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幼少 ―初めての王都―
第62話 至高の魔技師
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気絶し倒れこむ者が一人。
膝と手を床につきえずく者が一人。
泣きじゃくる者が一人。
わぁ綺麗…と口を半開きに宙を眺める者が一人。
混沌とした部屋。
――ガチャッ
扉の開く音と共に場に見合わない落ち着き払った声が響く。
「大きな魔力を感じて来てみれば何だいこれは?」
その声で混沌の要因が一人――口半開き上の空の俺が正常に戻った。
(あれ?ばあちゃんだ。…後ろにいるのはミラか?)
魔力に満ち溢れた部屋の内と外の狭間にばあちゃんは立っていた。
王族の送り迎えを終えた直後だからいつもよりきれいに着飾っている。その後ろにはいつも通り王立魔導学園次席のローブを被ったミラが。
「あれかね…」
部屋の扉が開かれたことによって一気に外へ流れ出ようとする魔力。
それに逆らって発生源である二つの箱へ平然と近づいていくばあちゃん。
「先生、意外ときついから早くしてください…」
サラッと元宮廷魔導士第1席を急かすミラは扉付近で突っ立ているだけだが、何故か魔力の色が見える俺は彼女がただそこにいるだけではないと分かっていた。
――銀色と水色の奔流が彼女の前で砕け散る。
ミラは魔力の流出を一人で止めていた。
リア姉がビビるほどの魔力量なのだ。誰かが完全な蓋をしなければ、この部屋から少し離れている貴族会の会場にまでその膨大な魔力が到達するのは目に見えていた。
ちなみに先ほど我に返った俺もこの魔力量にはビビっている。漏らせるなら漏らして楽になりたいけど俺の下にはハッツェンの太ももがあるし、お漏らしヴァンティエールは嫌なので我慢する。
「少しくらい我慢しな――さて、これかね?」
ミラに見せつけるようにゆっくりと箱の前に着いたばあちゃんは口を動かすと同時に両の手も動かす。ちょうど二つの箱に掌が一つずつ向く形だ。
そして、
「―――どれ…」
フッ―――。
ばあちゃんのつぶやきが零れた次の瞬間―――部屋を舞う銀色と水色が消えた。
音にならない安堵が消えた魔力の代わりに部屋を包む。
「「「「「………」」」」」
が、俺は一人困惑していた。
(‥‥‥なんだ今の)
原理は全く分からない。
何故、部屋中の魔力が一瞬にして消えたのか。そして何故ばあちゃんの手が一瞬自身の眼の色と同じ黄金のオーラを纏ったのかもだ。
ただ、ばあちゃんがとんでもなく高度な魔法を使用したことだけは分かった。
思えば、ばあちゃんが魔法を使うところを見たのはこれが初めてだ。
ばあちゃんは俺とリア姉の前では魔法を使おうとしないからな。
誕生会で切り替えの大切さを学んだ今ならそのこだわりのようなものが魔導士としての自分と二人の孫の祖母でしかない自分との線引きなのかなぁ、なんて思える。
しかし、いま優先すべきことはばあちゃんのこだわりの解明ではない。
どうして魔力の色が今になって見えるようになったのかを考察することが最優先事項なのだ。
(いや、今になってじゃない。前から見えていたじゃないか)
思い出されるのは初めてじいちゃんと対面した一歳の誕生会《北方連盟集会》直前だ。
あの時俺は確かにじいちゃんが発するオーラ――魔力を見た。
ただ、あの時見た魔力は透明だった気がする。モヤモヤしていた。何でだろう。
いつもの如く思考の沼にずぶずぶと浸かっていく俺。
そんな俺を可愛らしい声が引き上げた。
「ふぇぇぇ‥‥‥おししょうさま~」
涙と鼻水で可愛らしい顔をぐしゃぐしゃにしたルーリーがマリエルから離ればあちゃんのもとへ手を広げ駆けてゆき腰をかがめたばあちゃんにダイブしているが見える。大胆な子だ。
「おっと…何だいルーリー、怖かったのかい?」
