地球の愛

綿柾澄香

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3、人類を愛している

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 俺が地球の化身を自称する少女に幽玄という名をつけてからというもの、彼女は毎日俺の前に現れた。

 いつだって唐突に、不意に出現する少女はまるで幽霊のようだったけれども、とても幽霊とは思えないほどに快活でよくしゃべる。まさに生命力に満ち溢れる、といった雰囲気だった。幽霊とは真逆の存在だろう。

「おぬしの好きな食べ物はなんじゃ?」

「ラザニア? なんじゃそりゃ」

「こんなものが美味いのか?」

「う……美味い、じゃと⁉」

「これはなんじゃ?」

「コーラ?」

「これも美味いのか?」

「うーむ、この口の中で弾けるのが好きくないのう……」

「ほれほれ、今宵の月は満月じゃぞ! わしの衛星は美しいじゃろ!」

「ああ……いま、百億光年先の恒星がひとつ、その寿命を終えたようじゃ。超新星爆発によって、巨大なブラックホールが誕生するぞ。ガンマ線バーストが……って、おぬしには聞こえぬか……」

「うう、熱い……今日は太陽の機嫌が悪いようじゃな」

 なんてふうに。

 彼女はとても賑やかだった。正直に言ってしまえば、俺の宇宙船建造の作業の邪魔になってしまうほどに。けれども、不思議とそれは不快ではなかった。

 彼女が話し出すと、手を止めて聞き入ってしまう。

 しばらくしてから、彼女のその声が非常に心地良いのだと気付いた。その物言いは、なんだか古めかしくて大仰なのだけれども、声質がとてもいい。さざ波や川のせせらぎなんかの自然の中には、1/fゆらぎと呼ばれる、人間にリラクゼーション効果を与えるリズムがあるのだという。彼女が地球の化身だというのならば、その声にそのゆらぎが自然と刻み込まれているのかもしれない。

 気が付けば、俺は彼女と普通に話すようになっていた。そして、彼女との会話をそれなりに楽しむことができている自分がいることに気付いた。

 それは、これまでにないことだった。

 俺がこれまでの人生で最も長く会話を交わしたのは、両親でも級友でもなく、一番最近出会った彼女だ。

「幽玄はさ、どうしてそんなにも俺がこの地球から出ようとする理由を知りたがるんだ?」

 彼女がここに通うようになってからも、会話は常に彼女の質問から始まっていた。だからそれは、俺が初めて彼女に向けた興味だった。

「おぬしがここから出たがっている理由を知りたい理由?」

 訊き返した彼女に、俺は頷く。

「ふむ……そうじゃなぁ。まあなんというか……わしはな、人類を愛しておる」

「人類を……愛してる?」

 それは、意外な言葉だった。その意外な言葉に、思わず眉根を寄せてしまう。

 だって人類はよく、地球のガンだ、なんて表現をされるほどに地球に悪影響を与えている。環境破壊や、それに伴う多くの生物の絶滅への関与。地球の化身である彼女がそんなものを愛するだなんて、信じられない。

「そうじゃな、たしかに人類はちとヤンチャが過ぎるかもしれんが、それもわしから見れば可愛いものじゃ。そもそも、わしを誰じゃと思うとるんじゃ。地球じゃぞ。たかだか温暖化や氷河期や絶滅期なんぞ四十六億年のわしの人生の中では些事に過ぎん」

 たしかに、そんな永劫のタイムスケールで語られてしまっては、人類の悪行なんて塵芥のようなものだろう。

「人類はな、わしの歴史上で初めて地球上全域にまで生息域を広げた哺乳類なんじゃよ。南極を含むすべての大陸の端から端まで。どこからどこを見てもそこかしこに人類が存在しておる。そんな偉業を成し遂げた哺乳類は、ほかにはなかったのじゃ。そのうえ、複雑な思考回路を持ちながら、単純なことで争い合う。そのくせ、友愛や平和を望むと言う。本当に多種多様で飽きもせん。

