ダンジョン溢れる地球の世界線 ~青春に焦がれる青年は脳筋スキルで最強を目指す 「え、冒険者ってモテるの?ならなります」~

海堂金太郎

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第三章 『府中』ダンジョン編

第28話 何も見てない…

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 そこら中に大小さまざまな岩石が転がる道。昼と夜の区別がつかない仄暗く、空気はどこか湿っぽい。
 自然界に無数に存在する外ではあるが外ではない場所、洞窟。

「グルルルルゥゥゥ……」

 そこにソレはいた。

 ソレは自分の周りに倒れ伏し、徐々に黒ずんでいく敵だったものたちを赤色の瞳でただただ無感情に眺めていた。

「……で……な……」
「ま……」

 遠くから音がする。

 ソレは近くの岩壁に馴染んだ。

「お、ラッキー。どこぞの間抜けさんが拾い忘れたドロップアイテムだな、これは」
「ねぇ、拾って大丈夫なの?」
「だいじょぶだいじょぶ。迷宮型と違ってここにはトラップがないからな」
「そ、そう?じゃあ失礼して…」

 今ではない―――。

 ソレは息を潜めて待った。

 目の前のものに気を取られ、無防備を晒す生き物が過ぎ去るのを。その生き物たちを殺し、己が糧とするその時を―――。



 ◇◇◇



「おそよ~カイ君。思っていた以上に早い再会だね」
「え、あ、ども朝陽さん……と、竜胆さん」
「海、本当にすまなかった」
「え?」
「ほんの好奇心だったんだって。マコちゃんを許してあげて?」
「え?…あ、はい」
「ありがとう。お詫びと言っては何だが君の冒険者カードを先ほど発行してきた。小鬼頭のドロップアイテムの引換券も入れておいたぞ。
 おめでとう、今から君は正式な冒険者だ」
「…ありがとうございます?」
「カイ君もっと喜びなよ!冒険者だよ?一人でダンジョンに潜れるようになれるんだよ?…あ、ただ君が潜るのは『渋谷』じゃなくて『府中』ね?
 あとこれ比較的簡単に倒せる鉱物系怪物のまとめといたから受け取ってよ。君が起きるまでの間で作ったんだ。頑張ったんだよ?」
「あ…俺のためにありがとうございます?」
「よろしい。う~ん素直なカイ君は可愛いね~。じゃ、今日は帰っていいよ~。夜遅いから気を付けてね~」
「外までは私が送っていこう」
「あ、お願いしま……すっ!」
「着いたぞ、では気をつけてな」
「あ…はい、さよなら竜胆さん……」



 以上―――やたらと「あ」が多い昨日の夜の会話。



「え、意味わかんないんですけど……」



 小鬼頭と死闘を繰り広げ気絶した翌日。日曜の早朝。
 ジリジリとうるさく鳴る目覚まし時計を止めた俺がむくりと起き上がり発した一言目は非常に間抜けなものだった。

 いや、でも間抜けにもなるって。ならざるを得ないって。
 疲労と痛みで気を失った人が起きた直後に正常であるわけがないじゃん。あの二人それをいいことに色々と端折《はしょ》ってくれたな?

「はぁ…まぁ、いいか。竜胆さんのおかげで得るものは大きかったし、朝陽さんもわざわざこれ作ってくれたし…」

 竜胆さんを朝陽さんと同じく面倒見はいいけど残念な美人さんに認定した後、俺はいつもダンジョンに行く際に持って行っているボディバックを手繰り寄せ、中に入っている冒険者カードと『初心者必見!倒しやすい鉱物系怪物とその倒し方!著:面倒見のいいお姉さん』と表紙に書かれた紙束、それとメモ帳を取り出した。

「はよおにぃ、朝ご飯いる?」
「おはよ奈美。いる」
「おっけ~」

 昨日は慌ただしかったこともありまだ冒険者カードも朝陽さん|《面倒見のいいお姉さん》作の冊子も見れていない。朝ご飯までまだ時間ありそうだし見ておこう。

「おぉ、これが俺の冒険者…カード……か……」

 身分証明書、ダンジョンの入退室、ドロップアイテムの換券・換金、クレジットカード。冒険にはさして興味がないけど冒険者カードは欲しいからと冒険者登録する人が後を絶たない便利品。
 十等級の色である白色の長方形を上に掲げて、俺も冒険者になったんだなぁと思いつつ、載っている顔写真が高校入学時に撮ったものであることに気づき落ち込む。
 明日から共学だ!楽しみだぜ!って入学式の前日寝れなかったからクマがすごいことになってるんだよ…。

「八等級に上がるとき冒険者カード更新されるから取り直してもらお……」

 等級を上げなければいけない理由が一つ増えたところで、冒険者カードを失くさないようにボディバックの中に戻し、朝陽さん作の冊子……ではなくメモ帳を手に取る。
 これはダンジョンの外でも【スキルボード】の内容が分かるようにと俺が書いたものだ。
 ダンジョン内に入ってから今日は何をしようと考える時間はない。あったら周囲警戒とか索敵をする。ダンジョン外で今日は何しようと考えるために役立つものだ。
 朝陽さん作の冊子の中身に目を通す前に見たのもそのため。まずは現状の確認だ。



