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第三章 『府中』ダンジョン編
第34話 陽と陰の差聞き手の差
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「なぜあなたがここにいるのよ……!」
(屈辱だわっ…!)
彩芽は先ほどまで背中を預け合っていた急造パーティのメンバーが海であったことに衝撃を受け、負の感情を表に出してしまった。抑えることが出来なかった。
自分たちが連れてきた怪物《モンスター》たちから逃げられるようにしてくれたのは彼なのに、今五体満足で階段に腰を下ろせているのは全て海のおかげなのに。
彩芽とて分かっている。今海に投げかける感情は、言葉は、このようなものではなく、その真逆、感謝の感情、言葉であると。
だがしかし、4か月近くもの間、憎き父親と海を重ね合わせ打倒美作海を心情に学校生活を送ってきた彩芽は線引きが曖昧になってしまっていた。
幼き頃よりお前には才能がないと彩芽に言い続けた父に命を助けてもらった気がして、学業だけでなく冒険者業でもお前には才能がないと突き付けられた気がして。
「…っ……」
いきなり負の感情を向けられ、口をぽかんと開ける海を彩芽はキッと睨みつける。
罵倒の言葉が出ないだけまだマシだった。
「……佐紀、行くわよ」
「ちょっ彩芽!」
彩芽は足早に第九層へ上がり、先ほどまでのエンカウント率が嘘だったかのように静かなダンジョン内を歩く。
海へのフォローをしていた佐紀はつかつかと先を歩く彩芽に第八層に続く階段近くでようやく追いついた。
追いついて早々彩芽の手を掴む。強く。止まれという意思を持って。
思い込みが人一倍強い彩芽は時たま間違えた方向に走り出す。そんな彩芽を止めるのが中学の頃からの親友である佐紀の役目。
「彩芽…さっきのあれ、何?」
過去一間違った行動をとった彩芽を佐紀は階段に連れ込んでから問い詰める。
「…………」
自分の愚行に気づいている彩芽。しかし、後ろめたさやでも!という幼い気持ちが邪魔をして口が開《あ》かない。開《ひら》いてくれない。
「美作へのあの態度は何って聞いてんの」
「…………」
佐紀はもう一度聞くが彩芽は口を開かない。下を向き拳を握りしめるだけ。
このままでは平行線だと佐紀は思い、踏み込む。
「―――彼と父親を重ねてんの?」
彩芽の過去と現在を知る佐紀だからこそ踏み込める場所《彩芽の心》。
「違うっ!」
全くもって佐紀の言う通りなのだが、彩芽は認めたくなかった。
授業中外ばかりを眺めているのに試験ではサラッと一位を搔っ攫う気に食わない海ではあるが、お互いの背中を預けたときは形容しがたい頼もしさを感じた。
相手のことを知ろうともせずに外側だけを見て判断する。
父親と同じことを自分は美作海にしていたと気づいてしまったのだ。
(はぁ…不器用な子だなぁ……)
やっと口を開いたと思ったら大声を出し、すぐさま落ち込む情緒不安定な彩芽を見て佐紀は思う。
佐紀にとって彩芽とは手のかかる妹のような存在だ。
最近は向かない前衛のせいで彩芽の足を引っ張っている自覚があった佐紀はここぞとばかりにお姉ちゃんになる。
「じゃああれは何?助けてもらったらありがとう。5歳の子供だって知ってる常識だよ?……ましてや私たちは命を助けてもらったの。土下座でも何でもして感謝するべきなの。これ分かる?」
「……(こくん)」
優しく言葉を掛けられた彩芽はその通りです、と頷く。
「彩芽は何やった?」
「…睨んだわ」
「他には?」
「うっ……感謝の言葉も言わずに立ち去ってしまったわ…」
「そうだね。じゃあ彩芽が美作にしなければいけないことは?」
「……謝った後に助けてもらったことを感謝することよ」
「そう。明日美作とご飯行く約束取り付けておいたからその時に謝ろう」
「え?私は今すぐに謝りたいわ」
「身勝手すぎる。一晩反省しなさい」
「そんなぁ……」
「さ、行こう。帰るのが遅くなる」
うぅと座り込む彩芽を無理矢理立たせて歩かせる。
項垂れながら歩く彩芽を横目に佐紀は既に別のことを考えていた。
(美作前衛にできないかなぁ……)
海は未だ第九層に続く階段で頭を抱えているというのに……。
◇◇◇
速報。
俺の学校生活が本格的に終わったかもしれない―――。
いや、もともと終わっているみたいなものだったけどさ。彼女も?女友達も?男友達すらいないし。
そこにカーストトップ女子の敵なんて称号を獲得した日には学校に行けなくなるんじゃね?