 ……じゃからまあ、愛着が湧いたのじゃな。
 数多の選択肢と矛盾を抱くその在り方は、とても興味深い。

 そんな人類が地球わしを飛び出して、宇宙へと向かい始めた。それは、わしにとってはとても悲しいことじゃった。べつに、月に居住地を構えるくらいならば、まあちょっとした散歩くらいのものじゃと見守ってやれるじゃろう。でもな、そこからさらに火星や、さらにその先を目指そうとしておったじゃろ、人類は。おぬしらはわしを置いていこうと、わしの想定をはるかに超えた速度で進歩し始めた。

 ……わしは、わしが大層大事に見守ってきたものが、わしの手から離れてしまうのが怖かったのじゃ。このまま人類が進歩を続ければ、いずれみな地球わしを捨てて宇宙へと飛び出してしまうんじゃないかと震えたのじゃ。

 わしが人類の宇宙進出を阻み始めたのも、それが理由じゃ」

「……え?」

 唐突に彼女が語ったその言葉に、そんなふうに思わず聞き返してしまう。
 彼女が人類のロケット打ち上げをことごとく邪魔してきたっていうのか?

 ――なぜ?

 なんて、訊ねる必要はないだろう。理由はもうすでに彼女が語ったじゃないか。彼女は寂しかったのだ。だから、人類の宇宙進出を阻んだ。それは、神の意志ではなかったものの、神に等しい存在の意志だった。ゆえに、人間の死者はひとりも出なかったのだ。彼女は、人類を愛していたから。

「そうすれば、いずれ人類は宇宙進出を諦めると思ったのじゃ。そして、おおかた思った通りになった。人類は宇宙を諦め、地球上でのよりよい繁栄を切り開く方向へと舵を切った。じゃというのに、おぬしじゃ。おぬしは、こうしてロケットを造り、地球わしから出ようとしておる。いったいなぜじゃ? おぬしは地球わしのことが嫌いか?」

「まさか。そうじゃないよ、ただ……」

 と、そこで一度言葉が詰まる。

 ――その理由は、ひどく個人的なものだ。できれば人には語りたくはない。

 だなんて、かつて否定したものだ。けれども、そもそも彼女は人間ではないし、それに、彼女にこれだけ語らせておいて自分はなにも語らないというのはあまりにもアンフェアだろう。それに、友達になれば彼女にその理由を話す、とも言った。今の俺と彼女が充分友達と呼べるような関係性なになれたのかはわからないけれども、少なくともこれまでに俺が出会ってきた中では一番親しくなった仲ではあると思う。

 それに、ひどく個人的な理由ではあるものの、大した理由でもない。

「……ただ、俺は誰とも馴染めないんだ」

「馴染めない?」

 彼女が小さく首を傾げる。それを見て、俺は続ける。

「そう、小さな頃からずっと。俺は俺以外の人間の誰とも馴染めなかった。興味を持てなかった、っていえばいいのかな。誰とも親しくはなれなかったし、親しくならなくても問題はない、と思っていたし、実際に問題はなかった」

「なんじゃ、ぼっちか」

「ぼっちって言うな」

 あまりに自然に彼女がそんな言葉を使ってくるので、思わず苦笑してしまう。

「けどさ、本当に。俺が心を開いたと思えるような人間はひとりもいなかったんだよ。両親にさえも。べつに、人類が嫌いなわけじゃない。もちろん、悪い人間もいるし、良い人間だっている。そんなことは知っている。けれども、そんなことはどうだっていい。ただ純粋に誰かに興味を抱くことができなったんだ。好きでも嫌いでもない、ただ遠くに見える山に対する感情みたいなものだ。ああ、そこに山があるな、くらいの感覚。それと同じような感覚でしか人間と接することができなかった。

 きっとさ、俺には人類愛というものが欠落していたんだよ。誰も愛することができない欠陥品。そもそも誰かを愛するなんてことができないのだから、人を好きになれるはずもない。そんな俺が誰かと親しくなるだなんて、土台無理な話だったんだよ」