 ・土属性魔法のスキルボード
 ―――――――――――――――――――
 ①洞窟型ダンジョンに滞在 0/100時間
 ②鉱物系怪物の討伐 0/100体
 ③泥団子を作る 0/1000個
 ④土属性魔法をくらう 0/100回
 ―――――――――――――――――――

 報酬
 スキルボード 知らん
 スキル 【土属性魔法】

 ―――――――――――――――――――




 朝陽さんと桜子さんが『泥団子を作る』に反応したせいで昨日は十分な考察が出来なかったから今しようと思う。

 筋トレのノルマとはまた別方向でおかしい。これが今回のノルマのぱっと見の印象。いや、じっくり見てもその印象は変わらない。

 一番上の『洞窟型ダンジョンに滞在』はまだいい。一歩も動かずに同じ場所で100時間ではない限り大丈夫。
 少し前の俺ならそもそも洞窟型とは何ぞやから始まっていたけど、検定の勉強を経ているからそれ以外は問題ない。が、当然検定の勉強には出てこない知識は存在する。朝陽さんにおすすめされた『府中』ダンジョンを調べるついでにダンジョン型についても調べてみよう。

「ど・う・く・つ・が……あ、『洞窟型ダンジョン 特徴』…これだ……どれどれ…」

 スマホで調べると冒険者センター公式HPが出てきたのでタップして覗く。その結果わかった洞窟型ダンジョンの特徴は五つ。そのうち四つが既知の情報であり、一つが未知の情報であった。

 ・光源あり/なしダンジョンによる(光源なしの場合、未踏破部は真っ暗なので冒険者センターや各企業が派遣する攻略班がマナ灯を設置するまで近づかないことをお勧めします)

 ・ポップあり、繁殖発生ややあり(怪物《モンスター》がいきなり近くに現れるということが珍しくありません。注意してください)

 ・罠なし(自然型・塔型と同じく罠がないため、移動中、戦闘中は怪物《モンスター》に集中することが出来ます)

 ・階層主あり(階層の最奥にいる怪物《モンスター》を階層主と言います。非常に強力な個体です。対峙する際は相応の準備と覚悟を)

 ※繁殖発生は稀に当該階層に見合わない力を持つ強力な個体――異常発生個体《イレギュラー》を発生させます。見通しの良い自然型とは違い、見通しの悪い洞窟型では異常発生個体《イレギュラー》の発見が遅れる恐れがありますので注意してください。遭遇した場合は自分で討伐しようなどとは考えず、まずは受付に報告しましょう。

「…異常発生個体《イレギュラー》か……ま、出会ったら出会ったでその時だ。今考えてもしょうがない。異常発生個体《イレギュラー》に怯えて目の前のことに集中できませんじゃお粗末すぎる」

 HPから学んだことはへぇ、洞窟型って異常発生個体《イレギュラー》が生き残りやすいんだぁということだけ。頭の片隅に置いておくが中心にくることは当分の間ないだろう。自分に起こるはずがないと考えるのはあまりにも軽率な行為だが、意識しすぎもそれはそれで問題だからな。

 洞窟型の特徴確認を終えた俺はスマホを離すことなく、次の調べものに移る。

「『府中』ダンジョンの情報はーっと…あ、あった」

 朝陽さんにおすすめされた『府中』ダンジョンの情報に繋がるリンクがHP上にあったのでタップして飛んだ。

「あ~、なるほど。朝陽さんが勧めてきた理由はこれかー」

 スマホに表示された『府中』ダンジョンの情報とノルマが書かれているメモ帳を交互に見て頷く。

『府中』ダンジョンはどうやら鉱物系の怪物《モンスター》がメインで出てくるダンジョンらしい。そりゃ朝陽さんが勧めるわけだ。

 スマホから目を離しもう一度狂ったノルマが書かれているメモ帳に目を戻す。

 ②鉱物系怪物の討伐 0/100体
 ③泥団子を作る 0/1000個
 ④土属性魔法をくらう 0/100回

「うん…スキルボードもお前は『府中』に行けって言っているな」

 嫌過ぎて自然とその事実から目を逸らしていたけど④のノルマを熟すのなら第一層とかの超弱い怪物に当ててもらうしかないと思うんだ。
 第十層の怪物が繰り出す土属性魔法とか軽く死ねる。
『府中』ダンジョンには第一層から土属性魔法を使う十等級の怪物――砂《サンド》スライムが出て来るらしいので相手してもらおう。
 ②の鉱物系怪物の討伐も砂スライムを倒せばいいし、桜子さんと朝陽さんに大人気だった③の泥団子作りも第一層でなら作れそうだ。

「よっし。朝陽さんお手製の冊子を見ますか」

 スマホにいったり、メモ帳にいったりして随分と考察に時間をかけてしまった。
 良い匂いがドアの隙間を通って香ってくることからもう少しで朝食になることを察した俺はメモ帳をボディバックにしまい、冊子を手に取る。

 開く。

『ノルマを早く終わらせるなら砂《サンド》スライムがおすすめ!』と書かれたページを見る。

「おー、俺もそうしようと思ってたんですよ」と言う。

 おすすめの倒し方を見る―――すぐに冊子を閉じる。

「おにぃ、朝ご飯で来たから並べるの手伝って」
「おう、わかった」

(俺は何も見てない、見てない見てない見てない見てない見てない)

 自分で自分を洗脳しながら部屋を出て行く。
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