「俺、氷室さんになんかしたかな……」
第九層に繋がる階段に座ったまま下を向き呟く。
先ほどまで死闘を繰り広げていた怪物たちが睨みつけてきているが、俺には氷室さんの睨みの方が何倍も怖く感じられた。
何かした、していない以前に喋ったことがない。目も合わせたことがない。
初めて目が合ったと思えば睨みつけられていた。どうしようもない。
「小松さんにどうすればいいですかねってLimeで聞こうかな…」
氷室さんが去った後「美作、助けてくれて本当にありがとう。お礼といっては何だけど明日ご飯奢らせて。店は後で送るから、はいこれわたしの電話番号。ダンジョン出たらLimeに繋げといて……あと、彩芽は私が責任もって誠心誠意謝らせるから、あの子を嫌いにならないであげて…じゃまた明日」と言った小松さんに貰ったメモを見て真剣に悩む。
連絡するかしないかで悩むんだったら好きな子に「連絡しようか、いや…明日が学校で……あ、でもっ」っていう場面が良かった。少なくとも今ではない。
「なぁ、お前ら、俺どうすればいいと思う?」
「「「「「「ギャギャッ!!!」」」」」」
「ふはは、そうか明日になれば分かるか。確かにその通りだな。よし、今日は帰るとしよう。夜も遅いしな。じゃあなお前ら、明日な」
「「「「「「ギャギャッ!!!」」」」」」
俺は重い腰を上げてから小鬼に別れを告げ、ダンジョンゲートに向けて歩き出す。
(屈辱だわっ…!)
彩芽は先ほどまで背中を預け合っていた急造パーティのメンバーが海であったことに衝撃を受け、負の感情を表に出してしまった。抑えることが出来なかった。
自分たちが連れてきた怪物《モンスター》たちから逃げられるようにしてくれたのは彼なのに、今五体満足で階段に腰を下ろせているのは全て海のおかげなのに。
彩芽とて分かっている。今海に投げかける感情は、言葉は、このようなものではなく、その真逆、感謝の感情、言葉であると。
だがしかし、4か月近くもの間、憎き父親と海を重ね合わせ打倒美作海を心情に学校生活を送ってきた彩芽は線引きが曖昧になってしまっていた。
幼き頃よりお前には才能がないと彩芽に言い続けた父に命を助けてもらった気がして、学業だけでなく冒険者業でもお前には才能がないと突き付けられた気がして。
「…っ……」
いきなり負の感情を向けられ、口をぽかんと開ける海を彩芽はキッと睨みつける。
罵倒の言葉が出ないだけまだマシだった。
「……佐紀、行くわよ」
「ちょっ彩芽!」
彩芽は足早に第九層へ上がり、先ほどまでのエンカウント率が嘘だったかのように静かなダンジョン内を歩く。
海へのフォローをしていた佐紀はつかつかと先を歩く彩芽に第八層に続く階段近くでようやく追いついた。
追いついて早々彩芽の手を掴む。強く。止まれという意思を持って。
思い込みが人一倍強い彩芽は時たま間違えた方向に走り出す。そんな彩芽を止めるのが中学の頃からの親友である佐紀の役目。
「彩芽…さっきのあれ、何?」
過去一間違った行動をとった彩芽を佐紀は階段に連れ込んでから問い詰める。
「…………」
自分の愚行に気づいている彩芽。しかし、後ろめたさやでも!という幼い気持ちが邪魔をして口が開《あ》かない。開《ひら》いてくれない。
「美作へのあの態度は何って聞いてんの」
「…………」
佐紀はもう一度聞くが彩芽は口を開かない。下を向き拳を握りしめるだけ。
このままでは平行線だと佐紀は思い、踏み込む。
「―――彼と父親を重ねてんの?」
彩芽の過去と現在を知る佐紀だからこそ踏み込める場所《彩芽の心》。
「違うっ!」