「ふむ、じゃがわしとは普通に会話を楽しんでおるように見えるぞ」

「……まあ、キミは人間じゃないし。俺たち人間の常識もよくわかってない異世界人みたいなものだし」

「なんかわし、いま軽くディスられんかったか?」

 彼女その言葉はスルーする。

「とにかくさ、そんなふうにして生きてきて、俺がこの世界になにも感じないのは、この世界には俺が求めるものが存在しないからなんじゃないか、なんて考えるようになったんだ」

「それで、か」

「うん、それで。俺は宇宙そとを目指すことにしたんだ」

「宇宙になら、おぬしの求めるものがあるかも知れぬ、と?」

「さあね、わからない。けれどもまあ、宇宙にはそれこそ数えきれないほどの星々があるんだし、なにかが見つかるのかもしれない、という期待はあった。それに、無いなら無いで、これまで通りひとりで生きていくだけのことだしね」

「怖くはなかったのか?」

 そう訊ねた彼女の表情は極めて真剣だった。

「怖い?」

「これまでずっと打ち上げは失敗が続いておったじゃろ? ……まあ、わしが墜としておったのじゃが……なんとか宇宙船を造れたとして、その打ち上げが失敗するかもしれんという不安は無かったのか?」

「……無かった、かな。失敗したところで、どうせなんの変哲もない平凡な人間がひとり、死ぬだけのことさ。人類にはなんの影響も与えない、無意味な死だよ」

「違う、違うぞ!」

 急に彼女が大きな声を上げた。初めて彼女が声を荒げるのを聞いたけれども、その荒げた声でさえ、どこか心地良さを感じるのは、やはり地球である彼女の声の特徴なのだろうか。

「なにが違うの?」

 俺は訊ねる。

「おぬしはなんの変哲もない平凡な人間などではない」

「そうかな?」

「そうじゃ」

「幽玄はどうしてそう思うの?」

 だって俺は、この世界になにも貢献できていないし、きっとなにも残せない。

 多くの人々の心を動かすような映画は作れないし、多くの人々の人生を変えるような小説は書けないし、多くの人々を感動させるような歌は歌えない。世界平和を成就させるような功績は残していないし、世界中の人々の生活を一変させるような発明もしていないし、世界中の病気を根絶するような研究をしているわけでもない。

 ほら。

 どう見たって、俺は特別な人間なんかじゃない。平凡以外の何物でもないじゃないか。

 だというのに、彼女は確信を持ったような力強い目で俺を見る。

「だって、おぬしはたったひとりで宇宙船を建造し、地球わしから出ようとしている。誰の力も借りずに、な。それが成功すれば、間違いなく前人未踏の偉業じゃろう? そんなものを成そうとする人間が平凡なはずがなかろう」

 たしかに、そうして改めて言葉として誰かから聞かされてみると、俺は意外と大それたことをしようとしていたのかもしれない、だなんて思ってしまう。

 けれどもやはり、それは違うのだ。

 結局のところ、俺はただ逃げ出そうとしているだけにすぎない。この地球で自分の居場所を見つけられなかったから……自分の居場所を自らの手で作り出すことができなかったから、なにもかもを投げ出して、誰の手も届かないところに逃げようとした。

 そんな臆病者の行為が偉業であるはずがない。

「俺は過去の技術を掘り起こして、借りただけだよ。今の技術なら設計図さえあれば、あとはどうとでもなるからね。偉業だというのなら、その技術を創り出した過去の人たちの功績こそが偉業なんだよ」

 彼女は首を横に振る。なぜ、俺の言葉を頑なに認めようとしないのだろうか。

「言ったじゃろ。わしは人類を愛している、と。愛しているがゆえに、わしは多くの人類を見てきた。そしてその中には、おぬしのような誰とも相容れぬ者たちがおったことも知っておる。きっと、その者たちもおぬしと同じように人類愛とやらが欠落しておったのじゃろう。そして、そういった者たちはみな、その欠落を抱えたまま社会に溶け込むか、たったひとりで孤独に膝を抱えてすべてを拒絶した。