「…(コクン)」
「これくらいで泣いてちゃ魔導士になんてなれないよ?」
「…(コクン)」
ばあちゃんの優しい声に胸の中でルーリーはただコクリと頷くだけ。
(おいおい、ルーリー。魔導士志望かよ…)
部下の予想外に、そして桁違いに大きな野望に俺は驚愕する。
知らないうちに随分と成長したらしい。しかし、今もぎゅっとばあちゃんの服にしがみつく姿を見て、根っこの部分はそのままなんだな、と少し安心もした。
「おばあちゃん…」
そんなルーリーの姿を見てヤキモキしたのかリア姉が頬をぷくりと膨らませる。
可愛い嫉妬だ。
いくらこの世界の子供が大人びていると言っても所詮はまだ10歳。先ほどの誕生会で立派なヴァンティエールの淑女を演じていたリア姉にもまだ甘えたいという気持ちが残っているのだろう。
「オレリアも来るかい?」
「‥‥‥うん」
ルーリーを抱っこするばあちゃんの誘いに消極的ながらもしっかりとリア姉は頷き、ゆっくりと歩いて近づいていく。
「抱き着いてもいいんだよ?」
「…ここでいいの」
照れ隠しかばあちゃんの服の裾をちょこりとつまむだけのリア姉。
ばあちゃんはふと微笑むと泣き疲れ夢の世界へと旅立っていったルーリーをマリエルに渡す。寝るの早いな。
そしてリア姉を抱きよせた。
「お前さんも怖かったのかい?」
「‥‥‥違うわ」
「なら妬いたのかい?」
「‥‥‥知らないわ」
「そうかい‥‥‥。ところでリア、ここまでの惨事になった理由が私にはあまり分からなくてねぇ。それについては知っているかい?」
「…うん」
グンターとイーヴォはベットに運ばれ、健全な者はソファに再びつく。魔力の発生源であった二つの小箱は少し遠くに置かれている。
皆が落ち着きを取り戻したことを確認したリア姉がぽつりぽつりとここまでに至る経緯を語り始めた。
リア姉と俺が誕生会でギルベアトにプレゼントを貰ったこと。それを子ども部屋で開けようとプレゼントをこの部屋に持ってきたこと。そしてそのプレゼントの蓋を開けた瞬間途轍もない量の魔力が溢れ出したこと。
俺もリア姉の語りの途中途中で補足の発言をし、ばあちゃんの状況把握に一役買っている。
ギルベアトと父上が話過ぎていたせいで時間が無くなりプレゼントの説明が疎かになっていたこと。ドアの前でリア姉に押されて危うく転びかけたこと。そして箱を開けた直後のリア姉の「きゃっ」がかわいかったこと―――。
「――アル、黙ってて」
「…ふぁい」
俺はリア姉の命令を素直に受け入れ従った。勝てねぇもん。
「はぁ、大体のことはわかったよ。これはギルが8割…いや7割でベルが3割といったところかね」
どうやら俺は父上のギルティ指数の増加に一役買ってしまったらしい。だが確定ではない。本当に俺が父上の罪を増やしてしまったのか調査する必要がある。
「ちなみになんだけど、その割合の内訳って聞いてもいい?」
「まあ構わないよ。そうだねぇ、ベルの罪はあのギルが送る箱の中身を確かめなかったことと中身の説明時間を無駄なことで削ったことかねぇ」
(俺だ…)
これで父上のギルティ指数を1.5倍にしたのが俺であると確定したのだが、それよりも気になることがばあちゃんの口から出たな。
「あのギルって?」
「ん?知らないのかい?」
ばあちゃんの驚いた表情から予想するにギルベアトはあのという接頭語が付くぐらいには有名らしい。いくら東部最大の貴族家――ゼーレ公爵家の次期公爵であってもその肩書だけではばあちゃんにあのと言わせることはできないだろうから。
「うん、事前に貰った資料に書いてあったのはギルベアト様が父上の友人であることと次期ゼーレ公爵であるということ、最後に今回の誕生会には公爵代理として参加することだけだったから」
それ以上の情報は父上から貰っていませんとしっかり言っておく。
あんまり意識せずに出た言葉なんだけどこれで父上のギルティ指数上がらないよね?
