上 下
9 / 76
黎明 ―はじまりのパーティ―

第9話 襲来

しおりを挟む
 じーーーーー・・・

 場が静寂に包まれている。
 この部屋には世話係の侍女を含め、5人いるはず。しかし、聞こえてくるのは窓の外にいるであろう小鳥の声のみ。

 チュンチュンッ♪

(スズメかな?)
 と考えている俺は今、見知らぬおじさんに高い高いされ、高いの状態で固定されたまま、じっと見つめられていた。
(なんだこの状況、誰か教えてくれ・・・)

 時を少し戻そう


 ◇◇◇


 あれから約4か月―――
 俺ことアルテュールは今日で一歳になる。
(長かった、これで明日からの行動範囲が広がるだろう)
 としみじみ思う。

 ―――なぜ明日からであるか。
 というのも、誕生月を祝う宴が今日あるのだ。

 この世界の誕生日は地球のものとは少し違っていて、月の中頃その月に生まれた者を一斉に祝うらしい。そして、ヴァンティエール家は父上、母上、リア姉そして俺を含む4人が今月―――つまり収穫月《6月》に誕生月を迎えるため、今日それを祝う宴が開かれる。

(4人同じ月って結構な確率だよね、今月で父上は25歳 リア姉は6歳になるのかぁ、母上は教えてくれませんでした。)

 少し前に立てるようになったとはいえ今まで俺は0歳だった。心配なのだろう、外は危ないからとほとんどの時間をこの部屋で過ごしてきた。
 1歳になったら少しは・・・という希望的観測ではあるが行動範囲は広がるはずだ。広がらなくても広げてやる。―――お願いしぐずって・・・

 ちなみに収穫月の名前は<ヴァイツェン>というアルトアイゼン王国の主食の原料となる作物を収穫する時期からきている。教えてくれたのはもちろんわれらがかわいい侍女ハッツェンですっ。
 その時に実物も見せてもらったが
(あ~、小麦ね。予想はできてたけど)
 というのが、俺の正直な感想だ。

 それが顔に出ていたらしく、俺を喜ばせるためにヴァイツェンを持ってきてくれたハッツェンは少し拗ねていた。
(かわいい・・・そしてツェン多いな・・・)

 また、これでブロートと呼ばれる主食ができるらしい
(パンね・・・)
 今度は顔に出していない自信があった俺だが、なんか雰囲気を感じとったブロートを持つハッツェンは少し拗ねていた
(ほんとにかわいいな。)

 まあこんなことを思い出しながら、うきうきした気持ちを持ちつつも寝て、夜に控えるパーティーを待っていた。(なるべく長く起きれるようにアルテュールは寝だめをしています)

 ―――そんな時であった

 バンッ!
 突然、部屋の扉が勢いよく開けられ、すわ襲撃者か!と部屋にいた侍女たちは身構える。直後、それが勘違いであるとわかったのか元居た場所へと戻り、きれいな姿勢で控える。しかし、顔には畏怖と緊張の文字。

 一方、びくっとなって飛び起きた俺だが、すぐ冷静になり音の大きさ的にリア姉でないことを把握する。その間に、扉をうるさく開けたであろう下手人はずんずんと部屋の中を進んでくる。

 ―――俺の方に

(なんか来てるっ、ハッツェン!)
 頼れるハッツェンの方を見るが当のハッツェンは緊張しているため、こちらの視線に気づかない。

 ズンズン

 その間にもどんどん何かが近づいてくる

 瞬間、俺の体が一気に上まで持ち上げられた。

(わキャー――!?)