 じゃがおぬしはそのどちらも選択せんかった。新たな選択肢である宇宙を目指した。人類で唯一その選択をしたのがおぬしじゃ。世界でたったひとり。そんな特別な存在が、平凡であるはずがないじゃろう」

 まあ、そういう意味ではたしかに特別といえるのかもしれない。

「それでキミは俺の前に現れたのか。キミが俺を特別だと思ったから、その理由を知ろうとして」

「まあそうじゃな。わしはおぬしがどうしてこの奇跡に満ちた星を捨ててまで宇宙へ行こうというのかが知りたかったのじゃ」

「そっか。その理由がこんな矮小なもので申し訳なかったね」

 彼女も、俺がもっと強固な信念、気高い理念を抱いていたのならば、納得してくれただろうか。彼女は確かに人類を愛しているのだろう。そんな彼女を失望させるような、こんな卑屈な理由で出て行こうとするなんて、なんだか申し訳ないような気がする。

「いや、矮小なんかではない」

 けれども彼女は、そんな俺の言葉にまたしても首を振る。

 ――ああ、彼女の人類への愛はたしかに本物だ。きっと彼女は人類を愛しているからこそ、俺の言葉もこんなにも優しく包み込もうとするのだろう。

「いいよ、そんなふうに俺を肯定しようとしなくても……」

「本当のことじゃ」彼女は俺の言葉を遮る。「だって、本当に矮小なのはわしなのじゃから」

「え?」

 彼女は少し、目を伏せている。なんだか泣いているみたいに見えた。

「だってそうじゃろう? 人類は進歩の先に宇宙を目指し、大気圏を飛び出した。人類はもっともっと、先へと進むことができる。じゃというのにわしは、人類を手放したくなくて、その進歩の邪魔をした。さらにはたったひとりで宇宙に向かおうとしているおぬしの前にまで現れて、なぜ宇宙を目指すのか、なんて問うておる。まったく。器が小さいにもほどがある。そう思わんか?」

「…………」

「ああ、いかんな。肉体を鋳造ちゅうぞうしたせいかのう、こんな気持ちになるなんて……」

 と、彼女は顔を上げる。
 瞬間、その左目尻から一粒の雫が零れた。

 ありとあらゆる色と輝きを含んだ虹色の涙。
 その涙は、息を飲むほどに美しかった。

 きっと俺はいま、この世で最も美しい涙を見たのだ、と無条件に信じてしまえるほどの輝き。

「……のう、おぬしはやはり、どうしても宇宙へと行くのか?」

 彼女が見せた輝きは、俺の意志をいともたやすく押し流してしまうんじゃないか、というくらいに心の中を掻き乱した。

 けれども、大きく息を吸って、吐き出す。
 そして、思い出す。

 日々の生活を、孤独な日々を。

 べつに、孤独が嫌いってわけじゃない。孤独の中で生きていくことが苦痛というわけでもない。ただ、それに不満を抱いていないということが、怖かったのだ。それを変えるために俺は。

「うん、そうだね。俺は遥か彼方を目指す」

 その果てに、やはり孤独が待っているのだとしても。その孤独は、自ら選んだものだから。間違いなんかじゃないんだ、と思えるはずだ。そこに得るものが無かったのだとしても、納得して受け入れられる。

「おぬしがこの地球で快適に暮らせるようにわしが手を貸すと言っても?」

「ああ、どんなにキミが俺に良くしてくれても」

「おぬしの行く先が、どれだけ絶望的で、悲惨な結末が待っているのだとしても?」

「俺の結末がどんなに悲惨でも」

「わし、この宇宙の中でもとびっきりの美人の部類に入るんじゃが」

 彼女のその言葉に、思わず笑ってしまう。けれども、その言葉はきっと真実だろう。事実として、これだけ数多の星々を人類が観測してきて、地球と同じような環境の星はまだ発見できていない。その可能性のあるかも知れない星はいくつかあるけれども、確証は得ていない。宇宙に存在する星の数に対して、地球のような星の数は絶対的に少ないのだろう。地球のようなハビタブルゾーンに存在する惑星を美人と定義するのならば、きっとこの地球はとびっきりの美人の部類に入ると言える。