「なるほどねぇ、リアも同じかい?」
俺の心配は無用だったようだ。特に気にした様子なくばあちゃんはリア姉に話しかけていた。
「そうよ、おばあちゃん。ただそれは渡された事前資料だけの話。私は王都にいたからそれなりの情報も入ってくるの。だから実際はアルよりも少しだけ詳しいと思うわ」
「ならギルが持つ次期ゼーレ公爵以外の肩書も知っているね?」
「もちろん。―――『至高の魔技師《まぎし》』…よね?」
リア姉が今言った『至高の魔技師』という単語には残念ながら聞き覚えはない。
でも『魔技師』なら知っている。本に書いてあったからだ。
―――一言で魔技師を表すのなら『魔法のみで魔道具を作るプロ』。これが最適だろう。
まず魔道具とは、俺がエルフォルク商会に買い物しに行ったとき支店長のシャッハに買わされたと言っていいほどにうまく乗せられて買った魔力を通すことで初めてその真価を発揮する物のことを言う。
その種類は多岐にわたっており、一番オーソドックスな使用者本人が直接動力である魔力を注ぐことで動くもの以外にも、魔物の心臓部である魔石と呼ばれる半透明な石っころを使うことで使用者が魔力を流さずとも継続して使用できるものや周囲の魔力を取り込んで半永久的に動き続けるものもある。
まあ魔道具についてはいいとして…。あんまりいい思い出ないし。
―――では『魔法のみで魔道具を作る』というのはどういうことだろうか。
これを説明するには初めに一般的な魔道具作りのプロ、いやアマチュア、う~ん…あ、そうだこれにしよう。
――魔道具作りのプロ(笑)の『道具士』と『付与術師』の説明からしなければならない。
超簡単に言おう、『道具士』は魔道具の『道具』を作る人たちで『付与術師』は『魔』の部分を足す人たちのことだ。
そして魔道具作りの流れはこうだ。
まず初めに生産ギルドという組合に参加している道具士――普段は鍛冶師、木工士などをしている職人たちがギルドの掲示板から依頼を受諾し魔道具の基礎となる『道具』部分を依頼に書かれた数だけ生産しギルドに提出。
次に生産ギルドに参加している付与術師――普段は冒険者や魔導学園の生徒のような魔法を得意とするような人たちがギルド内の掲示板から依頼を受諾し受付から渡された魔道具の『道具』部分に『魔』の要素を付与する。この『魔』の部分は依頼通りのものでないといけない。
そしてそれをギルドに提出。これで複数の魔道具が一気に完成する。
――これらの作業を個人で、魔法で行うのが魔技師と呼ばれる者たちだ。
原材料を魔法で結合させたり変形させたりして『道具』部分を作成、その後に自らの魔法で『魔』を付けたす。
魔法に対しての造詣が深いものにしかできない業…。
――残念ながら俺が知っているのはここまでだ。
『付与』ってなんだろうと思うし、どうやって『道具』部分を魔法で作るんだろうとも思うが俺は魔法の本を読んだことがない。
生産ギルドのことも少ししか知らないので生産ギルドのやり方がどれほど効率の良いものか、はたまた悪いものかを判断することすら難しい。
まだまだ知らないことだらけだ。
しかし、それでも優れた才を持った魔法士がなる職業の一つ『魔技師』――その中でも『至高』と言われるギルベアトは素晴らしい魔道具を作る。これだけは分かる。
先ほどから視界の端にチラチラと映る小物入れの中にある鈍い銀色の何かと透明感ある青色の何かは恐らくギルベアト作の魔道具なのだろう。
非常に嬉しい。
ただその作者はギルティ指数7割なのだ。事故に近い魔力流出が起きたことから触ったら爆発なんてこともあり得ない話ではない。しっかりとギルティ指数の内訳を聞かなければ。
「ばあちゃん、ギルベアト様の7割っていう数字の内訳は?」
リア姉と話していたばあちゃんは会話を止めて俺の方に向き直る。
「それはねぇ―――」
リア姉も気になっていたらしく俺と一緒になってばあちゃんの話に集中した。
この時俺は魔力の色に関することの一切を忘れていた―――。
膝と手を床につきえずく者が一人。
泣きじゃくる者が一人。
わぁ綺麗…と口を半開きに宙を眺める者が一人。
混沌とした部屋。
――ガチャッ
扉の開く音と共に場に見合わない落ち着き払った声が響く。
「大きな魔力を感じて来てみれば何だいこれは?」
その声で混沌の要因が一人――口半開き上の空の俺が正常に戻った。
(あれ?ばあちゃんだ。…後ろにいるのはミラか?)
