登って飛んでを繰り返した後、効率良くノルマを熟すために『高所』とは一体上空何mのことを指すのかを調べた。もちろん同時並行で何m木を登れば1カウント扱いになるかも調べた。

 その結果、『高所』とは20m以上の高さを指しているということと、木登りは登頂ではなく自力で20m分の高さを登れば一回としてカウントされる——つまりは0m地点から登り始め20m登っても、20m地点から40m地点まで登っても両方同じ1カウントであるという、これからの人生において一ミリたりとも役に立たない情報を手に入れることができた。ちくしょう。

 ヘラヘラと笑う朝陽さんに「さあこれも検証の、ひいては君が強くなるための作業の一つなんだよ」と言われて40m地点の枝から20m地点の馬鹿みたいに太い枝へと文字通り命懸けで飛び降りたのに。割りに合わなさぎる……。


「そんな検証マッドのお遊びもこれで終わりだ……」

 そして今、短くも永遠に続くのであろうと錯覚までした日々を思い出していた俺はついに100回目のフライトを決行しようとしていた。

「………」
「……朝陽さーん!ラスト行きまーす!」
「……」

 最後のフライトだというのにこちらを見ることなく、小鬼討伐の片手間に情報端末をいじる朝陽さんに向かって叫ぶと彼女は俺の方をチラッと見て片手をスイっとあげた。それからはぁ~あ、やっと終わるといった顔をしながら情報端末の電源を切り俺が飛び立つのを待つ。
 誰がどう見てもこの検証自体に飽きているといった様子だ。

「全部見えてるかんな?」

 今思えば40m地点から20m地点の枝への飛び降りをやらされたのは検証のためというより、飽きたからひぃっと言って怖がる俺を楽しもうという悪魔も真っ青な意図だったのかもしれない。

 ただその検証以降は一切の恐怖心がなくなり、木登り&飛び降りの効率が飛躍的に向上したため強く非難することはできなかったのだが。

「せめてもの反抗に桜子さんにチクろ、絶対」



 <【召喚獣】のスキルボード>
 ――――――――――――――――――――
 右上:木登りをする 
    100/100回 達成!
 右下:全力で遠吠えをする(屋外で) 
    0/100回
 左下:高所から飛び降りる 
    99/100回
 左上:小鬼頭《ホブ・ゴブリン》を倒す 
    100/100体 達成!

 ――――――――――――――――――――


 その一言を最後に俺は石板を見て『全力』ってなんだろうと考えながら宙へと身を投げ出す。恐怖心はない、股がひゅんっとなることもない。頭にあるのは残り一つのノルマのこと。

 世間一般ではこんな状態を一周回る慣れると言うのだろう———。



 ◇◇◇



「おっ、やっと終わんのか?次はどんなことすんだ?」

 少し離れた大樹の上、枝が密集し葉が生い茂る場所で望遠鏡を覗く男が一人。

 彼もまた一周回って慣れてしまっていた。




 ————————————————————



 海:4割
 朝陽:1割
 スキルボード:5割
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

処理中です...