「うん、そうだろうね」

「それでも?」

「それでも。俺は行くよ」

「そうか。ならば……」

 と、彼女は顔を上げる。

 その顔は、さっきまでは涙を流していたけれども、いまでは笑みを浮かべていた。あまり綺麗ではない、明らかに取り繕ったような笑み。その両目には、虹色の雫が未だ輝いている。

 その涙を拭わずに、彼女は言葉を続ける。

「……ならば、わしはそれを見届けよう」

「え?」

「おぬしの宇宙行きを後押ししよう、と言っておるのじゃ」

「本当に?」

「ああ。本当に」

「けれどもどうして?」

 彼女は人類を宇宙には出したくないんじゃなかったのか。それはいったいどういう心変わりなのだろうか。

「ま、根負けしたのじゃな。おぬしのその頑固さに」

「でもいいの?」

「なんじゃ、どうせわしがなんと言おうと出て行くのじゃろう? ならもう説得も無意味じゃろう」

「いや、そうかもしれないけどさ、でも幽玄はそんな俺の打ち上げを妨害できるんだろう? それなのにそれをしないのかい?」

「言ったじゃろう。わしは人類を愛しておる、と。打ち上げの邪魔をしていたのは、人類を憎んでいたからではない。おぬしの打ち上げを邪魔して死なせてしまうかもしれんのは、わしの本意ではないのじゃ。どうしてもおぬしを止められんのなら、もういっそのことその行動をアシストして成功に近付けるほうが有意義じゃろ?」

 ――ああ、そういえばこれまでの打ち上げの連続失敗の中で死者の数はゼロだったか。

 そう思い出して、俺は自分が彼女に酷いことをしたのだと気付く。

 人類を愛している彼女にとっては、俺もその愛の対象に含まれるのだろう。その愛が出て行くと言い、べつに死んでもかまわないと言い放った。それはつまり、彼女に対して「殺したければ殺せばいい」と言っているようなものだろう。

 百回以上の打ち上げを失敗させてきて、それでもなお死者をひとりも出さなかった優しい彼女に対して、だ。

「……ごめん」

「べつに、おぬしが謝るようなことではない」

 それでもきっと、俺は彼女を傷つけた。ならばそれは、謝らなければいけないことなのだ。

「ごめん」

「よいと言っておるのに」

「それでも俺は……」

「行くのじゃろう?」

 俺は口を閉ざしたまま、ただ頷く。

「安心せい。わしがおぬしを支えると決めたからには、誰にも邪魔はさせん。打ち上げ当日は雨も風も無いパーフェクトな打ち上げ日和を提供してみせよう」

 そう言って彼女は微笑む。今度は、さっきまで見せていた取り繕ったような笑みではなく、いつも通りの楽しそうな満面の笑み。

「ありがとう」

「うむ。じゃから、あとはおぬしが頑張るのじゃぞ。わしがアシストできるのは当日の天候くらいのもので、宇宙船そのものの出来はおぬしに懸かっておるのじゃからな」

「わかってる」

 地球そのもの、地球の化身である彼女に応援してもらって、それでも失敗するなんて、そんな格好の悪いところなんて、見せられない。彼女のその笑みに応えるためにも、俺は絶対にこのプロジェクトを成功させなければいけないのだ。

 見上げた宇宙船は、完成目前。
 塗装は……なくてもいいか。

 と思ったのだけれども、幽玄が「なぜじゃ、ピッカピカの塗装にしたほうが格好いいじゃろう⁉」と、譲らなかったので、彼女の美的センスに任せて塗装することにした。
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