魔力に満ち溢れた部屋の内と外の狭間にばあちゃんは立っていた。
王族の送り迎えを終えた直後だからいつもよりきれいに着飾っている。その後ろにはいつも通り王立魔導学園次席のローブを被ったミラが。
「あれかね…」
部屋の扉が開かれたことによって一気に外へ流れ出ようとする魔力。
それに逆らって発生源である二つの箱へ平然と近づいていくばあちゃん。
「先生、意外ときついから早くしてください…」
サラッと元宮廷魔導士第1席を急かすミラは扉付近で突っ立ているだけだが、何故か魔力の色が見える俺は彼女がただそこにいるだけではないと分かっていた。
――銀色と水色の奔流が彼女の前で砕け散る。
ミラは魔力の流出を一人で止めていた。
リア姉がビビるほどの魔力量なのだ。誰かが完全な蓋をしなければ、この部屋から少し離れている貴族会の会場にまでその膨大な魔力が到達するのは目に見えていた。
ちなみに先ほど我に返った俺もこの魔力量にはビビっている。漏らせるなら漏らして楽になりたいけど俺の下にはハッツェンの太ももがあるし、お漏らしヴァンティエールは嫌なので我慢する。
「少しくらい我慢しな――さて、これかね?」
ミラに見せつけるようにゆっくりと箱の前に着いたばあちゃんは口を動かすと同時に両の手も動かす。ちょうど二つの箱に掌が一つずつ向く形だ。
そして、
「―――どれ…」
フッ―――。
ばあちゃんのつぶやきが零れた次の瞬間―――部屋を舞う銀色と水色が消えた。
音にならない安堵が消えた魔力の代わりに部屋を包む。
「「「「「………」」」」」
が、俺は一人困惑していた。
(‥‥‥なんだ今の)
原理は全く分からない。
何故、部屋中の魔力が一瞬にして消えたのか。そして何故ばあちゃんの手が一瞬自身の眼の色と同じ黄金のオーラを纏ったのかもだ。
ただ、ばあちゃんがとんでもなく高度な魔法を使用したことだけは分かった。
思えば、ばあちゃんが魔法を使うところを見たのはこれが初めてだ。
ばあちゃんは俺とリア姉の前では魔法を使おうとしないからな。
誕生会で切り替えの大切さを学んだ今ならそのこだわりのようなものが魔導士としての自分と二人の孫の祖母でしかない自分との線引きなのかなぁ、なんて思える。
しかし、いま優先すべきことはばあちゃんのこだわりの解明ではない。
どうして魔力の色が今になって見えるようになったのかを考察することが最優先事項なのだ。
(いや、今になってじゃない。前から見えていたじゃないか)
思い出されるのは初めてじいちゃんと対面した一歳の誕生会《北方連盟集会》直前だ。
あの時俺は確かにじいちゃんが発するオーラ――魔力を見た。
ただ、あの時見た魔力は透明だった気がする。モヤモヤしていた。何でだろう。
いつもの如く思考の沼にずぶずぶと浸かっていく俺。
そんな俺を可愛らしい声が引き上げた。
「ふぇぇぇ‥‥‥おししょうさま~」
涙と鼻水で可愛らしい顔をぐしゃぐしゃにしたルーリーがマリエルから離ればあちゃんのもとへ手を広げ駆けてゆき腰をかがめたばあちゃんにダイブしているが見える。大胆な子だ。
「おっと…何だいルーリー、怖かったのかい?」
「…(コクン)」
「これくらいで泣いてちゃ魔導士になんてなれないよ?」
「…(コクン)」
ばあちゃんの優しい声に胸の中でルーリーはただコクリと頷くだけ。
(おいおい、ルーリー。魔導士志望かよ…)
部下の予想外に、そして桁違いに大きな野望に俺は驚愕する。
