ダンジョン溢れる地球の世界線 ~青春に焦がれる青年は脳筋スキルで最強を目指す 「え、冒険者ってモテるの?ならなります」~

海堂金太郎

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第一章 冒険者登録編

⒍変人ダンジョン研究家

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「お、桜子ちゃんじゃーん。どしたのー?」

 桜子さんに連れられてダンジョンラボを歩くこと少し。
 シンプルな外見とは異なってだいぶメカニカルな内装を見回していると前方から研究所には似合わない呑気な声が聞こえてきた。

「…朝陽、未確認スキルの保有者さんを連れてくるっていいましたよね?」
「うん、準備できてるよ」
「じゃあさっきのは何だったんですか…」
「あいさつ」
「……はぁ」

 朝陽さんとやらは桜子さんと随分と親しい間柄らしい。
 寝癖か手入れ不足かは分からないがあっちこっちに跳ねている紫苑色の髪、眠たそうな紫にも青にも見える瞳。長い間ダンジョン内にいる証拠だ。
 加えて、彼女はザ・研究職って感じの外見だけど容姿自体はかなり整っている。それ以上に整っている桜子さんが隣にいるので霞んでしまうが間違いなく美人さんだ。
 冒険者を志した途端にこんなにも出会いが…。冒険者って素晴らしい。

 そんな朝陽さんが俺の存在に気づきこちらをじーっと見てくる。
 少しばかりの圧を感じた。

「ど、どうも、未確認スキル保有者の美作海と申します」
「あ、よろしくー。そんな丁寧にならなくていいよ。私は桜子ちゃんの親友をやるついでにここで研究員してる間瀬朝陽《まぜあさひ》だから」
「あなたの本業は研究員でしょ…」
「……よ、よろしくお願いします」

 本当に仲がいいようだ。また、この天然がかった受け答えは朝陽さんの素であるらしい。呆れていながらも桜子さんの反応は慣れたものだし、どこか楽しそうだ。

「えっと、俺はどうすればいいんですかね」
「ん?何が?」
「え?あ、いや、そのスキル検証するために俺は何すればいいかなぁって…」
「あぁ、スキル検証か…美作君、だっけ。とりあえず脱いで」
「あ、はい…………え…?」

 …天然な変態さんですか?


 ◇◇◇


「あ~ぁ、だらしない身体になっちゃて……」

 腹は出ていないものの、ガッツリと部活をやっていた中学のころと比べてだいぶぷよぷよとした身体になってしまったと俺は一人嘆く。
 少なくとも腹筋は割れていたはずだし二の腕もこんなに柔らかくなかった。
 服を着た状態じゃ気づかれないけど脱いじゃうと隠せないよなぁ……。

「…っていうかなんで俺パンいちなの……」

 俺は自分の腹から目線を上げて現実を見る。

 広い空間のど真ん中でポツンと一人パンいちの俺。
 俺の滑稽な姿を上の階、ガラス張りの向こうから見下ろしている美人さんが二人。
 当然のことながらその二人というのは我妻桜子さんと間瀬朝陽変態なのだが、これは一体どのような状況なのだろうか。スキル検証だよね?そうであってほしい。

「…あのー、間瀬さん。さも当然かのように脱げって言われて脱いでここまで来ちゃいましたけど、これなんの意味があるんですか?」
「あ~、あ~マイクテスト、マイクテスト…桜子ちゃんのバストはえ―――「きゃーーー!何言ってるんですか朝日!ふつうそこは本日は晴天なりでしょ!馬鹿なんですか!ねぇ、馬鹿なんですか!」……で、なんか言った?美作君。聞こえなかった」

 俺ははっきり聞こえました…じゃなくて。

「Fですか、それともHですか、どっちですか」
「おぉ、君なかなかノリがいいねぇ。それはもちろん、え――「早く始めて朝陽。怒るよ?…それと美作さんも悪ふざけはそこまでにしておきなさい」……」
「はい、すみません…」

 朝陽さんのせいで桜子さんに怒られちゃったじゃん…。


 ◇◇◇


「で、なんで脱がされたかだっけ?」
「あ、はい……聞こえてんじゃん…」
「その声もこちら側には聞こえているからねー」

 げ、まじかよ…。

「……君に脱いでもらったのはスキル使用前の身体能力、身体の骨格・筋力量を測定するためだよ。
 スキルによっては身体能力を上げたり下げたり、骨格が変形したり、または肥大・縮小したり、筋量が増加したり減少したりとスキル使用前後で身体に差異が現れる場合があるんだ。
 より緻密に調べるためには脱いでもらうのが一番なんだよ。美作君も自分のスキルのことはなるべく細かく知りたいだろー?」
「…まぁ、はい。そうですね」

 声を張り上げる必要がないと分かったのでぼそりとつぶやく。
 骨格が変形するとかいう空耳は聞こえたがそれ以外の朝陽さんの言い分は納得できるものだったので渋々パンいちのままでいよう。

「それじゃあ、早速始めるね。…っと、いつまでそんな格好しているのさ。早くそこにあるスポーツスーツ着ちゃってー」
「え?…あ、あった」

 朝陽さんに指摘され後ろを見ると知らないうちに着る物が置かれていた。
 色々と解せないけれどいつまでもパンいちでは恥ずかしいので着させてもらおう。

「うわ、ジャストフィット…」

 しっとりひんやりとしたキメ細かい生地が肌を包む。
 締め付けが強すぎることもなくかといって緩すぎることもない、まるで肌になじむような着心地。

「着たねー。それじゃまずは準備がてらのランニングからー…ポチっとな」

 ヴンッ…ウィーン

「うわっと、なにこれっ!」

 朝陽さんの可愛らしくも不穏な掛け声の後、足元から機械の作動音のような音が聞こえたかと思えば、突然床が動き出した。
 まるでランニングマシンのようだ。

「おいおいおい、随分とハイテクだな…」
「はい、喋らず走るー」
「……」

 もはや何も言うまい。朝陽さんに何を言っても無駄だし、むしろしっぺ返しが返ってくるから。
 窓ガラスの向こう側、機械の前に座る朝陽さんの横に無表情で立ちこちらを見下ろす桜子さんが目に映る。

「はぁ、あとでなんて言おう…」
「はーい、喋らなーい!」
「…はぁーい」

 今は身体能力測定に集中しよう…。
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