全くもって佐紀の言う通りなのだが、彩芽は認めたくなかった。
授業中外ばかりを眺めているのに試験ではサラッと一位を搔っ攫う気に食わない海ではあるが、お互いの背中を預けたときは形容しがたい頼もしさを感じた。
相手のことを知ろうともせずに外側だけを見て判断する。
父親と同じことを自分は美作海にしていたと気づいてしまったのだ。
(はぁ…不器用な子だなぁ……)
やっと口を開いたと思ったら大声を出し、すぐさま落ち込む情緒不安定な彩芽を見て佐紀は思う。
佐紀にとって彩芽とは手のかかる妹のような存在だ。
最近は向かない前衛のせいで彩芽の足を引っ張っている自覚があった佐紀はここぞとばかりにお姉ちゃんになる。
「じゃああれは何?助けてもらったらありがとう。5歳の子供だって知ってる常識だよ?……ましてや私たちは命を助けてもらったの。土下座でも何でもして感謝するべきなの。これ分かる?」
「……(こくん)」
優しく言葉を掛けられた彩芽はその通りです、と頷く。
「彩芽は何やった?」
「…睨んだわ」
「他には?」
「うっ……感謝の言葉も言わずに立ち去ってしまったわ…」
「そうだね。じゃあ彩芽が美作にしなければいけないことは?」
「……謝った後に助けてもらったことを感謝することよ」
「そう。明日美作とご飯行く約束取り付けておいたからその時に謝ろう」
「え?私は今すぐに謝りたいわ」
「身勝手すぎる。一晩反省しなさい」
「そんなぁ……」
「さ、行こう。帰るのが遅くなる」
うぅと座り込む彩芽を無理矢理立たせて歩かせる。
項垂れながら歩く彩芽を横目に佐紀は既に別のことを考えていた。
(美作前衛にできないかなぁ……)
海は未だ第九層に続く階段で頭を抱えているというのに……。
◇◇◇
速報。
俺の学校生活が本格的に終わったかもしれない―――。
いや、もともと終わっているみたいなものだったけどさ。彼女も?女友達も?男友達すらいないし。
そこにカーストトップ女子の敵なんて称号を獲得した日には学校に行けなくなるんじゃね?
「俺、氷室さんになんかしたかな……」
第九層に繋がる階段に座ったまま下を向き呟く。
先ほどまで死闘を繰り広げていた怪物たちが睨みつけてきているが、俺には氷室さんの睨みの方が何倍も怖く感じられた。
何かした、していない以前に喋ったことがない。目も合わせたことがない。
初めて目が合ったと思えば睨みつけられていた。どうしようもない。
「小松さんにどうすればいいですかねってLimeで聞こうかな…」
氷室さんが去った後「美作、助けてくれて本当にありがとう。お礼といっては何だけど明日ご飯奢らせて。店は後で送るから、はいこれわたしの電話番号。ダンジョン出たらLimeに繋げといて……あと、彩芽は私が責任もって誠心誠意謝らせるから、あの子を嫌いにならないであげて…じゃまた明日」と言った小松さんに貰ったメモを見て真剣に悩む。
連絡するかしないかで悩むんだったら好きな子に「連絡しようか、いや…明日が学校で……あ、でもっ」っていう場面が良かった。少なくとも今ではない。
「なぁ、お前ら、俺どうすればいいと思う?」
「「「「「「ギャギャッ!!!」」」」」」
「ふはは、そうか明日になれば分かるか。確かにその通りだな。よし、今日は帰るとしよう。夜も遅いしな。じゃあなお前ら、明日な」
「「「「「「ギャギャッ!!!」」」」」」
俺は重い腰を上げてから小鬼に別れを告げ、ダンジョンゲートに向けて歩き出す。
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