知らないうちに随分と成長したらしい。しかし、今もぎゅっとばあちゃんの服にしがみつく姿を見て、根っこの部分はそのままなんだな、と少し安心もした。
「おばあちゃん…」
そんなルーリーの姿を見てヤキモキしたのかリア姉が頬をぷくりと膨らませる。
可愛い嫉妬だ。
いくらこの世界の子供が大人びていると言っても所詮はまだ10歳。先ほどの誕生会で立派なヴァンティエールの淑女を演じていたリア姉にもまだ甘えたいという気持ちが残っているのだろう。
「オレリアも来るかい?」
「‥‥‥うん」
ルーリーを抱っこするばあちゃんの誘いに消極的ながらもしっかりとリア姉は頷き、ゆっくりと歩いて近づいていく。
「抱き着いてもいいんだよ?」
「…ここでいいの」
照れ隠しかばあちゃんの服の裾をちょこりとつまむだけのリア姉。
ばあちゃんはふと微笑むと泣き疲れ夢の世界へと旅立っていったルーリーをマリエルに渡す。寝るの早いな。
そしてリア姉を抱きよせた。
「お前さんも怖かったのかい?」
「‥‥‥違うわ」
「なら妬いたのかい?」
「‥‥‥知らないわ」
「そうかい‥‥‥。ところでリア、ここまでの惨事になった理由が私にはあまり分からなくてねぇ。それについては知っているかい?」
「…うん」
グンターとイーヴォはベットに運ばれ、健全な者はソファに再びつく。魔力の発生源であった二つの小箱は少し遠くに置かれている。
皆が落ち着きを取り戻したことを確認したリア姉がぽつりぽつりとここまでに至る経緯を語り始めた。
リア姉と俺が誕生会でギルベアトにプレゼントを貰ったこと。それを子ども部屋で開けようとプレゼントをこの部屋に持ってきたこと。そしてそのプレゼントの蓋を開けた瞬間途轍もない量の魔力が溢れ出したこと。
俺もリア姉の語りの途中途中で補足の発言をし、ばあちゃんの状況把握に一役買っている。
ギルベアトと父上が話過ぎていたせいで時間が無くなりプレゼントの説明が疎かになっていたこと。ドアの前でリア姉に押されて危うく転びかけたこと。そして箱を開けた直後のリア姉の「きゃっ」がかわいかったこと―――。
「――アル、黙ってて」
「…ふぁい」
俺はリア姉の命令を素直に受け入れ従った。勝てねぇもん。
「はぁ、大体のことはわかったよ。これはギルが8割…いや7割でベルが3割といったところかね」
どうやら俺は父上のギルティ指数の増加に一役買ってしまったらしい。だが確定ではない。本当に俺が父上の罪を増やしてしまったのか調査する必要がある。
「ちなみになんだけど、その割合の内訳って聞いてもいい?」
「まあ構わないよ。そうだねぇ、ベルの罪はあのギルが送る箱の中身を確かめなかったことと中身の説明時間を無駄なことで削ったことかねぇ」
(俺だ…)
これで父上のギルティ指数を1.5倍にしたのが俺であると確定したのだが、それよりも気になることがばあちゃんの口から出たな。
「あのギルって?」
「ん?知らないのかい?」
ばあちゃんの驚いた表情から予想するにギルベアトはあのという接頭語が付くぐらいには有名らしい。いくら東部最大の貴族家――ゼーレ公爵家の次期公爵であってもその肩書だけではばあちゃんにあのと言わせることはできないだろうから。
「うん、事前に貰った資料に書いてあったのはギルベアト様が父上の友人であることと次期ゼーレ公爵であるということ、最後に今回の誕生会には公爵代理として参加することだけだったから」
それ以上の情報は父上から貰っていませんとしっかり言っておく。
あんまり意識せずに出た言葉なんだけどこれで父上のギルティ指数上がらないよね?
