ダンジョン溢れる地球の世界線 ~青春に焦がれる青年は脳筋スキルで最強を目指す 「え、冒険者ってモテるの?ならなります」~

海堂金太郎

文字の大きさ
上 下
5 / 95
第一章 冒険者登録編

⒌一等級ダンジョン『渋谷』

しおりを挟む
 ゲートを抜けるとそこは地球とは異なるもう一つの世界だった―――。

 高く浮かぶ、太陽のようで太陽ではない光源に照らされた草木が風に揺られて青々しい匂いを振りまく。
 所々に丘や山の様なものが見えるがここはまごうことなき大草原だった。

「すげぇ……」

 テレビやYourTubeでは見たことがある光景なのにそうとは思えない感動が脳を支配する。
 桜子さんが一等級冒険者であるとか、ここは世にも恐ろしいダンジョンであるとか今はどうでもいい。俺はただただ目の前の光景に圧倒されていた。

「どうですか?一等級ダンジョン『渋谷』は。悪くないところでしょう」
「……はい、これはすごいですね。冒険者を志す人が多いわけだ」
「実際はなんとなくや、副業、ダンジョン関係の職業に就くための経歴づくりが目的で冒険者を志す人が多いですけどね」

 でもこの光景を見て感動を覚えるのは皆同じだろう。そこに志望動機の差異は関係ない。
 それに俺の志望理由よりも全然立派じゃないか…。なんだよ経歴づくりって。真面目かよ。
 まぁそう自覚しても女の子にモテたい衝動は収まらないが。男子校三年の隔離と共学における三か月のお預けは俺に消えない傷を残したのだ。

 ダンジョンの草原にてただ一人黄昏る俺を桜子さんのパチンと鳴らした手の音が現実に引き戻す。

「さあ、もう少しこうしていたいところですがダンジョンに来た目的はダンジョン観光ではありません。スキル検証です」
「そうでしたね…。で、どこでやるんです?ここですか?」
「ここではありませんよ。…あ、使っちゃダメですからね?爆発したら冒険者適性の結果を変えなければならなくなってしまいます」
「つ、使いませんよ…」

 あっぶねぇ…使うところだった……。どうやって使うか分からないけど。
 あと、いつから俺の【スキル】は【爆発】になったんだ。【スキルボード】ですよ?爆発の要素どこにもないじゃん。

「こちらです。ついてきてください」
「あぁ、はい…で、どこでやるんですか?極秘であれば教えてもらわなくていいですけど」

 心の中でワーワーと喚く俺を気にかけることもなくスタコラサッサと先に向かう桜子さん。
 そんな桜子さんの全く軸のぶれない頼りがいのある背中を追いながら質問する。

「別に極秘ではないので言えますよ。―――今向かっている場所は冒険者センターダンジョン内ダンジョン研究室、通称『ダンジョンラボ』と呼ばれるダンジョンに関連することを研究する場所です。
 そこの実験室で美作さんにはご自身の【スキル】を使用してもらってデータを取ります。もちろんそのデータは冒険者センターからは一切外部に漏らしませんので安心してください。
 冒険者にとって【スキル】というのは商売道具そのものですからね」

 そんでもって、もし俺の【スキル】が暴走すれば外部に漏らさず隠蔽する…と。
 考えすぎか?まあいいや。
 というかダンジョン内に研究室なんて大丈夫なのだろうか。

「ダンジョン内にダンジョン研究施設ですか…。確かに合理的ですね。でも大丈夫なんですか?モンスターにでも襲われたら折角集めた情報とか研究データとかパーになりますけど」
「それに関しては心配御無用ですね。ここ第一層は安全地帯なのでモンスターは湧きません。ダンジョン内なので絶対はありませんがここ以外でも過去、安全地帯内にモンスターが湧いたことは一度もありませんので」
「へぇ…」

 安全地帯、か。
 どこかで聞いたことあるな、その単語。
 まあ一等級冒険者の桜子さんが大丈夫と言っているのだから大丈夫なのだろう。

 歩きながらぐるりと一周、周りを見ればモンスターの影は一つもないことに気づく。
 あるのは腰を折り曲げて草を毟ったり、木に生る実を摘む老若男女の影ばかり。
 ファンタジーな格好をして剣を振り回す影もなかった。

「草むしりとか木の実狩りとかしているのは仮冒険者の人たちですか?」
「そうですね。草むしりではなく薬草採取ですが」
「…すみません」
「いえ…。ここ渋谷ダンジョン第一層では怪物《モンスター》が出ない代わりに地球では取れない薬草や果実などの木の実が植生しています。また限られたダンジョン、階層にしか入ることが出来ない仮冒険者の方々が立ち入れる階層は渋谷ダンジョンでは安全地帯の第一層だけです。
 ですので仮冒険者の方々は第一階層で薬草採取や木の実狩りを。冒険者の方々は怪物《モンスター》の出る第二層以下で怪物《モンスター》討伐を、と役割が自然に分かれています。
 冒険者の方々に関してはこれといった制約はないので薬草採取や木の実狩りをすることは出来ますが、仮冒険者の方々の役割を取ってはならないという暗黙の了解があるため基本は怪物《モンスター》討伐に終始します。
 ここで薬草採取や木の実狩りをする冒険者を見つけたらそれは生活に困窮している崖っぷち冒険者ですのであまり関わらない方が良いかと……」
「は、はい。気を付けます」

 少しの質問でためになる情報が何倍にもなって返ってくることに驚いていると桜子さんは「着きましたよ」と静かにそう告げた。

「おぉ、ここが…」

 目の前にあるのは何の変哲もない建物群。極限まで無駄を省いた上に伸びる長方形が少々、真四角の豆腐が少々。
 つい、それっぽい言葉を漏らしてしまったことが途端に恥ずかしくなってきた。

「美作さん?行きますよ?」

 長方形の建物の前で不思議そうにこちらを見てくる桜子さん。うん、可愛い。
 俺も冒険者として成功すれば彼女のような可憐な女性にちやほやされるのだろうか。

「少なくとも、特級にならなきゃだめだよなぁ……―――あっ、すみません!いま行きまーす!」

 俺はすでに建物内に歩みを進めていた桜子さんのもとへ走っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アレク・プランタン

かえるまる
ファンタジー
長く辛い闘病が終わった と‥‥転生となった 剣と魔法が織りなす世界へ チートも特典も何もないまま ただ前世の記憶だけを頼りに 俺は精一杯やってみる 毎日更新中!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

処理中です...