 一見、乱雑な持ち上げ方にも見えるが一方で、持ち上げられている側の俺はというとまるで宝物のように扱われているような。そんな、不思議な感覚を覚えていた。

 慌ていた心が落ち着きを取り戻す。
(なぜだろう、とても安心する。)

 事の下手人である見知らぬおじさんは俺の眼を見つめている。

 じーーーーー・・・

 そして今に至る

(なんだこの状況、誰か教えてくれ・・・)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初めまして日本から勇者やりに来ました結婚してくれ! ~異世界人は現地人を溺愛する~

左側
BL
突然に命を落とした日本人の泉州(センシュウ)は、神からの「人々を救ってくれ」という言葉を鵜呑みにし、死後の予定も特に無かったので、勇者として異世界に降臨するのだが。 世界に蔓延る『瘴気』や『妖魔』への対抗手段として、極めて有効とされた古代術……『異世界人の召喚』や『聖女覚醒』。 それらは既に、大陸内でも僅か数国にしか継承されておらず、古代術の知識を持たない国が殆どだ。 泉州が降り立った国からも古代術が失われて久しかった。 当然、勇者召喚の儀式など行われているわけも無く。 勝手にやって来た泉州を、稀によく見る異世界人として丁寧に対応するとは言うものの、人々は明らかに戸惑っている様子。 神が言っていたのとは話が違う。 しかし泉州は神官兵のロイズに惚れたので、彼の為に勇者の能力を奮う事にした。 頑張れ泉州! 負けるな泉州! なかなか靡かないロイズの気を惹く為に何でもやれ! ※本編は泉州視点が多めです。 ※分かり難いかも知れませんが主人公はメロメロです。 ※チートが蔓延っているので戦闘に緊張感ありません。 ※付けた方が良いタグがあったらお知らせください。 ※誤字脱字等あったらお知らせください。そっと直します。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

ヘンリエッタの再婚約

桃井すもも
恋愛
ヘンリエッタは学園の卒業を半年後に控えたある日、縁談を打診される。 それは王国の第二王子殿下からの勧めであるらしく、文には王家の金色の封蝋が見えていた。 そんな事ってあるだろうか。ヘンリエッタは第二王子殿下が無理にこの婚約を推し進めるのであれば、一層修道院にでも駆け込んで、決して言うがままにはされるまいと思った。 それもその筈、婚約話しの相手とは元の婚約者であった。 元婚約者のハロルドとは、彼が他に愛を移した事から婚約を解消した過去がある。 あれ以来、ヘンリエッタはひと粒の涙も零す事が無くなった。涙は既に枯れてしまった。 ❇短編から長編へ変更致しました。 ❇R15短編にてスタートです。R18なるかな?どうかな? ❇登場人物のお名前が他作品とダダ被りしておりますが、皆様別人でございます。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。 ❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく公開後から激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
 第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。  投票していただいた皆さん、ありがとうございます。  励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。 「あんたいいかげんにせんねっ」  異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。  ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。  一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。  まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。  聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………    ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。

どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。 前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。 やばい!やばい!やばい! 確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。 だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。 前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね! うんうん! 要らない!要らない! さっさと婚約解消して2人を応援するよ! だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。 ※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【完結】番犬と呼ばれた私は、このたび硬派な公爵様に愛されることになりました。

恋愛
「私の妹リゼリアに勝てた殿方の元に嫁ぎますわ」 国一番の美女である姉の番犬として何年も剣を振り続けてきた伯爵令嬢リゼリア。金儲けや汚い思惑のために利用され続けた彼女だが、5年目となるその日両親からわざと負けるよう命じられる。 何故ならこの日相手をするのは、公爵という立場でありながら騎士としても活躍する男。玉の輿を目指す両親や姉はリゼリアの敗北に大喜びするが…… 「では約束通り、俺の元に来てもらおう。リゼリア嬢」 「…………へ、?」 一途な硬派騎士団長×愛され無自覚な男前ヒロイン ※ざまぁ必須。更新不定期。 誤字脱字にご注意ください。

愛をしらない番を愛したい竜〜竜は番を自分色に染めたい〜

kimagure ya
恋愛
神獣 竜のアッシュと 番であるリリーラとの恋物語です 初投稿です 誤字脱字多めです 優しくスルーしてください 長編になる予定です。 発投稿です

処理中です...