「なるほどねぇ、リアも同じかい?」
俺の心配は無用だったようだ。特に気にした様子なくばあちゃんはリア姉に話しかけていた。
「そうよ、おばあちゃん。ただそれは渡された事前資料だけの話。私は王都にいたからそれなりの情報も入ってくるの。だから実際はアルよりも少しだけ詳しいと思うわ」
「ならギルが持つ次期ゼーレ公爵以外の肩書も知っているね?」
「もちろん。―――『至高の魔技師《まぎし》』…よね?」
リア姉が今言った『至高の魔技師』という単語には残念ながら聞き覚えはない。
でも『魔技師』なら知っている。本に書いてあったからだ。
―――一言で魔技師を表すのなら『魔法のみで魔道具を作るプロ』。これが最適だろう。
まず魔道具とは、俺がエルフォルク商会に買い物しに行ったとき支店長のシャッハに買わされたと言っていいほどにうまく乗せられて買った魔力を通すことで初めてその真価を発揮する物のことを言う。
その種類は多岐にわたっており、一番オーソドックスな使用者本人が直接動力である魔力を注ぐことで動くもの以外にも、魔物の心臓部である魔石と呼ばれる半透明な石っころを使うことで使用者が魔力を流さずとも継続して使用できるものや周囲の魔力を取り込んで半永久的に動き続けるものもある。
まあ魔道具についてはいいとして…。あんまりいい思い出ないし。
―――では『魔法のみで魔道具を作る』というのはどういうことだろうか。
これを説明するには初めに一般的な魔道具作りのプロ、いやアマチュア、う~ん…あ、そうだこれにしよう。
――魔道具作りのプロ(笑)の『道具士』と『付与術師』の説明からしなければならない。
超簡単に言おう、『道具士』は魔道具の『道具』を作る人たちで『付与術師』は『魔』の部分を足す人たちのことだ。
そして魔道具作りの流れはこうだ。
まず初めに生産ギルドという組合に参加している道具士――普段は鍛冶師、木工士などをしている職人たちがギルドの掲示板から依頼を受諾し魔道具の基礎となる『道具』部分を依頼に書かれた数だけ生産しギルドに提出。
次に生産ギルドに参加している付与術師――普段は冒険者や魔導学園の生徒のような魔法を得意とするような人たちがギルド内の掲示板から依頼を受諾し受付から渡された魔道具の『道具』部分に『魔』の要素を付与する。この『魔』の部分は依頼通りのものでないといけない。
そしてそれをギルドに提出。これで複数の魔道具が一気に完成する。
――これらの作業を個人で、魔法で行うのが魔技師と呼ばれる者たちだ。
原材料を魔法で結合させたり変形させたりして『道具』部分を作成、その後に自らの魔法で『魔』を付けたす。
魔法に対しての造詣が深いものにしかできない業…。
――残念ながら俺が知っているのはここまでだ。
『付与』ってなんだろうと思うし、どうやって『道具』部分を魔法で作るんだろうとも思うが俺は魔法の本を読んだことがない。
生産ギルドのことも少ししか知らないので生産ギルドのやり方がどれほど効率の良いものか、はたまた悪いものかを判断することすら難しい。
まだまだ知らないことだらけだ。
しかし、それでも優れた才を持った魔法士がなる職業の一つ『魔技師』――その中でも『至高』と言われるギルベアトは素晴らしい魔道具を作る。これだけは分かる。
先ほどから視界の端にチラチラと映る小物入れの中にある鈍い銀色の何かと透明感ある青色の何かは恐らくギルベアト作の魔道具なのだろう。
非常に嬉しい。
ただその作者はギルティ指数7割なのだ。事故に近い魔力流出が起きたことから触ったら爆発なんてこともあり得ない話ではない。しっかりとギルティ指数の内訳を聞かなければ。
「ばあちゃん、ギルベアト様の7割っていう数字の内訳は?」
リア姉と話していたばあちゃんは会話を止めて俺の方に向き直る。
「それはねぇ―――」
リア姉も気になっていたらしく俺と一緒になってばあちゃんの話に集中した。
この時俺は魔力の色に関することの一切を忘れていた―――。
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青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
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